2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。
DAY3の最終セッション、【ここが凄いぞ!Blender!Vookのビジョン映像でBlender使ってみた】 は、ライブ視聴者のみなさんから質問やコメントが多数寄せられ、特別に時間を延長するほどの大盛況となりました!
Vookのビジョン映像の3DCG制作で活躍したBlenderのおすすめアドオンやマッチムーブ機能、さらに高負荷作業の快適性を実現したHPのプロフェッショナルクリエイター向けノートパソコンZBookの活躍シーンなど、全てが見どころと言っても過言ではない本セッションのポイントをまとめました。
登壇者
Taka Tachibana
映像作家 CAPSULE Inc. / CHINZEI 所属
台北在住の映像作家。脚本から演出、撮影、編集まで幅広く手掛け、物語性のある表現を得意とする。福岡で10年間のフリーランスを経て、台湾ではMVやweb広告などの映像制作に従事。その傍ら3DCG・VFXを駆使した作品づくりに取り組む。ASEAN-ROK Film Leaders Incubator日本代表。Short Shorts Film Festival & Asiaをはじめ、国内外70ヶ所以上の受賞・入選歴。
ダストマン
フリーの映像屋さん。 TVCMをメインにモーショングラフィックス、CG、VFXを作ってます。 あと色んな映像の作り方の Youtube【ダストマンTips】を運営。
白戸裕也
日本大学芸術学部放送学科卒業。大手制作会社にて、テレビCM・WebCM制作等を経験。株式会社サイバーエージェントにて、AbemaTV(現ABEMA)の番組宣伝映像やオープニング映像、イベント用映像などの制作を担当。現在は、短尺に特化したオンライン動画広告の企画・制作をおこなう「6秒企画」にて、モーションデザイナー、エディターを務める。映像系イベントにも多数登壇、記事も執筆している。
プロのビデオグラファーを目指す学校、はじまる。入学生募集中。
PR:Vook School
Blenderの魅力1:スピード感
Blenderにどハマり中というTaka Tachibanaさんは、Blenderの魅力としてまずスピード感を挙げています。中でも、①起動の速さ、②進化の速さ、③レンダリングの速さの3つは目を見張るものがあるとのことなので、それぞれ見ていきましょう。
①起動の速さ
百聞は一見に如かずということで、ライブ配信中にBlenderを起動していただきました。
Tachibana:これをポチっとしたら起動します。3…、2…、1…
ダストマン:ホンマや。早っ!
白戸:今これ、メモ帳くらいのスピードで立ち上がりましたね。
Tachibana:ホントにメモ帳感覚でCGが作れるソフトですね。アドオンがいっぱいあっても起動は早いです。
CGソフトは早くても起動に1分程度かかることが一般的で、その待ち時間にプチストレスを感じるクリエイターも少なくないでしょう。作業中にフリーズしてしまい再起動する場合も考慮すると、まさにメモ帳レベルというBlenderの起動の手軽さは、予想以上に大きなメリットと言えそうです!
②進化の速さ
あらゆる機能を無料で使用できることで知られるBlender。何万円もするはずのCGソフトを無料で使える理由は、Blenderが一企業ではなく、Blender財団(Blender Foundation )と世界中のボランティアプログラマーによって作られているソフトだからです。
Tachibanaさんによると、BlenderはWikipediaに似ているとのこと。確かに、有志の力でどんどん開発が進み、機能が充実していくという点で、両者は重なります。
Tachibana:Blender Launcher というフリーソフトがあって、過去のバージョンをダウンロードするなど、バージョンの管理ができます。あとDailyでは、日々アップデートされている機能をダウンロードできます。
ダストマン:日単位でアップデートされてるんですね!
Tachibana:毎日ではありませんが、かなり頻繁です。そこが普通のソフトと違って面白いところですね。
③レンダリングの速さ
制作物が複雑になればなるほど、長くなるレンダリングの時間。スピードを速めるには、グラフィックボードの数を増やすしかない…と頭を悩ませるクリエイターに朗報です。2021年夏以降 に公開予定のBlender Version 3.0に、Tachibanaさんが注目する新機能があり、しかも正式リリース前の現在の時点で、その機能を試すことができます!
