今話題のBlenderって何?ビデオグラファーが1年間使ってみた感想

2020.09.19 (最終更新日: 2022.06.06)

Vook 百名選 選出記事

百名選

Blenderとはオープンソースの総合3DCGソフト。誰でも完全無料で使えるにも関わらず、その機能は本格的。Mayaなどの商用ハイエンドクラスと肩を並べるほどの実力を備えていて、今や大注目のソフトである。

今回はそんなBlenderを1年前から使い始めた僕が、Blenderってどんなソフトなのか、そして「ビデオグラファーにとってメリットはあるのか?」を解説してみる。

Blenderで制作できる映像

まずは、Blenderで制作された作品を見てみよう。

3Dモデリングから実写合成だけでなく、2Dアニメーションまで様々な映像表現が可能だ。巷では「Blenderの全てを使いこなすことは無理」と言われるほど、膨大な機能が搭載されいる。

Blender内の機能をざっと挙げてみても...

モデリング
3D空間内で、オブジェクトを形成していく作業。

スカルプト
彫刻するような感覚で、直感的にオブジェクトの形状を作成。

グリースペンシル
ペイントソフト感覚で、3D空間内に線を描ける。2Dアニメーション制作なども可。

リギング・アニメーション
3Dモデルに対して、骨格を入れてアニメーションさせる。

テクスチャマッピング・シェーディング
3Dモデルの質感、模様などを表現。

シミュレーション
物理演算を用いて、流体や煙、重力、髪の毛、衣服、パーティクルなどの表現もできる。

VFX
実写映像をトラッキングし、特殊効果を加え合成する。

動画編集
まさかの動画編集まで!

と、こんなにも。

各機能それぞれに特化したソフトがあるにも関わらず、Blenderは3DCG全般の機能を網羅していると言っても過言ではない。そしてなんと動画編集までもできてしまう神ソフトなのだ。

【6月末まで】資料請求すると抽選で3名に10,000円分のAmazonギフトカードをプレゼント! さらにオンライン相談会では、参加者全員にAmazonギフトカード2,000円分をプレゼント! この機会をお見逃しなく!

PR:Vook school

Blenderの特徴と現状

Blenderを知るきっかけ

2019年の夏、CG制作にチャレンジしようと思っていた僕は、After Effectsに搭載されているCinema4D Liteをやってみたが、機能制限が多く、その楽しさを知らないままに諦めかけていた。

そんなとき、Blenderを知るきっかけとなったのがこの記事だ。

その内容は、エヴァンゲリオンを手掛けるアニメ制作会社が、Blender開発への賛同(つまりは寄付をして開発をサポート)。そして『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の一部にも、Blenderが使われる予定というものだった。

それから調べていくとわかってきたのは、オランダ生まれのBlenderはオープンソースのソフトウェア。オープンソースというのは、世界中のボランティアのプログラマ達で作られていて、誰でも完全無料で利用できる。WikipediaやWordPressをイメージしてもらうとわかりやすい。

最初は無料という響きにあまり期待はなかったのだが、実は商用ソフトと肩を並べるほど高機能・多機能である。Blenderは様々な機能を搭載する統合型と呼ばれるカテゴリの3DCGソフトであり、Blenderだけで最初から最後まで完結させることも可能。Maya、3ds Max、Cinema4Dなどのよく耳にするソフトも、この統合型だ。

時代の追い風

現在のBlenderの最新バージョンは2.9xシリーズ(2020年9月現在)。Blenderは日本語対応はもちろん、マルチプラットフォームにも対応している(Windows/Mac/Linux)

バージョン2.7xまでは、UIや操作性が独特だったBlender。だが、2019年7月末の超大型アップデートで2.8xになってからは、一般的なソフトウェアの操作感に近づき、一気に裾野が広がった。

そして2.8xからは、Eeveeというリアルタイムレンダラーが使えるようになった。これはレンダリングしなくても、プレビューで完成後のルックを確認・再生できる画期的なものだ。

実際に使ってみても、従来のものに比べて軽快さが桁違いに違う。そしてレンダリングも高速。業界も大注目の機能だ。

こういった情勢や超大型アップデートとのタイミングも重なり、一気にBlenderに吹く時代の追い風を感じた。そして僕も実際にBlenderを使い始め、今ではその世界の魅力の虜になっている。

ビデオグラファーにとっては、CG専門ではないのに高額なソフトを購入する価値があるのかどうか、その判断に従来なら迷ってしまっていただろう。CG制作会社でもBlender利用の理由の一つにコスト削減が挙げられる中、ビデオグラファーとしても無料で気軽にCGに挑戦できるのはかなり嬉しいポイントだ。

実際にMayaと3dsMaxは、Blender対抗してきたのか、インディーユーザー向けに大きな値下げプランの実施が始まった。その真意は定かではないが、間違いなくCG制作というものがどんどん身近になって来ている。

一眼ムービーの登場によって誰でもシネマティックな表現が可能になったのと同じように、Blenderをきっかけに、今やCG制作は誰でも気軽に挑戦できる時代となるだろう

Blenderをビデオグラファーが使うメリットとは?

