2020.07.13 (最終更新日: 2020.07.13)

DaVinci Resolveはなぜ無償なのか? なぜ安いのか?

DaVinci Resolveの話をしていてよく聞かれるのが、「どうしてそんなに安いんですか? どうして無償でこんなに何でもできるんですか?」という質問です。みなさまもおそらくご存知のとおり、有償版のDaVinci Resolve Studioは¥33,980(2台で同時使用可能)でライセンス買い切り式で提供されています。買収時点の2009年以来、アップデートで一度もお金をいただいたことはありません。無償版も期限なし、商用利用可能、4Kまで出力可能という破格の条件で、95%以上の機能が開放されています

どうしてこんなことが可能なのでしょうか。「タダより高いものはない」という表現があります。どこかで騙されているのではないか? 経営的な戦略なのか? こんなに安いとその裏をいろいろと勘ぐってしまうのも無理はありません。

その答えの鍵はブラックマジックデザインの創業者/CEO、グラント・ペティの考え方にあります。この記事では最近様々な媒体に掲載されたいくつかのインタビューから関係のあるセクションを抜き出してご紹介してみます。

今年の1月のFilminkというサイトに載ったインタビュー、「DaVinci Resolveの復活(ルネサンス)」を見てみましょう。話は2009年にさかのぼります。

みなさんが現在知っているDaVinci Resolveは、10年ほど前に我々が買収したときのものとはかなり違うものです。うちが買収する前は、一式で3000万円から1億円で販売されていたカラーコレクションシステムでした。会社を買収した後、我々はこのシステムをソフトウェアのみでも動作するようなものに変えました。最初はOSはLinuxにしか対応していませんでしたが、Mac、次にWindowsにも対応をさせました。最先端のGPUにも最適化できるようなソフトウェアにしました。
2009年の時点で、最初の目標はとにかくDaVinci Resolveを救うことでした。当時はリーマンショックで金融不安が広がっていましたが、DaVinci社が持っているテクノロジーは非常に貴重なものであり、業界から消えてしまうにはあまりにも惜しいものでした。画像処理のテクノロジーは他のシステムよりも何年も先を進んでいましたし、80年代から成長し続けたシステムはハリウッドで一番広くスタンダードとして使われていました。だから多くの会社にとってDaVinci Resolveは重要な役割を担う存在だったわけです。

買収後、DaVinci Resolveはどのように進化していったのでしょうか?

買収前のDaVinci Resolveの問題は、それが高すぎるということでした。しかし買収後は、機能を追加しても、対応OSを広げても、必ずお求めやすい価格で提供することにしました。そうすることでユーザー層は急激に広がっていきました。買収前からDaVinci Resolveは映画業界でハイエンドなカラーコレクターとして使用されていましたが、今やそれと同じものを学生も使うことができるようになりました。DaVinci Resolveを覚えた学生は、新しい製品を覚えることなく、ハイエンドの映像業界にすぐに進んでいくことができます。
私にとって大事な考え方があります。それは誰かがお金を持っていないからといって、それはその人がバカだということにはならないということです。ただまだ成功していないだけなのです。我々の仕事は、こういう人たちが志を実現して、新しいレベルに行くための手助けをすることです。DaVinci Resolveには限界は設定されていません。昔ハイエンドで使われていた機能を安くするために省いたりすることもしていません。ハイエンドに限らずすべての人たちに豪華な機能を使って欲しいからです。