Tachibana:Blenderのレンダリングエンジンの1つのCyclesが10周年を迎えるということで、Cycles Xプロジェクトが進行しています。開発者のみなさんがかなり頑張ったらしく、Cycles Xではレンダリングが条件によって3倍速くなるそうです。
いろいろ刺激的な開発進行も楽しめるのは、Blenderの魅力かなと思います。
ダストマン:TachibanaさんもCycles Xを試されましたか?
Tachibana:時間的コストをかなり削減できるので、既に活用しています。実際に、最低でも倍ぐらいは早くなりますね。
スピード に関して、レンダリングエンジンのEeveeはリアルタイムレンダリング、すなわち、ゲームのようにレンダリングされたものをすぐ確認することでき、書き出しも早いという特徴があります。
一方、Cyclesはレイトレーシングという技術を採用しており、スピードではEeveeに劣るものの、その分リッチな表現が可能です(Eeveeでも、数字を追い込めばリッチな表現ができないわけではないとのこと)。
今後Cycles Xの登場によりレンダリングスピードが向上することを考えると、特に上質でリアルな表現を求められるシチュエーションで、ますますCyclesを活用できそうとTachibanaさんは語ります。
Blenderの魅力2:豊富で使えるアドオン13選
ソフトの拡張機能であるアドオンが種類豊富にあることも、Blenderの魅力の1つです。アドオンは自由に開発・販売が行われており、TachibanaさんおすすめのBlender Market をはじめとした購入サイトでは、無料から有料まで、機能も価格もさまざまなアドオンがあります。
10~20ドルという比較的安価な価格帯でも高性能なものがあるとのことで、特に使えるアドオンをTachibanaさんにご紹介いただきました !
①Pure-Sky
綺麗な空を作ってくれるアドオン(制作者のプロジェクトファイルをインポートする形式)。
太陽の位置を設定することで、朝や夜など異なる時間の空も表現できる。レンズフレアの忠実な再現性は、実写映像出身のTachibanaさんにはたまらないポイント!
②Extreme PBR
https://blendermarket.com/products/extreme-pbr-addon-for-blender-279-2
マテリアル設定を簡単にしてくれるアドオン。アセットライブラリーをインストールすればクリックするだけで質感を反映してくれるので、素材サイトで目的の質感を探す手間を軽減できる。マテリアルの種類が充実している分、容量が大きめ なのでスペースは必要。
③HDRi Maker
周りの環境の360度画像をプリセットから選んで適用できるアドオン。簡易的ではあるものの、360度に加えて床(地面)やそこに映る影も自動設定してくれるので、サクッと仕上げたい作業の時短に最適。
④Pie Menu Editor
Blenderに元々あるパイメニュー(キーの長押しでサークル状にショートカットを表示する機能)をカスタマイズできるアドオン。パイメニュー以外に、よく使う項目を一発で呼び出すことも可能。
Blenderはできることが多いので、必要なものをまとめてショートカットを割り当てておけば、カーソルの動きも最小限になり、時間を節約できる。
⑤Toggle Translated UI
日本語と英語の言語設定をワンタッチで切り替えられるアドオン。言語設定用のファイルを別途入れたり、切り替え時に再起動したりといった手間がないので、特に日本語と英語の両方のUIを使いたい人に便利。
⑥fSpy
静止画像に合成を行う際に、カメラの焦点距離、位置、アングル、レンズミリ数などを計算し、自動的に画角を設定してくれる外部連携ソフト。
「現場で何ミリのレンズで撮影したか分からない!」という場合も、ビルや柱など画像内のまっすぐなところに縦軸と横軸を合わせるだけなので、合成が格段に楽になる。
⑦K-Cycles
レンダリングエンジンCyclesの高速バージョン。立ち上げは独自の起動ファイルから行うが、操作感はCyclesと変わらず、レンダリングがおよそ2倍高速化する。
将来的には前述のCycles Xと合わさる形で” K-Cycles with Cycles-X”が利用可能になる予定で、更なるスピードアップが期待されている。
⑧Realistic Glass Shader
