はじめに
日英バイリンガルのビジュアルアーティスト、minmoobaです。はじめましての方もそうでない方もこんにちは!
モーショングラフィックスは実写とは違い、意図的に人の手で作られた要素のみで構成されることが多いです。そのため自由度は高いのですが、きちんと事前に考えて決めて、要素をコントロールしておく必要があります。
そこで今回は、自分が映像制作時に、ビジュアル(主にモーション、デザイン)の方向性を決めていく、思考のプロセスを紹介します。
※広告映像制作をベースにしていますが、基本的な考え方はどのような映像でも同じです。
プロセス
ステップ1: 条件を洗い出す
受注案件の場合、まずクライアント(依頼主)に下記のヒアリングをします。
- 目的(課題解決、販促、イメージアップ、気分を上げる、場の雰囲気作り等)
- 目指したいイメージ(ポップ、真面目、オシャレ、かわいい、かっこいい等)
- ターゲット視聴者層(年代、性別、職業、国籍等)
- 媒体(TV、Webサイト、Web広告、サイネージ、イベント、映画館等)
これだけの情報=条件が集まると、できる表現が自ずと決まってきます。これは、パズルでいう最初のとっかかりです。
ステップ2:コンセプトを決める
自分がこれまでにインプットしてきたもの(映像、美術作品、絵画、写真、本など様々)をヒントに、制作目的に合ったストーリーやビジョンのアイデアをいくつか出します。
そこからコンセプトや表現方法を固め、次に色、フォント、モーション、デザインなどの方向性(具体例は後述。)を上記の条件を基に決めていきます。
最初に決めるということ=設計をある程度しておかないと、後で判断基準がなく右往左往する要因になります。
なぜこのプロセスが有効なのか
ビジュアル表現に「理由」や「意味」を乗せることで、つなぎとなり、表現として説得力が生まれ、見る人の印象に残りやすくなります。
逆にここが欠けていると、作品というよりチュートリアルを追っただけの習作になりやすいです。
なので、流行っているから、好きだからという安易な理由だけで表現を採用するのはリスキーです。
また、トレンドは移り変わりが早く、数年経つと古く見えてしまう傾向もあります。
※もちろん、抽象的なビジュアル表現のみで作品のレベルまで昇華させることは可能なのですが、何か突き抜けた要素(クオリティが極端に高い、奇をてらうエキセントリックな表現など)がないと成立しづらいので、非常に難易度が高いと感じます。
ほかのメリット
どんな映像でも、人に説明=プレゼンするという場面があります。
仕事だと、コンペのピッチや、上司へのプレゼンだったり。
個人制作だと賞に応募するときだったり。
そういうとき、必ず「なぜその表現にしたのか」は突っ込まれます。
ここで、きちんと言語化して答えられないと、良い結果は得られにくいです。
理由に基づいた表現方法を決めておくと、説明に困りません。
具体例紹介
これまで流れを説明してきましたが、ここでいくつか具体例を紹介します。
前提として、下記の知識があると便利です。
- 色相、彩度が与える印象
- 人間は同属性(年齢、体格、人種)像に親近感を持つ
- 年代による認知・反応時間の差
- フォント(書体) の持つ雰囲気
- ビジュアルトレンド
事例1:進研ゼミ高校講座4月号紹介映像
新高校1年生を対象にした、進研ゼミのWeb用紹介映像。
好反応だったため、後に広告展開もされた。
コンセプト:若者向けのポップでシンプルなイラストアニメーション
色:指定なしだったので、背景色に目に飛び込んで来る色をメインに構成。濃いピンク、青は商材を参照。薄いピンクは4月の入学時期の公開だったので、春のイメージから。
フォント:教育系なので、真面目な印象を持ちながらも、柔らかい印象の筑紫A丸ゴシック
イラスト:
* どのようなタイプにも受け入れられるよう、オシャレで洗練されたスタイルに。
* ターゲットの高校生が自己投影できるよう、キャラクターはかわいらしく。
モーション:
* 目を引くようにポップでリッチな動き。
* ターゲットは高校1年生とその保護者。若いので、動画のテンポは早めに。
事例2:Designship 2020 オープニング
オンラインで開催された日本最大級のデザインカンファレンスのオープニング映像。
総勢11名のクリエイターがコラボレーション。制作したシーンを繋げ、ひとつの映像に。
イベント主催側のリクエスト:上質感
コンセプト:気軽に会えない状況だけど、みな繋がっている
ビジュアルディレクション:
* ウイルス感染のパンデミックにより暗い情勢なので、明るく楽しい表現
* メインターゲットがデザイン関連職なので、デザインを感じさせるビジュアル
* イベントのオープニングなので、にぎやか、お祭り感
色:メインターゲットは20−30代の若者。SNS映えも意識し、ブランドカラーを基軸に鮮やかに。
モーション:上質さとにぎやかさなど、共存させるのが難しいリクエストがあったので、シーン毎に動きのスピードのイメージを決めた上でディレクションした
miroでのブレインストーミング
さいごに
いかがでしたでしょうか。
誰に教わったなどてはなく、自己流でなんとなくできていったやり方なのですが、参考になれば嬉しいです。
とはいえ、映像制作の手法に正解はないので、それぞれに合ったやり方を見つけていただければと思います。
2021年8月3日 追記:
イベント「モーションモンスター」にて、当記事をベースに、より事例について詳しくお話しさせていただきました。こちらのアーカイブも併せてご覧ください!(Premium会員限定公開)
minmooba@minmooba
ビジュアルアーティスト。日英バイリンガル。関西育ち。Xジェンダー/ノンバイナリー。英国留学、制作会社、外資系企業などを経て独立。 映像作家100人2020、2022 選出。 ストーリードリブンな映像制作を軸に、メッセージを「伝わる」かたちで表現。イベントやセ...
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