AbemaTV「スピーディーなインハウス動画制作」の秘密——「全員ディレクター制」「パートナー企業とのプロジェクトファイル共有」|New Wave

2019.10.28 (最終更新日: 2022.07.17)

スマホ時代のメディアNo.1を目指して——。誰も見えていなかったネットコンテンツ時代の幕開けを、どこよりも早く察知して動き出した「AbemaTV」。インターネット上に生まれたテレビ局として、今では多くの方から愛されています。
合わせて発足したのが、株式会社AbemaTV内にある「VX Studio(ブイエックス スタジオ)」。「AbemaTV」の番組の宣伝映像や、番組とタイアップしたミュージックビデオなどを作る、インハウス動画制作チーム。「映像ディレクションから完パケ、効果測定まで」 ーー。ネット時代のスピード感に適応したインハウスチームというに相応しいチーム体制が見えてきました。

自社メディアのPR映像を作るインハウスチーム

——まず、「AbemaTV」について教えて下さい。

高岡 哲也(以下、高岡):「無料で楽しめるインターネットテレビ局」として、サイバーエージェントグループ代表の藤田が主体となって進めている事業です。インターネット上のサービスで、テレビのようなリニア視聴の番組と、見たい時に見返すビデオのようなオンデマンド視聴の番組の2つがあることが特徴ですね。

ビジネスモデルとしては、フリーミアムモデルです。基本的には無料でコンテンツを楽しめます。さらに高度な機能や特別な機能について、月額制の「Abemaプレミアム」にユーザーが入会するという課金モデルとなっています。

——VX Studioは、「AbemaTV」の番組を作っている部署ですか?

高岡:いえ、番組自体は別の部署が制作しています。我々は番組PR用の映像を専門に制作しています。

番組の宣伝映像、オープニング映像、SNS用のPR映像、さらに番組から派生したアーティストのMV(ミュージックビデオ)など「AbemaTV」をPRするための様々な映像を制作しています。

また映像制作チームの「VX Studio」とは別に、番組のアートワーク全般を制作する「AD Studio」もあります。

中山 駿(以下、中山):番宣を目的に見る人は少ないですよね。視聴環境としては、ボーッと見ていて「あっ、なんか流れた。」というものを僕らは作っています。受け身で見ている人が、ほとんどだと思います。その時に、「いかに印象に残す手法は何か」を模索しています。ファーストカットにどういうものを入れればインパクトがあるか、どんな見せ方が目を引くかを考えています。テレビと違って、ユーザーの目を惹く勝ちパターンが明確になっていないので、ラインを考えながら模索して作っています。

——VX Studioは何名くらいの規模ですか?

高岡:10名強ですね。

全員ディレクターという立場をとっています。個々が番組のディレクターとしてたち、企画・構成〜完パケまで一気通貫して責任をもってディレクションしています。

私は、クリエイティブマネージャーという形で、全体のチームリードやKPI管理など、マネジメント業務を担っています。


株式会社AbemaTV アートディレクション室 VX Studio
クリエイティブ・マネージャー 高岡 哲也 氏

基本的に、1つの番組に対して「VX Studio」から映像ディレクターが1人、「AD Studio」からアートディレクターが1人の、計2名で担当します。

チームとしては、テレビ業界出身の人間は少なく、バックボーンが様々で、編集が得意、モーショングラフィックが得意など様々なディレクターがいます。
企画からオフラインまでは担当ディレクターが制作し、デザインやキーとなるビジュアルはAD Studioのアートディレクターに依頼するなど、柔軟に縦と横で制作を行っています。
企画などは、チームで集まって考えたりしています。


株式会社AbemaTV アートディレクション室 VX Studio
エディター/ディレクター 中山 駿 氏

中山:僕はディレクター兼エディターです。基本的には、番組PR用の映像を作っています。
番組によっては、MV(ミュージックビデオ)を作ったりしています。
企画から入って、撮影ディレクション、フィニッシュまでと一貫して制作しています。After Effectsを使って、モーショングラフィックスを作ったりもしています。エディターという括りよりは広い役割ですね。

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映像やデザインのKPIは「ネット上の話題度合い」

——AD Studioのアートディレクションはどのタイミングで入るのでしょうか?

竹原 沙織(以下、竹原):番組制作の企画が始まるタイミングから入っています。

番組のトンマナや方向性を決めるのは、番組を担当するAD Studioのアートディレクターが担っています。

私の場合だと、最初に番組のビジュアルとなる世界観をラフスケッチで決めます。そしてVX Studioの映像ディレクターと話し合って、オープニング映像など細かいトンマナを決めます。キービジュアルを完成させたあとに、番組内のテロップやグラフィックなどのベースとなるデザインを制作します。それを番組制作会社にお渡しして、細かいデザイン制作をしてもらうことが多いです。番宣映像もVX Studioの映像ディレクターのチームと連携し、動かすグラフィックの提案や制作を一緒におこなっています。


AbemaTV アートディレクション室 AD Studio
アートディレクター 竹原 沙織 氏

——制作期間はどれくらいでしょうか?

竹原:新シリーズの番組企画の場合、番組プロデューサーとキックオフミーティングを行います。

スケジュールと一緒にクリエイティブの核となるコンセプトを話し合います。そして、それが伝わるビジュアルかつオープニング映像を考え、スタートから1ヶ月たたないくらいで全部作り上げています。

ラフスケッチを何案も作って番組プロデューサーと話すのですが、そのときにVX Studioの映像ディレクターとも一緒に話し合い、キービジュアルとオープニング映像の世界観を何回も擦り合わせてビジュアルは完成していきます。

——インハウスならではのメリットはありますか?

