2020.08.19 (最終更新日: 2020.08.19)

人を魅了するMV企画の作り方 【林響太朗×唐津宏治 VGT】

はじめに

「MTV VMAJ2019」のBest Rock Videoを受賞したBUMP OF CHICKEN「Aurora」や、Mr.ChildrenのMVなど数多くの作品を手がけるクリエイティブディレクターの林響太朗さんと脚本家・プランナーの唐津宏治さんにお話を伺いました。
元々は企画をメインとし、ここ何年かは映画の脚本や広告のコピーなど、文章を書く仕事をしているという唐津さん。
そして唐津さんの企画を監督として形にしていく林さん。お二人の企画の立案から制作に至るまでの現場の実際を語っていただきます。

登壇者

ゲスト:林響太朗
映像作家、撮影監督、写真家。
多摩美術大学 情報デザイン学科 情報デザインコース卒業後、DRAWING AND MANUAL.INCに参加。多摩美術大学 情報デザイン学科デザインコース 非常勤講師。

ゲスト:唐津宏治
脚本家 、プランナー。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒。DRAWING AND MANUAL.INC取締役社長。同社にてコミュニケーションデザイン、コピーライティング、企画、ブランディング、脚本執筆、作詞など、主に言葉に関する業務を担当。
映画「桜谷小学校、最後の174日」「ふたごとうだつ」「ハモニカ太陽」、Mr.Children「here comes my love」、横浜DeNAベイスターズ「FOR REAL -遠い、クライマックス-」の企画・脚本を担当。

ファシリテーター:曽根隼人
映像ディレクター。脚本企画、演出、撮影、編集、カラコレまで手がける。
大阪芸術大学映像学科卒業。4thFILM代表/Vook CCO。
無印良品のパリでのプロモーション映像”TOKYO PEN PIXEL"では世界三大広告祭の一つ「ONE SHOW」や、アジア最大の広告祭「ADFEST」、「SPIKES ASIA」をはじめ多くの賞を受賞。

MVは何のために作るか?


曽根:早速ですが、多くのMVが機材コンシャスになりがちというのはどういう事ですか?

唐津:僕らの世代からビデオグラファーが増えてきた気がします。5D Mark IIを使い始めてα7持ってFS7買って、というルートを歩んだり、スライダーやジンバルを使う事が多いと思いますが、割と機材ありきの映像が多い印象があります。
何のためにこのミュージックビデオを作ろうとしているのか、という点をもう一度考え直す事が重要だと思います。

:僕らみたいに機材が好きな人間からすると、活かせる部分もあるし、逆に機材の技に頼らずに出来るのは面白いと思います。

曽根:お二人が作られたMVは、ストーリーの深さを感じる事が多いなと思います。制作のテーマとかあるんですか?

唐津僕は、制作する上で『価値観の転換』をテーマにしています世の中に対して訴えかけるものがある方が、こういう仕事をしていて面白くなると思うんです。自分が何か企画したり表現したりする時に、当たり前と思われている価値観が少しでも変わるようなものを作りたいと思っています。例えば今、弱者と思われている人が実は強い存在だとか、ローカルの価値はグローバルにも通用するとか。

曽根:心に残る作品は、見て楽しいだけでなく+αで貰えるものがあるなと思っていて、価値観や見え方が変わるという事ですね。

CASE1:Mr.Children「here comes my love」

唐津:これは3年前に撮ったもので、ミュージックショートフィルムという約10分くらいの作品です。音楽は冒頭とエンディングだけに入っているコンテンツになっています。

:Mr.Childrenさんから僕に依頼があって、全尺の音楽を載せずに作りたい、でもショートバージョンという構成ではなく、ショートフィルム的に物語性のあるものを作りたいとお話いただきました。

1-①: キーワードとモチーフを繋ぐ


曽根:お二人で企画を組み立てられてから、どんな風に映像が出来てきましたか?

唐津:まずは僕と響太朗くんで色々話しながら企画を考えました。最初に曲を聞いたらシンプルに本当に良い曲で、どう表現しようかと考えました。僕は文字から考えるタイプで、歌詞の中に「灯台の灯り」というフレーズがあり、それがこの楽曲の象徴になっている気がしたので、灯台の物語が作りたいという事をキーワードに話しました

唐津:響太朗くんの方の曲の印象は「走っている」イメージを受けたようで、「灯台」と「走っている」という言葉を書いて眺めていたら、間に「馬」を入れると「走馬灯」になって良いなと思いました。青森の北の方に尻屋崎灯台という場所があって、寒立馬(かんだちめ)という雪の中でじっと立っている馬がいるんですが、こういうロケーションとビジュアルをモチーフに作っていくと強いものが出来るんじゃないか、という辺りまでを最初の15分くらいで話しました。

1-②:楽曲が響く瞬間をイメージする


唐津:もう一点、楽曲が人にとって最高に響く瞬間っていつだろうと考えました。走馬灯と合わせて考えて、例えば聴覚に障害があるような人が死ぬ間際に1曲だけ聞ける音楽がこの曲だったら本当に幸せな人生って思えるんじゃないかと。この曲がそういう曲として社会に位置付けられたらすごくいい事だなと思い、そういう設定で物語を構築していきました。

曽根:何日ぐらいでそこまで辿り着くんですか?

