2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。
映像作家のショウダユキヒロさんをお招きしたDAY1_2 【「作りたいもの」をかたちにする。自主規制を外す、変態クリエイターの頭の中】 は、「変態クリエイター」の頭の中を覗く異色のセッション。衝撃の広告映像「HECATE」制作の裏側や、ショウダさんがアメリカにいったワケ、そして作品に欠かせないトリートメントを引き合いに「ディレクターの仕事とは何か」に迫りました!
登壇者紹介
ゲスト ショウダユキヒロ (写真中央)
司会 ダストマン (写真左)
司会 白戸裕也 (写真右)
※プロフィールは記事の最後に記載しています。
「アメリカ meets なにわ」の代表作「HECATE」の誕生
ダストマン:ショウダさんの作品は昔から見ていて、印象に残っている作品が多いですね。海外でやっていく気概がバチバチに感じられて、本当にすごいなと思ってます。
ショウダ:褒めてくれるのは嬉しいですね。ちなみに会ってみて、見た目はどう感じましたか?
ダストマン:髭がすごく良くて(笑)。くるんと違和感なく生えている感じが羨ましいなと思いました。
ショウダ:やっぱり髭すか。よく「もっと細いと思った」と言われたりするんですよね。
ダストマン:作品がシュッとしていますからね。僕はショウダさんの作品の中で、特に 「HECATE」の広告映像 が好きなんですよ。
【「HECATE」広告映像】
ショウダ:HECATEは 「アメリカ meets なにわ」 みたいな感じで、アメリカに来て2年半ぐらい経った時の作品ですね。
白戸:本当に刺激が強い作品ですよね。クライアントがよくOKを出してくれましたね。
ショウダ:もともとは「一家がシラフで上がる」という企画です。今思うと企画段階から少しイかれてますよね(笑)。ラストでおじいちゃんがバーっと解答している内容が、代理店が初めに表現しようとした企画です。その内容をクイズ番組に組み込むというアイデアを提案しました。作品内容はハチャメチャなんだけど、画面に映る全てを美しくする事で日本人以外が見ても「これめっちゃかっこいいやん」となるようにクラフトに拘りました。僕から世界へ「大阪出身アメリカ在住の俺、今こんな感じっす」を出した代表作。変態性をどんどん出していった作品ですね。
ダストマン:「アメリカでこれからやっていくぞ」っていう、ショウダさんの気合を詰め込んだ作品なんですか?
ショウダ:それはあります。クライアントワークでも存分に楽しませていただきました。
プロのビデオグラファーを目指す学校、はじまる。入学生募集中。
PR:Vook School
尖った作品作りには、クライアントも喜ぶセンスが必要
ダストマン:これは今回のラフのデザイン・イメージ絵なんですが、かっこいい絵画が出てくるのは面白いですね。
ショウダ:俺よりも絶対センスある東京芸大の人に描いてもらいました。これはトマ・クチュールの「The Romans in their Decadence(退廃期のローマ人たち)」という絵をリファレンスにしています。日本人がシラフで上がるのを、退廃的に表現しました。
ダストマン:スタッフィングも、作品の世界観に合わせて声がけしているのですか?
ショウダ:そうですね。そこが重要で、例えばHECATEではイタリアからルカっていうライティングが上手なカメラマンを呼んだんですよ。この仕事をしていると、センスのある人と巡り会う機会が多いんです。僕はセンスが悪い方なんで、もっと頑張らないといけない。だから、いつも世界と比べて「こんな恥ずかしいもの作ってしまった」と思います(笑)。
ダストマン:いやいや(笑)。これは自信を持って出せる作品だと思いますけどね。僕「お客さんの案件で、こんなの作っていいんだ!」と思いましたもん。
ショウダ:このジョブに関わった全員がめっちゃ喜んでいましたよ。俺だけが満足しているわけではないくて、クライアントにもものすごく楽しんでもらえました。取締役会でちょっと怒られたらしいけど(笑)。
白戸:怒られたんかい(笑)。
作品作りに欠かせない「トリートメント」とは?
