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【内山拓也インタビュー(前編)】『佐々木、イン、マイマイン』はすべてを捨てるところからはじまった

2022.01.12 (最終更新日: 2022.06.27)

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Vook特別ロングインタビュー「私の映像哲学」。今回のゲストは映像ディレクターの内山拓也さんです。
文化服装学院在学中に映画の虜になり、23歳で初監督した『ヴァニタス』でPFFアワード2016観客賞を受賞したのち、ミュージックビデオやCMの世界でも活躍する注目の監督。
そんな内山さんの劇場長編デビュー作となった『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)は、上京して役者を目指している主人公の現在と、高校時代にヒーローだった”佐々木”や仲間たちとの回想シーンを交差させて描きながら、「負けたくない」青春像を浮かび上がらせた作品として話題に。
『佐々木』はどうやって生まれたのか? 「引き算の演出を心がけている」という内山さんの映画・映像への向き合い方とは? 前後編でお届けします。 
インタビュー&構成:河尻亨一(編集者・銀河ライター)
写真:押木良輔

『佐々木』は命がけで誕生させた

——一昨年(2020年)話題になった映画『佐々木、イン、マイマイン』(以下、『佐々木』)が公開から1年。凱旋上映も好評ですね。反響をどう受け止めていますか。

内山拓也(以下、内山) 『佐々木』は僕の劇場長編デビュー作なんですけど、想定以上に届けることができたな、というのが正直な感想です。”焼き付ける”ことができたというか。

なりたちが自主映画ですから。「本当に撮れるんだろうか?」「いくらでやれるんだろうか?」といったレベルから始まった話が、いまの形まで成長していったのが感慨深いです。登場人物と一緒に、僕らも成長して、みんなで階段を登っていけたというのか。

——なるほど。内山さんの中では、”デビュー作”という感覚なんですね?

内山 圧倒的にそうですね。もちろん「ぴあフィルムフェスティバル」で受賞した『ヴァニタス』(2016年/観客賞)やほかの作品もあるんですけど、いわゆる劇場用長編映画ではないですから。

あと、なんて言うんだろう? デビュー作って撮ろうと思って撮れるものじゃないと思っていて、自分の中では未体験だった大きな産物になりました。一方で、ちょっとバケモノみたいに大きくなっちゃった、という気もしたり。

——確かな手応えがあったということでしょうね。「内山拓也と言えばこの作品」という最初の代表作ができた、みたいな感覚なのかもしれない。

内山 うーん、そういうものにしたいと思ってはいたんですけど、それもいまだから言える話で……。撮影中はわからなくなりましたね。僕自身 「一体、何を撮っているんだろう?」という気持ち にとらわれるくらい。

主人公を演じた俳優の藤原季節が、「いろんな要素や構成が入り組んでいて、一度に10個ぐらいの映画を撮っている気分だ」なんて言ってました。それくらい得体の知れない魔物になっていました。

それで季節とは、周りのキャストやスタッフに「この映画は場外ホームランか、空振り三振しか狙ってない」みたいなことを言いながら、本心ではすごく怖かったです。ラッシュで仮編集をしたときも、最初は3時間を超えてしまって。最終的には2時間まで整えて、最終パートの撮影をする中で、またとてつもない恐怖感に襲われたり。

いまはもう笑って話せますけど、あり得ない経験でした。体調を崩して体内から血が出たり、ヘビースモーカーになったり、かなり追いつめられて。というより追い込んでいました。いま思うと、死ぬ気でつくっていたんです。自分は脚本も兼任しますが、1文字1文字を血液で書いているような。脚本と一心同体になって死を意識しながら書いている感覚といいますか。

——まさに”必死”だと。その感じは映画に出てました。これはある種の「青春映画」なのかもしれないけど、そんな枠組みやイメージを突き抜けてしまう生命力みたいなものを感じて。あとはやっぱり、すごいですね、あの人。佐々木役の細川岳さん。

内山 大きかったですね、あの怪演は。この映画の僕の裏テーマとしては、岳を世間にしっかりと認知してもらいたかったというのもあるんです。「みんな知らないでしょ? この人。でも、すごいんです」っていうことは言いたくて。

まあ、映画の受け止め方は人それぞれで、「へたうま」って言われたり、「若手っぽい」とか「拙い」とか「青臭い」とか、そういう感想もあって、それに対しては「そうですよね」って同意しながら制作した部分もありますし、もう一度撮ったらもっと上手くできている可能性もあるんですけど、あの刹那的な一瞬を撮れることは生涯あまりないだろうと思うと、失敗を含めて、やれることはやったということなんじゃないかと。

カメラは魔物。隠そうとすると映ってしまう

——失敗してますかね。どのへんだろう?

内山 自分ではわかっているんです。それで後悔したり、「こうすれば良かった」ってあとから思うところもあって。そもそも僕は1個1個のディテールがものすごく細かいらしく、現場で「こんなに面倒くさい監督、初めてです」なんて言われるくらい(苦笑)。

——どんなところに細かいんですか?

内山 いろいろありますけど、たとえば、布団のシワとか。シーツのシワが気に入らなくて、ベストな状態にしたくて、セッティングに30分くらいかけたりしていると、周りの人からすれば「そのこだわりが面倒くさい」って感じると思うんです。

でも、カメラって魔物ですから。全部映るんですよ映したいと思うものはそんなに映ってくれなくて、隠そうと思うものほど映ってしまう。だから、出来うる限り自分が映したいものに変換しておかないと。

シーツのシワみたいに見えるものの話だけじゃなくて、人間の中にある隠したいものだって映ってしまう。芝居で誤魔化そうとしても無理なんです。そのわりに怒りの感情だったり、悲哀の表情だったり、映画の中で映したいものは簡単には映ってくれない。カメラって日常とかなり乖離している装置ですから、映る方向に高めようとしてはいるんですけど。

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