みなさんが気になるのは、Blenderを使うことによって、果たしてビデオグラファーにとってどのくらいのメリットがあるの?という点だと思う。

実は、これは正直一言で答えるのが難しい。なぜならBlenderはその多機能さゆえ、使い方も目的も千差万別だからである。

そんな中でも、実写合成の分野においては利用価値は十分にあると感じる。特にモーショントラッキングを用いた3D表現の合成。平面的な合成ではAfter Effectsでほとんど済ませることができると思うが、奥行きのある3Dなものは扱いにくい。

そしてBlenderのモーショントラッキングの精度は非常に高精度だ。After Effectsの3Dトラッカーに比べると複雑なワークフローにはなるが、きちんと理解して組み立てていけばバシッと決まる合成映像が制作できる。

高品質な合成映像が自分で制作できるようになれば、ビデオグラファーの新しい武器になるだろう。3DCGができるようになると、映像表現の幅が格段に広がるからだ。

例えば、実写撮影でいうと渋谷のスクランブル交差点を撮影するとしよう。もちろんアングルの切り方や演出、カラーグレーディングでその人の色は出せるが、あくまでそこは「今の渋谷スクランブル交差点」でしかない。

でも3DCGや合成での表現によって、まさに実写を拡張することができる。そこを恐竜が走り回ったり、人が宙に浮かんで交差点を渡ったり、ビルに草木が茂る500年後の風景にしたり、雷と雪が同時にやってきたり、その表現の可能性は無限大だ。

そしてそれは自身の作家性を見出すきっかけにもなるかもしれない。実写に比べ、CGの表現はその人のセンスや色がより顕著に表れる。それは他人との差別化にもつながるし、クライアントへの提案の際にも企画の独自性を打ち出すこともできる。

もちろん無理やり取り入れる必要はないが、そういった選択肢が増えることは、動画クリエイター飽和の現代で勝ち抜くための大きなメリットになるだろう。

またBlenderを使って撮影前にビデオコンテを制作し、撮影を事前シミュレーションするといった使い方もできる。

Blenderを使ってみた感想

Blenderをはじめ3DCGを習得するのは簡単ではないが、その分できるようになったときの喜びも大きい。またビデオグラファーならではの楽しいポイントもたくさんある。


まず触った当初に感動したのが、現実世界と同じように3D空間内にカメラや照明を設置できるということだ。

After Effectsなど2次元ベースの制作では、基本的にアングル(画角)を決めてから、合成したり、グラフィックを追加したりする。

しかしBlenderなどの3D空間では、先に合成したいもの(モデリングなど)を制作・設置して、そのあとにカメラアングルを切ることができる。つまりどのアングルからも撮影することができる。

2Dの場合は反対側からのアングルを見せたいなら描き直さないといけないが、3Dの場合はカメラを移動するだけで良い。

これはつまり美術や俳優の位置を決め、照明やカメラの配置を決めていく実写の現場と同じような工程である。CG空間の中では、巨大な照明でもいとも簡単に設置できるし、さらにいうと太陽までも自由に操れるのはある意味爽快だ。

そしてカメラの絞りや被写界深度などの概念や、ライティングの技術が実はそのまま応用できる。カメラをf2.8に設定したり、フォローフォーカスもできる。照明もスポットで○○Wという設定ができたり、フラッグで光を切ったり、カポックで反射させたりもできる。しかもカメラに映る位置においても、オフジェクトを透明にできるからバレなくて済む。

またBlender内ではシミュレーション(物理演算)の機能がある。Blenderを始める前は、CGといえば全てアニメーションを付けていくと思い込んでいたが、このシミュレーション機能では、例えば、リンゴを木から落としたい場合、重力の設定だけしてしまえばあとは再生するだけでリンゴが勝手に落ちてくれる。

つまり自分でキーフレームを打ってアニメーションをつけなくても、コンピュータがリアルな重力の表現を描いてくれる。他にも煙や流体など様々な設定があり、物理演算と聞くとなんだが難しそうだが、実は簡単にリアルな描写を作り上げることができることに驚いた。

またDaVinci Resolveのようなノード編集があったり、かなり論理的に表現を組み立てていく。理系が好きな人や理詰めで考えていくタイプの人にとっては、CGの世界はぴったりだ。

このシェーディングという質感を作る工程は、カラーグレーディングに馴染みがある人にとっては非常に楽しく感じるはずだ。映像のルックを作るように、そのモデル自体のルックを作り上げる。