ダストマン:ショウダさんのキャリアのスタートはモーショングラフィックスから、と聞いたんですが、本当ですか?
ショウダ:本当です。ポスプロで営業に回されたんですが、すぐに上司からも「お前は営業は不向き」と判断され担当外されたんです。「俺には作ることをやらせろ!!」って言ってモーショングラフィックスをやらしてもらったんですが、世界中のセンスの良いクリエイターの作品には及ばす結局挫折しました(笑)。
白戸:すごい、壮絶ですね(笑)。
ダストマン:それからどういう経緯でアメリカに行かれたのですか?
ショウダ:もともといつかはアメリカに行こうと思ってたんですよ。「YouTuberになろう」というTVCMでHIKAKINさんを撮影した時、「やばい、アメリカから黒船が来てる。世の中が変わっていく」って衝撃を受け、すぐにでもアメリカに行かなきゃと思いビザの申請を早めました。
ダストマン:まさかのHIKAKINなんですね。
次もう1個作品があって、ショウダさんが Adobe Stockの映像だけで作った作品 「Wonderful Lives」 です。
【Wonderful Lives】
ダストマン:これはどういう経緯で作られたのですか?
ショウダ:お世話になっているプロデューサーから「映画祭に日本人の参加クリエイターを探してる」という電話が来て、「OK!やる」と即答しました。その時点ではまだ仕事が確定しているのではなく、「トリートメント」を作らないといけなかったので、そこからですね。
ダストマン:トリートメントっていうのは企画書のことですか?
ショウダ:ちょっと違いますね。トリートメントはディレクターの考え、どう撮って、どんなコンセプトで、シーンがどういったトーンやムードなのか、映像に関わる全ての要素を、必要な分だけ事細かに説明するものです。作り手が何を考えているか、それを世界では最初に作らせる文化なんです。
ショウダ:今、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が蔓延している中だから、ポジティブな作品を作りたいと思ったんですよ。
フランク・キャプラ監督の 「It`s a Wonderful Life(邦題:「素晴らしき哉、人生!」)」 という映画があって、それはクラレンスという下級天使が、クリスマスの夜に自殺しようとしているジョージを救う話なんですね。「映画のように、この現実の世の中を天使が救ってくれたら最高じゃん」と思い、この映画にオマージュを捧げました。
ショウダ:これが脚本。神様と2軍の天使が話しているシーン。神様は「今世界中が大変なことになっているから、お前ら地球に行って人間を助けてこい」と。天使は「はい、分かりました」って言うんだけど、下級天使のためちょっとアホだから「何のために行くの?」っていうような寸劇を入れたりしています。
ショウダ:使う画の一覧です。素材はもちろん全部Adobe Stockから取りました。話を作る前に、「このショットだけは欲しい」というキーショットがあるか探してみるんですよ。
「It`s a Wonderful World!」では、天使が人を助けたらベルが鳴る。クリスマスベルがたくさん鳴れば、たくさんの人が助かるという意味になる。だから最後にベルの美しいショットがどうしても欲しかったんんです。「OK、これならいける!」ってショットが見つかったので、一気に脚本を仕上げました。ハッピーな話でしょ?
白戸:確かに。こういう時期だからこそですね。
ショウダ:そうそう。普段こんな作品作らないんだけどね(笑)。
暗黙の了解はない。自分の考えを伝えるための「トリートメント」
ショウダ:Adobe Stockって良い素材いっぱいあるんですよ。その代わり、ウォーターマークを付けたまま編集するとクリエイティビティが落ちるから、外したやつをくれと交渉したんです。ちょっと喧嘩になりましたけど(笑)、言いたいことは言わないと駄目ですね。
ダストマン:これらがトリートメントになるってことですね。
ショウダ:そう。アートディレクションどうするか、プロダクションデザインどうするか、必要なことを書かないといけないんですよ。「僕の描きたい世界観、分かっていただけますでしょうか?」って説明するのがトリートメントです。
白戸:Adobe Stockの素材だけでちゃんと作品として出来上がっているのは、ストーリーがあってこそだなと思いました。
ダストマン:海外では映像文化としてトリートメントを作るものなんですか?
