【映像制作者が色彩学を学ぶ】[1]物体が見える、カメラに映る、ということ

2020.10.25 (最終更新日: 2021.07.29)

【シリーズ】色彩学的に考える、映像のルック作り

 僕はふだん、撮影、照明、カラーグレーディングから、Webなどのデザインを考えることまで、映像を軸に幅広く仕事をしています。
 制作の中で、特にカラーグレーディングやデザインの配色などは、これまで、他の人の綺麗なルックを参考にしてみたり、自分の”感覚”で綺麗と思う色味や配色を頼りに制作をしてみたりしていました。
 編集の最後の仕上げとして、いつも締め切りに追われつつ、なんとなく行ってしまう色の調整。毎回、自分の中での基準がぶれてしまい、自分のルックというものが手に入れられず、どうにか打破したい、、。『美しい』ルックとは何なのか、、。 ずっと、悩み続けてきました。

 そこで、色彩検定のテキストや、色彩学の本などをもとにして、「色や光とは何なのか」 を分解して捉えていきたいと思います。全8回にわたり、色や光の基礎や、配色研究、色彩心理など、参考になりそうなところを体系化していく記事になります。
 ソフトや機材の使い方を知る、というよりは、より美しいルックを作るために、光や色とは何なのかを掴み、理解することが目的です。 色彩学的・心理学的アプローチから、映像表現に活かせそうなポイントを僕が学びながら、こちらにどんどんまとめていきたいと思っているので、色彩検定とはなんぞやって方も、色や光の基礎を知りたいぞって方も、お付き合いいただけると嬉しいです〜
※かなり噛み砕いて書いていますので、細かな用語などは省かせていただいています!

今回主に参考にしたのは


1回で合格!色彩検定2級テキスト&問題集


色のしくみ―初期の光学理論から色彩心理学・民族の色彩まで
です!

第一弾となるこちらの記事では、光や色が存在し、カメラに写る、とはどういう現象なのか、そんなところから考えていきたいと思います!

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物体が見える、ということ①

(そもそものそもですね、)

 RAWで撮るだとか、bit数がどうとか、カラーグレーディングの方法とか、映像制作の上で知っておかなければならない知識はたくさんありますが、これら機材を使いこなすための技術の話はいったんおいておきます。
 カメラのモニターに映り、記録されている『映像』と呼ばれているものは、一体なんなのかを、中学の理科を思い出しながら考えていきたいと思います。

 僕らの眼に見えているこの世界、地球は、一体どのように存在していて、僕らは何を見ているのでしょうか。

 めちゃめちゃ大前提として当たり前のことを言うと、「光」が無いと、僕らは何も見えません。カメラにも何も映りません。 実はこれは当たり前だけど、忘れがちな感覚なんじゃ無いかなと思います。

最近のカメラは、センサーやレンズの技術の進化によって、夜でも割と簡単に綺麗に撮れてしまいます。SONYのa7Sシリーズは、月明かりでも綺麗に撮影ができるほどの超高感度センサーを搭載していたり、最近のiPhoneも驚くほどの高感度耐性があったりと、光を意識せずとも綺麗に撮影できてしまいます。


Edward KhomaさんのMoonlightという作品。SONY a7sを使用し、満月の月明かりだけで撮影したという物凄い映像。

 一方、さいきん僕がハマっているこのフィルムカメラは、露出が暗すぎるとファインダーに赤マークが出て、シャッターが切れない仕組みになっています。撮っても何も写らないので、それを防ぐためですね。F値は3.5固定・シャッタースピードは1/30か1/250で、ここにISO100のフィルムを入れたとすると、夜にはもう全くシャッターが切れなくなってしまうわけです。


ハーフフィルムカメラ OLYMPUS-PEN EE-2

だから、その場がどれくらい明るくて、どんな光があるのかを意識して撮るようになります。
空の青、桜のピンク、夕焼けのオレンジ、自然が太陽に照らされて出る色は美しいんだなあ、とか、夏より冬の光のほうが、コントラストが強いなあ、とか、蛍光灯の下で撮ったのは綺麗な色じゃないなあ、とか。


EE-2で撮った写真①

昼間の室内でも、外光が入るような場所でないとシャッターが切れません。何しろすぐに赤マークが出るので、どうしたらこのカメラで綺麗な写真が撮れるんだろう、と考えさせられることがすごく多いです。


EE-2で撮った写真②

かといって、眼で見た夜景が綺麗だなーと思っても、それってなかなか写真にするのは難しい。

EE-2で撮った写真③

 眼で見ている時の感じ方と、カメラで撮られた感じ方も違う。部屋の蛍光灯と、外の光と、撮影用のLED照明と、なにがどう違うんだろう、ここを分解して考えたいと思います。

