2021年6月9〜12日に開催された、日本最大級のモーショングラフィックスイベント「モーションモンスター(Vook主催)」。
その中で開催されたDance Motion Awardは、プロのダンスチームの素材を使った、日本初のモーショングラフィックスコンテンストです。
今回はそのグランプリ受賞作品の制作者、ayato@webの藤井彩人さんに制作の秘密の一部を伺いました。
ゲスト:ayato@web 藤井彩人 さん
日本テレビ放送網(株)チーフ・アート・ディレクター。数多くのテレビ番組のタイトルやCGデザインを担当。近年はAR関連のサービス展開・研究開発に取り組む。
AfterEffectsのチュートリアルサイトayato@webの運営者。
インタビュアー:ダストマン
3年間勤めていた映像プロダクションを退職し田舎へと移住。広島を拠点に、TVやWebのCMをメインにエフェクト・モーショングラフィックス・VFX・コンポジット業務をフリーランスで請け負いながら、After Effectsのチュートリアル動画を主に発信しているYouTubeチャンネル『ダストマンTips』を運営。
グランプリは、20年来のAEチュートリアルの元祖
ダストマン:藤井さんと言えば、ayato@webというAfter Efects(以下、AE)をメインにしたチュートリアルサイトを約20年前から運営されていますよね。
僕もそうですが、5年以上前からAEを扱われてる方の中には、ayato@webを参考に技術を磨いた人も多いんじゃないでしょうか。
ダストマン:そんなAEの始祖である藤井さんに、現在YouTubeでAEのチュートリアルを発信してる僕が、色々とお話をお伺いしたいと思います。
藤井:ダストマンさん、よろしくお願いします。この度はグランプリに選定いただきありがとうございます!
ダストマン:まさかDance Motion Awardに参加されていたとは、びっくりしました。
まずその作品を見てみましょう。
ダストマン:それにしても、いきなり優勝ってカッコ良すぎません?グランプリが決定した時はどう思われましたか?
藤井:正直、めちゃくちゃホッとしました。笑
ここ数年はオープニングタイトル系の動画を作っていなかったので、自分の腕前がどこまで通用するか不安だったんですけど、「まだイケる!」と思いましたね。
結果発表の配信は自宅のリビングで見ていたんですが、家族全員で「うそ!グランプリ!?」と驚きました。
素材の提供条件と、ダンスの質に駆り立てられて
ダストマン:どういった経緯でこのコンテストにエントリーされたのでしょうか?
藤井:映像制作の業界では、撮影したクロマキー素材を他の人に共有することってほとんどないと思うんです。クロマキーの撮影にもいろんなノウハウが詰まっていますし、権利的な問題もあります。
そんな中で、今回はエントリーのためのクロマキー素材が配布されているということだったので、どんな素材かちょっとのぞいてみた、というのがきっかけです。
Adobe After Effects上でのクロマキー素材の加工画面
藤井:実際にクロマキーのファイルをAfter Effectで読み込んでみたら、プロダンスチームの動きがすごくかっこ良くて。気が付いたらカット編集していたという感じです。
ダストマン:これだけの完成度にするには、試行錯誤も含めてかなり時間がかかったんじゃないですか?
藤井:平日は仕事があるので、なるべく試行錯誤が少なくなるように、簡単なスタイルフレームをPhotoshopで作ってから制作に入りました。
実際の作業時間は、金曜と土曜の夜に4時間ずつ、8時間×4週=32時間くらいですかね。
ダンス映像と楽曲を切り離すのはNGという規定があったので、どの部分を使うかは、相当悩みました。
「標準機能だけで表現し切る」という挑戦
ダストマン:Trapcode Particularのようなプラグインも使ってますか?
藤井:最初は使おうと思ったんですが、結果的にはやりたい表現がすべて標準機能で再現できそうだったので、途中から 「すべてAfter Effectsの標準機能でやりきる!」という目標を自分に課しました。
ダストマン:あえて標準機能に絞ったのは、何か理由があったんでしょうか?
制作過程動画 カット編集・キーイング
藤井:元のダンス素材が本当に良い感じだったので、それを「どう編集して見た目を整えるか」というところに注力したかったんです。
空間作りやカメラワークに時間をかけていて、エフェクトが主役ではなかったこともあって、標準機能で作り切ることができました。
キーイングは細部の完成度を上げる鍵
ダストマン:キーイングが大変な素材だったと思うのですが、どういう作業をされましたか?
藤井:まさに、キーイングはすごく大事だと思います。
今回のグリーンバック素材は、ファイル形式がMP4だったことや、白い衣装への緑の照り返しもあって、エッジの抜けなどのディテール部分を出すのにかなり苦労しました。
藤井:エフェクトは「Keylight」を使っていますが、足元の影は別処理で取り出しています。接地感や空気感を出すために、足元の影は結構重要になってきますね。
ダストマン:まさに衣装の照り返しについては気になっていました。少しネタバレをお願いできますでしょうか!?
制作過程動画 ライト
藤井:衣装の照り返しについては、Photoshopの「Dual Lighting」や「Double Light」という技法で再現しています。
探せば色んなチュートリアルがあると思いますが、簡単に言うと 「人物にオーバレイモードで色をのせると、そこだけ色照明があたったように見える」 というものです。
今回は動画でやる必要があったので、レイヤー効果とエクスプレッションで自動化して表現しました。
狙った表現のためには、クセのあるエフェクトも駆使する
ダストマン:演出の中でも輝きを放っていた、ダンスの軌跡アニメーションについても教えて欲しいです!
制作過程動画 うねり
藤井:あれ気になりますよね。笑
SORAさんというダンサーさんの動きがすごく独特だったので、うねうねしたエフェクトで動きを拡張したいなぁと思って、モーショントレイル効果を追加しました。
Trapcode Particularを使うと簡単に再現できそうな表現ですが、今回は 「パーティクルプレイグラウンド」というエフェクトで作成しています。
このエフェクトはかなりクセがあるのですが、今回は動きの”うねり”を表現するために活躍してくれました。
AEスキルをさらに上げたい方のために
ダストマン:結果発表の際、「制作過程の講義をしてほしい」という熱いコメントが寄せられていましたね。
藤井:そうなんです。Vookさんからも制作過程の詳細解説の依頼をいただいて、AEを本気で使っている方々向けに、有料ウェビナーを開催することになりました。
有料なのには理由がありまして、ウェビナー参加者には今回のプロジェクトファイルを一式まるごと配布予定です(※注:ウェビナー受付およびファイル配布は終了致しました)。
先ほどの衣装の照り返しや、うねりアニメーションの解説はもちろん、実際にご自分のPCでコンポジションの内容を確認できるような形式にしたいと思っています。
ダストマン:楽しみですね!今回のお話だけでは「聞き足りない」「もっと知りたい」という方はぜひご参加いただければと思います。どうもありがとうございました。
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
コメントする