ごあいさつ
みなさま、はじめまして。STUDIO MONOPOSTO名義で「おまかせMA」(https://www.omakasema.com)というサービスを展開している音楽家/MAエンジニアの三島と申します。2018年から2年間、VIDEO SALON(玄光社)で「ビデオグラファーのための音響WORKSHOP」という連載を書いていたので、読んでいただけた方もいらっしゃるんですかね?……いたら嬉しいなぁ(笑)。
2021.5.21 追記事項
DaVinci Resolve 17のリリースで若干変わった部分があるので、
映像の設定も含めたベストセッティングを最後に追加しました!
2022.2.13 追記事項
32bit floatの書き出し設定に関して誤った認識がありましたので、各所に訂正の追記をしました。
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DaVinci Resolveでのデータ書き出しはAAF
MAエンジニアへのデータの受け渡しは、基本的にOMFかAAFがほとんど。それらを開くDAWは、ほぼ間違いなくPro Toolsでしょう。「おまかせMA」の場合、Premiereをお使いの方はOMFで入稿される方が多いですが、DaVinci Resolveをお使いの方は必然的にAAFとなります。OMFとAAF、どちらも似たようなマルチメディアファイルですが、AAFの方が2GB制限がなかったり、メタデータを引き継げるなど、利便性は高いです。
僕の周りの映像クリエイターさんはDaVinci Resolve使いの方が増えてきてる印象で、したがって持ち込まれるデータもAAFが多くなってきてます。ということで、今回はDaVinci Resolve 16を使って、Pro Tools用のAAF書き出しの方法を解説します。
AAFへ書き出す準備
まず、映像の編集が終わったら、そのタイムラインを複製してAAF書き出し用のタイムラインを作ることをオススメします。 MAへ渡すためにトラック整理などを行う必要があるためですね。こうしておけば、編集に修正が入った場合でも、慣れたタイムラインで再編集が可能です。
複製したタイムラインには「○○○_MA」など適当に名前を付けておき、トラックの整理に入ります。トラックを並べる順番は、
- ナレーション
- ダイアログ
- 環境音
- SE
- BGM
のような感じに並べておくと良いでしょう。まぁ別に並べ替えなくても良いんですが、そうしておいてもらえるとMAエンジニアが助かります(笑)。
このタイムライン(Fairlightページ)では、一番上に「Guide」というトラックがありますが、これはテストのために読み込んだ2MIXファイル。実際には使わないのでトラックミュートしてあります。映像編集ではこのようなトラックは作らないと思いますが、説明上、都合が良かったので残してます。また、ナレーションのトラックにミュートしてあるクリップがあるのが分かると思います。
で、よくあるのは、この状態でAAFを書き出して入稿されるケースですね。絶対にダメってわけではないのですが、Pro Tools上でいろいろと整理しなければならないので、MAエンジニア的には結構手間なんです(苦笑)。特にトラック数が多いものだとその手間がバカになりません。
ちなみにこれが未整理のタイムラインをAAFに書き出し、それをPro Tools上で展開したもの。赤枠で囲んだところを見ていただければ分かる通り、ミュートしたトラックやクリップは空っぽのクリップとして再現されます。これのマズい点は、これが不要なクリップなのか、必要だけど何かのエラーで再現できなかったものなのかの判断がとっさにはできないというところ。なので、こういった不要なトラックやクリップはあらかじめ削除しておきましょう。
また、ナレーションやダイアログのトラックがステレオトラックになっているのが分かると思います。これは、書き出し前のタイムラインもそのようになっているからなんですが、特殊な事情がない限りナレーションやダイアログなどの音声はモノラルで扱うのが普通なので、やはりPro Tools上でモノ分割して片方を削除するという無駄な手間がかかります。なので、ナレーションやダイアログがステレオの場合は、モノラルにしておきましょう。
手順は以下の通り。
Fairlightページで波形を見ると、LR両方の波形が見える状態なので、どちらもまったく同じ波形の場合、実際に聞こえる音はモノラルとなります。つまり、ステレオである必要性がまったくないのです!なので、トラックをモノラルに変更しちゃいましょう。まず、モノラルにしたいトラックのヘッダーを右クリック→「トラックの種類を変更」→「Mono」を選びます。
こうすると、Lチャンネルの音だけが鳴るモノラルトラックに変更されます。
もし、LとRが違う波形で、Rチャンネルの方を鳴らしたい場合は、クリップを右クリック→「クリップ属性...」を選択。ここでフォーマットを「Mono」にし、ソースチャンネルを「エンベデッドch2」(Rチャンネル)にします。これで、そのクリップはRチャンネルだけが鳴るモノラルクリップになります。
この方法はクリップ単位での変更になるので、1トラックに複数クリップがある場合は、その数の分だけ同じ作業を繰り返す羽目になります。なので、可能ならば映像編集を始める前、素材を取り込んだ時点でメディアプール内にある素材を右クリックして同様の設定を行なっておくと良いでしょう。
こうやって整理したタイムラインがコチラ。
