ドキュメンタリー映画の作り方(映画『旅するダンボール』)プロデュース編

はじめに

ドキュメンタリーは、TVやウェブではたくさんありますが、映画に限って言うと日本ではそれほど多くはありません。
一方、海外ではドキュメンタリー映画が多数見られ、売り先や仕組み、作り手もしっかりとしています。
今回、SXSW 2018ドキュメンタリー・スポットライト部門に正式出品され、世界中から注目を集めている長編映画、『旅するダンボール』の製作チームに、インタビューしました。

・プロデュース編
・制作編 前編 (近日公開予定)
・制作編 後編 (近日公開予定)

の3つのパートに分けてドキュメンタリー映画の作り方のナレッジや経験をシェアしていきたいと思います。
Vookにもドキュメンタリー作品を作られている方はたくさんいると思いますので、ぜひご参考にしてみてください!

語り手
・岡島 龍介氏 (監督、撮影、編集)
・汐巻 裕子氏 (プロデューサー)
・吉田 大致氏 (映画音楽コンポーザー)

聞き手
・岡本 俊太郎 (Vook代表)

岡本:今日は『旅するダンボール』の制作の皆さんと一緒に、インディーズ映画の未来と言うテーマでお話ししていきたいと思っています。
まず、どのような作品でしょうか?

汐巻:島津冬樹というダンボールアーティストが、世界30カ国を巡って落ちているダンボールを拾ってきて、それをダンボール財布というアートに作り変えている、というのを3年間追ったドキュメンタリー映画です。

岡本:この作品を制作するに至ったきっかけを教えてください。

汐巻:私が以前に買い付けた『ステーキレボリューション』というドキュメンタリーを配給した時の日本版ポスターのデザインが、当時、大手の広告会社でアートディレクターをしていた島津君でした。
配給が終わる頃に彼から会社を辞めるという相談があって、「世界中のダンボールを拾い尽くすから、映画にしませんか?」と目をキラキラさせて言うんですよ。
どんな映画になるか全く想像がつかない。
まずは自分でドキュメンタリー撮ってみたらどうかと話して、その後、彼はフィリピンにバナナのダンボールを拾いに行ったのですが、素材を見たら本人が写っていなくて繋げない。
でも彼はそんなこと気にもせず、見てきたことを熱く語るんです。
ダンボールで世界の流通事情やお国事情が垣間見えるのは映画として面白い。
元々岡島君は編集マンとして構成力があってストーリーテリングができ、撮る映像に、日本の映画監督とはちょっと違う暖かみのあるオレンジっぽい特徴があるんですね。
ダンボールのイメージにぴったりだなと思って、「監督やってみない?」と声をかけました。

みんなで苦楽を共にする、マルチタスクでコンパクトなチーム編成

岡本:インディーズ映画は日本でまだ少ない中、そこで成功していくためにはどうすればいいかをお聞きしたいと思います。
まず、チームの人数と役割について教えていただけますか?

汐巻:チームは4人です。
私がプロデューサーで、島津君は被写体ですが、最初は監督でアートディレクションもしているので制作側でもある。
あと、監督の岡島君と作曲の吉田君です。
それぞれがマルチタスクで、かなり小規模ですね。
私の映画製作における人選のポインは、編集が分かっている人をディレクターに立てるのが鉄則です。
音楽はストーリーテリングができる作曲ができる人。
それから、楽しいというのは大前提で、同じバイブを持った人をチームに入れないと結果が出ません。

◆監督
岡島:僕は映画以外でも常々、オーディエンスがどう思うかだけを考えています。
例えばCMなら15秒しかないので、お客さんの層も振り向かせ方も違って、作り方がガラッと変わります。
色んなそのジャンルを経験してお客さんを知るのは大切なこと。
CMから得た知識でもある飽きさせないための演出を、今回の90分の映画にも入れています。
撮影時は、トレーラーで使えそうかどうかも考えながらやっています。

岡本:なるほど。トレーラーはどのような観点で?

岡島:もちろん、尺で編集方法や使う画が変わります。
今回のように2、3分だと、大体映画の全貌を説明できるので、ネタバレしない程度に面白いところを持ってくる。
「見てみたい」と思うような言葉をピックして、演出でCM要素も入れていくんです。
ミニ映画版をトレーラーにした感じです。

