活気の増す「音のVR」

RICOH THETAシリーズのスマッシュヒットを皮切りに、すっかり市民権を得た感のあるVR(360°全方位)ビデオ。ゴーグル型の「ヘッドマウントディスプレイ」内に“没入”して観るのが正式スタイルながら、FaceBookなどSNS上でも多くがシェアされ、スマホのスワイプ操作や傾きセンサーとの連動で様々なアングルを観る形で体験された方も多いでしょう。

VRビデオの界隈は、いち早く8Kの普及が進むなど映像面が進化すると共に、特に今年2018年は「音」方面の制作環境が一気に充実しました。具体的には、映像と連動して音の定位が変化する「音のVR=空間音声(SPATIAL AUDIO)」の収録に対応したマイクやレコーダーが、各社から続々と発売されているのです。

この分野は、先行してリリースされていたSennheiserのAMBEO VR MICが、扱いやすさと確かなクオリティで定番となっていました。そして、ここに来て各社から登場した個性豊かな新製品により、一層バラエティ豊かな状況が構築されつつあります。

中でも気になっていたものの一つが、オーストラリアのメーカーRODE社からリリースされた「NT-SF1」というマイク。

RODEは音楽から映像まで様々な分野向けのマイクをリリースしており、特にリーズナブルな価格と高い性能のバランスには定評があります。筆者も4種類(モデルによっては複数本)の製品を所有するRODEファンなので、NT-SF1はアナウンスされた直後から登場を心待ちにしていました。

今回は、空間音声の基礎知識を交えながら、NT-SF1の実力をチェックしてみましょう。

まずは、NT-SF1で収録したサンプル音源をチェックしてください。多少の音量を調整したのみで、EQ等の処理は一切行っていません。音のする方向に映像を向けて音源をチェックするような見方をすると非常に楽しめます!

ちなみに、YouTubeで空間音声を再生するには、パソコンの場合ChromeかOperaブラウザを使用、スマホ・タブレット(iOS、Android共)の場合はYouTubeアプリで視聴する必要があります。対応した環境で、是非ヘッドフォンを使ってお楽しみください。

なお今回のサンプル収録は、VRビデオのスペシャリストである写真家の染瀬直人さんにご協力頂きました。

1本のマイクで4つのオーディオソースを収録

現在もっとも幅広く普及している空間音声フォーマット「Ambisonics形式」は、各々「前方左上」「前方右下」「後方左上」「後方右下」を向けた4つのマイクで収録し、それを合成して上下左右360°の音像を再現します。

4本の同じマイクを厳密にセットするのは大変なので、VR用マイクは1本で同様の環境を手軽に作れるよう設計されています。

こちらはNT-SF1のカプセル部分。4つのユニットが、各々受け持つ方向を向いています。前述のAMBEO VR MICをはじめ、様々なマイクがこの形態を採用しています。

NT-SF1は、付属のブレイクアウトケーブルで各々のユニットの音声を4つのXLR出力に振り分けます。AMBEO VR MICも同様の形式ですが、このケーブルはSennheiser、RODE共に(マイクとの接続部が)独自設計で互換性がありません。
↑訂正
「独自設計」と書きましたが、NT-SF1のコネクタは正確には「Neutrik 8 + 2 pole XLR」というものでした。ご指摘頂いた須藤高宏様、ありがとうございます!

