はじめに
Adobe Day in Inter BEE 2019でのセッションの様子をダイジェストでご紹介します。
この記事ではPremiere Proユーザー会の中から「映画製作におけるワークフロー(仮)」をご紹介します。
400時間分のフッテージをチームで2時間のドキュメンタリー映画に編集した、そのワークフローを紹介していただきました。
登壇者
佐川 正弘
エディター / カラリスト
2006年に大手ポスプロでキャリアをスタート。
音楽ライブ作品を中心に、バラエティ・ドラマ・ドキュメンタリー・MV・VP・映画等幅広く活躍中。
2018年に独立。様々な作品に携わりながら、東京・赤坂で小規模ポスプロを運営。
小林譲
イギリスの美大卒業後、現地の制作会社にて3年間編集の下積みをする。
素材を頭から組み立てるドキュメンタリーを多く手がけ、編集の基礎を学ぶ。
2006年に帰国。大手ポスプロImagicaにてテレビ番組を中心に日本のキャリアをスタート。オフライン、オンライン、カラコレ、グラフィックなど多方面で才能を発揮。海外で取得したグローバルな映像センスと英語力で、 ドラマ、音楽系、CM系へと活躍の幅を広げる。
2017年に独立。オフラインの構成からアートデザインまで、その映像の全体パッケージ力を求めて指名する声は多い。
イントロダクションー製作した映画の概要ー
小林:
始めさせていただきます。
小林譲といいます。CHOCOLATE.Inc所属です。
佐川:
佐川と申します。よろしくお願いします。
小林:
僕は15年ほどエディターをやっています。佐川さんとは10年来のエディター友達です。
今回 CHOCOLATE.Incっていう会社がドキュメンタリー映画を作ることになったんですね
佐川:
CHOCOLATE.Incさん初のドキュメンタリー映画ですね
小林:
企画内容としてはリアルな中学2年生1クラスの35人を、全員2ヶ月半ぐらいかけて密着して、それを群集劇のような形で映画にするというものです。
2月から4月ぐらいの間で撮影が行われました。
佐川:
中学2年生の最後の2ヶ月間に密着したという事ですね
進路や将来を真剣に考え出す中学3年生と、小学校の延長感のある中学1年生との間にいる
中学2年生にスポットを当てたドキュメンタリー映画ですね
どんな体制で編集したのか
小林:
撮影は主に男子を撮るチームと女子を撮るチームの2班に別れ、登校、朝の会、授業、給食、部活、下校を毎日、繰り返して撮影します。
子供達は特にカメラに向かって何かしてくれるわけではなく、普通に日々を送ってるだけです。
毎日毎日日常をを撮影しまして、トータルの撮影時間としては400時間くらいあります。
2019年の2月から3月に撮影をして、4月頃から編集をはじめました。
佐川:
そうですね。
小林:
僕が最初、「小林さん編集してください」って言われて、渡されたんですが、
素材が400時間もあったのでこれはちょっとヤバいぞってなりました。
最初は「2か月くらいでできますか」って言われたんですよ。
それは無理だと断って、最初に声を掛けたのが、佐川さんでした。
佐川:
そうですね。僕が入ったのが5月くらいですもんね。
小林:
エディター4人にアシスタント2人というチームで進めました。
監督がある程度の構成とかは持っていたんですが、
ストーリーを作る部分についてはかなりエディターに任されていました。
子供の撮られ方・性格・行動などを見ながら、こんなストーリーが作れるよね、っていう形で、どんどん生徒ごとの短編映画を作っていきます。
佐川:
35人分のショートストーリーを、それぞれのエディターが、それぞれの生徒に対して作っていったと
小林:
本当に大変でした。35人分ですから。
その編集作業をPremiere Proを使ってやったのでそのワークフローをお話します。
クラウドでの素材共有
小林:
エディター数名いて、アシスタントもいて、プロダクションの方々もいてっていうチームで、情報共有しなきゃいけないんで、クラウドを使いました。
Adobe Creative Cloudでも、Dropboxでもいいとは思うんですけど、今回はGoogleドライブを使いました。
