映像と音が切っても切れない関係なのは、みなさんも異存はないと思います。このふたつが組み合わさることによって相乗効果が生まれているのは明らかですよね。今回はモーショングラフィックスに関する音についていろいろ考えてみようと思います。
モーショングラフィックスに必要な音とは?
音について考える前に、そもそもモーショングラフィックスとは何なのか、実写動画とは何が違うのだろうかというのを改めて考えてみました。
モーショングラフフィックスというのは、テキストやイラストなどの静止画に動きを付けたもの。実写動画よりも画的な情報量が少ない代わりに、グラフィックスそのものや、その動きにインパクトがあり、実写よりも端的にメッセージを伝えられるものだと思います。その際に必要な音とは……?大きく分けて以下の2つだと思います。
◉SE→グラフィックスの性質を表したり、その動きに対しての説明づけをするもの。
◉音楽→作品全体を通してのイメージ喚起や、その展開により構成的な演出を助けるもの。
モーショングラフィックスは実写と違って実在しないものなので、当然何かしらの音を意図的に付けないと無音のままです。ここに音を付けるということは、画だけでは伝えきれないイメージの説明や演出などの補助をするということです。もちろん、必ずしも両方を使う必要はなく、SEだけとか、音楽だけとか、場合によっては音は一切なしというケースもあるでしょう。
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どういう音を付けたらいいのか?
では、具体的にどういう音を付けていったらいいのかを考えていきましょう。
《SEの場合》
◉グラフィックスのイメージに合った音を選ぶ
そのグラフィックスが何を表しているのか。重いのか軽いのか、熱いのか冷たいのか、鋭いイメージなのか鈍いイメージなのか……。まずはそういった具体的なイメージを考えます。例えば、1本の線を引くようなモーショングラフィックスがある場合、鉛筆で書くようなサラサラとした音を付けるのか、それともマジックで書くようなキュキュッとした音を付けるかでイメージが変わってきますよね?そういった演出的な観点から、そのグラフィックスの性質を明確にイメージしておく必要があると思います。逆に言うと、一見なんだか判別できないようなデフォルメされたグラフィックスでも、音を付けることによって伝えたいイメージの補足をすることが可能だということです。もちろん、グラフィックスそのものが鉛筆画を模している場合はそういった音を付けることになると思いますが、そのような現実の物を連想させる音を必要としない場合は、どれだけ音に関する発想が豊かであるかが、音の選択において重要になってきます。
**◉動きに合った音を選ぶ
モーションというくらいなので当然動きがあるわけですが、その動きに対して音を付けるというのも常套手段でしょう。回転やスウィッシュ、ズームなど、いくらでも思いつくと思います。ここで重要になってくるのは、やはりグラフィックスのイメージと合っているかということです。重く大きいものが回転するのであれば、「フォン」という軽く短い音より、低音成分の多い「ブォォン」といった感じの音の方がマッチするだろうことは想像に難くないですよね?そういった音のイメージは日頃から考えていると、いざというときに助けになるかもしれません。例えば、カフェで「このカップが宙に浮くとしたらどんな音がいいかな?」とか、そういうお遊び感覚で妄想していると訓練にもなって楽しいと思います(笑)。
◉モーションの尺に合った音を選ぶ
当然ながら動きには時間が伴います。その動きの尺に合った音を付けないと違和感を感じてしまうでしょう。SE素材などを利用する際、尺に合わない音はタイムストレッチやエラスティック編集などを施して合わせる必要があると思います。ほんの少しのタイミングの違いでも気持ちよさが変わってくるので、こういった細かいところも億劫がらずにこだわるべきだと考えます。ただし、あまりにも編集を加えすぎると音質劣化してしまうので、そういう場合は他の素材を探すか、いっそのこと複数の素材を上手く組み合わせて作ってしまいましょう。
ここまでSEを付ける際に注意すべきことを書いてきましたが、「音を付けない」という選択肢も頭の片隅に置いておいた方がいいでしょう。なんでもかんでも音を付けてしまうと、うるさくなったり、何が重要な音なのかが分かりにくくなります。必要に応じて音を間引くことも重要です。
《音楽の場合》
音楽のジャンルやテンポによって映像作品そのもののイメージが変わってくるので、慎重に検討する必要があると思います。映像を先に作ってから音楽を当て込むのか、はたまた音楽を先に敷いておいて、それに合わせて映像を組み立てていくのかは人によって違うと思いますが、どちらにせよ映像と音とのシンクロ感がとても重要になります。場合によってはSE的要素を持った音楽(Music Effects = ME)が必要な場合もあるでしょう。何にせよ、モーショングラフィックスの音楽が、同じ効用音楽である映画音楽などと違うところは、心情や状況説明的な効果が必要なケースはほとんどなく、それよりも雰囲気とのマッチングやインパクトの強さ、気持ちよさ、展開のダイナミックさなどが重視される点だと思います。CM音楽に近い性質ですね。SEと共に動きに合わせた作曲技法(ミッキーマウシングという)が有効なので、音楽を外注する場合はそういった点も意識しておくと良いでしょう。
SEにオリジナリティを加える
どういった箇所にどんな音を付けるかはなんとなく見えてきましたが、では実際にSEを付ける手段は?
