「臨場感の高い」映像を作るために、いまや欠かせないのがジンバル。
一歩上の臨場感をだすために、カメラとジンバルを手に撮影に挑んでいる方も多いのではないでしょうか。
それでも、ジンバル自体の設定が難しく、困っている方も多いかと思います。
ジンバルの設定にはコツと、ジンバル自体の原理原則の理解が不可欠です。
そこで今回は、ジンバル使いのプロフェッショナルである方に、その活用術をインタビューしました。「RONIN-S」を活用してミニマムなスタイルで映像制作を行うRyoma Matsumoto氏に、RONIN-Sでよりクオリティの高い映像制作をするコツを伺いました。
普段の活動は?
普段はMVの監督をしたり、撮影監督として現場に入ったり、ライブ撮影をすることも多いです。カメラはGH5や、最近だとBMPCC4Kを使うことが多いです。
最近ディレクションしたものだと、OmoinotakeというアーティストのMVを撮りました。これはほぼRONIN-Sを使って撮影したものですね、後で詳しく解説します。
Omoinotake / モラトリアム
ほかにはこの作品もRONIN-Sを活用して撮りました。京都シーンのハイパーラプスを撮影したのですが、こちらもRONIN-Sをうまく設定してあげることで綺麗な絵が撮影できます。あわせて後半で解説します。
MIYAVI「No Sleep Till Tokyo」Music Video
Ryoma MatsumotoさんのRONIN-S構成
DJI製品との出会いは?
立命館大学映像学部在学中、クレーンやドリーといった特機を扱う授業で、DJIのジンバルで一番初めに出た「RONIN」を触ったことがきっかけです。当時、学生からしたらRONINはまだ手が出せない金額の機材で、(約30万)憧れの機材でした。RONIN-1に、Canonの5Dをつけて、Easyrigで釣って授業をしてました。
そのあと、機材販売代理店で働き、RONINやドローンを学んでいったという感じです。
ジンバル・カメラワークのセミナーの様子
ジンバルをなんとなく取り入れるのではなく、カメラワークの基礎を考えてRONIN-Sを用いる
正直、クレーンやドリーを導入できる余裕がある現場ではやっぱりその特機を入れた方がもちろんいいと思っていて、でも僕の現場は予算的に無理な場合がほとんど。なので、RONIN-Sをよく活用しています。
実は、RONINっていうカメラワークは存在しないんです。
まず『FIX(固定)・パン・チルト・ドリーイン・ドリーアウト・ズーム・フォロー』っていう基本のカメラワークがあって、これらのカメラワークを演出によって考えて、どうやってRONINで再現するかという順序で考えています。基礎的なカメラワークから、撮りたいイメージを明確にして撮影をすることが大切になってきます。
結構みなさん、RONINで撮っておけばいい感じにオシャレに撮れるって思いがちですが、あくまでもRONINは道具として考えて使った方がいいと思います。
クレーンなりドリーなりを使うだけで、大きい車や人手が必要になったりするので、その点RONIN−Sにはかなり助けられています。
RONIN-Sの構造を理解してセッティングをする
使用前にバランスを取ると思うのですが、正直RONIN-Sは優秀なので、大雑把にバランスを取ってもモーターの力で補正してくれます。ですが、ここでRONIN-Sの構造を理解した上でバランスを取っていくことで、電子ジンバルを使った画にありがちなぎこちないカメラワークを防ぐことができます。
パン・チルト・ロールの3つのモーターが、どう動くかを理解することが大切。ひとつづつモーターに負荷がかからないように調整していくのとがポイントです。
バランスを取る順序は「チルト→ロール→パン」
①チルト軸 カメラのレンズを上に向けバランスを取る
②チルト軸 カメラプレートの位置を前後させる
③ロール軸 カメラの左右のバランスを取る
④パン軸 RONIN-S自体を傾けて、パン軸の前後のバランスを取る
⑤(余裕があれば)カメラの位置が縦や斜めの時にもバランスが取れるようにする
上からチルト(カメラの前後振り)、ロール(水平)、パン(カメラの横振り)の順番でそれぞれバランスをとっていきます。
①チルト軸 カメラのレンズを上に向けバランスを取る
②チルト軸 カメラプレートの位置を前後させる
チルトは2種類あって、チルトモーターの部分のネジで、カメラのレンズを上に向けバランスを取り、次にカメラのプレートの位置を前後させて調整します。
③ロール軸 カメラの左右のバランスを取る
次にロール軸を合わせます。カメラプレートにも左右調整する場所があるのですが、これは基本的にカメラのサイズに合わせます。ロールモーター部分のネジで左右に調整します。
④パン軸 RONIN-S自体を傾けて、パン軸の前後のバランスを取る
次が意外と忘れがちなのですが、RONIN-Sの一番根本にあるパン軸のモーターのバランスを取ります。③まできちんと行っていれば、見た感じバランスが取れているように見えるのですが、実はパン軸のバランスもかなり重要です。RONIN-S自体を傾けて、前が重いのか後ろが重いのかを調整します。
より入念にやるためには、カメラを縦にしたり斜めにした時にもバランスが取れていることを確認すると、より安定性が増します。
最後はアプリでバランスを確認 許容範囲は±5以内に!
