共同作業って案外難しい
モーショングラフィックスアーティストと仕事をするのは、いつもとても楽しいです。自分では想像出来ても技術的に難しいことが一緒にすることで形になっていくプロセスは何度やっても心地が良い体験です。でもいつも共同制作が簡単なわけではありません。出来上がったモーショングラフィックスが届いて見てみると、「あれ?なんか違う、、、。」みたいになることももちろんあります。そこから修正作業が始まるのですが、出発地点がゴールからどれだけ離れているかで目的地に限られた時間の中でたどり着けるかが変わってきます。 志半ばで終わってしまって、「もっと良くなったのに」と思うプロジェクトもありました。
今回は演出担当のディレクターとモーショングラフィックスアーティスト(MGA)が一緒にプロジェクトに取り組む上で、作品の仕上がりを高めるためにMGAの方に前もって伝えておきたいことを監督目線でまとめました。
全てが2Dモーショングラフィックスの作品例
3DCGと2Dのモーショングラフィックスタイトルの組み合わせ作品例
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作品の意図についての共通認識をしっかり確認する
一緒に作品を作る上で重要なことは、ゴール設定が同じであることです。監督が演出を考える上で最重要視していることは、「意図が伝わること」です。どれだけカッコ良くても観客に届けるべき意図が伝わらない場合は、監督の満足いく結果になっていないことになります。共通認識を持てていないプロジェクトの責任は監督とMGAの両サイドにあるので、打ち合わせの段階で全てクリアにしておきます。監督からの依頼内容を聞いて、少しでも分からない部分は監督に聞いてください。 往々にして監督自身も分かっていない場合や、思考が行き届いておらず不明瞭な内容を依頼をしている場合が多々あります。打ち合わせの段階で思いつく落とし穴は全て共有しておきましょう。
実写背景にモーショングラフィックスを組み込んだシーンの例
過去にタイトルグラフィックを依頼したことがありました。
最初のミーティングの段階でプロジェクトの趣旨、用途、作曲家に依頼している音楽のイメージなど、色々伝えた上で、タイトルの印象を「エレガント」で「シンプル」なもの、という風な印象を伝えて依頼しました。Pinterestを使って気に入ったタイトルをいくつかピックしてリンクもまとめて共有しました。
1週間ほど経って仕上がったドラフトのタイトルが届いたのですが、イメージとかなりズレがあり、エレガントなシンプルさを改めて話し合った結果、連想されるタイトルの意図そのものが違うことが分かりました。
最初の打ち合わせの段階で、さらに細かく依頼内容を説明する上で使う形容詞の表現をもっと緻密に考えるべきでした。 結果的に改めてゼロからスタートして、最終的には完成にこじ付けたのですが、MGAの方にも納期までの時間が短くなったスケジュールで仕事をしてもらったので、お互い苦労する結末になってしまいました。
「オンライン上でビジネスの関係を築いていく」という「意図」を伝えています。
こういうことにならないためにも、プロジェクトをキックオフする際にはモーショングラフィックスを通じて伝えたい意図や印象など思い付くことは全てと言っても過言では無いくらい聞きまくってください。
クリエイティブの制約を確認する
どんなプロジェクトにも制約というものがあります。使うべきフォント、クライアントのブランド、フレームレートや納品するデータのフォーマットや解像度など、後から変更するとかなり時間を無駄にしてしまうことになります。自分がHelveticaのフォントを使いたくないから、違うフォントを使おうと思って確認せずにフォントを選んだりしていると、後から「フォントは絶対にHelveticaでお願いしますね」みたいなことを言われたりもします。監督も常にそういう落とし穴には気を配っていますが、MGAの方からも積極的に確認をしておくことが重要です。
逆にクライアントのフォントや色に制約が無い場合があります。そういった場合はどうするのが良いでしょうか?僕個人の意見ですが、クリエイティブの制約というものがクライアントから提案されない場合は、監督と2人、もしもクリエイティブディレクターがいる場合は3人、で制作過程の早い段階で固めてしまうのが良いです。監督がデザインの勉強をしていない場合は尚更MGAの方が音頭をとってあげるのが理想的です。そして色やフォントは監督と考えた後で前もってクライアントに提案出来るようにしておきましょう。