この記事の中ではDaVinci Resolveのビジネスモデルが披露されています。

近頃は多くの会社がビジネスしか考えずに経営されていて、数字だけを頼りに運用されています。ユーザーを数値化するのにコンピュータを使うのは、コンピュータの最悪な使い方だと思います。人は世界をより良い場所にするために知恵をしぼることができるし、我々の仕事はそれを実現させることだと信じています。昔はそういうビジネスのやり方が一般的で、もっとエキサイティングでした。常にエキサイティングであることを忘れないようにする必要があります。
DaVinci Resolveはその考え方の最も純粋な表現です。無償版ではほぼすべての機能を提供しています。無償版自体では我々は収益を得ることはできませんが、その人が無償版で仕事を始めてお金を儲けることができたら、ゆくゆくはコントロールパネルやI/Oデバイスやカメラなどのブラックマジックデザイン製品を買ってくれるでしょう。そこではじめて我々は収益を得て、DaVinci Resolveをさらに良いものにすることができるようになるのです。これは普通のビジネスモデルより優れていると思います。なぜならこのやり方で我々がお金を儲けるためには、我々のお客さんが成功しないといけないからです。お客さんが成功してくれないと我々も成功しないのです。
このモデルが最終的にはうまくいくと私は考えています。このやり方だとお客さんとブラックマジックデザインが一緒に成長していかざるを得ないからです。どちらかだけが成功することはありません。お客さんがうまくいけばブラックマジックデザインもうまくいくし、ブラックマジックデザインがうまくいけばお客さんもうまくいきます。これこそ最高のwin-winな関係ではないでしょうか。

今年の3月27日(先週ですね)、Building a UnicornというPodcastで「クリエイティビティのオアシスを作る」という記事が公開されています。これもなかなか興味深い、赤裸々なインタビューで、どなたか全文を日本語に訳して欲しいくらいなのですが、今回はDaVinci Resolveに間接的に関係のあるところを引用します。

もしソフトウェアを無償でダウンロードすることができたら、ユーザーはすぐにソフトウェアを使うことができます。これはクリエイティビティを開花させるという我々の会社のモットーの最高の表現です。じつは今ではクリエイティブな面での自由を保つことが何よりも重要だと考えています。なぜならソフトウェアもコンピュータも最近では中央に集中する形が増えているからです。近頃のコンピュータ業界は昔の草創期の精神を忘れてしまっていると思います。パソコンの本来の目的は、コンピュータのパワーを一人ひとりの個人にもたらすことだったはずです。ところが今はデータが中央に集まるような構造になっていて、ユーザーが製品を買うのではなくユーザーが製品になるというあべこべな状態が生じています。これは想定しうる中でもかなりひどい部類の悪夢です。
コンピュータ業界は本来の道から外れてしまったと思います。ユーザーインターフェースは使いにくくなっているし、奇抜なものになってしまっています。だから私はクリエイティブな自由を与えることをモットーにしています。我々がどのような決定をするにせよ、その決定は人々に自由を与えて、彼らがクリエイティブになれる手助けをできるものでなくてはならないと考えています。
世の中でクラウド式のビジネスモデルが流行していますが私はそのやり方は好きではありません。どうしてかというと一番忠実なユーザーが一番損をするようなシステムになっているからです。ずっと縛られてお金を払い続けないといけないし、お金を払うのをやめたら、もうソフトウェアは使えなくなって、古いプロジェクトも開けなくなってしまいます。

そもそもなぜ彼はこのような考え方を抱くようになったのでしょうか? 90年代の中頃、彼はポストプロダクションの会社で働いていました。そこで見つけた問題点について、The Australianという新聞に掲載された記事、「クリエイティブな魔法を育てる」で語っています。

テレビ業界ではクリエイティブな人たちはいつも除け者にされていました。クリエイティブな人たちが必要なプロジェクトがあっても、彼らは会社の中で主流になることはなく、会社の実権は必ずテクニカルなことに詳しい人たちが握っていました。その理由は機材の値段が高いからでした。たとえばあるカメラは高価すぎて、メルボルンで2社しか買える会社がありませんでした。もし機材が安く提供できれば、クリエイティブな人たちが機材を買って、自分のお客さんを見つけて、業界のパワーバランスが変わるだろう──そう思ったんです。
業界全体はいまだにクリエイティビティとは反対の方向に動いているように感じています。だからこそオーストラリアからそれを変えようと日々努力しているのです。

ここまでお読みになって、DaVinci Resolveの価格をめぐる疑問が少しでもクリアになったなら幸いです。

※この記事をアップしてから好意的な反応が多く寄せられているのを目にして喜んでおります。グラント・ペティのファンになった方は、こちらの記事も読んでみてください。(4月23日追記)

※続編はこちらから。(12月12日追記)

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