何でも屋になるな!ビデオグラファーが語るこれからの映像制作者が意識したいこと|VGT2020

2020.09.15 (最終更新日: 2022.07.04)

この記事は、2020年5月25日に開催された「VIDEOGRAPHERS TOKYO@ONLINE」にて、ライブ配信を行ったセッションのアーカイブです。

本質的価値が危機を越えていく

2020年の新型コロナウイルス拡大は、全世界のあらゆる産業に大きな影響をもたらしました。
映像業界にいる読者の方の中にも、撮影の無期延期やプロジェクトの白紙化を実際に経験された方や、身近なところで耳にしたという方が少なくないかもしれません。

一方、こうした危機に直面しても、仕事の量は変わらなかったり、寧ろ増えたりしているビデオグラファーがいるのも事実です。
彼らは、世の中の変化に対応しながら、平時と変わらずクライアントから信頼される本質的な価値を持ち合わせていると言えるでしょう。

では、ビデオグラファーの本質的な価値とは何なのか?

本セッションでは、コロナ禍においてもパワフルに活躍しているビデオグラファーの岸田氏と大石氏に、直近のプロジェクトや今後求められるビデオグラファー像について、お話を伺いました。

アーカイブ映像

こちらより、セッションのアーカイブ映像をご覧いただけます。

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登壇者

ゲスト:岸田浩和
ドキュメンタリー監督/映像記者
ミャンマー留学を経て、2015年に株式会社ドキュメンタリー4を設立。VICE Japan「ミャンマーを癒やすクレイジードクター・シリーズ」、Yahoo!ニュース特集「香港デモ密着ルポ」「急増するブータン人留学生」の取材と制作を行う。2016年発表の短編映画「Sakurada Zen chef」は、NYCフード映画祭・最終週短編賞受賞。ジャーナリズムから広告領域にまたがる、ドキュメンタリー制作に取り組んでいる。
調査報道グループ「Frontline Press」所属。関西学院大学総合政策学部、東京都市大学メディア情報学部、大阪国際メディア図書館にて非常勤講師。

ゲスト:大石健弘
映像ディレクター/株式会社Happilm 代表
1983年 静岡県浜松市生まれ。株式会社葵プロモーション(現 AOI Pro.)制作部を経てフリーのエディターに。2013年、友人向けに制作したウェディング映像「麻里子の教室」が寿ビデオ大賞を受賞、多数のメディアで話題になったことをきっかけに、以後、ディレクターとして数多くのプロジェクトに参加。現在では、ビデオグラファーと映像ディレクターのスタイルを使い分けながら、ドキュメンタリーを中心としたTVCMやWEBCMを手がけている。主な作品にPanasonic、Google、マクドナルド、不二家ミルキー、Jリーグなど。2018年よりAOI Pro. ビデオグラファーチーム アドバイザーも務めている。

進行:岡本俊太郎
Vook 代表
上智大学卒業。株式会社アドワール 代表取締役。大学在学中に、映像制作会社を起業。2016年より、映像クリエイターのためのプラットフォーム『Vook』を立ち上げる。2019年より、VIDEOGRAPHERS TOKYOを主催。
▼Twitter
https://twitter.com/shuntaro

「面白そう」から始まる企画

岡本:早速、岸田さんからお話を聞いていきます。
今は、どんな映像を作っているのですか?

岸田:主にドキュメンタリーを作っているんですけど、今は2つ進行中の企画があります。
1つは、ナイジェリアのサッカーチームの企画です。

岡本:3年前ぐらいから作られていますね。
最初にナイジェリアに行くと聞いたとき、この人は何を撮るのかなと思いました(笑)

岸田:世界ナンバーワン選手の輩出を目指すサッカーのクラブチームが、ナイジェリアのスラムに誕生して、そこに日本人が1人関わっているんです。

追いかけたら面白いんじゃないかと思って取材を始めました。

もう取材4年目なのですが、いまだにチームが練習するためのグラウンドの土地の購入で大もめしているんです。

去年の夏に、U12の世界大会に出場できることになりました。

急遽、近所の小学生をかき集めて出場したんですけど、なぜかバイエルン・ミュンヘンやアジアの強豪チームを全部なぎ倒して、優勝してしまったんですね。
そういう作品を、今は撮っています。


『イガンムFC 奮闘記』
作家の作品作りを応援するYahoo!ニュース個人の支援制度を知り、その枠で短編と記事を発表。
長編映画制作に向けて、撮影、編集を継続している。