:1日くらいでした。「走馬灯」という言葉に辿り着いたのが大きかったですね。

唐津:初日に軽く打ち合わせして、次の日にプロットを20〜30枚書きました。自分の体験や好きなものの情報が、楽曲を聴いたりディレクターと話して繋がっていくと、結構違うところに到達します。その時に作られるものをコアにして企画を作っていく事が多いです。

1-③:見る人が深く楽しめるものを考える


曽根:MVを制作する上で心掛けている事はありますか?

唐津:当たり前の事ですが、僕たちが作りたいものではなく、アーティストやそのファン、レコード会社の人達に+αのメリットがあるものを作らないとダメだなと思っています。
この作品はMr.Childrenの久しぶりのリリースで、シングルカットの後アルバムが出る事が決まっていたので、ファンはすごくワクワクしているだろうし、シングルが出てからアルバムまでの間に反芻して楽しめるものがあった方がアルバムに対する期待も高まるだろうな、というようなことを考えました。

アーティストの立ち位置はすごく考えますよね。もちろん歌の中の伝えたい事を読み解くことも考えながら作ってますが、唐津さんはそこまで考えているのかって思う事もあります。

唐津:僕はこれまで行政や企業の仕事もしてきて、映像を作った時の商品の売上や再生回数、ターゲットの意識変容などを考えて企画を出すんですが、MVの場合その部分は僕らだけで共有すればいい事なので、何よりもファンが深く楽しんでくれる映像ということを軸に構築しています

曽根:企画が決まるまで、他の選択肢と迷ったりしますか?

伝えたい事は楽曲から聞こえてくるので、上手く捉えつつ、それさえあれば大丈夫だと思って案は色々出しますね。

唐津表現はいくつかあるけど、軸は一つです。

CASE2:Mr.Children「Your Song」

唐津:こちらもストーリー性のある作品で、林遣都さん演じるうだつの上がらないサラリーマンと、超能力を使う女の子が出会って恋に落ちるという話です。

:ラブストーリーとして描いているというよりも、ヒューマンドラマ的な感じですね。

2-①:曲名と歌詞からテーマを形成する


曽根:楽曲を聴いてどういう印象を持たれましたか?

唐津:この時もCASE1の制作プロセスに近くて、歌詞の中の「偶然」という言葉に引っ掛かって、「偶然」って何だろうと考えました。前に長崎の隠れキリシタンがいたという五島列島に行った時に、なんとなく日常に奇跡がある印象で、響太朗くんからも「日常」のイメージを言ってきたんです。宝くじが当たるような確率を僕らは「奇跡」って思いがちだけど、今ある日常こそが奇跡的に積み重ねられたものなんじゃないかと考えて、そういうイメージを伝えたいなと思いました。

唐津:曲のタイトルが「Your Song」なので、”あなた”にフィードバック出来る、聴いた人自身の体験に紐付けるようなコンテンツになるといいなと思い、「日常」というアプローチにしました

2-②:テーマをビジュアルに落とす


曽根:テーマから映像には、どう繋げていきましたか?

唐津逆説的に「奇跡が日常」の人ってどういう人かを考えて、自分で奇跡を起こせる人=超能力者という設定を思い付きました
日常で奇跡を起こせるから傷付く人と、奇跡なんて起きるわけないと諦めている人が出会うストーリーになるんです。奇跡をどうデザイン・設計するかは結構苦労しましたね。

:はじめに2人でディスカッションをしながら骨組みを作って、どういう色を塗っていくかは僕が考えますが、迷走した時には唐津さんが図を描いてくれて、それを共有しながら進めていく感じです。

唐津:2人でたくさん話をして、最終的に企画書は響太朗くんが作っています。僕が文章のコンセプトを作って、ビジュアルに落としたり映像的表現にするのは響太朗くんです。それが現場で照明やカメラマンの方へ指示する時の重要な資料になるので、最終形が頭に浮かんでる人が作らなきゃいけないので、そういう役割分担をしていますね。

CASE3:BUMP OF CHICKEN「Aurora」

曽根:このMVはすごく話題になりましたよね。スペシャでもベストミュージックビデオに選ばれてますし、林監督は年間のベストディレクターにも選ばれた作品ですよね。

唐津:僕はBUMP OF CHICKENのMVを作るのがこの時初めてで、最初はすごく難しいなと感じました。歌詞の抽象度が高くて、どこを引っ掛けて登ればいいのか分からないくらい楽曲として完成されている印象でしたね。

3-①:楽曲名・アーティスト名の意味を知る


唐津オーロラって綺麗なもののイメージがあるけれど、調べてみたら「凶兆」っていう意味があると知って結構ビックリしました。
神様が怒った時に現れるものとして扱われている地域があるということで、今まで聴いていた曲の見え方が全然違ったのを覚えています。歌詞からなかなか切り拓けなかったんですが、BUMP OF CHICKENというバンド名にも「臆病者の一撃」という意味があって、この2つを組み合わせて企画を作りました