「電源」の数値が±5%以内になるように調整
バランスを取り終わったら、起動してオートチューンをします。Mボタンとトリガーを同時押しで数秒押すことでアプリなしでもオートチューンができます。目指すのは「電源」の数値が±5%以内です。
モーターパラメーターの見方
上部のチルト・ロール・パンのゲージは、モーターの強さを表しています。実際にモーターに手で力を加えてみて、若干バウンドするくらいがちょうど良いです。モーターに無駄な力が入ると硬くなります。BMPCC4Kなどを載せている時は横に大きいのでロールの値が大きくなります。大きいレンズを載せている時はチルトに加わる力が大きくなります。
下のゲージは基本的に「電源」の部分のみを確認すれば大丈夫です。
RONIN-Sの3パターンのモードを駆使して撮影したというMV、パターンはどう使い分ければいい?
Omoinotake / モラトリアム
このMVは一番最近撮ったものなのですが、RONIN-Sに入っているモードを演出によって使い分けて撮影しています。
RONIN-Sには「パン&チルトフォロー・パンフォロー・FPV・3Dロール360」というユーザープロファイルが元から備わっていますが、この作品ではパン&チルトフォロー・パンフォロー・FPVの3つをアサインさせて使っています。
基本的にジンバルは、「水平を保つもの」だと思ってください。なので、水平を司るロールのことはいったん忘れてください。「パン&チルトフォロー」モードは、パンとチルトが追従しますよ、という設定です。
出だしのピアノの手元のシーン(00:00~)は「パン&チルトフォロー」です。一番手持ちに近い設定です。下振りの手元から上がっていく、という動きをするためです。ジョイスティックは全く触らないです。
この部分は(01:27~)「パンフォロー」モードです。カメラをあおったり俯瞰したりせずに、目線の高さで撮影したかったので、このモードで撮りました。
最後のシーン(03:25~)は「FPV」モードです。水平も追従させています。ラスサビの鳥が飛ぶような自由さや解放感、凛とした美しさを表現しています。
実は、この辺のシーン(00:47~)のフィックスの絵も、時間短縮のためにRONIN-Sをそのまま三脚に乗せてロックモードにして撮っています。
演出によって撮りたい画を明確にすることが大切なのかもしれません。
電子ジンバル感を無くすための「デッドバンド」調整
車のアクセルやブレーキは、踏み始めは効きませんが、ある一定の所まで踏み込むと効き始めます。これがデッドバンドで、動き出しの余白のことです。つまり、ジンバルをどのくらい振ると動き始めるか。さらに言い換えると、ジンバルを動かした時に、それがカメラワークなのか否かを決めるポイントのことです。
デッドバンドが低いと、その領域が狭まり、ジンバルはカメラマンの動きを敏感に捉えてカメラワークとしてジンバルを動かします。デッドバンドに関しては、カメラマンとRONIN-Sの意思疎通的な部分ではあるので、一つ数値を決めて慣れる必要があります。
このデッドバンドの幅を理解できれば、電子ブレがなくなり、RONIN-Sでもステディーカムのような滑らかな画を撮ることができます。
ロック機能の活用
ドリーワークの画が欲しい時にはロック機能を使います。トリガーを押すとロックモードになります。体の横ぶれを打ち消してくれるので、例えば通り道に障害物があった時に避けてもカメラ自体はブレません。
MIYAVI「No Sleep Till Tokyo」Music Videoより
このMVでは、よく見ると人を避けていると思うのですが、RONIN-Sをロックして、カメラのグリッド機能などを用いて建物に合わせることで、自分がぶれても画角をずらさずに撮影することができます。
ちなみに、ロックをしている時はデッドバンドが無限という風にも捉えられます。
SmallRigのクランプとハンドルを組み合わせて、両手持ちしてもフォーカス操作が可能に
ハンドルは、SmallRigのクランプに、SmallRigのNATO互換のハンドルを二つ付けています。DJI純正のハンドルや、サードパーティーのRONIN-Sの底面に付けるハンドルなどがあるのですが、それだとフォーカスホイールがさわれないので、このスタイルにしています。
このSmallRigのクランプは、ここにさらにモニターやストラップなども付けられるので重宝しています。
また、RONIN-Mに近いスタイルで逆持ちで使うこともあります。ローアングルなどを狙いやすく安定性も高いです。
ロッドを組み合わせることでクレーン的動きを生み出す
カーボン製のエクステンションロッドも活用しています。
クレーンのようなワークを再現
エクステンションロッドで長さを取り、クレーン的ワークや、ライブ撮影などで高い位置から撮影する際に活用しています。
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今回は、ジンバルを徹底的に活用しているMatsumotoさんへインタビューを行いました。
ジンバル徹底のワークフローを理解した上で、セッティングを行うことで、微妙にずれが生じるなどが解消されると思います。
インタビューさせて頂いたMatsumotoさんのプロフィールはこちらです。
Ryoma Matsumoto氏
映像ディレクター / 撮影監督 / RONIN-OPERATOR / VJ
関西を中心に、ミュージックビデオの監督や撮影監督して活動。音楽ライブの演出としてVJを行ったり、バンド「the McFaddin」メンバーの一員として、映像を駆使してアーティストを彩る活動を行う。
https://www.instagram.com/ryomaryomamatsumotomatsumoto/
https://ryoomamatsumoto.myportfolio.com/
text by Yuhei Iida
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DJI@DJI
DJI JAPANの公式アカウントです。2006年に創業したDJIは、世界シェア1位を誇るドローン業界のパイオニア。空撮用、地上撮影カメラやスタビライザーの開発なども手掛けています。
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