# はじめに

前回アカデミー賞のノミネート・受賞作品の予告の中からフレームを切り出して、ルック作りに到るまでどういうことが要素に含まれているかに想像を膨らませましたが、今回は実際に撮影する上でどういったことがルック作りに関わってくるか、もう少し実用的に考えてみたいと思います。という訳で今回は撮影編と題しました。

撮影準備の時点で考えるべきこと

映画のルック作りは撮影を始める前から始まります。プリプロ(Pre-Production)と呼ばれる段階でクルーを選定しますが、ルックに大きな影響力を持っているのは撮影監督(Director of Photography)・美術監督(Production Designer)・衣装監督(Costume Designer)です。

撮影監督

ムードボード

映画撮影に使うカメラやレンズだけでなく、カメラワークから照明の配置・色味まで全てを現場で仕切るのが撮影監督です。まず映画のルックを決めるためには頻繁にムードボードと呼ばれるものを作られます。 これは監督や撮影監督が過去に作られた映画やコマーシャルの1シーン、雑誌の切り抜き写真、もしくは絵画など映画のルックのイメージに近い作品を集めてきて、それぞれのシーンのイメージに近いものをコラージュにするようにまとめて行きます。最終的に出来た各シーンのムードボードが出来ると、ムードボードから特定のルックを構成する色や構図のパターンを見つけることが出来ます。 このプロセスは恐らく経験値が少ない僕には非常に重要なプロセスです。Damien Chazelle監督でさえも、「ラ・ラ・ランド」を制作する為に、ハリウッドで作られたほとんどのミュージカル映画を見て、その中から映画のムードを考えたと話しています。

[写真引用:Treading Water Film]

カメラとレンズの選択

コマーシャルの撮影でも同じことが言えますが、ムードボードが完成すると次はカメラとレンズを選択します。ハリウッド映画になるとフィルムかデジタルか、という話もありますが、ほとんどの場合はデジタルなのでフィルムの話はここではカットしてデジタル撮影の要素を考えます。カメラを選ぶ際にルックに大きな影響を与える要素は、例えば以下のようなものを検討します。:

  • センサーサイズ = レンズとの相性は良いか?
  • クロップファクター = 被写体からの距離、画角をどれほど圧縮したいか?
  • スキントーン = 最終的なルックのイメージに近いスキントーンが出せるか?
  • ** ネイティブISO** = 映画のトーンに必要な光量が確保出来るか?
  • 暗部のノイズ = ローライトな環境での撮影にどれほど耐えられるか?
  • ハイスピード撮影の最大フレーム数 = 高画質でどれくらいのスロモが撮影出来るか?
  • RAW撮影の可否 = グレーディングをどうするか?

リグの確認

実際に撮影する場合のロジカルな要素も進行の妨げになる可能性が十分にあるので考慮が必要です。

  • リグを組んだ時点でのカメラの重さや大きさ = 機動性は落としていないか?
  • リグの大きさ = ステディカムに乗るか?
  • 内臓NDフィルターの有無 = 撮影時間を短縮出来る機能はついているか?
  • SDIやHDMIケーブルの有無 = 外部モニターに出力は可能か?

カメラが大きく、重たくなるとカメラアシスタントの数も増やさないと撮影が出来ないので、このロジカルな要素はインディーズ映画を作る上では超重要な要素の1つです。

レンズ

レンズも今ではありとあらゆるオプションがあります。
例えば、

  • 通常レンズとアナモフィックのどちらを使うか
  • ビンテージレンズを使うか新しいモデルのレンズを使うか
  • 単焦点を使うかズームを使うか

などのオプションもあります。特に2カメラを同時に回して会話シーンなどを撮影することが理想的な撮影では、同じブランドの同じレンズセットを2つ準備しなければカメラごとにルックが変わってしまうことが危険視されます。Toy Story 4ではシーンによって普通のレンズとアナモフィックのレンズを使い分けました。これもルックやシーンのフィーリングに大きく影響します。

またレンズを選ぶ際には、フォーカスリングがついているかも重要です。撮影の際にカメラアシスタントがフォーカスをワイヤレスまたは直接調整する為に取り付けるフォローフォーカスとレンズのリングのギアを上手く咬ます為です。また、フォーカスリングのセンサーからの距離が各々の単焦点で同じであれば、レンズを交換する際にマットボックスやフォローフォーカスの付ける位置をイチイチ調整しなくても良いというメリットなどもあり、撮影準備の時間をいかに短縮するかということも踏まえてレンズを選びます。

最後にフィルターは何を使うかも重要です。レンズに直接つける丸いタイプから、マットボックスに入れるタイプもあり、フィルターも種類は様々です。また全ての要素が結果的に影響しあって、完成した映画のルックに繋がります。

照明と色味

照明とルックの関係を考える上でも、複数の要素が考えられます。僕が全て列挙することは出来ないですが、例えば以下のような内容です。
ドラマチックな照明か、現実的な照明か

  • ライティング比(キーライトとフィルライトの比率)はどれくらいにしたいか?
  • ローキーか(適正露出よりも1,2ストップ暗く撮影する)?
  • ハイキーか(適正露出よりも1,2ストップ明るく撮影する)?
  • 照明のタイプ(Frenel、Florescent、HMI、Par Can、Light Panel、LEKOなど)は何を使えるか?
  • 照明に使うカラージェルは何が良いか(CTO, CTB, CTSなど)?
  • スモークマシンは使うのか?