ハードディスクの名前を同じのものに統一し、人数分用意して全員に配布しました。
その中に映像素材を全部Proxyで書き出したものを入れて、Googleドライブにも全素材を上げました。
それぞれのハードディスクとGoogleドライブが常に同期されるので
例えば佐川君が「この生徒さんのストーリーを編集したから見てよ」って佐川君のハードディスクに保存すると、僕が家に帰った頃にはもうすでに、自動的に僕のハードドライブにもある状態になります。
佐川:
映像素材だけではなく、写真だとか音楽だとか、書類等の情報関係のものも全てGoogleドライブで共有しました
それとクラウドを使ったメリットとして、ファイルの更新日時を見れば、それぞれのエディターがいつ何時まで働いてたのかは分かるんですよね。
昨日の夜、朝までやってたじゃん、連絡するのやめようみたいな使い方ができました。
オンライン上でお互いが見えるのも素敵な感じでしたね。
35人分をつなげた時のタイムライン
小林:
先ほどもお話した通り、生徒1人づつ35人分の短編映画を35個作ったのですが、1つのストーリーにつき、大体5分から8分ぐらいで話を繋いでいきました。
佐川:
人によっては15分になっちゃう子もいましたね。
小林:
つなげたものをまず並べてみようよって、並べたのがこのタイムラインです。
佐川:
地獄絵図ですよ。
小林:
地獄絵図でしたね。3時間15分あったんですよ。僕らが目指している映画って、当然2時間以内位なので、
佐川:
1時間15分も切るんだ、みたいな。
小林:
こんなことできるわけない、みたいな。そんな感じでした。
エディターさんの方にフリーにお任せてしているのを回収したら、こうぐちゃぐちゃになってしまいました。
佐川:
まだ音楽トラックとかが下の方にあるから、まだいい方かもですが
モノラルトラックを使うとか、そういうレベルの話じゃないですね。
小林:
それで、ようやく昨日、オフラインがほぼ完成したんですよ。
そんな中、編集作業をしていく中ですごいニッチだけど役に立ったPremiere Proの機能をいくつか紹介します。
Premiere Proの役に立った機能 1.複製を統合
佐川:
Premiere Pro 2018までは、色んなプロジェクトからシーケンスを集めていくと、同じクリップが何個も重複してしまっていたんですよね
それがPremiere Pro 2019からは、編集メニューにある「複製を統合」という機能を使えば
重複してしまったクリップを1つにまとめることができます。
Premiere Proの役に立った機能 2.マルチカメラ機能を使った素材並べ
佐川:
マルチカメラの機能を使って素材並べをしました。
小林:
カメラを切り替えるという用途じゃなくて、素材並べをさせるためにマルチクリップの機能を使おうってことです。
先ほど説明した朝7時から夕方までカメラマンたちがフリーランで収録した映像をタイムコードを元に、1日のシーケンスを作ります。
佐川:
こういうシーケンスを一発で作りたいんです
小林:
Aカメが1段目、Bカメが2段目で、それぞれがランダムにいろんな生徒たちを追いかけ回しています。
佐川:
これが、実際のカメラさん達の1日の動きってことですよね。
シーケンスのタイムと実際に収録された時間が一致している状態です
手で1クリップ1クリップ並べるのは大変じゃないですか。
これをマルチカメラを使って並べるやり方を説明します。
複数のクリップを選んで、マルチカメラソースシーケンスを作成します。
タイムコードを指定してマルチクリップを作れば、シーケンスのタイムとクリップのタイムが同期します。
クリップのタイムが12時だったら、シーケンスのタイムも12時のところに並ぶってことですね。
しかしこのままだと素材が沢山ある場合、シーケンス上でクリップが階段状に並んでしまうんですよね。
50クリップあったら、50トラックできてしまう、これでは大変です
これを回避する為に
「単一のマルチトラックカメラシーケンスの作成」にチェックを入れます