汐巻:大体、日本の劇場版の予告編は1分半、特報が30秒~1分程度が多いです。
海外では3分ぐらいの予告編もあるので、そこの感覚が違いますね。

◆音楽
吉田:今回、色んな起伏があってストーリーテリングできる内容だったので、10分強の音楽という凄いハードルの曲製作もありましたが、音楽担当として楽しくやれました。
特に海外のリアルですが、見てもらうために分かりやすくしたり、注意を引くためにストーリーを作ったりするやり方が僕は好きですね。
あと、コミュニケーションを取りやすい良いチーム編成でした。
あちこちついて回ると、こういう世界観があるからこの映画にしたいと思ったんだな、というような言葉以外に感じるものが大きくて、作ろうとしている最終形が理解できてきてからは、作業にも集中できました。

汐巻:出来た映像を見て作曲が始まるパターンが多いですが、大致君の場合、現場に来てもらうようにしています。
そうしないと、発注が来たからやる、「こんなのでどうですか?」みたいな仕事になりがちです。
みんなを巻き込んで、一緒に苦楽を共にしてやる。

吉田:長編になってくると、同じ世界観の中でストーリーを作るには、監督とプロデューサーの頭の中を共有しないと、統一感を持って色付けをするバランスが難しいと思います。

◆プロデューサー
吉田:プロデューサーが持っているビジョンや実行力は本当に重要だと思います。
前回『サケボム』がSXSWに招待された時は僕は行けなかったんです。
今回の作品では念願叶って実際にSXSWに行けましたが、プロデューサーが「色んな国のフィルムメーカーたちが生き生きと夢を語っている場に出すべきだ」という強い引っ張り方をしてくれて、作品を良いものにしたい気持ちが強く高まりました。
現地から受けるインスピレーションやそこから成功していく人たちの姿を見ることで、自分の中で夢が広がりエネルギーが生まれるので、汐巻さんと一緒にする時は、「今回どの映画祭に出しますか?どんな映画が面白いですか?」と、毎回聞きますね。

汐巻:一流の人はクリエイティブを楽しんでいて、エンターテイメントは苦しみの産物ではないと思っていることを、皆が知るべきですよね。

絶対に揺らがない1つのポリシー:徹底的なユーザー視点

岡本:長編映画にコミットするのは結構な労力がかかることだと思います。
最初からそのイメージを持ってやられたことなのですか?

汐巻:そうですね。
日本は短編映画を作っても出すところがなく、ビジネスとしては長編映画しか考えられないので、長編の企画になるかという視点で常にプロジェクトは見ています。

岡本:ダンボールを通して世界が見えるというテーマについて、それを見つけて、実際にテーマへ落とし込んでいったのは、どのようなプロセスでしたか?

汐巻:絶対に揺らがない1つのポリシーがあって、徹底的なユーザー視点なんです。
映画屋として長いので、たくさん完成前のものを仕事視点で見ますが、公開された映画は地元のシネコンで普通にお客さんとして1800円払って観ます。
その中で、これは映画館まで行かなくていいんじゃないかな、と思うものもありますし、お客さんの視点を念頭に置くことが大事ですね。
映画には、いつまでに作らなきゃいけないという決まりもない。
お客さんに伝えたいもの、見てほしいものであるかどうかという、シンプルなジャッジだけなんですよね。

傾向と対策の理解が映画祭上映のカギ

岡本:ドキュメンタリーで映画となると、映画館で流せるか流せないかという部分でやっぱりハードルが高い。
作ることはできても上映会まで行かないなど、色々あると思います。
そこの意思決定で、どういうアウトプット先をイメージしていましたか?

汐巻:企画の段階からSXSWでワールドプレスをする、YEBISU GARDEN CINEMAで公開すると決めた上で、岡島君と吉田君の2人に声をかけ、島津君にもそういうクオリティーのものになるならやると言いました。

岡本:映画祭のことを知った上で、最初にゴールが明確にあって作ったというところですね。

汐巻:そうですね。
それもさっき言ったポリシーどおりで、SXSWになぜ行きたいかといえば、SXSWにお客さんとして何年も参加して、見に来るオーディエンスはプロも一般の人も含めてこういうリアクションをするだろう、というのを知っているからです。
自分もお客さんとして一緒に空間を共有している体験を持っているので、YEBISU GARDEN CINEMAに見に来るお客さんはこういうのが好きだな、という感覚は分かっています。
それで判断しているんですよね。
ブッキング担当者が好きでもヒットしない映画はあるわけで、お客さんが映画を見に行こうと思うには、よほど鑑賞意欲がないと行かないんですよ。
その意欲度を超えられるかどうかが、やはり自分の判断です。
私はプロデューサーなので、「こんな変な人がいたの。見てみて」、「こんな人が編集したの。うまいでしょ?」、「こんな人が音楽作ったの。どう?」という発表の場のような感覚ですね。

