「モーショングラフィックスは動きより、ビジュアルが重要」LIKI inc.の制作体制とは

TVCMから空間演出まで、幅広い分野で使われているモーショングラフィックス。その最前線で活躍する、モーショングラフィックスに特化したクリエイティブチーム がLIKI inc. だ。
LIKI inc.の代表であるラウ氏とモーションデザイナーの石志哲郎氏の2人に、モーショングラフィックスの制作裏やチーム体制について、オンラインエディターのダストマン氏が話を聞いた。今回はそのインタビューの様子をお届けする。

インタビュアー / ダストマン
ど田舎の古民家暮らしの映像屋。
編集 / モーショングラフィックス / VFX / コンポジット / After EffectsチュートリアルのYouTubeチャンネル【ダストマンTips】を運営している。

モーショングラフィックスを分業で制作するワークフロー

ダストマン氏 (以下、ダストマン):まずLIKIさんのチーム体制について教えてください。


LIKI inc. アートディレクター・ディレクター / ラウ氏

ラウ氏 (以下、ラウ):僕は社内のディレクションや企画制作、プロデューサーといった立ち位置で活動しています。僕と石志が会社の窓口となって、取引先とのやり取りをしています。

石志 哲郎 氏(以下、石志):僕はモーションデザイナーとして、デザインからモーションまでトータルディレクションをしています。うちではデザインチーム、モーションチーム、コンポジットチームに分かれて、分業しながら制作をしています。

ダストマン:クライアントとやり取りする中で、方向性やモックはどのように詰めていますか?

ラウ:まず、クライアントから案件の内容についてオリエンテーションを受けてから、キービジュアルとなるリファレンスを探します。場合によっては、スケッチを作りながら方向性を探ることもありますね。コンセプトや方向性を絞れたら、本番のデザインに起こしていきます。それからパラパラ漫画みたいな感じで制作した大まかな動きにOKが出たら、ようやく本番のモーションに入るのが基本です。なるべく大きな修正が起きないように、段階を踏むようにしています。

ダストマン:特にLIKIさんの作品は、全て手作業かなと感じることがほとんどなので、デザインからやり直すとなると、大変なことになりそうですね。


LIKI inc. アートディレクター・モーショングラファー / 石志 哲郎 氏

石志:文字は文字だけ、装飾のパーツはパーツだけ、全体のコンポジットはコンポジットだけ、といったチームの分け方をしているので、修正も各担当者が必要な箇所に対応するだけで済みます。分業の良さは、やっぱりそこにありますね。

モーションよりビジュアルが重要

ダストマン:僕はあまりグラフィックデザインが得意ではないので、誰かにデザイナーとして入ってほしいという思いがあります。LIKIさんはそのあたりをチームで組んでいらっしゃっていて、羨ましいです。グラフィックを動かす時に、デザインデータの共有はどのようにしていますか?

石志:グラフィックデザイナーがAfter Effectsを多少使えるので、After Effects上でデザインを並べてくれます。テクスチャーなどはAfter Effectsで作業していますよ。デザインのOKが出てアニメーションに入る時は、Illustratorのデータをよりも、After Effectsの収集データをもらって作業をしています。

ラウ:このようにグラフィック担当がAfter Effectsでエフェクトもかけてくれたりするのは、かなり助かります。もちろん大元のデザインはIllustratorやPhotoshopで作りますよ。

ダストマン:僕はモーショングラフィックスのデザインを作る時に、次のカットをイメージしながらデザインを組んでいきますが、そのあたりはどうされていますか?

ラウ:デザインを考える際に、”いかに動かしやすいか”を重視しながらデザインを作ってしまうことがあります。しかし、本当は動きのことよりも、1枚1枚のキービジュアルの精度を重視するべきだと思います。モーションの都合で作ると、どこか抜けているデザインとして出来上がってしまうのですよね。まずは、デザイン1枚1枚をポスターだと思いながらデザインするよう、心がけています。

イメージの解像度を高めて作業する

ダストマン:LIKIさんの作品を色々拝見したのですが、ほとんどが手作業なのでしょうか?

