2019.11.28 (最終更新日: 2020.06.14)

撮影の新常識!?ETTR(Exposing To The Right)とは何か?露出オーバーで撮る利点と欠点のお話。[s-logはオーバーで撮ろうの続編!!!]

どうも、撮影監督・カラリストのニコラス・タケヤマです。
故障臭いですが、この記事は個人的には何万円も価値がある情報かと思っています。

今回は初心者というよりは中級者~向けの記事です。
色々と小難しいなって方は各々、調べてやってください。
(親切に教えてあげる暇がありません笑)

ETTR(Exposing To The Right)って何ぞや。

海外掲示板(redditやcinematography.com)とかを見ていて、ここ数年やたら賑わせているのがETTR
Exposing To The Rightの略ですが、露出をオーバーで撮るという撮影技法の事です。

これは映像演出的にハイキーで撮るというわけではなく、あくまでもポスプロの段階で露出を落とすことを前提にオーバーで撮るということですね。

もっと簡単に言いますと、演出のために明るく撮るわけではなく
明るく撮っておけば編集の段階で普通の値に戻したときにより綺麗な画質を得られるから(?←これの真相については後程詳しく)。

動画クリエイターのHenbuさん。Sony製カメラでS-logの撮影の際、ノイズを嫌いオーバー目に撮るという

何でこれを記事化しようかと思ったのかというと1年程前に書いた
s-logはオーバーで撮ろうっていう記事が思いのほか反響がよかったので(尊敬するカメラマン方にも知らない間に知れ渡ってた)、そろそろその続編を書こうかなと思い至りました。
カメラマン、ポスプロの方、かなりLogに関心があるようで。

s-logはオーバーで撮ろうの記事

まあ、あれから色々カメラ、ポスプロ、カラグレ業界も進展して
常識というものは絶えず変わってきています。今まで常識だったものがそうでなくなってきたり、例外があったり・・・

フィルム時代からあるETTR

まず、はじめに。

実は露出をオーバー気味で撮ってポスプロの段階で
露出を落とすというのはフィルム時代からあった方法なんです。

フィルムはダイナミックレンジが広いのになんでそんなことしてたの?って話なんですが、それは撮影監督(カメラマン)のフィルムストック(フィルムの種類)に対するこだわりが反映されていたからです。
(とてもマニアックな話ですいません)


というのも、フィルムはフィルムストック毎によって違った色が出るのはもちろんのこと:
それだけではなく、露出の違いによって色やコントラストの出方が変わってきます。

フィルム写真やってた方にはわかると思うフィルム毎の色の違い。

フィルムストックによって違ったコントラストカーブを描いているのに加えて、色(RGB)のカーブも、光に対する色の反応も違ってきます。

そして、ETTRすることによってノイズ低減にも役に立ったという。

今と変わらないじゃないか!

海外では結構当たり前にやられていた手法です。

ただこれは現像の注文が豊富にできる海外だからなしえたテクニックかもしれません(日本ではわざわざ輸送リスクを冒してまで海外に現像をお願いするカメラマンもいた・いるとか)。

シネマの業界ではそもそもフィルム感度やデジタルカメラの感度をISOやゲイン値で表記せずにEI(Exposure Index)で語ることが多いです。

EI(エキスポージャーインデックス)
エキスポージャーインデックスの略称で、露光指数の意味。フィルム本来のISO感度で写すことをせず、増感現像処理を前提にして写す場合に、例えばISO100のフィルムを感度セット400で撮影使用する時にEI400で写すという。

例でいうと、SonyさんのシネマカメラだとISOではなくCINE EI表記になっていますね。ISOは基本的に固定されていて、それに対して自分がそのフィルムストックをいくつのISO値にレートしてカメラの露出を決めるかに使います。