これはもう3択でしょう。
①有料/無料のストック系サービスや音源ライブラリを利用する。
②自分で作る。
③専門クリエイターに作ってもらう。
おそらく、多くの人は①を選択するでしょう。その際に気をつけたいのは、「人気のある音は他人と被りやすい」ということ。当たり前ですね(笑)。特徴的なSEなら尚更。もう何十年も定番のSEというのは少なからずあって、そういうのを聞くと「あぁ、まだあの音使ってるのか(苦笑)」と思ってしまいます。もちろん、演出的にあえてベタなSEを使うというのはアリだと思いますが、少しでもオリジナリティを出したいのであれば、まずは複数のSEをミックスして使うことから始めてみると良いと思います。これはプロのサウンドデザイナーもやってる常套手段ですが、SEをいちからシンセで作ったりするのは大変なのでとても効果的な手法だし、すでに実践されてる方も多いでしょう。個人的な経験では、いくつかSEの候補を選んだけど、どれもいまいち決め手に欠けてて迷ってしまう……なんて時には、それらをいくつか重ねてエフェクトなどで加工してみると、新しい音が生まれて案外上手くいったりします(笑)。あとはライセンスにも気をつけたいところですね。フリー素材の中には商用利用がNGなものもあったりするので。
SEを重ねてエフェクトで加工しているところ
自分で一から作ろうという人はあまりいないかもしれませんが、最近はKROTOSの製品など、ジャンル別でSEに特化したソフトシンセなどもあるので、どうしても自分で作りたいという人は、そういったものを利用するのも手だと思います。ただ、一般的な映像編集ソフトではソフトシンセを扱えないと思うので、MIDIが使えるDAWが必要になります。AVID Pro Tools | FirstやPreSonus Studio One Primeなど、無料で使える強力なDAWもあるので、取り組むガッツのある人はトライしてみてもいいでしょう(笑)。もちろん本格的なソフトシンセやハードシンセを使って一から作ってみるのもいいですが、正直、映像専門の人にはかなりハードルが高いと思います。
ソフシンセとモジュール型のエフェクトでSEを作っているところ
また、録音した現実音を元に加工して音を作るのもいいですね。映像制作をされている方ならハンディレコーダーなどは結構持っているでしょうから、それでイメージに合う音を録って使うというのもアリだと思います。僕も自分の音楽作品に使うためにフィールドレコーディングをしますが、例えば「ドーーーーン」という重くて余韻の長い音が欲しいなと思った場合、そういう音が得られそうな場所を訪れ、下が空洞になっている鉄板の床を踏みつけたり、桟橋の床板を踏みつけたりした音を録音し、それらを組み合わせたり、ピッチシフトやタイムストレッチ、EQやリバーブ処理なんかをして音を作ることもあります。僕なんかは日頃からそういう目線で出先での音探しなんかをしてたり、気に入った音はその場で録音しちゃったりするんですが、みなさんの場合はロケの際に録った音を聴き返して、使えそうな音を切り出してもいいかもしれませんね。
気になった音はその場で録音して、素材のストックを作っている
あとは、専門のクリエイターに作ってもらうという選択肢ですね。現在、僕はSE制作を専門にはしてませんが、映像制作会社で働いていた時は、ディレクターから「こんなSEが欲しい」という要望を聞いて音を付けていました。基本は会社所有の市販SEライブラリを前述のように組み合わせたり、クライアントのゲーム会社から支給された、その作品専用のSE集から選んで使ってましたが、そこにない音なんかは、自宅のアナログシンセなどで自作してました(笑)。そういった経験から、どういう発注のされ方だとやりやすかったかを以下にまとめておきますね(音楽発注も含む)。
SE発注のコツ
◉擬音を用いた説明は重要だけど、それだけじゃなくてイメージしてる具体的な音の性質(前述のように重いのか軽いのかなど)を伝えてもらえると嬉しい。
◉「あのCMのこの部分の音」みたいな具体例をがあると分かりやすい。
◉MA的な視点の話をすると、エディター自身が編集時にSE素材を選んで組み合わせて音作りしてる場合、それらは1本化せずにパラの状態で渡して欲しい(AAFやOMFなら問題ない)。その際、「より派手に!」とか「リバーブを加えて!」などの要望があれば一緒に。
◉SEにしろ音楽にしろ、ムービーが出来上がってから発注して欲しい。 イメージだけ伝えられて作っても、よっぽど的確なイメージ共有ができていない限りボツになる率が高いので(汗)。
◉音楽の場合は、「ここは静かに、ここから徐々に盛り上げて、ここでドーーーーン!」みたいな展開の具体的イメージを共有できているとやりやすい。→打ち合わせはしっかり行う!
◉テンプトラック(映像編集時に仮で敷いた音楽)を作曲家に聴いてもらうかどうかは事前に相談した方がいいかも。作る側としては聴いた方が話が早い場合もあるけど、そのイメージに引っ張られて予定調和なものが出来上がってしまう可能性もあるので。予想外の結果を求める場合や、その作曲家の作家性が好きなのであれば言葉でイメージを伝えるだけの方がいいかもしれない。逆に、職人系でどんな曲でも作れますという作家さんなら、聴いてもらった方が早いかも。
まとめ
最後にひとつだけ。ひと口に「音」と言っても、SEと音楽とでは分野が異なります。特にフォーリーのような現実よりも現実っぽいサウンドを作る場合は、特殊なノウハウが必要だったりします。なので、作曲家にSE制作を依頼しても、思うようなものが返ってこないかもしれませんし、その逆も然り。もちろん、どちらも得意な人もいるので、そういった人は強いでしょうね。もしクリエイターに発注する機会がある場合は、その人が何を得意としているかは事前に把握しておきましょう。ちなみに僕は、音楽とMAです(笑)。
以上、モーショングラフィックスにおける「音」についての考察でした。何かしらみなさんの制作の参考になったなら幸いです!
三島元樹@monoposto_gm
映画やWeb CMの音楽、企業または個人作家の映像作品への楽曲提供など、映像に関わる音楽を作る傍ら、レコーディング/ミキシングエンジニアとしてアーティストのレコード制作に参加したり、映像コンテンツのMA(映像に合わせた音声ミキシング)なども手掛ける。音楽を担当...
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