石志:もう、泥臭いくらいに手作業です。作りたいもののイメージがあって、”何をやるのか”という作業工程も頭の中にあるので、あとはイメージを再現していきます。本当はプログラミングやシミュレーションを駆使した方が早いのかもしれませんが、その勉強をしている時間があるなら、手作業でやった方が早いですね。工数は多いものの、迷わないので社員はみんなスピーディーに作業できています。

ダストマン:仕事の量があまりに膨大だと、ひたすら作業を続けていて叫びたくなったりしませんか?

石志:叫ぶことはないですね(笑)。逆に細かく動かしてプレビューすると、動きが良くなっていくのが楽しいです。他にも案件を複数抱えているので、1つの案件に費やす時間を考えながらスケジュールを組んでいます。例えばCMのグラフィックをAfter Effectsで作る際に、コンポジションが何段階かに分かれていますよね。コンポジションの数を見れば、おおよそのカット数と1カットに何時間かかるのかが分かります。タイムスケジュールを上手く区切ることで、同時進行でもプロジェクトを回せるようにしています。

ラウ:制作の中で、考える時間というのは長くなりがちだと思うのですが、思いつけばあとは手を動かすだけです。社内でも誰かが考え込んでいる姿を見ることはあまりなく、みんな大抵手を動かしていますね。

ダストマン:良い意味で、全員モーションマシーンですね。

ラウ:もう工場です(笑)。

感覚の近い人間を集めることでモーションの共有もスムーズに

ダストマン:モーションを共有する際に、擬音を使う以外に説明する方法が無くて困ることがあります。分業体制では、モーションの共有はどのようにやり取りしていますか?

ラウ:モーションのイメージ共有について多くの方々に聞かれますが、言ってしまえば”感覚”ですよね。我々の場合は、感覚の近い人間を集めることで、擬音や簡単な言葉でイメージを伝えることができています。

石志:例えば「バウンドさせて」という要望に対して、「バウンドというのは、こういう動きだよね」みたいな共通認識が全員にあります。

ダストマン:それは採用の段階で、「この人なら伝わるぞ」というのを見ているということですか?

ラウ:そうですね。我々の業界ですと、基本的に作品で判断するのが一般的だと思います。作品を見ればその人がどういうものが好みか、どういうモーションが得意なのかといったことが分かりますからね。そうすると、自然と似た感覚の人間が集まるというか、こちら側としても採用したくなります。

クオリティを担保するチーム構成

ダストマン:LIKIさんへの仕事依頼は数多くあると思いますが、そうした中で敢えて拡大しない理由を教えてください。

ラウ:一番大きな理由として、案件全体のクオリティ管理が行き届かなくなるというのがあります。一見、プロデューサーを増やせば解決するように思われますが、クオリティの管理ができるプロデューサーというのは、そう見つかるものではありません。プロデューサーの管理能力は作品の仕上がりにも影響しますから、クオリティを重視するという意味で、なるべく少規模で活動していきたいと考えています。

ラウ:近年は1年に1人ずつ採用しているのですが、社内のみんなで色々教えられるので、採用された人の成長スピードも早いです。いくら会社が裕福になって採用するお金があったとしても、例えば急に5人雇おうというのは、怖くてできないですね。

ダストマン:採用した1人に対して、全員で育ていく感じですね。

ラウ:ちょっとカッコつけてと言うと、社員をファミリーだと思ってやっています。新しく入った人も、家族として接することができるような環境作りを心がけています。

LIKI inc. の採用基準とは?

ダストマン:自分たちと感覚の合う人を採用しているとのことですがが、どのように判断しているのですか?