ベースとなるISO値は変わらず、EIを変えることによって露出の読み方を変えているだけ

例えばネィティブでISO400のカメラに対してEI800なら
1ストップオーバーで撮影することになります。

そもそも、なぜ今になってETTRがまた賑わせているのか

s-logはオーバーで撮ろうの記事でも書いた通りそもそも高画質で撮れるのであれば、適正露出で撮るに越したことはないです。

「だってカメラと自分をだましてオーバーで撮るのめんどくさくてありゃしないもん。」

ただ基本的にデジタルカメラにおいてはオーバー目で撮った方がキレイ(ノイズレス)に撮れるのが事実としてあります。


 旧BMPCCをオーバー露出で撮り、ポスプロで露出を戻している画。Cinematography Rant: Why Protecting Your Highlights Is Killing Your Footage

だからETTRがまた賑わせている。

なんでこんなことになってしまったかというと、

一般消費者の知識が追いつてない段階で
メーカーが低~中価格帯に無理やりLOG等のハイダナミックレンジを謳うガンマカーブを詰め込んできたので大惨事に至ったと思っています。

メーカーさん側にも責任があります。
画質的余裕がある、業務用シネマカメラにLOG機能を積むのはまだしも
当時まだ8bitやビットレートの低い民生カメラに盛りこんでしまったのがいけないのです。

結果いろんな人が使えない素材を量産してしまった・・・

最近では各種メーカーさん10bit搭載した民生レベルのカメラ出してきて、事故ることも少なくなり、大分落ち着いてきてますが。

メーカー公表ダイナミックレンジ値は嘘!?

ここから先はメーカーさんにとっては耳が痛い話ですが・・・
メーカーさんが公表しているカメラのダイナミックレンジってあくまでも認識できるダイナミックレンジの値なわけであって、じゃあ実用範囲のダイナミックレンジって何なの?

例えば、同じ13ストップと謳うダイナミックレンジでも、実用ダイナミックレンジが違ってきます。

まあ実用的なのかどうかはもう主観になってしまうのでまたそれが厄介なんですが・・・
(どこのメーカーさんも敵に回したい訳じゃないです!!!)

例えば認識できるダイナミックレンジも黒を浮かすなり、カーブをいじればまた変わってくるでしょう。

でも無理して絞り出したストップって実際使えるの?って話

カメラ事の癖を知れ

要は何が言いたいかって言うと実際にファイルを触ってテストを行わないとそのカメラの特性っていうのがわかってこないよ!って話。

Aっていうレビューサイトではこう言ってるが
Bっていうレビューサイトではこう言ってたり
そんなの日常茶飯事。

YoutubeやVimeoでテスト動画を観てみても実際のポテンシャルを活かしきれてない場合も多々あるので、
自分で実際にカメラ検証ができる機会を設けるのが本当は理想です・・・

そして、最大限のポテンシャルを引き出したいと考えているのであればカメラの癖を知るのがマストになってきます。

Logの恩恵は10bitじゃないと受けられないか?8bitと10bit論争

これはちゃんと比較をしたわけじゃなく、あくまでも体感の話です。

もちろん8bitと10bitを両方カラグレしてみたら10bitのほうが圧倒的にグレーディングの自由度が高いです。

ただ8bitだからといってグレーディングできないというわけじゃないです。ちゃんとカメラのポテンシャルを理解してあげることが重要です。

例えば8bitでのs-logのガンマカーブがどこまで無理ができるのか等。
欠点をつぶすためにETTRで撮影する等。

10bitでさらにビーフィ(肉厚)なコーデックならむしろETTRしない方が良かったり?