岡本:もう1つは、『Re Start-up』ですね。

岸田:これも2017年秋に、あるゲーム会社に出会ったのがきっかけです。社長が「自分たちの作りたいゲームを作って、駄目だったら会社を畳むんだ」と言うので、これは面白いと思い、その覚悟や会社が潰れる課程を追いかけようと思ったんです。

撮影を始めて1カ月ぐらいで、意気揚々と始めたプロジェクトが頓挫してしまって。急遽、無料のスマホ用のゲームを作りはじめたら、1年後に世界ナンバーワンダウンロード数をたたき出して、世界一のゲーム会社になってしまった・・・という作品を撮っています。


岸田氏の進行中のドキュメンタリー取材より(2020年5月現在)
上段:ナイジェリアのサッカーチーム
下段:ゲーム会社のプロジェクト

取材の基準とスタンス

岡本:岸田さんは、どういう基準でドキュメンタリーを撮られているんですか?

岸田:この人を追い掛けたいな、長い時間一緒にいても嫌じゃないなという、個人的に面白い人かどうかを、まずは取材基準にしています。

あと、やっぱりストーリーがないと物語が組み立てづらいので、取材対象は小さいテーマでも何かに挑戦している人にしています。

人が知らない何かヘンテコなことをしている人や、小さくてもまだ世の中にない物語を見つけることを重要視しています。

スタンスなんですけれど、成功の確率は気にしない。
むしろ失敗しても、その失敗の中からストーリーができると思うので、そこは気にしないで撮っています。

旧世代のテレビドキュメンタリーに対して、グローバル展開しやすいノーナレーション方式や画の美しさにこだわりたいので、自分で撮影して編集するスタイルで制作しています。

そして、中長期の取材をするということですね。
長い取材をすると競合が減っていく、あるいは無くなって、どんどん優位性が出てきます。

岡本:ビデオグラファーだからこそできることかなと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

岸田:大きい制作会社でやろうとすると、オチの取り方を聞かれたり、制作期間が限られたりするので、逆に自分のペースで撮って、ごく少人数でやるというのは、ビデオグラファーならではのアプローチになるかなと思います。

大石:岸田さんは、嗅覚がすごいですよね。
面白くなり得るところに行ける、見つけられる、発見できるというか。

岡本:そんなに面白い話が来るのは、どうしてだと思いますか?

岸田:ドキュメンタリーを撮るとなると、皆さん構えちゃって、いきなり有名人や大きなストーリーを撮ろうとして、アプローチ自体ができなくなることが多いと思うんです。

実は身近にたくさんのストーリーがあるんじゃないかな、と僕は思っています。
身近にある、自分しか知らない、物語を見つけるのが最初の一歩になると考えています。

作品作りと広告仕事の相互作用

岡本:お金の話も、ぜひ聞きたいです。
3年間も撮ってどうなっているのか、その辺も聞かせてください。

岸田:岸田は金をどこで得ているんだ問題というのがあるので、ちゃんとお話しします(笑)

僕は広告の映像も撮っていまして、作品と広告映像を作るという、二足のわらじでやっています。
とはいえ、両方ともドキュメンタリーで取材方法も共通ですし、作風や引き出すメッセージも同じものを撮っています。

費やす時間は、作品に70%のウェイトを置いています。
一方、売り上げに関しては現状、広告案件で7割の収入を得て、残りの3割はニュースメディアやドキュメンタリーで稼いでいます。

作品が当たればドキュメンタリー監督として地位も上がって、指名の広告仕事が来る、という形になっていくのが理想的かなと思っています。

なので、今日のタイトルにもある「ビデオグラファーの価値」というところなんですけど、広告もニュースも何でもやりますという、激安何でも要員にならないことですかね。
ドキュメンタリーを追究していますという中で、専門性や作家性を出していくというところに、すごく注力しています。

温もりを映すドキュメンタリーCM

岡本:続いて、大石さんにお聞きしていきたいと思います。

大石:基本的には、僕もドキュメンタリー系のテレビCMやWebムービーを制作しています。
ウェディング映像がすごく好きで作り続けた結果、人が持つ温もりや温度感みたいなものを映し出す映像を作りたいという思いに至り、今では、サプライズ映像やエモーショナルなドキュメンタリー映像を作ることが多いです。

岡本:本当に大石さんの映像は、見ていてストレートというか、すごく信頼できる感じがします。
車いすのWHILLの映像を流しながら、その辺をお聞きしていきたいと思います。