不要なトラックやクリップが削除され、モノラルとステレオの整理もしっかりされてMA作業しやすくなりました。ちなみにこの画面では各トラックにエフェクトをインサートしてありますが、AAF書き出しの際にはこれらのエフェクトは適用されません。MA時に、よりプロフェッショナルなエフェクト処理をするので、MAエンジニアとしては、この仕様はある意味安心です。もし、どうしてもこのエフェクトじゃなきゃダメなんだ!という場合は……その音(クリップ)だけ一旦書き出し、再度読み込んでタイムラインに貼り直してください(苦笑)。
AAF書き出し設定
準備が整ったらようやくAAFの書き出し設定です。とりあえずデリバーページの左上で「Pro Tools」を選択。大部分はデフォルトのままでOKですが、必ず気を付けなければいけないポイントをお話しします。
まず、ビデオ設定ですが、「詳細設定」の中にある「ハンドル」は必ず設定してください!これは、クリップの前後の捨て尺を設定するもので、単位はフレームです。MAでオーディオ編集をする際にこれが「0」のままだと、頭が欠けたクリップを修復できなかったり、クロスフェードがかけられなかったりと、とても不便なんです。なので、最低でも5秒……僕の場合、無音部分を素材にして繋ぎ目を馴染ませたりするので、10秒くらいあると素材が増えるのでありがたいです。というわけで、この「ハンドル」は「150」〜「300」(30FPSの場合)に設定してください。
オーディオ設定で気をつけるのは「ビット深度」。デフォルトだと「16」になってると思います。撮影時に録った音声が16bitならそのままでも良いですが、24bit録音をしている場合は必ず「24」にしてください。 あと、これはマストではないですが、どんな場合でも「32」にしておくと実は一番安心です。これを選択すると32bit floatのファイルとして書き出されます。32bit floatの最大のメリットは、仮にレベルオーバーして歪んでしまっても、フェーダーやクリップゲインで下げてやれば波形が復活する点です。
【2022.2.13 追記】
現時点(DaVinci Resolve 17.4.3)では、32bit floatのAAF書き出しには対応していませんでした! ビット深度を「32」にして書き出した場合、32bit整数オーディオとなることを確認しました。以降、32bit floatに関しての記述は参考知識として読んでいただけるとありがたいです。
16bitや24bitなどの整数処理の場合、歪んだ音は元に戻りません。DaVinci Resolveのミキサーは32bit float処理に対応しているので、編集時にレベルを上げすぎて歪んでしまっていても、AAF書き出し時に32bit floatを選択しておけば、Pro Tools上でレベルを下げるだけで問題なく使えるというわけです。
【2022.2.13 追記】
前述追記の通り32bit floatのAAFは書き出せませんが、フォーマットを「Wave」や「QuickTime」などが選べる書き出しプリセットに関しては、コーデックに「IEEE浮動小数」が選択可能になり、32bit floatオーディオを含んだ映像ファイル、もしくは音声のみの書き出しが行えます。
32bit floatのデメリットは、ファイル容量が大きくなってしまう点ですが、いまの時代、それくらいどうってことないと思います(笑)。ちなみに、ダイナミックレンジ的には24bitとほぼ同じとなります。また、こういったDAWにおいて、ミキサー部の「32bit float 内部処理」と、読み書きする「32bit floatファイル対応」とは、概念的には一緒ですが別の話なので混同しないようご注意ください。(内部処理が32bit floatあるいはそれ以上に対応していても、32bit floatファイルを扱えないDAWもあるということ)
あとは書き出すのみですが、DaVinci ResolveでのAAF書き出しは「個別のファイル」形式になるので、多数のオーディオファイルがドバッと書き出されてしまいます。なので、事前に適当な名前を付けたフォルダを作ってそこに保存されるようにしておきましょう。
この画面では、デスクトップ上に「AAF」というフォルダーを作って、そこにすべて書き出されるようにしています。で、書き出されたファイルがコチラ。
赤枠で囲まれたのがAAFファイル本体。それより上はオーディオファイル、一番下はムービーファイルとなってます。Pro ToolsでこのAAFファイルを開くと、自動的にオーディオやムービーが読み込まれます。
はい、これでとてもスッキリした状態になりましたね!今回の例はもともとシンプルなタイムラインでしたが、長尺かつトラックの多いものが未整理で送られてくると、正直ゲンナリします(苦笑)。なので、こういう状態で送ってあげるとMAエンジニアは小躍りしますよ(笑)。
【2022.2.13 追記】
Ver.17においては、コーデックで「リニアPCM」ではなく 「AAFにエンベデッド」を選択すると、1つのファイルに映像と音声が格納されたAAFを書き出せます。 AAFの受け取り側が1ファイル4GBの制限を受けない環境の場合は、こちらで書き出した方がトラブルが少ないと思います。
最後に、こうやって書き出したAAF一式とは別に、参照用のムービーファイルを一緒に渡しておくと万全です。なぜなら、前述のようにPro Tools上で展開したときにクリップに不備があった場合や、フェード情報が入ってなかった場合などに、それが正しい状態なのかどうかを判断するための材料になるので。特に僕のようなおまかせMAの場合、最低限実現して欲しい内容は、大抵は編集者が作ったプレビュー映像に盛り込まれてるので、迷った時はそれを参照すればまず解決するんです。 このムービーファイルは、Full HDくらいがいいですね。きっとクライアントの最終チェック用に作ったファイルがあったりするでしょうから、それを転用してもらえればOKです!