カメラワーク

カメラワークは映画のルックに大きな影響力を持っています。例えば、

カメラの動き

  • ロングテイク
  • ブロッキング(カメラや役者の動きを事前に決めること)の有無
  • ドリー、ステディカム、ジンバル、手持ち
  • クレーン
  • パン・ティルト

構図

  • ロングショットからクロースアップ
  • 正面、斜め、真横(プロファイル)、真上などのアングル
  • ハイアングル、ローアングル、ダッチアングル(斜め)
  • 肩舐め、クリーン
  • シングル、ツーショット、それ以上
  • ネガティブスペース (余白スペース)
  • 前景、背景
  • 被写界深度浅い、深い

みたいなことを編集との繋がりを考えながら、各ショットのルックを構成します。

美術監督

ロケーション / セット

美術監督と撮影監督はお互いのコミュニケーションが重要です。監督とビジョンやルックを共有して(ここでもムードボードなどが役に立ちます。)、実際に撮影の準備に取り掛かります。

映画の撮影にはロケーションが必須です。そのために街中のありとあらゆる可能性を検討します。実際のロケーションを借りて撮影する場合は、壁紙や部屋の広さなどは変更が不可能な場合が多いで、出来るかぎりムードボードやイメージに近いロケーションを探します。Spike Lee監督は撮影する全てのロケーションにバックアップのロケーションを複数用意しておくようです。悪天候が理由だったり、ロケーションが何かの理由で使えなくなっても撮影を中断することなく、バックアップのロケーションで撮影出来るからです。ちなみに「ムーンライト」の監督の新作「ビール・ストリートの恋人たち」の撮影では、実際のロケーションを使いつつ壁紙などは張り替えて撮影したようですが、このように簡単に壁紙を張り替えさせてもらえることは少ないです。このロケーション選びは美術的な意味だけではなく、撮影監督やプロデューサーとも話をしないといけません。

撮影監督は

  • 作品に適したカメラワークが出来るか
  • 照明を室内外に置く場所はあるか
  • 室内の場合、光量は足りているか
  • 光のコントロールがある程度できるような環境か

などを考えます。またプロデューサーとも話して、

  • 車を止める場所はあるか
  • トイレはあるか
  • 何時間ほど借りられるか
  • 大道具などの運搬が可能か
  • 場所は1階か、フレートエレベーター(業務用のこと)はあるか

など予算やロジスティックな観点から、映画のルックのためにロケーションが最適か、もっと安い方法で出来ないかを探ります。

もしも適切なロケーションがない場合や、長時間の撮影の場合に照明をコントロール出来ない場合などは大型の撮影になりますが、セットを組みます。この場合は室内サウンドステージにセットを組むので、照明は完全にコントロールされ、部屋の作りから壁紙、家具に至るまで全て持ち込みです。つまり美術監督がそれぞれのアイデアの取捨選択をしていかないといけません。

  • 時代背景
  • キャラクター設定
  • 家族関係
  • ストーリー
  • ムードボード

などをベースに壁紙の色味、家具などの大道具、小物やその他の項目を決めていきます。またスタジオで部屋のセットを組む場合は、Plywood(合板)と呼ばれるベニヤ板を使って、部屋の壁を作ります。別名「フラット」と呼ばれます。これに直接壁紙を貼り付けたりペンキで色を塗ったりして部屋の壁にすることが出来ます。ケースバイケースですが、フロアリングやカーペットも入れることでよりリアルな部屋になります。また部屋以外にも飛行機や列車をセットで作ることもあります。


[写真引用:Wes Anderson監督のH&Mのコマーシャルに登場する列車のセット]


フラットをつなぎ合わせて作る部屋のセット一例

衣装監督

ファッションとしての衣装

最後に衣装についてです。衣装はルックにとって美術やカメラワークと同じくらい重要です。ファッションコミュニケーションやとファッションと心理学の研究がされているくらい、衣装が見た人に与える印象は大きいです。映画を見たときに、ほとんど無意識的に登場人物の着ている服で、キャラクターの様々な設定を汲み取ったり想像したりすることが出来ます。これがルックの印象に与える影響はとても大きいと思います。

[写真引用:「ソーシャル ネットワーク」の1シーンより抜粋]

衣装も美術と同様に、ムードボードを参考します。また美術監督や衣装監督がそれぞれ自分のムードボードを提案することも頻繁にあります。出来るだけ重労働をする前に、イメージの共有をすることが予算の面でも体力的な面でも非常に重要です。間違った認識で作業を続けてしまって、途中から方向転換出来ないところまで来てから、ビジョンにズレがあるとなるのが一番最悪です。結果的に映像のクオリティに出るからです。
衣装に関しては、僕はほとんど言えた口では無いのですが、少なくともプロダクションを考える上でにルックに影響することとしては、

  • ファッションと色が与える印象
  • 服の色と映画のトーンの関係
  • 服の色とロケーションの関係
  • 他キャストの服との関係

を確実に考えます。ツーショットやさらに多くの登場人物が1ショットに登場するときに、色のコントラストを使い分けることで映像言語化することが出来ます。例えば以下の「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」ようなショットは、衣装がルックに与える影響がよく分かると思います。どのキャラクターがメインキャラクターかが分かり、またキャラクターの設定がポップアイコン的なキャラクターであることも分かります。

[写真引用:Parade]

こちらは著者自身が監督したコマーシャルのキャスト陣ですが、衣装監督は予算的に参加してもらうことが出来なかったので、自分なりに衣装を検討して、出来るだけ画面に多様性を持たせるように考えました。またコマーシャルのシーンの設定は「友達とライブイベントに行く」です。

今回はカメラから衣装までがルックに与える影響をまとめて考察してみました。次回はポスプロでのルック作りについて考えてみようと思います!

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