動画の19:30くらいからシャドウがノイジーと言われているSonyのFS5の10bit Prores (raw output)ファイルをNeat Videoというプラグインでノイズを除去している

海外では当たり前に使われているNeat Videoというノイズ除去プラグイン。
上記の動画では比較的かなりノイジーと言われているSonyのFS5のLog映像をETTRせずに撮影し(適正露出)Neat Videoでノイズ処理をしてあげた方がキレイに色もでるしダイナミックレンジもフルで活用できることを紹介しています。

動画の作者でカラリストでもあるDoug Stanfordが言ってたことを要約すると;

確かに、ETTRしてシャドウをクラッシュすることによってノイズを低減するのも一つの方法だし、自分も過去にそうしていた。
しかしETTRするより、適正露出で撮影してあげて後からノイズを除去してあげたほうがメーカーさんが元々意図していた(intend)ガンマカーブ、色やコントラストの出方で出るし、何よりそのワークフローのほうがしっくりくる。

ETTRで結局ハイライトを犠牲にしている。

ソニーのシネマカメラF55とF5におけるダイナミックレンジとEIの相関性

これは前述のグラフだが、
EIとダイナミックレンジの相関性を表しています。

ISOとEIは厳密に言うと違うが、
ISO値の上げ下げでも基本的には同じことをしています。

カメラのゲインをあげることはノイズ量をあげているので
ざっくり言うと低ISOで撮ってポスプロでレベルを上げるのと変わらない。

カメラ内のノイズ処理とポスプロのノイズ処理の違いはもちろんある。内部圧縮が強いカメラだと吐き出すコーデックやビットレートが弱いので画を吐き出す前に処理されるカメラ内のノイズ処理の方が往々にして有利だ。

しかし、コーデックがしっかりしているカメラや設定であれば、ポスプロでのノイズ処理の方が画質を求めるのであれば理に適っています。

だからDoug Stanfordさんもそういったワークフローを好んでいるのであろう。

例外として、Bmpcc4k等デュアルネイティブISOのカメラはベース感度が二つ設定されていてISO値によって違う処理回路を通るのでISO1000よりISO1250の方がノイズレスになる。ダイナミックレンジがシフトするのが分かるであろう。

それでもしばらくETTRの時代は続きそう

まあ色々話したが、なんだかんだETTRブームはこの先も続きそうだ。

それは多少ハイライトを犠牲してでもノイズフリーにした方が安全であるからだ。ノイジーで使いものにならないフッテージより、多少ハイライトが飛んでいるものの方が使えるであろう。そして、ハイライトを飛ばさないに気を遣えばそもそもいいのです。


Ursa Mini Pro G2でアンダーとオーバーのリカバリーを行っているが圧倒的にオーバーでのリカバリーが容易なのが分かる。

フィルム時代と変わって、
いまでこそカラリストっていう職業がポピュラーになってきたけども
それは同時にカラーまでこだわる(こだわれる)カメラマンが減ったとも捉えられる悲しき現実。

もちろん中にはトップを走ってる撮影監督さんでそこまでクオリティコントロールをしている人はいるでしょう。

そういった個人のクリエイターがもっと増えてほしいものですね。

タメになったらフォローお願いします

ニコラス・タケヤマのtwitter

個人的なブログも書いてます

ニコラス・タケヤマのブログ

41クリップする
クリップしておくと
あとからいつでも
見返したりできます。

    コメント

    • digiosa
      ほんとコレれですね。
      カメラマンには「白は飛び気味で!」っていつもお願いしていますが
      報道畑のカメラマンさんはlogでもオートアイリスで撮影するので伝わらないのがもどかしい…

      ダイナミックレンジだけを表したグラフに惑わされている人多いと思います。
      ノイズ消す方が現像コストかかりますしね(リダクションはちょっと重いので)
      逆に言うとダイナミックレンジ広いからハイライトの階調を多少犠牲にしたところで
      ちゃんと必要な情報は残っているんですよねー

      ってなことでポスプロ畑から撮影畑も兼任するようになってしまいました!
      ポスト目線から逆算して撮影した方が良い結果が出ることが多いですね
    • Shota Imada
      またまた素晴らしい記事をありがとうございます!Log撮影による大惨事に見舞われた経験があるので、尚更身に染みます笑 でもニコラスさんのおかげで Log も有効活用できるようになってきました。いつもありがとうございます!多謝!