ガラス独特の透明感や光の屈折を再現し、味のある質感にしてくれるアドオン。ガラスの表現は綺麗すぎるとCGっぽさが出てしまうため、よりリアリティが欲しい方におすすめ。
⑨Scatter
簡単に植物を生やしたり、雰囲気のある草原を作ったりできるアドオン。植物の量や高さを設定する方法の他に、多種多様な環境の草原のプリセットも利用できる。
⑩Grove
いろんな種類の木や森林を育てられるアドオン。例えば樹齢を20歳に設定すると、ソフトが木の成長をシミュレーションし、20年後の木の姿を表現することも可能。作りたい環境に合わせて、木の種類を追加購入できる。
⑪Auto-Rig Pro
手動では手間のかかるリグを組む(人物などに骨組みを入れる)作業を、ワンクリックで行えるアドオン。作業時間を短縮し、すぐさま動かす工程に進むことができる。
⑫Quake Motion Camera Shake
手持ちの動きやドローンのような動きなど、自然なカメラの揺れを再現できるアドオン。カメラの動きがスムーズになりすぎることなく、実写の感覚に近い表現ができる。
⑬Flip Fluids
流体シミュレーションのアドオン。Blenderの標準機能にあるものと比べると、あまり癖がなく制御しやすいのが特徴。
Blenderの魅力3:マッチムーブ機能
カメラトラッキングが優れていることでも注目されているBlender。Vookのビジョン映像では、TachibanaさんにBlenderのマッチムーブ機能をがっつり使ってCG合成をしていただきました。
撮影に立ち会ったダストマンにTachibanaさんが依頼したことは、できるだけ多くトラッキングポイントを打つことでした。
映像からマーカーを読み取って解析し、CGソフト上で現場のカメラワークを再現することで、マッチムーブを行うためです。
Blenderでは最低8個のマーカーが必要になるところ、実際の現場で打たれたマーカーはなんと78個。マーカーを打つ注意点を、Tachibanaさんは次のように話しています。
Tachibana:なるべく1つの平面だけではなく、奥や左右など、異なる面に対してマーカーがあると、より作業しやすくなります。今回の撮影はとても良い例で、床にもマーカーを打っていただいたので、かなり精度が上がりました。
以下の画像は、TachibanaさんがVookのビジョン映像の実際の編集した際のBlender画面です。マーカーを解析することにより、右上の画面が現場のステディカムと同じカメラワークになります。
上段中央はカメラの画像で、猿の検証用モデルは遠近感が合っているかを確認するために配置したとのこと。
Blenderに限らず、マッチムーブは画面内の視差を読み取り、次のフレームと比較してフォローする仕組みなので、画面内にある程度のコントラストがあると精度がより向上します。
今回は暗めの現場だったため、元の映像をハイコントラストに加工して作業を進めたそうです。
さまざまな機能と魅力のあるBlenderですが、マッチムーブ機能だけでも大いに活用できそうです。
これからBlenderを始めようという方は、Tachibanaさんも参考にしているという、マッチムーブマスターの是松さん のブログは要チェック!また、VookのウェビナーアーカイブにもTachibanaさんによるBlender講座 があるので、是非ご覧ください。
HP ZBook Create G7 Laptop PC でストレスフリーな編集環境
Vookのビジョン映像制作では、HPの様々なPCが登場しました。 特に3DCG編集で活躍したのが、HPのプロフェッショナルクリエイター向けモデル、HP ZBook Create G7 Laptop PC です。
具体的には 、ダストマンさんの編集に使用され、「映像クリエイターを無敵に」というキャッチコピーのモーショングラフィックスの部分などで威力を発揮しました。
第10世代のインテル® Core™ i7/i9、ストレージはM.2のSSDを搭載し、グラフィックボードはNVIDIA® GeForceのRTX2080 Superまで選択が可能というハイスペックモデル。デスクトップモデルとレンダリングスピードを比較検証した結果がこちらです。
パワーでは一般的にノートPCよりデスクトップPCに軍配が上がるイメージですが、HP ZBook Create G7 Laptop PC は第9世代のインテル® Core™ i7 9700KのデスクトップPCを超える大健闘!
