みなさんが映像を制作される際には音楽を入れることがほとんどだと思います。作曲家である自分も含め、どんな音楽を充てたいか決めるのは比較的直感的にやっている方が多いのではないでしょうか。

音楽には映像に対してどんな役割があるのか、感覚的には理解していても文章で説明している場所が見つからなかったので、普段私が無意識に考えていることをまとめる意味でも、できるだけ細かく分析したいと思います。

音楽は映像の「意図」をより明確にする

映像作品と言っても、さまざまな種類のものがありますので、話をシンプルにするために今回は映画の1シーンをとってお話ししましょう。下の動画をご覧ください。

15分ある短編映画の1シーンですので、これだけでは全体のストーリーは分からないと思います。しかしこれだけ見ても、この男性が感情的にどういう状態にあるのかは少なくとも分かるのではないでしょうか。何かに苦しんでいる様子や、誰かに何かを訴えかけている必死さは前後の流れがなくとも伝わると思います。

映画においては、作品を作り出す大事な要素の一つは脚本です。このシーンでは、「妻を亡くした男が、孤独さや生前妻にしてしまったことへの後悔から正気を失い絶望している」というストーリーがあり、音楽を作る際には当然それを考える必要があります。音楽の主な役割のひとつはその場面の感情を表現することですので、映像を見ても分かるとおり、「絶望」という感情がこの場面の要となっており、それに従うことで音楽の方向性は自然と決まってきます。現に音楽を聴いていただければ、暗く重苦しい雰囲気で、「絶望」という感情に沿っているのが分かると思います。

感情をいかに表現するか

ただしこの映像の場合、場面を作り出しているのは感情だけではなく、その写し方や全体の雰囲気にも目を向けなければいけないと思います。技術的なことは詳しくありませんが、この場合人物の感情に比べ映像からは淡々とした印象を受けます。この男性の感情のレベルはかなり高いように見えますので、それに対応した音楽を書くと音楽も激しいものになります。しかしそれだと映像のもつ雰囲気にそぐわないですよね。音楽は孤独さや絶望さを表現してはいるものの起伏はゆるやかでこの男性のもつ感情ほど激しいものではありません。それは「絶望」という感情を一歩引いたところから見ているような、その距離感を音楽でも表す必要があるからだと思います。「感情」と「距離感」という二つの要素がこの場面の主な「意図」だとすると、それをより明確に見ている人に伝える助けをするのが音楽の役割ではないでしょうか。

映像によって「意図」はさまざまです。「カサブランカ」のような古い映画では、情熱的なシーンではこれでもかというくらい情熱的な音楽が流れますよね。写し方もよりドラマチックな印象を受けます。そういう作品では先ほどのような「距離感」はなく、「感情」のみが意図となっているのだと思います。

雰囲気をつくる

ジャンルが変われば「意図」も変わってきます。次の映像はドキュメンタリーの一部ですが、この場合は「伝統」や「誇り」といった、その場面だけに依存しないより大きなテーマを元に音楽が作られています。「感情」とは別に、「かっこよさ」「壮大さ」「重厚さ」といった雰囲気を作り出すことができるのも音楽のもうひとつの役割です。この場合は登場人物ひとりひとりの感情を伝えるのではなく、この長い伝統を持ったお祭りの作り出す雰囲気が、この映像の「意図」になっているのだと思います。

音楽は映像に「オリジナリティ」を与える

近年の映画音楽で個人的に傑作だと思うのが「The Dark Knight」の「Why So Serious?」という曲で、この曲の大部分は耳慣れない奇妙な音で構成されています。映画の冒頭シーンで流れ、基本的にはジョーカーという悪役のテーマになっているのですが、その後映画の端々で流れるもののこれ以外の曲は割とオーソドックスなアクション映画音楽になっています。しかし、その一曲が入っていることで、映画そのものをとてもオリジナリティあのあるものにしていると思います。

記事の最初の映像では、「感情」と「距離感」がその場面の「意図」になっているとお話ししました。しかしその二つの要素を表現するだけであれば、今使われている音以外にも可能性はいろいろあったのではないでしょうか?例えばもっと聞き慣れたオーケストラの楽器を使って似たような音楽を作ることもできたと思います。それでもこのシンセサイザーのような音を使ったのは、この作品のもつ冷たさや閉塞感を表現するには、オーケストラのような人間的で壮大なサウンドになるのを避けるためだと思います。「The Dark Knight」ほどの強烈な個性ではないかもしれませんが、作品全体のもつ雰囲気を音で表してオリジナリティを与えるのも音楽の役割ではないでしょうか。

ジョン・ウィリアムズ以降しばらくは、特に映画音楽においてはオーケストラで演奏されるのが定番となっていましたが、オーケストラをあくまでツールのひとつとして捉え、本当にその映像にあった音楽を使った作品を書く作曲家も最近多く、僕もそういった作品作りをしていきたいと思っています。

つづく

ここでご紹介したのはほんのごく一部で、作品ごとに音楽の使われ方はさまざまです。また違った音楽の使われ方や今回あげた以外の音楽の役割もまたご紹介できればと思います。今回の内容で何か感じたことやご意見があればぜひ教えてください。音楽というのは主観的なものですので、違う見方もあるのではないかと思います。

また、このように長々と小難しいことを並べていますが、実際音楽を制作する際にはここでお話ししたことをいちいち考えているわけではなく、むしろ直感的に映像をみて感じたことを瞬発的に音に直すというのが普段の制作方法なので、今回はあえて自分がどうしてその音を選んだのか、というのを自己分析的に書いてみました。そうすることでいろいろと発見もあり面白かったです。皆さんが自分の映像にどんな音楽をつけたいか考える際のアイデアのひとつになれば嬉しいです。

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コメント

  • Hiroki Kamada
    本当に音楽で映像の印象が180度変わったりするもんねー!自分もWhy So Seriousは天才だと思います。
  • Nao Sato
    そうだね!今回はどちらかというと映像に従うタイプの音楽について書いたけど、次は映像の中には見えないものを引き出すような音楽についても書きたいと思います。
  • Nao Nicky Uesugi
    説明も具体例も含めて、大変興味深かったです。
    質問なのですが、映画音楽を使って、cutenessを表すことはできると思いますか?
  • Nao Sato
    コメントありがとうございます!そうですね、そのcutenessの対象になるものにもよりますが、簡単な例ですと、例えばマリンバ(木琴)という楽曲は軽やかでどこか素朴な印象がありますよね。子供っぽいかわいさを表現するときにはそうした楽器を使うこともできます。 ほかにも様々なシチュエーションが考えられると思いますが、使う楽器や音楽の語法の使い分けによってサポートできます!