ちなみにモデリング(被写体)がいかに良くても、撮影や照明、ルックが微妙だったらいい絵にならないというのは、CGの世界でも同じである。

そのため、映像はじめましての人よりも、ビデオグラファーはかなり有利に3DCGを習得していくことができる。僕らはどういうものがいい映像になるのか心得ているからだ。

そういった今までの映像制作のセンスや経験を活かせる工程が、Blenderの中に意外とたくさんある。

Blenderの学び方

Blenderが優秀だからと言って、誰でも簡単にCGが作れるわけではない。Blenderは直感で使いこなすのは困難で、学ぶ姿勢は必ず必要になる。でも習得が簡単ではない分、逆にそれがチャンスでもある。

今はYouTubeにチュートリアルもたくさんあるし、日本語の解説記事も増えてきた。僕が運営をするSlackコミュニティ「みんなのBlender」をはじめ、オンラインコミュニティも増えてきたので、情報交換も難しくない。

その気になれば独学で勉強できる環境が現代には揃っている。なんと言っても無料なんだから、とりあえずやってみても何も損はない。

ただ、3DCGをモデリングするのとカメラで撮影するのは、全く違った分野の作業になる。ビデオグラファーにとっては、モデリングは心が折れる作業になるかもしれない、、、が、そこは安心して欲しい。

必ずしも自分でモデリングする必要はなく、便利なアセット(素材)がWeb上にはたくさんある。最低限の基礎さえ押さえておけば、あとはアセットを使って工夫すれば、見栄えがする映像を意外と簡単に作れたりする。

※例えば下記のようなサイトで、アセットやプロジェクトデータをダウンロードして利用できる。(無料やCC0の素材も結構多い)
TEXTURE HEAVEN
Blender Market
BLEND SWAP
TURBOSQUID

そもそも全てを使いこなすのは無理なソフトなので、自分の得意な分野、やりたい分野だけ都合よく使っていく方が賢いかもしれない。

また、実写合成する際に意外と盲点なのが、CG制作といえど撮影時に気をつけるべき点が多いということだ。合成を前提として撮影手法やコツがある。

自分自身がCG制作や合成の知識を深めることで、例えCGを外注する場合であっても、トラブル回避やスムーズなコミュニケーションにつながるだろう。

Blenderの今後

Blenderは高機能、多機能という点に加えて進化のスピードも速い。僕らがよく使う編集ソフトが大体1年おきに大きくアップデートするのに対して、Blenderは1シーズン(3ヶ月)ごとに大きな機能が更新されたり、追加されたりする。正直、その情報に追いつくことは困難なほどだ。

あまりに進化が速いため、BlenderはLTSという独自のプログラムを打ち出した。LTSというのは、Long-term Support(長期間サポート)の略。

例えば、2.8xシリーズから2.9xシリーズに大型アップデートが行われる場合、2.9xの開発は進めつつも、「安定版」として2.8xも2年間の長期対応していきますよ、というものだ。

こういう大型アップデートにはバグが付き物だが、こういう対応表明は非常にありがたい。仕事での利用を考えると、「安定」は非常に重要なポイントになる。

しかもBlenderではバージョン違いで複数のBlenderを同時に使用できるため、仕事ではLTS版を使いながらも、個人制作で最新版を試してみるなど、棲み分けもできる。

そして驚くべきことに、Blenderは2025年までのアップデート計画を発表している。その頃には、バージョンは4.7に!

こんな計画を表明をするソフトが果たして他にあるだろうか。

バージョン4.7にはどんな機能が搭載されるのか想像もできないが、こういったBlenderの姿勢に楽しみは隠せない。

まとめ

Blenderはオープンソース(無料)だというのに最初は不安だったが、それはすぐに払拭された。機能も十二分に高性能だ。よく考えればWikipediaやWordPressなどもボランティアや寄付で成り立っているツールなのに、今やなくてはならない存在になっている。

実写の世界でも、DaVinci Resolveは無料で高機能な機能が使える編集・カラーグレーディングソフトとして有名だ。CGソフトでいえば、Mayaをはじめとして高額なイメージが付き物だったが、そういう時代は終わりに向かい出したのかもしれない。

そしてBlenderは今や、プロのCGクリエイターや大手のVFX会社でも実際に利用している声をよく聞く。この調子で成長が加速していれば、Mayaなどのハイエンドソフトと並び、業界スタンダードのソフトに十分なり得るだろう。

3DCGは映像作品だけでなく、3DプリンターやVR/ARといった別分野の成長を考えても、まさしく今、始めるのにぴったりなタイミングだ。

Blenderはなんといっても無料。新しい映像表現を求めている人は、ぜひ一度チャレンジする価値はあるだろう。

コメントする

  • まだコメントはありません
taka_tachibana

Taka Tachibana@taka_tachibana

台北在住。CAPSULE Inc. / CHINZEI Inc. 所属。福岡で10年間のフリーランスを経て、台湾ではMVやweb広告などの映像制作に従事。その傍ら3DCG・VFXを駆使した作品づくりに取り組む。ASEAN-ROK Film Leaders In...

Taka Tachibanaさんの
他の記事をみる
記事特集一覧をみる