大石:新しい電動車いすのWHILLというスタートアップがあるんですけれども、発売するちょっと前からもう5年以上、たくさんの映像を作らせてもらっています。

自然なインタビューの極意

岡本:被写体のインタビューが、なぜこんなにも自然に撮れているのかが気になります。
どういう風に意識されていますか。

大石:映像を見ている人に、演技だと思わせたら本当に冷めちゃうので、どうしたら自然に撮れるのか、ずっと試行錯誤していました。
結果として僕は3つのキーワードを掲げてみたんですよ。
それは、主体性誰かを幸せにしているか、そして

岡本:すごくシンプルですね。

大石:まず主体性は、僕がいちばん大事にしていることです。
ドキュメンタリーである以上、被写体が自らその場にいて行動をしているのを、いかに自然に引き出せるかは大事だと思っています。

広告映像で被写体が「私は利用されているんだ」「広告のために出るんだ」といった感覚でいると、動きがや言葉がぎこちなくなったりするのかなと思うんです。
広告であっても、「私はこの映像に協力したいんだ」というような、その場の姿勢が映像に表れるので、そこはすごくケアしています。

岡本:主体性を出すって難しいですよね。
WHILLの映像の場合は、どうされていたんですか?

大石:インタビューの撮影前に、「絶対にあなたの人生において記念となる映像を作ります」といった風に、自分の思いを最初にダイレクトに伝えました。
それを経て、「それなら良かったです」と良い反応をもらえて初めて、撮影スタートです。

岡本:シンプルなギブ・アンド・テイクであり、人と人との信頼ですね。

大石:撮影するときにコミュニケーション、信頼、Win-Winみたいなものが成立しているかしていないかで、本当にささいなしぐさや動きや表情が変わってくると思っているんですよね。

岡本:2つ目も、それにつながるものですかね。

大石誰かを幸せにしているかというのは、この映像は誰を幸せにするんだろうとか、この映像を見た人はどう思うかな、といったことを、すごく僕は意識するんですよね。

WHILLでいうと、出てくれた人が映像を見て、「本当にこの作品に参加して良かった」と思ってほしいと、本気で本心で思っています。
そういう中で、日々の撮影も編集もやっていますね。

岡本:誰かであったり、被写体の方の幸せを真剣に考えているということですよね。

大石:ドキュメンタリーだからこそ、いちばんに被写体が出てくるかもしれませんが、クライアントさんでもいいです。
クライアントさんと一対一で向き合って映像を作っていたら、この人を喜ばせたいなって思うじゃないですか。
これは映像に限らず、仕事ってそういうものなんじゃないかなと、ようやく最近思えてきた気がしています。

岡本:WHILLの案件もそうですが、大石さんはクライアントからすごく信頼されているなと感じます。
信頼というのは、今お話しされていたような姿勢から、ちゃんと出てくるということですよね。

大石:それは、結果論かもしれません。
ただ、スライドの3つ目にを挙げたように、1つ1つの作品に愛を持って作り続けた結果、継続的に作らせてもらっているのかなというのはありますね。

映像に反映される主観

岡本:実際に仕事をもらうためには、何がいちばん必要だと思いますか?

大石:やっぱり、愛ですかね。
WHILLの場合も、プロダクトのファンだからこそ、最初は僕からアプローチしたんですよね。
あとは例えば、BEAMSさんだと、編集中にBEAMSのことが大好きになって服を買っちゃったりしました。


大石氏が制作した、コロナ禍での外出自粛期間にBEAMSスタッフ一人ひとりが感じた”ファッションのチカラ”を発信する「#KeepFashionAlive」プロジェクトの映像。

僕は、クライアントさんのことをすごく好きになって、全力コミットしながら映像づくりをしちゃいます。

単純かもしれませんが、映像って割とそういうのが無意識に出るんじゃないかなと思うんですよね。
映像に主観が反映されるからこそ、ありきたりなものではなく、ちょっと強い映像になるのだと思います。

貫く勇気と横とのつながり

岡本:それでは改めて、ビデオグラファーの価値というところを議論していきたいと思います。
岸田さんは、いかがでしょうか?

岸田:コロナの状況になって広告案件がだいぶ飛んでしまい、気持ちとして焦ることはありました。
そういうタイミングで、配信の仕事とか全然やったことがない仕事の話も来たんですけど、「別のプロの人がいますので、ご紹介します」という形でパスを出しました。

怖いから手を出したくなりますが、結局ちょっと質の低いものができたりしてしまうんですよね。
1回クライアントさんから「この人はこの程度なんだ」と見えてしまうと、明日空いていますか要員みたいな、そういう仕事しか来なくなってしまうと思ったので、そこはぐっと堪えて断ることを意識しました。

岡本:なるほど、ありがとうございます。大石さんは?

