2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。
DAY4 【どこまで実写で、どこまで合成なのか -BUMP OF CHICKEN 「なないろ」制作の裏側-】 は、なかなか見ることの出来ないCG制作の裏側に触れる貴重なセッションとなりました。
ゲストはKASSENの太田 貴寛さん。実写と合成の見分けのつかない幻想的な映像が出来上がるまでの、想像もできない制作過程や工夫を詰め込んだ撮影方法にスタジオも大興奮。さらに、そうした作品の制作に情熱的に取り組むチームメンバーとの連携や、社名である「KASSEN」に込めた思いにも迫ります。
登壇者
KASSEN 太田 貴寛
VFX Supervisor / Director
Google、ソフトバンク、コカ・コーラをはじめとする大手企業CMや、ミュージックビデオの仕上げなどを担当。制作部出身の知識とファシリテーションスキル、発想力とコミュニケーション能力を武器に、企画段階からスーパーバイザーとして参加することも多数。2020年に株式会社KASSENを立ち上げ、ジャンルに囚われず、情熱的なアプローチでCG・VFXを作り続けている。
▼ BUMP OF CHICKEN 『なないろ』MV
監督の思いとイメージを汲み取る
BUMP OF CHICKEN『なないろ』MVの制作の裏側に迫る本セッション。コンセプトアートや絵コンテなどの豊かな資料の数々からは、監督の持つ確固たるイメージとそれらを「汲み取り、形にする」KASSENチームの姿勢が垣間見えます。
太田:
「なないろ」監督の林響太朗さんは、ビジュアルのイメージをしっかり持っている方で、いつも資料をたくさん用意してくれるんです。もちろん委ねてもらってこちらから提案することもありますが、今回は詩や思いをまとめた企画書やコンセプトアートがあり、それを見て皆が汲み取るような形でスタートしました。
それらを通して、監督の中にあるイメージをどう実現するのか、尺の中にどう収めるのかといった手法面はもちろん、「どうしたら、映像を見た人にこのままのイメージを残せるか」をスタッフ皆が共有していきます。
MVって最初の企画のまま最後までいけない事も多いんですが、紆余曲折あって出来上がった後に振り返ってみると、最初の企画の通りになっていたりするんです。初期衝動として持った「こうしたい」を、監督が諦めずに最後まで持っていけるよう、僕たちもなるべく汲み取って取り組みたいと思っています。
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イメージを共有するための試行錯誤が、チームの一体感を作る
コンセプトアートや絵コンテから一歩進み、実際にCG/VFXを制作していく過程には様々な障壁があります。動きや表現のディティールを共有する「あっと驚く」方法には、KASSENチームの試行錯誤の跡が見えました。
太田:
『なないろ』は撮影とCG/VFXがかなり密接な作品。しかも、撮影してから10日前後で仕上げないといけないスケジュールだったんです。そのため、事前に「プレビズ」を作りました。実写撮影とCG撮影の尺割りや、予算、作業工数などを読めるようにするために、1回ラフに作って繋いでみたものです。50-60人という大人数でやらないといけないことは見えていたので、イメージの共有のためにという意味あいもありますね。
その中で「とりあえず1回やってみよう!」と勢いで作ったものには、こんな動画もあります。アニメーションを発注するにも雰囲気が分からなかったのと、お願いするのに「俺たちもこれぐらいやってるんだぜ!」と示す意図もありました。
下に寝転んでるのが僕。「風があった方が雰囲気が出るんじゃないか」と思い、ドライヤーで風をあてています(笑)。人形の髪の毛もティッシュで作ってくっつけて、一番なびきやすいものを研究したりしながら。
人物が「回転しながら落下する」動きの「どう回転するのか」のイメージが伝わりにくいと思って作ったんですが、アニメーターの方は皆汲んでくれました。これを作る必要がなかったぐらいに(笑)。でもこの作業を通して、KASSENメンバーの中での一体感が出たと思っています。
現場で出来ることと、CGで出来ることを組み合わせる
イメージ通りの表現を作るためには、撮影とCGとが綿密に連携することが必要です。今回、現場での臨機応変な撮影が、実写とCGとの境目がわからないシームレスな映像作りに一役買ったようです。
太田:
実は今回、「LEDウォール(※)」を使用して撮影しています。ただダイナミックさを求めた結果、カメラに連動するように組んだものを結果的に崩したりしています。どうにもならない所は、LEDの背景に青を写してブルーバックにして撮影して、あとでマスクを切ったりしています。