高岡:様々なクリエイターがいるため制作の自由度が高く、ノウハウがたまりやすいです。また、番組プロデューサーなどの意思決定者が近くにいるため、信頼関係を築きやすく、結果良いアウトプットになるという点があります。

中山:僕はもともとエディター出身なので、全部自分で出来ることがやりがいになっています。頭からフィニッシュまで、全部自分で責任を持てる。

プロデューサーから依頼が来て制作がスタートする、というのがベースとしてはありますが、信頼関係ができると、僕ら主導で制作を行えることもあります。「こういうアイデアがあるんだ。こうだと絶対成功する」と、依頼ベースではなく提案ベースで仕事ができるので、自由度が高い印象がありますね。

——最近みなさんで手がけられた制作事例はどういうものがありますか?

竹原:最近だと「ポップティーンカバーガール戦争」です。

中山:これはMV制作でしたが、撮影のディレクションからほとんど全てを内制しました。

竹原:ダンスの振付まで、立ち会いましたからね(笑)。細かく入れるところは、どこまででも入ろうと。衣装も、我々でかなり決めました。

——KPIやマネジメントについて教えてください。

高岡:案件によって、数値目標を決めています。例えば、SNSのリツイート数も一つの指標です。どれだけ話題になるかを、各SNSで数値化してKPIにしています。
また、リアルタイムで「AbemaTV」内でのコメントに「かわいい、かっこいい」といったユーザーの感想も投稿されるので、このようなデータは「AbemaTV」ならではですね。

竹原:数字も大事ですが 「新しいクリエイティブチャレンジができた」 という点も評価の一つです。例えば自分のスキルの範囲を超えた挑戦をするために外部のイラストレーターに制作を依頼して、新しい表現を取り入れています。前回こうだったところを、こう工夫して数字が上がりました、というように、グラフィックと数字の上がり方を自分で仮説だてて、結果を見ています。

プロジェクトデータは「社内とパートナー企業」で行き来させるデータ管理

——チームで使っているソフトウェアについても教えてください。

中山:データ共有ツールは、主に社外とはギガファイル便、社内ではGoogleドライブを使っています。

Googleドライブでは、映像やグラフィックなど関係なく、全ての番組の制作データを共有しています。

竹原:psd、aiデータなど、全て格納しているので、先輩が作ったデータを参考にして作り方を勝手に勉強しています(笑)。Photoshopの使い方は、人によって全然違ったりするので、学びがあります。

中山:制作ツールは、Adobe Creative Cloudですね。編集では、Premiere ProやAfter Effectsを使っています。グラフィックデータの連携があるので、PhotoshopやIllustratorのデータをPremiere ProやAfter Effectsにドラッグするだけで連携できるので、他のソフトは考えられません。

映像業界だと、 Premiere Pro以外のソフトがスタンダードだった時代がありました。でも、毎回レンダリングしなければいけないのが大変で。テロップやカラーグレーディングしたものを、フルレンダリングしようとすると3〜4時間かかります。テロップの細かい修正などは、属人的にならず瞬時に制作したいので、Premiere Proだとレンダリングせずすぐ修正できる。他の編集ソフトを使っていた頃と比べると、Adobeに統一されて10倍くらいの編集スピードがでていると思います。

高岡:After EffectsとPremiere Proの連携も大きいよね。部分的に書き出しをしないで済む、ダイナミックリンク機能は異常に便利ですし。メタデータのみでやりとり出来るのは有り難いです。

それからAdobe製品は、使っている人が多いというのもあって、困ったときには、公式のQ&Aで解決できます。

竹原:「AbemaTV」だけでなく、サイバーエージェントのメディア事業部の全デザイナーが集まる「ハングアウト」という社内コミュニティがあるので、ソフトの細かい機能についてはそこで勉強しています。サイバーエージェントのメディア事業部だけでも、80名ほどデザイナーがいますが最近作ったものの共有や、「これはどうやれば作れるんだろう」とお互いに情報共有しながら切磋琢磨しています。

VX Studioの主な使用ソフトウェア
* 基幹クリエイティブソフト:Adobe Creative Cloud
* 映像 編集ソフト:Adobe Premiere Pro、Adobe After Effects
* グラフィックデザインソフト:Adobe Illustrator、Adobe Photoshop
* MA(整音 編集): Adobe Audition
* 社内データ共有サービス: Google ドライブ

<Vook編集部>
今回は、株式会社AbemaTVの皆さんにインタビューさせて頂きました。
いつの時代もメディアの変遷はつきものですが、今まさに変遷の中心にいるのは「スマートフォン×ネットコンテンツ」ではないでしょうか。
試行錯誤しながらも、制作者が納得しながらスピーディーに制作を進めている印象がありました。

そしてこの度、激動する動画制作についてのイベントを、開催することになりました!
幕張メッセで開催する Inter BEE 2019にて 「AdobeDay in Inter BEE 2019 〜多様化する映像制作最前線〜」 と題して、映像制作の今について考える1日です。11月14日(木)に開催しますので、ぜひご来場下さい。
詳細は下記リンクをご覧ください。
https://www.adobedayinterbee2019.com/

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