# はじめに

「映画のルックを作るシリーズ」の最後はポスプロ編です。前回では映画のルックに影響する要素を撮影監督・美術監督・衣装監督に分けて説明しました。今回は撮影が終わったあとのルック作りについて考えてみます。
グレーディングにおけるルックの調整にもいくつか考える要素があります。例えば映画のグレーディングをする上で以下のような内容がルックに大きく影響すると思います。

  • 白の明るさ
  • 黒の暗さ
  • 作品の彩度
  • ティントの色

白の最大値を考える

例えばDavid Fincher監督の「ドラゴン・タトゥーの女」では完成した映画の白の明るさはIRE80-90ほどです。(IREは基本的には0 = 真っ黒、100 = 真っ白です。) 意図的に白の明るさを制限することが、直接映画のトーンに影響します。トーンが暗い映画は、IRE100まで輝度を使わず、あえて輝度の幅を狭くした作品作りをするものが多くあります。これもルックを作る上で検討するのに非常に重要な要素になります。撮影時にはカメラの持つダイナミックレンジにフレーム内の映像の露出が収まるように撮影するのが基本です。適切な露出で収録さえしておけば、グレーディングで白を制限してルックを整えることが出来ます。

[写真引用:VashiVisuals]

黒のバリューをどこまで暗くするか

同監督の「ゴーン ガール」は映画のダークなスタイルを感じられるように明るさは極端に制限されています。DolbyやSONYの最高級のモニターを使って、繊細な黒のニュアンスまで作りこむことが出来、ますますシャドウのニュアンスをストーリーテリングのツールとして探求した作品です。最近ではHBOなどのテレビドラマでも、かなりギリギリまで暗くした作品作りをしていることがあるようで、これはデジタルシネマの技術的な進歩も大きいと思います。
[写真引用:VashiVisual]

作品の彩度について考える

作品の彩度は映画のルックに大きな影響を与えます。彩度を使ったルック作りは、ティントと違って撮影の時点ですでに存在する色の強弱を調節することを意味します。プロダクションでカラフルな照明を使ったり色のある服を着たり、髪の毛の色を染めたりしておくと、DIの段階で彩度を上げることでカラフルなパレットのルックの映画に出来ます。「スター誕生」のような映画のルックは、彩りのあるアリーのスターとして生活と、それとは対照的に進む私生活が、シーンの色味だけで伝わってきます。

[写真引用:FILMGRAB]

逆に彩度があまり無い作品だと、色の無い暗くてモノトーンな印象の映像になります。彩度が0になるとモノクロの映画になります。戦争映画は彩度が低い作品ばかりですが、色が消え去った空虚な焼け野原の街や、色白く発色の無い人間の姿だったり、鮮やかさが無い空の色は、グレーディングでさらに強調され、映画の内容を観客に届ける手助けをしています。Spielberg監督の「ミュンヘン」などは、実際にあったテロ事件についての映画ですが、作品の彩度は「スター誕生」と比べても随分と低いのが分かると思います。登場人物のほとんどがスーツ姿の映画は自然と鮮やかさの無い世界観を構築していくことも分かりますね。何度も書いているかもしれませんが、撮影ロケーションや衣装は撮影の時点で決められた要素なので、グレーディングの段階以前に作品のルックが作り込まれていることが感じられるのでは無いでしょうか?

[写真引用:FILMGRAB]

ティントを使ってルックのスタイルを作る

例えば「アメリ」のような映画は彩度を強くしただけではなくティントでルックにフィルターをかけてグレーディングをしているのが目立つ映画です。ティントとは撮影時点で収録された色を、RGBカーブなどを使って自由にいじり黄色だったり緑だったりの色にシフトすることです。これは映画のルックにとても大きな影響を与えます。大抵の場合は映像の奥行き感を無くさないように、画面全体に同じようにかけるのでは無く、ハイライトやシャドウなど画面の違うパーツに適宜必要なティントをかけて良い塩梅を探します。例えば「アメリ」ではハイライトにオレンジを足して、ミッドトーンからシャドウにかけてグリーンのティントを入れています。でもよく見ると分かりますが、シャドウの本当に黒に近いエリアでは、またティントが無くなって黒色に戻ってきているのが分かります。こういう風にして違ったIRE値に対して色味を忍ばせることでティントが映像のルックをさらに強固なものにします。上記の「スター誕生」のような映画でも、ティントがハイライトなどに上手に仕込まれているのは、肌で感じることが出来るのでは無いでしょうか?
[写真引用:FILMGRAB]

まとめ

「アメリ」のような作品だけに止まらず、前回の記事でも書いたように、映画のルックを作るためには、単純に撮影した映像の彩度を上げたり、ティントをいじっただけではうまくいきません。事前に撮影監督や美術、衣装監督との綿密な打ち合わせの行い、正しいルックを現場で作って撮影された映像をグレーディングすることで、ここまで色に溢れた作品にすることが出来ます。

映画のルック作りは撮影よりもずっと前に始まり、最後のグレーディングで初めて完成することが出来るということが分かったかと思います。この記事だけで無くても他にも役に立つ文献や映画製作者のインタビューはたくさんあるかと思います。是非参考にして自分のイメージ通りの作品作りを頑張ってくださいね!長々と読んで頂きどうもありがとうございました!

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