Ambisonics用のマイクは、この「垂直」が基本ポジション。さらに、NT-SF1の場合は、金色のマークが「前」となります。写真のショックマウントは、NT-SF1に標準で付属しています。

また、他の機器との兼ね合いなどで垂直が難しい場合は、上記のような水平、または下向きのセッティングも可能です。ソース自体は360°全方位分あるので、方向については後述するプラグインなどで修正することが可能です。

NT-SF1は、ファンタム電源付きのXLR入力を4つ備えたレコーダーであれば基本的にどの機種でも使用可能です(4つのソースを個別のトラックに同一レベルで録音する)。今回は、ZoomのフィールドレコーダーF8nを使用。F8n(ファームupした前モデルのF8も同様)には、空間音声収録の専用モードが装備されています。

F8nでは、フォーマット選択で「Ambix」を選ぶと、YouTubeやFaceBookなどのサービスにそのまま空間音声としてアップロードできる、Ambisonicsの「Bフォーマット」という形式で録音することができます。

Ambixが選ばれていると、4つの入力のトリムを一括で調整できるほか、記録されるのも4トラック仕様のWAVファイル1つにまとめられるので、後の処理もとても楽になります。他に、TASCAMのDR-701Dなども、同様のモードを備えています。

野外録音の大敵「風」対策アイテムが標準付属

空間音声は野外収録されるケースが多くなりますが、野外でマイクを使う際に大きな障害となる存在が「風」。感度の高いコンデンサーマイクは、そよ風程度が当たっただけボソボソ鳴ってしまい、音声が使い物にならなくなります。


NT-SF1には、マイクをすっぽり覆う形の「ウィンドスクリーン」と、その上から被せてさらに強い風も防ぐ「ウィンドジャマー」の両方が標準で付属しています。サウンド的には覆いが無い方がクリアさが増しますが、突発的な風などで全てが台無しになるのが嫌なので、私は(VR以外の収録時も)屋外ではウィンドジャマーの方を常につけっぱなしにしています。

今回は、VRカメラのGoPro Fusionとの組み合わせでチェック。マイクやレコーダーはカメラのなるべく真下に集めて配置すると、最低限の面積だけ処理してマスキングすることができます。

変換用の専用プラグイン「SoundField By RØDE Plugin」

F8nのような対応レコーダーで録音したBフォーマットの音声は、Premiere ProやFinalcut ProなどVR編集に対応したソフトにそのまま入れて編集することができます。一方、普通の4トラックオーディオとして収録された音声(これはAmbisonics Aフォーマットと呼ばれます)は、RODEのWebサイトで配布されているプラグイン「SoundField By RØDE Plugin」を使ってBフォーマットに変換する必要があります。

SoundField By RØDE Pluginの画面。Windows及びMacのVST、MacのAUに対応しているので、ほとんどの編集ソフトやDAWで使うことができます。

4トラック分の音声が個別の4チャンネルに入るようルーティングし、INPUTを「NT-SF1」に設定。

OUTPUTを「B-Format(Ambix)」にすると、対応レコーダーで録音したのと同じBフォーマットとして出力されます。マイクポジションを垂直以外にした場合は「MICROPHONE」の部分で変更が可能です。

また、SoundField By RØDE PluginはVR向けだけでなく、録音ソースからステレオやモノラル、または5.1chなどのサラウンド音声を取り出すことも可能です。その場合、方向やチャンネル間の広がりなどを後から調整できるので、普通の録音ソースとしても大変魅力的。空間音声以外でも「とりあえずNT-SF1で録る」という運用の仕方もありでしょう。

音質チェック!

さて、NT-SF1及び空間音声の基本についてご紹介した所で、再度サンプル音源をお聴きください。

NT-SF1の音声は、一聴して解像度の高さがわかる質感。個人的にRODE社のマイクは、比較的高域の目立つ派手なキャラクターが多い印象を持っていますが、NT-SF1はその傾向を残しつつも中域〜低域にかけてのコシがしっかりした感じもあり、音楽系の収録にも十分使える特性だと思います。

今回は試みとして、NT-SF1と同じ方式で収録が可能なZoomの一体型レコーダー「H3-VR」を同じポジションで並走させた比較用のサンプルも作ってみました。価格、サイズ、コンセプト全てが異なる両者ですが、是非各々の特徴をチェックしてください。

カメラ同様、いよいよ「実用」としての熱いフェーズに入って来たVRオーディオの世界。しばらくは動向から目が離せません!

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