普段はデスクトップPCで作業をするというダストマンさんも、ビジョン動画の編集時に特にストレスなく使うことができ、キーボードのキーピッチが通常のデスクトップPCで使うキーボードとほぼ同じという点でも、楽に移行できたそうです。
ノートPCを検討している方は、より詳しいスペックをHP社ウェブサイトでチェックしてください。
日本と台湾、映像業界の違い
現在台湾を拠点に活動しているTachibanaさんは、日本と台湾の両方の現場経験を通して、時間に対する意識の違いに気がついたと言います。
日本人からすると、南国で時間がゆっくりと流れていそうなイメージのある台湾ですが、撮影は基本8時間で、オーバーするときは延長時間に応じて追加料金が発生することが一般的。
そのことがある程度、業界の共通認識になっているため、依頼する側もされる側も、撮影が延びた場合に気まずくならずに済みます。
一方で、言葉も文化も異なる海外だと、日本の現場以上に確認作業とコミュニケーションが不可欠で、きちんと言っても違う結果になったりするという難しさもあるようです。
Tachibana:日本でも、お金と時間に関してなあなあにせず、健やかに映像を作れるようになるといいと思いますね。仕事で言うと、日本はいい意味ですごく気を利かせてくださる方が多い気がします。同じ日本人だからこそ、気の合う部分があるのかもしれません。やっぱり、日本語が通じてごはんが美味しいのはいいですね(笑)
また、Tachibanaさんは、映像技術に関しては日本の方が全体的に進んでいて、姿勢に関しては台湾の方が国際社会に向けてデザインや映像の力を信じて発信したい気持ちが強く表れている印象があると言います。
台湾を取り巻く国際事情が複雑なこともあり、世界へPRする意欲に満ちた力強い作品が多く生まれるのかもしれない、と推察するTachibanaさん。業界の慣習にしても、制作への姿勢にしても、外から見て初めて分かることが、他にもまだまだありそうです。
アーカイブ動画はこちらから
HP史上、最小の15インチラップトップ「HP ZBook Create G7 Laptop PC」
本格的なCG制作などに取り組むクリエイターの新しいスタンダードに相応しく、パフォーマンスは 「NVIDIA® GeForce RTX™グラフィックス」 で、リアルタイムレンダリングと優れたGPUパフォーマンスを可能にします。持ち運びが自由にできる筐体設計により、場所を選ばず作業ができ、デバイスを超えたシームレスなワークフローを実現。さらに、高いパフォーマンスを誇る最新の 「インテル® Core™ i7/i9 プロセッサー」 を搭載しており、2次元/3次元CAD、CIM、3Dデジタルコンテンツ制作、VRなどにも最適です。そして、最新の「第10世代 インテル® Core™ プロセッサー」 が、あらゆる高負荷処理を実行します。
おすすめBlender記事
今話題のBlenderって何?ビデオグラファーが1年間使ってみた感想
Blenderとはオープンソースの総合3DCGソフト。誰でも完全無料で使えるにも関わらず、その機能は本格的。Mayaなどの商用ハイエンドクラスと肩を並べるほどの実力を備えていて、今や大注目のソフ...
Blenderを使ったモーショングラフィックス
台北在住の映像作家 @taka_tachibana です。 元々ビデオグラファーをやっていた僕ですが、ここ1~2年でどっぷりBlenderの魅力に取り憑かれ、現在はCG制作にコミット中。 という...
【Blender】Node Wranglerの使い方解説 | シェーダーエディター向け必須アドオン!
こんにちは、ビデオグラファーからCGの世界へ転身中の@taka_tachibanaです。 Blenderでマテリアル作成するときに利用するシェーダーエディター。 DaVinci Resolveの...
モーションモンスターセッションレポート一覧
SNS時代の映像クリエイターの表と裏~モーションモンスター:セッションレポート~
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 本記事では、VFXを中心にフリーランス映像作家...
LEDウォールを用いることで実写とVFXを融合する。BUMP OF CHICKEN 『なないろ』MVメイキング|モーションモンスター2021
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 DAY4 【どこまで実写で、どこまで合成なのか...
「作りたいもの」をかたちにする。自主規制を外す、変態クリエイターの頭の中 ~モーションモンスター:セッションレポート~
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 映像作家のショウダユキヒロさんをお招きしたDA...
LIKIが実践するモーションデザインの制作スタイルとは?|モーションモンスター2021
2021年6月9日~6月12日に開催されたオンラインイベント、MOTION MONSTER。本記事は、デザインDAYと題した2日目の最終セッション 【映像をデザインする。】 のアーカイブとして、...
バーチャルプロダクションの最新動向を識者が解説。LEDウォールとは? インカメラVFXとは?|モーションモンスター2021
2021年6月9日~12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。DAY3のCG・VFX DAYには、中でも技術的に最...
EDP graphic works流「伝える・伝わるモーションデザイン」 |モーションモンスター2021
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 DAY1最後のセッション 【伝える・伝わるモー...
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
コメントする