前回の続きです。
フォーマット別のおすすめ構成
一口に自作ワークステーションを作るといっても、目的によってどのようなワークステーションを作るかは変わってきます。目的とはすなわち、ターゲットとなるコーデックやビデオフォーマットをどこに設定するかということです。ここでは3種類の、わりと志の高いターゲットを設定して、それぞれのターゲットを達成するにはどのような構成が最適であるか考えていきます。
ProRes 422 HQ 4K30p
まずはProRes 422 HQ 4K30pの構成です。例えば一眼レフのHDMI出力を、Video Assist 4Kで収録した場合を考えてみましょう。最も大きなファイルが生成されるのは、Video Assist 4KでProRes 422 HQのコーデックを選択し、 一眼レフからの出力を2160p29.97と設定した場合です。このワークフローでは、編集とカラーグレーディングのために、どのようなマシンを用意するのが賢いでしょうか。
CPUは、Core i7でもトップクラスのスピードを誇る7700Kを選択しましょう。コア数は少ないかもしれませんが、4K30pの圧縮コーデックの処理を考えれば、このくらいで十分と言えるでしょう。GPUはNVIDIA GeForce GTX1070がおすすめです。価格を抑えつつ、4K30pの圧縮コーデックの処理に耐えうるGPU、という条件から考えるなら、GTX1070は悪くない選択です。
ProRes 422 HQ 4K60p
次にProRes 422 HQ 4K60pの構成です。シネマ系の映像制作では24fpsが一般的なフレームレートとして受け入れられているため、60fpsで日常的に編集することは稀です。しかし従来のテレビ放送を基準とした世界では、60fps(59.94fps)での編集作業が今もなお必要とされています。
4K60pの素材をサクサクと円滑に編集するためには、4K30p用のマシンよりもパワフルなCPUとGPUが要求されます。CPUは10コアのCore i7 6950X、GPUはNVIDIA GeForce GTX1080のクラスのものを用意しましょう。
RAW 4K60p
最後はRAW 4K60pの構成です。ここではCinemaDNG RAWを想定しています。RAWの場合には、ディベイヤーのためにGPUのオンボードメモリを使用するため、デコード用のCPUだけではなくGPUもパワフルなものを使う必要があります。下の図のように、CPUはIntel Xeon E5-2660 14core x 2、NVIDIA GeForce Titan X 12GBを使えば、4K60p RAWという非常に負担のかかるフォーマットでも、安定してスムーズに扱うことができます。
以上、ProRes 422 HQ 4K30p、ProRes 422 HQ 4K60p、RAW 4K60pと、3種類のケースに分けて、最適なワークステーションについて考えてきました。
4K60pのマシンが想像よりも安価で作成できることに多くの方が驚かれるのではないでしょうか。100万円近いMac Proを買ったとしても、4K60pの素材を快適に取り扱うことができないことを考えると、多かれ少なかれ乗り越えるべき障害はあるにせよ、自作でWindowsのワークステーションを作ることに大きな価値があると改めて気づかされます。
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Windowsマシンのアキレス腱とその対処法
ここまでWindowsでワークステーションはいかに素晴らしいか紹介してきました。しかしここでどうしても述べておかなくてはならないことがあります。Windowsワークステーションには避けて通れない弱点があるのです。
それはWindowsのDaVinci Resolveでは、ProResファイルへの書き出しをすることができないということです。WindowsのDaVinci Resolveでも、ProResファイルの読み込み(デコード)をすることはできます。しかしProResファイルへの書き出し(エンコード)には対応していません。これはライセンス料などのいわゆる「大人の事情」によるもので、DaVinci Resolveに限った話ではなく、他のノンリニア編集ソフトウェアも、原則としてWindows環境でのProResファイルへの書き出しには対応していません。
それではどうすればいいのでしょうか? ProResへのファイル出力を諦める? おとなしくMac Proを買う?