監督がMGAに求めるスキル
MGAと共同でプロジェクトに挑む際には監督は色々なスキルをMGAに求めます。それら全てがモーショングラフィックスのスキルというわけではありませんが、どれも作品のクオリティをさらに高めるためには重要なスキルです。
カラーセオリー
まず1つ目はカラーセオリーです。特定のHUEや彩度、明るさを見た時に観客が連想するイメージや感情があるという定説です。もちろんセオリーから逸脱することも出来ますが、まずはセオリーをしっかり理解しておくことが重要です。例えば赤だけでも色々な赤があります。血の色を連想する赤もあれば、全く連想させない赤もあります。また赤を使うことで特定の感情を指し示すことも出来ます。それらを予め理解しておくことで、セオリーをベースにしてアイデアを監督と一緒に構築していくことが出来ます。
暖色は寒色と比べて手前に来るという定説をベースに一番目立たせるものを明るく、温かく表現、背景に来る色を逆転させることで重要な要素が何かを色だけで伝えることが出来ます。
タイポグラフィー
タイポグラフィーはグラフィックアート全般に言える内容ですが、非常に重要です。以前に知人から「タイポグラフィーを理解していなければ、それはイラストレーターであってグラフィックアーティストでは無い」という言葉を聞いたことがありますが、それは的を得ていると思います。動画制作においてモーショングラフィックはタイポグラフィーと切っても切り離せない関係性を持っています。AfterEffectsは使えるけど、フォント、フォントサイズ、カーニングなどを考えるのは得意では無い場合は、デザインの統一をしていくのが非常に難しくなります。監督にそのスキルがある場合は良いですが、監督はおそらくそのスキルをMGAに求めています。
EPSONの印刷技術が感じられるよう「アウトラインの中に色が注ぎ込まれていく」ような演出をMGAと一緒に考えました。
デザインへの理解
モーショングラフィックスを制作する場合はデザインへの理解が非常に重要です。カラーセオリーやタイポグラフィーもデザインの一部ですが、それ以外にもデザインが重要になる局面が多くあります。タイトルセーフが重要なのもデザイン的な観点から考えると理解出来ます。制作する画面の縦横比率や、実際に動画が見られるデバイスのスクリーンサイズなども考えてモーショングラフィックスアニメーションを作成出来る能力は監督が演出を正しく説明出来たとしてもデザインの知識が無い限り人を魅了出来る力に欠けるかもしれません。そのためにもデザイン全般の理解は非常に重要です。
Reverse「逆転」という言葉をモーションとデザインを使うことで、更に引き立たせることが出来ます。
モーショングラフィックスを使って感情を生み出せる能力
最後になりましたが、上記のものと同じくらい大切なことは、モーショングラフィックスの感情を理解出来るスキルです。これが監督の意図をモーショングラフィックスで完全に汲み取れるかどうかに究極的には関わってきます。デザインアセット一つ一つを動かしていくことで感情を生み出すことが出来るかどうか、それが良いモーショングラフィックの秘訣です。これは感覚的に出来る人もいますし、経験を重ねてから辿り着く人もいます。どちらのタイプでも確実に習得すべきスキルです。どんな動画コンテンツもストーリーテリングのためのツールです。そしてストーリーは感情によって動かされます。それを生かすも殺すもモーショングラフィックスアーティストの腕次第ということです。
まとめ
たくさん書きましたが、どんな動画作品も一人で作っているわけではありません。それぞれの持っている個性的なスキルの間でシナジーが起こった時に初めて良質な動画へとレベルアップできます。そのためにも監督が自分自身ではマスター出来ないスキルを考えて上記に並べてみました。これを読んで、次回の作品を作る時に監督からより正確な情報を引き出し、自分の持っているあらゆるスキルを総動員して、感情が湧き起こるようなモーショングラフィックスを作ってください。
Hiroki Kamada@hirokikamada
ニューヨークシティに拠点を置く映像プロダクション「Prodigium Pictures,」を経営。グローバルブランドや海外展開したいスタートアップのローンチやCSRの取り組みの撮影が強み。海外での制作サポートが必要な方はご連絡ください。 hk@prodigi...
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