岡本:純粋な面白さがないと、人は足を運ばない。
汐巻さんはそこを見てらっしゃるのですね。

汐巻:映画は複製メディア、複製芸術なので、より多くの人が見て初めて成立すると思っています。
なので、映画館にかける以上、みんな好きだろうなというもの、最大公約数になるべく近いものを実現できるかどうかを見ています。

岡本:なるほど。
やはりアウトプットの決め方が気になっているのですが、SXSWに出すと明確に決めた理由を、もう少し聞かせてください。

汐巻:私は映画の買い付けでもう25年ぐらい世界中の映画祭に毎年参加しています。
バイヤーの経験の後に、日本の映画の海外セールスをやってきて、そこでまた映画祭への理解が深まっているんですよね。
傾向と対策が分かっている中で、このテイストならこの映画祭、という判断基準があります。

岡本:それで、今回の長編ドキュメンタリーはSXSWであったと。

間口を広げる“エンターテイメント・ノンフィクション”

汐巻:海外では、ドキュメンタリーはドキュメンタリー、短編は短編、とマーケットが違います。
ドキュメンタリーが劇場で公開され、観客が最もホットに入るのが実はカナダなんです。
カナダにHot Docs という映画祭があり、そこに出すのが多分王道のドキュメンタリーとしては正解なんですね。
なぜなら、そこは専門マーケットで、ナショナルグラフィック、BBC、CNN、ディスカバリーチャンネルなど、ドキュメンタリーを買ってくれるバイヤーが集まります。
ただ、今回の作品はエンターテインメントとして島津君の人生を楽しむことで、何かちょっとひらめくきっかけを観客と共有できればいいなあ、という設計図にしていました。
ドキュメンタリーというより、エンターテイメント・ノンフィクションと呼んでいます。
そうなるとエンターテイメントや新しいものを喜んでくれる観客に届けるべき、というのがSXSWを選んだ理由ですね。

岡本:エンターテイメント・ノンフィクション、というのは凄く刺さる部分かなと思います。
ドキュメンタリーは社会性があって、映画としてしっかり成立させることを考えた時、やはりエンターテイメントというところが入ると見やすくなりそうですね。

汐巻:間口を広げたいと思ったんですよね。
ドキュメンタリーだと見る側の意識も要求されるので、興味がある人に偏る可能性があります。
この映画で言いたい主張について、環境問題など意識の高い人はもうすでに知っているはずなんですよ。
環境に意識の高い人へ向けた社会派ではなく、ポイ捨てする人が、ふと考え直す行動をするきっかけになればいいなという程度のちょっとした提案なので、それは入り口を変えないと伝わらないんじゃないか。
そんな認識を監督と共通して持っていました。

インディーズ映画のこれからの可能性:世界を視野に感度を上げる

岡本:日本では、なかなかインディーズの芽が出ない状況もあるようです。

汐巻:恐らく、プロデューサーの不在でしょうか。
師弟制度もないし、教育プログラムも日本は圧倒的に弱いと思います。
プロデューサーは映像の技術の知識も必要ですが、調整力、人間力なんですよね。
だから、インディーのプロデューサーにとって大切なのは、ある人たちをプロデュースして作品を作りたい、そのためにこんなものもあって、こんなものもある、というのを見せる純粋なモチベーションかなと思います。
監督に関して、評価をされる人とされない人の違いは映画製作する時にフィロソフィーがあるかないかですね。
監督の中に何かないとプロデューサーとしても引き出せない。
今は簡単に編集してパッと撮れる時代で、何が言いたいんだろう、という映画はよく見かけます。
映画監督という職業になると継続して作品生み出していかなくてはならないので、インディーズはどこかで頭を打ってしまうのかもしれません。
感動や共有は、周波数を出していて、その周波数をたくさん持つことが大事だと思います。
色んなところに出かけ、自分の周波数がここに合うというのを普段から見つけて、目に見えない感度を上げておくことですね。

岡本:それで言うと、海外の映画祭など、どんどん出て行くのは凄く大切ですね。

汐巻:完成系が日本の人って想像しづらいと思うんですよ。
英語映画だと全世界がマーケットだから、隅々まで行くかもしれない、という緊張感があります。
日本の映画は、漠然とした諦めから、いい感じのところで手を打っているケースがあると思うんですよね。
それで国内で評価されても、やっぱり広い世界を見てない。
日本は島国なので色んなデメリットはありますが、そこを意識して取りに行くほうがいいですよね。せっかくボーダーレスな時代になって、映像で語れるメディアなので。

岡本:そうですよね。
改めて制作チームの皆さん、ありがとうございました。

『旅するダンボール』は2018年12月7日(金)より公開です。

制作の過程についての詳しいお話は、ドキュメンタリー映画の作り方(映画『旅するダンボール』)制作編前編、後編をぜひご覧ください。

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