**LEDウォール*とは…
LEDパネルを自由に組み合わせることで、屋内外問わず、様々なサイズ・形にカスタマイズすることができる映像ビジョンのこと。ロケーション撮影がいらない新しい撮影手法として注目が高まっています。
つまり今回の映像には、実写で撮った素材とブルーバックで合成しているカット、実写×LEDウォールのカット、人も全部CGで制作したカットなど様々なパターンが含まれているんです。
本当はCGでやらなくても良かった所もCGになっていたりするんですが、あえてCGでやったことによって「逆にどこがCGなのか分からない」状態に出来たのかなと。「寄りは実写、引きはCG」だと、引きだからCGだなと思われてしまいますが、予想外のところにCGを使っています。
あとは落下の場面も、雲の中から落ちている表現をするために、風とともにスモークを送っています。人物に当たって反照する煙を後でCGで作るのはとても大変。現場で少し焚いているだけで、かなり効果があります。現場で出来る事は現場で行い、それをさらにCGでブラッシュアップするんです。
現場では、監督や撮影チームと話しながら「ここはCGでこうします」と話しながら決めていきました。現場の時間は有限なので、限られた中でどれぐらいまで出来るか、駆け引きしながらですけどね(笑)。
最後に大切になるのは「なんとしてもやる」強い気持ち
少し変わった仕上げのワークフローだったという「なないろ」。タイトなスケジュールの中でも、最後までベストな表現を探って取り組む過程こそが作品を1段階押し上げたようです。
太田:
まだシミュレーションが入っていない状態から、作業後は髪や服に動きが入ってこのようになります。
CGソフトはMayaが多く、コンポジットはNukeというコンポジットツールと、AutodeskのFlameを使用しています。僕がFlameを使っているので、CGから来たものをNukeでまとめ上げてコンポジットしたものをFlameに出してもらってさらに詰める、という流れをとっています。
タイトなスケジュールだったので、バラバラとしたCGデータをまとめる所に至ったのがラスト2日くらい。監督がPremiere Proで編集作業をしていたので、データを色の浅い状態で納品して、監督がカラコレするというワークフローをとりました。最後は、作業が終わったカットを五月雨式にGoogleドライブにあげてダウンロードしてもらったり、ダウンロードも間に合わないからハードディスクに入れて届けたり(笑)。
また、最後のパートは元々2Dだったところを、直前で僕が「3Dにした方がいい」と言い出して変えました。スタッフも「えっ!?」って感じだったので、とりあえずどうすればいいかを示すために作ったVコンがこちらです。
これを基にアニメーターが制作してくれたのがこちらです。
全行程通して大変な制作でしたが、それが出来たのは、監督に食らい付いて行く気持ち、「何としてもやらなきゃ」という粘りの気持ちでしたね。
本当にいいものを作るために「皆で戦う」
「なないろ」も、独自の制作スタイルで作り上げたKASSENチーム。立上げから約半年、代表の太田さんはどのような経緯でこのチームを作ったのでしょうか。そこには、太田さん自身の映像制作に込める思いが滲んでいました。
太田:
KASSENを立ち上げたのは2020年の末で、その前はkhakiというVFXスタジオにいました。もともとはCMのプロダクションで働いていたところ、khaki立ち上げ時に代表の水野さんの弟子にしてもらって、CG制作のキャリアが始まったんです。
様々な作品に携わりましたが、MVやCMの制作本数を増やしていく中で、個人プレーでやることが増えて辛くなってしまったんです。「もっと皆で効率良くやれば、もっと皆で大きなことが出来るのに」と常々思っていました。
それをより強く感じたのは、実写映画『約束のネバーランド』に参加した時。映画監督になりたいと思っていた時期もあり、どうしても映画の仕事をしたかったのですが、VFXをまとめるリーダーとして指名してもらえることはそれまで無かったんです。たまたまカメラマンの今村圭佑が大学の同級生で、彼がメインカメラマンとしてやるからと声を掛けてくれたのが参加のきっかけ。映画には多くの人が関わるため、責任感も信頼も必要で、1本目が重要なんです。それまでに映画の話を頂いたこともありましたが、「1本目としてやるならこれだ」と思って『約束のネバーランド』に参加しました。
大変な作品ではありましたが、挑戦してみて、やっぱり「皆で時間をかけて、じっくりワークフローを整備していいものを作る」のは凄く面白かったんですよね。個人制作も素敵だと思うんですが、本当に大きいもの、いいものを作るには、皆でやらなきゃいけない。「KASSEN」は、個人プレーではなく「皆で戦おう」だから「KASSEN」なんです。
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