ラウ:うちでは、少し変わった面接の仕方をしています。面接希望者たちに良いと思う作品を5つと、悪いと思う作品を3つプレゼンしてもらう方式です。但し、LIKIが制作した作品以外という条件をつけ、その人のプレゼンからコミュニケーション能力や、何が好きで何が嫌いかというところを見ます。これに加えて、その人の作品集も見せてもらいつつ、採用するかどうかを判断します。好きな部分と嫌いな部分には、その人のセンスが出ますからね。面接に来る方でも、良いと思う作品が被っていたり、作品の制作者名まで知っていたりすることもあって面白いです。一方、悪いと思う作品については、一番批評するのが難しいところだと思います。

石志:嫌いだとはっきりて言う人もいれば、作品の良い所をすごくフォローする人もいます。面接の段階で、その人の性格が大体分かりますね。採用基準としては、”生理的にこの動きが嫌い”といった部分が共有できるかを見ています。モーショングラフィックスは生理的な部分がかなり強いためです。あとは、作品クオリティのOKラインがどのあたりなのかを面接時に見ています。ものづくりのクオリティは、納期がなければどこまでも詰められますからね。

どんな人が採用されているのか?

ダストマン:元々学生時代にVJをやっていた仲間で、会社を創設されたと聞きしましたが、採用されているのは、VJを経験している方が多いのでしょうか?

ラウ:意外とVJはそれほどいません。大学卒業後に就職を希望していて、学生時代は部活や課題を頑張ってきたという方が多いかもしれません。採用する際には作品のクオリティも見ていますが、やはりその人がどのような考えで制作したのかを重視しています。最近ではチュートリアルも沢山あるので、真似をすればある程度クオリティの高いものは作れます。多少スキルがあればツールの使い方は我々が教えていきますし、大して教えなくても共有ができるので、そこからは自然と成長も早いですね。

石志:これまでに採用した人は、割と独自に学んできた人が多いように思います。作品の中にあまり課題が入っていないというか、自分で自由に作っている人たちが大半ですす。

ダストマン:例えば、独学してきた人は自分を軸として持って制作する分、好きな作品や嫌いな作品をちゃんとプレゼンできる傾向があったりするのでしょうか?

ラウ:皆さんプレゼンは結構しっかりしています。手法は人によって異なり、それぞれが自己流という感じです。1冊のポートフォリオ資料を持ってくる人もいれば、自分が作った動画リンクのURLを送ってくる人もいて、実に様々です。

ダストマン:特に印象に残っている面接はありますか?

石志:めちゃくちゃ解説が詳しかった人がいて、印象に残っています。その人は、僕が以前にVimeoでLikeしていた作品を、良いと思う作品として持ってきたのですが、歴史的な背景から説明が始まり、「この動きの意味ってそうなの?」とか「そんな見方はなかった!」といった発見があり、面接する側も勉強になりました。

まずはデザイナーのアシスタントから

ラウ:入社したら必ず1年間デザイナーのアシスタントをして、デザインの重要性を学んでもらいます。モーションとデザインで分業していると、自分の専門領域だけ理解していればいいと思ってしまいがちです。ですから、モーションを手掛けるのはデザインの基礎を勉強してから、という流れにしています。モーショングラフィックスは、グラフィックがないと成立しません。逆に言うと、グラフィックのクオリティが高ければ、最小限の動きでも映像として成り立ちます。こうした意味でも、デザインはとても重要だと思っています。

石志:実際の仕事でも、オリエンテーションを受けたら、1週間後にはクライアントに何かを見せなければなりません。最初からモーション動画を先方に見せるのは不可能なので、動かす前のデザインをベースに方向性を探ります。イメージ共有するためにも、デザインは重要ですね。

LIKI inc.の今後の展望

ダストマン:会社として、今後どのようなところを目指していますか?

ラウ:長く続けていくことですね。ある程度流行に乗りながら、自社の作風も守って映像を作っていきたいです。モーショングラフィックスの流行は、毎年変わっていきますよね。その時々の流行を全く気にすることなく、自社の作風を貫くのも良いかもしれませんが、やはり我々は、流行もちゃんと取り入れることを心がけていきたいと考えています。

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