なぜ納豆巻きの写真が眼に見えているのか

こちらの写真をご覧ください。美しい納豆巻きです。

 例えば、晴天の日に、部屋の窓脇で納豆巻きの写真を撮ったとします。これは、言い換えると、太陽光が納豆巻きに反射して僕らの目に映って写っている、ということです。納豆巻きの海苔の部分は黒くてよく見えません。これは、海苔が太陽光を吸収しています。テカリのある納豆や透き通ったご飯、ざらざらとした海苔といった材質感によって、納豆巻きが納豆巻きとして見えているということです。
 

 図にするとこういうことです。この写真は納豆巻きが写っているのではなく、太陽光が納豆巻きの表面で反射し、レンズを通してカメラのセンサーに届き、写真となっている、ということです。

物体の材質によって、太陽光を当てた時に跳ね返す色が違うから、世の中に色というものが存在しているということです。

つまり、どういう原則かというと、、

光とは、電磁波のうち、波長が380 - 760 nmのもの(可視光・人間の目に見える範囲の電磁波)のことをいいます。

地球上で直進する光は、物体に当たったとき、物体の表面で反射するか、吸収されるか、あるいは透過するか、3つのいずれかの形をとります。

光は真空で直進する、光の直進性という性質があります。また、ある物体にぶつかったとき、異なる物質と物質の境界面で屈折し、その一部を反射したり、吸収したり、透過したりします。これを光の屈折性といいます。

物体に光が当たると、波長の一部は吸収され、残りの波長は反射されます。 この反射された波長が私たちの目に届き、色として認識されます。

物体によって、波長ごとに入射した光が、どのような比率で反射するのかを表したものを分光反射率曲線といいます。(第3回で解説予定です。)

それでは、このスタバの写真の光がどうなっているのかを分解して、考えてみてください。





こんな感じでしょうか!

光源(太陽光)は、雲やガラスなど、さまざまな関門を抜けて弱まりながら被写体に届きます。太陽光に色はついていないですが、太陽光の中には全ての色の成分が含まれています。 被写体が、特定の波長の電磁波だけを反射することで、「色」というものが出てきます。

色が存在する仕組みって、こういうことだったのです。
次回は、今回の内容をより深掘りして考えていきたいと思います!

【映像制作者が色彩学を学ぶ】シリーズ記事一覧

【映像制作者が色彩学を学ぶ】[2]物体が見える、カメラに映る、ということ(Part2)

前回の記事に引き続き、「色や光とは何なのか」 を分解して考えていきます! 第一回 [①物体が見える、カメラに映る、ということ](https://vook.vc/n/2423 前回のおさらい 色が...


【映像制作者が色彩学を学ぶ】[3]きれいな光とは。演色性・分光反射率・分光分布

第2回記事はこちら 第2回記事はこちら 引き続き、色や光を色彩学的視点から解説していきます。 今回は、演色性の話から。 カメラの設定やレンズ選びの前に「光の演色性」を考えろ! 前回、トンネルのオ...


【映像制作者が色彩学を学ぶ】[4]色を正確に伝えるために知っておきたい「色相・輝度・彩度」とは

第3回記事はこちら https://vook.vc/n/2483 ここまで、光や色とはいったい何なのかを話してきましたが ここからは、光や色を表記し伝えることを考えていきます。 「青春っぽい夕焼...


【映像制作者が色彩学を学ぶ】[5]映像の色を言語化、数値化して伝える。「RGB、JIS系統色名、慣用色名、PANTONE」

第4回の記事はこちらです。 https://vook.vc/n/2556 このノートでは、第4回に引き続き、光や色を表記し伝えることを考えていきます。 映像上では色をどう伝達・表現するのか 20...


【映像制作者が色彩学を学ぶ】[6]配色

第5回記事はこちら https://vook.vc/n/2557 第1回~第5回までついてきていただけた方、色や光のイメージを掴んでいただけたでしょうか!?第6回以降は、映像表現に応用できる話を...


【映像制作者が色彩学を学ぶ】[7]色と感情/色彩心理

前回・配色についての話はこちらです! https://vook.vc/n/3042 このノートは、第6回までに出てきた ”色” や ”配色” が 人間の心理や感情にもたらす影響 についてです。...


【映像制作者が色彩学を学ぶ】完結編![8]映画やCMの事例から、色作りを考える。〜前編〜

前回の記事 https://vook.vc/n/3050 第7回までの記事はこちらからどうぞ! 色彩学の視点から映像表現を考える、この 【映像制作者が色彩学を学ぶ】 シリーズ。 最終回は、第1回...


【映像制作者が色彩学を学ぶ】完結編![9]映画やCMの事例から、色作りを考える。〜後編〜

この記事は、前回の記事 https://vook.vc/n/2560 の後編です。 第8回までの記事はこちらからどうぞ! 色彩学の視点から映像表現を考える、 【映像制作者が色彩学を学ぶ】 シリー...

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yuhei

Yuhei Iida@yuhei

映像ディレクター/プランナー 長野県小布施町出身・立命館大学映像学部卒 博報堂グループのデジタルコミュニケーションカンパニー・株式会社スパイスボックス所属 主にノンフィクションベースの映像制作や、デジタルコミュニケーションプランニングをしています。 V...

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