以上でDaVinci ResolveによるPro Tools用AAFファイルの書き出しは完了です!いかがでしたか?以前のバージョンだと結構書き出しが不安定な部分もあったんですが、最新のVer.16はだいぶ安定しているように感じます。もし、僕に「おまかせMA」を依頼する場合は、このような感じで送ってもらえるととても助かります!(笑)。
余談ですが、2020年10月22日に、僕のVIDEO SALON連載をベースに大幅に加筆修正を加えた自宅MA本が発売予定です! 現時点ではタイトルなど決まってないですが、すでに僕の執筆作業は終わっていて、現在、着々と編集作業が進んでいるようです。もし興味のある方は、是非お手にとってみてください!!
DaVinci Resolve 17での設定
DaVinci Resolveはバージョンアップの度に細部が変わっていたりするので、
それを踏まえて現時点での決定版なAAF書き出し設定をご紹介!
ズバリ、以下のように設定してもらえると、とても助かります♪
まずビデオのフォーマットですが、「QuickTime」の「H.264」が無難です。
デフォルトでは「OP-Atom」になってますが、これで書き出してもPro Toolsで読み込めはするものの、ビデオの描画に負荷がかかり過ぎて、古いマシン(僕のマシンw)では再生がキツイくなります。
また、OP-Atomの方が書き出したファイルの総容量が遥かに大きくなってしまいます。
実際に試した例では、QTなら350MBだったところ、OP-Atomでは1.2GBになってしまいました。
MAにおいては、ビデオのクオリティはさして重要ではないので、容量や動作が軽い方が助かります。
なので、解像度もハーフHD程度で十分です。
次にオーディオ設定。
まずはコーデックですが、「リニアPCM」を選ぶと自動的に「個別のクリップ」になり、AAFファイルとともに複数のWAVファイルが生成されます。
ここで「AAFにエンベデッド」を選択すると、すべてのオーディオがAAFに格納され、スッキリとします。
こちらの方がファイル数が少なくてスッキリするんですが、試してみたところ、Pro Toolsでの読み込み時に音がおかしくなってまともに再生されませんでした(汗)。
というワケで、ここは「リニアPCM」にしておくのが間違いないです!
ハンドルに関しては、本文で解説した通り、十分な余白を必ず入れておきましょう!
ビット深度に関しても本文参照。
32bit floatで書き出しておくと、MA前の編集で音を上げ過ぎてたり、逆に小さ過ぎたりしても、MA時にクオリティを損ねることなく適正なレベルに調整可能となります。 もちろんレベル管理をしっかりしているのであれば24bitでも構いません。16bitも現役のフォーマットだと思いますが、現在ではさすがに表現力の面で劣ると言わざるを得ないでしょう。なので、 録音の段階からちゃんと24bitで録っておき、24bitあるいは32bit floatで書き出すのが最善 です。
【2022.2.13 追記】
24bitで録っておき、24bitで書き出すのが最善です。
※32bit整数で書き出しても問題ないですが、ファイル容量増加の割に旨味は少ないです。
最後に「チャンネルごとに1トラック」にチェックが入っているのを確認してください。
このチェックを外すと、例えば5.1chのマルチチャンネルトラックがある場合、6ch分が含まれた1つのWAVファイルとして書き出されてしまうので、そういったファイルをサポートしてないDAWでの読み込み互換性がなくなります。
チェックを入れておくと6つのモノラルWAVとして書き出されるため、ステレオしか扱えないDAWでも開くことができます。
【2022.2.13 追記】
ステレオ音声しか扱っていない場合は、「チャンネルごとに1トラック」のチェックは外しておいた方が良いです! でないと、ステレオ音声もモノ×2トラックとなってしまうので(汗)。もしマルチチャンネルトラックを使ってる場合は、上記を参考にしつつ、送り先の環境に合わせて選択してください。
三島元樹@monoposto_gm
映画やWeb CMの音楽、企業または個人作家の映像作品への楽曲提供など、映像に関わる音楽を作る傍ら、レコーディング/ミキシングエンジニアとしてアーティストのレコード制作に参加したり、映像コンテンツのMA(映像に合わせた音声ミキシング)なども手掛ける。音楽を担当...
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