さらにトラックの割り当てという項目でカメララベル、カメラアングルのどちらかで、
指定してあげることによってAカメはV1、BカメはV2っていうふうに並べることが出来ます。
小林:
単純にメタデータとして、Bカメには「お前はBだよ」っていうのを埋め込む必要があるんですよね。
佐川:
メタデータは、プロジェクトウィンドウの、メタデータパネルから一発で検索ができます。
カメララベルの欄に、Aカメだったら「A」、Bカメだったら「B」みたいにしてあげれば、同じトラックに並べることができます。
小林:
例えば、登下校の良いシーンがあったんじゃないかって、素材を見直す時に
誰も何を撮ったかほぼ覚えてないんで、僕らが一日を把握出来るようにする事がとにかく大事だったので、この様に素材を整理しました。
Premiere Proの役に立った機能 3.クリップ使用状況
小林:
続いて「クリップ使用状況」という機能を使って、素材を探す時間を短縮する方法をお伝えします。
あるシーンを編集をしていく中で、ある程度は出来たけど、もう一度周辺の素材を見直そうという時に、先ほどマルチカメラ機能を使って1日に並べ変えたシーケンスや、かなり前のオフラインシーケンスに立ち返りたいなっていう時があります。
佐川:
そんな時に、まず今編集している素材は何月何日に撮影された素材なのか、さらにどのオフラインシーケンスに入っているのかを、プロジェクトを引っ掻き回して探したり、Finderや書類を調べたりするのは大変です
それを回避するために「クリップ使用状況」という機能を使ってデータを引っ張っていきます。
まず探したい素材をプロジェクトウィンドウで選択します
次にプロジェクトウィンドウのプレビューエリアにある小さなドロップダウンメニューのような形の下矢印
こちらをクリックすると
この素材がこのプロジェクトのどこで使われてますよってのが簡単に表示されます。
出てきたリストを選択すれば、使用箇所に自動的に飛んでくれます。
これで素材を瞬時に探すことができます。
小林:
良くあるパターンとして、Bカメが全然違うところを狙ってましたっていうパターンがあります。
この映画って群集劇なんで、同時のタイミングで、この男の子はこれをしていたけど、
こっちを見たら、この女の子は別のことしてたっていうのは、すごい重要な作品です。
当然嘘はつきたくないんで、実際に起こったこととして、
ドキュメンタリーとして捉えたいので、こういうクリップを探せることがとても大事です。
あぁ、この子、ここにその時、その瞬間いたんだ、みたいなことが起こるわけですよね。
佐川:
マルチストーリーができるんですよね。
XMPと同期について
小林:
最後に、XMPの話をします。
佐川:
お話した通りGoogleドライブで、素材を同期しながら作業していたのですが、その際の注意点のお話です。
手元のクリップをPremirere Proに読み込んで、クリップに対してマーカーを打つとクリップのメタデータが更新されて、クラウド上にある素材と自分のハードディスクにある素材を別素材と認識して、新たにコピーが生成されて同期を始めてしまいます。
結果、同じ素材のコピーがどんどん増えてしまいました
小林:
今日はマーカー打つ日と決めてマーカーを沢山打ったら、素材がどんどんGoogleドライブにアップされて、みんな大パニックみたいなことが起こりました。
佐川:
回避方法として、環境設定のメディアタブの中の「クリップマーカー
のXMPへの書き込み」このチェック、デフォルトではONになってるんですけど、これをOFFにしないと同期がどんどん始まっちゃって、もうハードディスクが一瞬にしてパンパンになるっていう事態になるんで、もしクラウド上で編集される方はここのチェックボックスをオフにしてみてください。
他のやり方を知っている方がいたら、是非後で教えてください。
小林:
長編ドキュメンタリー映画、タイトル「14歳の栞」
ありがとうございました。来年4月公開です。よろしくお願いします。
Vook編集部@Vook_editor
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