大石自分の強みを理解して、それを貫けるかは大事だと思っています。
ビデオグラファーって、ちょっと前までは何でもできる便利屋さんみたいなイメージがあったと思うんですけど、そのままだとジェネラリストになりますよね。
そういう需要を満たす場合も一時期まではありましたが、それだけでは自分らしい映像や、自分を選んでもらえる方向へは、なかなか行かないんじゃないかなと思います。

岡本:大石さんは、どういう軸で?

大石自分が面白いかどうかは、評価判断基準の1つじゃないですかね。
その面白いというのは、単に1つの側面だけではなくて、「この映像は誰かをすごく幸せにする」とか、「この映像をやったら自分のキャリアのステップになる」とか、何か自分の価値観に合うものが見つかれば、受けていいと思います。

専門家としての価値を高める

岡本:自分の価値観やテーマを見つけるためには、どういうことをすべきだと思いますか?

岸田:自分がいちばん得意だというジャンルは、ある程度絞るほうがいいと思います。
ビデオグラファーは何でもできますというのは、撮影も編集もできるという意味では正解ですが、いろんなジャンルをあれもこれも70点でできますという意味ではないですよね。
これからは個々のビデオグラファーに得意な分野があるというのを、ちゃんと打ち出していくほうがいいなと思います。

仕事が来たときに、自分に向いていないとか、できないと思ったら、仲間のビデオグラファーで得意な人を見つけて、すぐにパスを出す連携をしていけばいいかなというのもあります。
いろんなことが1人でできるんじゃなくて、専門家として認識してもらって、価値を高めていけるようになればいいですよね。

岡本:そういった意味でも、横のつながりはすごく大切なのかなと思います。

岸田:そこは僕たちフリーランスみたいなものですから、むしろ連携しやすいですよね。

大石:今の話を聞いて僕が最近思うのは、ビデオグラファーでドキュメンタリーが得意って言っている人が多い問題です(笑)
いちばん適しているというか、やりやすいのがドキュメンタリーですからね。

岸田:インタビューを撮れば、もうドキュメンタリーをやっています、といった感じですよね。


大石:だから、ドキュメンタリーだけじゃなくて、そのさらに一歩先に行かないと、今後は良くないというか、周りと同じになるんじゃないかと思いますけどね。

岸田:そこは受け身のクライアントワークだけじゃなく、映画祭やコンテスト、あとYouTubeでもいいので、何か自分の作品をちゃんと打ち出していくのはすごく大事ですね。
それができる人とできない人で明確に分かれていくと、話していて思いました。

今後のチャレンジ

岡本:最後はお2人に、今後はどういうチャレンジをしていきたいか、お伺いしたいと思います。

岸田:とにかく僕は、コンスタントに身近な唯一のストーリーを見つけることですね。
まだ映画として大きい作品を出せていないので、それをしっかり出していくというのを、ここ1年、2年やりたいです。

岡本:今、取り組んでいらっしゃる映像は、どういう形で出されようとしているんですか?

岸田:今までは自分で映画祭にエントリーしていたのですが、大きい映画祭はそれだと進めないと分かりました。
なので、今はプロデューサーにお願いして、打ち出し方の作戦を立てている状況ですね。

岡本:映画祭への出品が、1つステップとしてあるということですね。

岸田:そこから配信に行くのか、映画になるのか、いろんな派生形が考えられます。
お金の回収、マネタイズというところを、見つけていきたいと思っています。

岡本:ありがとうございます。
大石さんは、いかがですか。

大石:僕も岸田さんのように、ちゃんとしたドキュメンタリーで長尺のものを作ってみたいという思いはあります。
また、わくわくドキドキするサプライズ映像を、もっと定期的に続けていきたいとも思いますね。
ただ、身内はみんな結婚しちゃって、ネタが尽きちゃいました(笑)

岡本:大石さんは、本当に楽しそうに映像制作をされていますね。

大石:映像作りは、すごく楽しいですよね。
岸田さん、どうですか?

岸田:楽しいですよ。

岡本:自分が楽しいことや、わくわくすることを見つけるのが、本質的なことなのかなとは思っております。
お2人とも、ありがとうございました。

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