3-②:扱いたいテーマと掛け合わせる


唐津:それと、響太朗くんといつかやってみたいと思っていた企画として「少数言語」と「少数民族」というのがあったんです。今グローバリズムで英語が公用語になろうとしている中で、少数言語を扱う少数民族が減っていくという話題を、響太朗くんにテーマとして提案しました。その後は響太朗くんがオーロラを怖いと思っている少数民族がいたら面白いよねと、どんどん進めてくれました。

BUMP OF CHICKENというバンド名とオーロラの意味、楽曲のテンションを僕は大切にしつつ、唐津さんが企画書に描いた映像の物語(プロット)をどう切り取ろうかと考えながら作りました。

唐津:映像では断片的でしかないんですが、何故この民族が死に絶えていて、何故この人が1人立っていて、何をしようとしているのかという物語や描写に近いものを作っています。それを響太朗くんが世界観作り・撮影・編集でさらに良くしていく作業ですね。

3-③:角度を変えて表現する


唐津:この作品ではCASE1・2と比べて、ストーリーよりは世界観やビジュアルをすごく尖らせて作ってくれた感じですね。前回のBUMP OF CHICKENのMVとは少し違う次元に持っていくという意図もありました。

:今まではインスタレーションのように映像空間の中で歌っているものが多かったんですが、唐津さんと一緒に作ることできっと”物語”が伝わる作品になるから、僕は世界観をファンタジーにしたいと考えました。
林響太朗の現場」というトークイベントで、美術・照明・カメラマン・衣装・メイク・助監督が一同に会し、「Aurora」の照明の組み方についても触れているので見てみてください。

<Q&A>

Q:アイデアはどのように作るか?

唐津アイデアの欠片は常にストックしていて、ネタ帳に今表現したら世の中にプラスになりそうとか、良いメッセージを伝えられそうというものを書いています。それらと楽曲を聴いた時のインスピレーションが繋がっていくイメージですね。
「here comes my love」であれば、寒立馬という存在をいつかモチーフとして使いたいというのがあったので、すぐに繋がりました。

Q:考えた内容を企画書へ落とす時に気を付けている事は?

出来る限り具体化した言葉・画にしたり、ムードが分かるようなものにすることです。僕だけでなく、スタイリストや照明やカメラマンみんなが一致団結出来るものにする資料だと思っているので、それを一生懸命考えながら作ってますね。
プロットが多い時は80ページくらいになる時もあります。唐津さんが40、僕が40とか。

Q:ディレクターとはどのタイミングでどう依頼する?

唐津:MVはディレクターに仕事が入る事が多いので、僕は逆に依頼される感じですが、依頼の話は最初からディレクターの響太朗くんと一緒に聞きます。

:最初のインプレッションの瞬間にプランナーとディレクターで会話した方が良い事が多いですね。

唐津:1時間ぐらい話して、後は響太朗くんは画的な表現を集めてきて、僕がテーマを考えて持ち寄り、またある程度準備が出来たら集まって進めるという流れです。

Q:失敗した企画はある?

唐津:これまでアーティストと伝えたい事が合わない時はありましたね。この楽曲はこういう事を伝えたらいいんじゃないかと考えて作ったけど、こんな事を言いたいわけじゃないと。

:それを踏まえた上で僕らがどう編集していくか、一度作ったものに対してどんな風に直せば彼らの考えに近くなるかというのは唐津さんと一生懸命考えます。

Q:企画と予算、どう折り合いをつける?

唐津:僕は元々プロデューサーだったので制作費のことも考えますが、後からですね。まずは企画を考えてから、なんとなく予算を把握して、それなら出来るだろうという風に進めています。

Q:MV制作は時代に応じて変化するか?

唐津:メッセージはもちろん時代に合わせて作っていますが、表現の仕方はずっと変化し続けていくと思います。

:一眼で映像が撮れるようになってから作り方も変わったし、ビデオグラファーと呼ばれる人達もたくさん増えてきたのは一つの変化だと思いますね。

Q:歌モノじゃない場合のMV制作は歌モノとは異なるか?

:その楽曲を聴いた時に何を感じたかを2人で考えて、そのテーマに沿って映像を作るのは変わらないですが、最初の言語化が少し違うイメージですね。

Q:MV主体で作られる楽曲もある?

:基本は楽曲ありきで発注されますが、アーティストがこういうMVを作りたいって時はあるかもしれないですよね。

まとめ

3つの作品の実例を参考に、お二人のMV企画の作り方を詳しくご紹介しました。
アプローチの仕方はいくつかあるものの、楽曲・アーティストを深く理解し、その上に自分が扱いたいテーマや社会へのメッセージを重ねる、という点が共通していると言えます。
そして制作においては、イメージを共有する手間を惜しまず、チームが一丸となれるよう進めていく様子が伺えました。
機材コンシャスになりすぎず、人を魅了する作品作りのヒントにしてみてください。

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