オススメしたいのは、Macとプロジェクトを共有する方法です。DaVinci Resolveのプロジェクトファイルは、WindowsでもMacでも同じものが使用できます。だからWindowsのパワフルなワークステーションで編集、グレーディングの作業をした後、プロジェクトファイルを出力し、Macのマシンにそのプロジェクトファイルを読み込ませれば、ProResファイルへの書き出しができます。Macではエンコードをするだけなので、Mac miniでもオーケです(時間はかかりますが)。
このワークフローでは、同じプロジェクトファイルを使うことと並んで、同じ映像ソースを使うことが必要とされます。同じプロジェクトファイルと同じ素材を共有するためには、ネットワークや外部ストレージを活用しましょう。
マスターモニター環境を整えよう
カラーグレーディングには、正しい色が確認できるマスターモニターが欠かせません。これは世界中のカラリストが全会一致で同意するところです。
DaVinci Resolveであれ、他のソフトウェアであれ、PCモニターやMacBook Proのディスプレーモニターでは、正確な色合いを知ることは困難です。DaVinci Resolveのプレビュー画面を、UltraStudioなどのI/Oデバイスを経由して、キャリブレーションされたマスターモニターに出力することで、はじめて厳密な意味でのカラーグレーディングの作業が可能になり、本来の映像の情報に忠実な形で確認できます。特に色合いを精密にモニタリングする必要がある場合には、キャリブレーションが完了したマスターモニターを用意することは必須条件と言えます。
マスターモニター
マスターモニターは各社から様々なタイプのものが販売されています。高輝度対応、4K対応などによって価格は変わってきます。
必要最低限の品質を保ちつつ、できるだけ安価に揃えるには、EIZO社のモニタがお勧めです。EIZO ColorEdge CG318-4K(約55万円)、EIZO ColorEdge CG248-4K(約25万円)は、いずれもセルフキャリブレーションに対応しており、常に正しい色で映像をモニタリングすることができます。前者は32インチ、後者は24インチです。作業環境に応じてご選択ください。
I/Oデバイス
マスターモニターへの出力には、ブラックマジックデザインのI/Oデバイスが必要です。OSやGPUドライバを介さない、10bit/12bitのクリーンな映像出力ができることがポイントです。
UltraStudio、DeckLink、Intensityと、20種類近いバリエーションがありますが、どの製品を使っても映像の品質には違いはありません。必要なインターフェース、作業をしたい解像度から、最適なものを探してみてください。
Thunderboltが搭載されているマシンであれば、最も安価な製品の選択はUltraStudio Mini Monitorとなります。RGB、1080p60、4K、12bitなどの高画質のモニタリングが必要である場合には、UltraStudio 4Kという製品をご利用ください。最上位機種のUltraStudio 4K Extremeには、HDMI 2.0a、12G-SDI、クアッドリンク3G-SDIが搭載されており、最大で4K60pの出力にも対応しています。
外付けRAID5ストレージのススメ
低圧縮のデータや4Kデータを扱う場合、悩みのタネになるのがストレージです。どれだけ素材データをうまく運用したとしても、すぐに1TBを超えてしまい、10TBや20TBのデータが溜まることも珍しくありません。
そこでお勧めしたいのが、RAID5のストレージです。外付けRAID5のストレージには利点がいくつもあります。
- HDDによる大容量(10TB〜)
- SSDを超える転送速度
- RAID5による高い信頼性
- 外付けならではの可搬性
具体的な型番としては、例えばG-Technology社のG-SPEED Studio XL / Shuttle XLシリーズが挙げられます。接続はThunderbolt 2、容量は18TB〜80TBから選ぶことができます。読み込みの速度は最速で1350MB/sにも達します。最も安価なもので36万円ですので、比較的容易に外付けストレージ環境を構築できます。
他社では、Promise社のPegasus3シリーズも良いでしょう。こちらはThunderbolt 3のインターフェースを搭載しています。容量は12TB〜48TB、最高速度は1460MB/sです。18万円のモデルから用意されています。
コントロールサーフェス
もうここまでくれば、DaVinci Resolveのための快適な作業環境が構築されたと言っても過言ではありません。しかし忘れてはならない最後の1ピースがあります。それはコントロールサーフェスです。
3月3日、DaVinci Resolve Mini PanelとMicro Panelが発表され、即日発売開始されました。DaVinci Resolve Mini Panelは¥339,800 (税抜定価)、DaVinci Resolve Micro Panelは¥113,800(税抜定価)で好評発売中です。詳細はこちら
DaVinci Resolveのパネルを使う利点はどこにあるのでしょうか? ここで改めて、箇条書きで3つポイントを挙げてみたいと思います。
- マウスよりも繊細なコントロールができる(特にプライマリー!)。
- 同時に複数の項目を操作できる(ガンマ&ゲイン、など)。
- プレビュー画面を全画面表示にしたまま、インターフェースを見ることなく、パラメーターを操作をすることができる(今までは例えばMacBook Proでは必ずUIを表示しないと設定項目を変更することはできませんでした)。
今回のDaVinci Resolve Mini Panel / Micro Panelで特筆すべきは、そのクオリティの高さです。Micro Panelは10万円ちょっとの製品ですが、300万円を超えるDaVinci Resolve Advanced Panelにも匹敵する、精密かつスムーズな操作が可能です。トラックボールも、リングも、ノブも、ボタンも、どれも高品質のものが搭載されており、触っただけで、小さくてもプロフェッショナルな機材だという印象を受けます。このパネルを使ってグレーディングをすると、もうこれなしではいられなくなるに違いありません。
おわりに
最後に、ブラックマジックデザインで実際に使用している動画編集環境をご紹介します。このシステムは、URSA Mini 4.6Kの4.6K RAW 24fpsのファイルを扱うことを目的として構築されています。4.6K RAWといえども、かなり安価にシステムの構築がされていることがご覧いただけると思います。
自作ワークステーションには決まった正解はありません。ワークフローやシチュエーションに応じて、自分にとっての正解を探さなくてはなりません。しかしその作業は簡単ではないものの、楽しく、報われることが多いことも事実です。試行錯誤を重ねながら、ぜひ自作ワークステーションに挑戦してみてください。そして自作ワークステーションが完成したら、しっかりとメンテナンス、アップグレードをしながら、長く愛用していただけると嬉しいです。
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