ショウダ:そうですね。考えもまとまるし作った方がいいと思いますよ。
ダストマン:確かに、日本だと「なんとなく」とか「流れで」とか結構あると思うんですよ。
ショウダ:あるあるですね。僕もそうなんですよ。「よろしくー」みたいな(笑)。だけど世の中には、いろんな人間がいて、考え方もいっぱいある。「ちょうど良い感じ」の「ちょうど」を言葉で説明する必要があります。
日本人は単一民族なんで「だいたいこういう感じ」って曖昧な言葉でも共通認識できる部分はあるんですよ。だから主語とか、時に目的語さえ会話に出てこなくても会話が成り立つ。
ダストマン:ショウダさんは昔からトリートメント作られていたんですか?
ショウダ:大阪のミナミ生まれの人間がトリートメント作るわけないでしょ。僕は「皆さん、僕がやりたいことを分かってください」って説明するのが、めっちゃ嫌だったんですよ。大学の卒業制作なんか、ポケットに手を突っ込んで「見たらわかるやろ」って言ってましたし(笑)。
白戸:相当尖ってますね(笑)。
ショウダ:本当に、今思えば恥ずかしい(笑)。
ダストマン:僕らや若い世代のクリエイターが、これから何か映像を作る上で、トリートメントは絶対に作った方が良いですか?
ショウダ:監督やディレクター関係なく、絶対作った方がいいですよ。いろんな人に自分の考えをまとめて説明すると、仕事がよくできるようになると思います。それに言葉にまとめないと、自分自身がやりたいことを理解できないですし。
アーティストを目指すなら「自主規制」なんてものは外す
ダストマン:学生さんや僕ら世代のクリエイターへアドバイスはありますか?
ショウダ:どんどんやれって感じです。自主規制なんて、そんなもん自分で自分を規制していても仕方ないし人生不幸せじゃん。アーティストになるとしたら、自主規制がどうのとかFuck youぐらいに思う。
白戸:1回外すってことですね。
ショウダ:そう。それは作品の表現だけじゃない。自分が目指したい未来とかあるじゃないですか。自分をリミットしていく行為自体、全くいらないと思います。
ダストマン:ヒカキンを見習えと。
ショウダ:あいつすごいっすよ。毎日撮ってるんですよ?俺は絶対に無理。尊敬しかないですよ。
ダストマン:YouTubeのコメントで「私も変態になりたい」ってきてます。
ショウダ:なったらええがな(笑)。
ダストマン:僕もYouTubeでカメラのレビュー依頼があって、近所に住んでいるおじいちゃんに手振れ補正を試してもらうっていうのをやったんですよ。自主規制を外してやらせていただきました。僕なりの第1歩でしたね。コンプライアンスもあるので、ちゃんと実際に仲の良いおじいちゃんにお願いしました。
ショウダ:良いじゃないですか。クライアントを安心させるのは本当に大事。リミットを外すんだったら、バランスも大事。客のことも考えて、自分の作家性も考える。それらを繋ぐのがトリートメントなんじゃないですかね。
ダストマン:確かに、HECATEもあれだけ美しい映像だったからこそ、あのネタがOKだったところもありますよね。
ショウダ:そうそう。クライアントのブランディングもあるじゃないですか。求めるべき美はちゃんと極める。僕も、トップクラスのアーティストが作る作品を見て「いつか俺はこういう作品を作りたい!」と思って、日々勉強させてもらってます。
ダストマン:YouTubeのコメントで「20年ともに過ごしてきた脳が初めて停止しました」とも書いてあります。ずっと自主規制をかけてきた脳のリミットが、だんだん外れている来ている人が多いみたいです。
白戸:皆さんのリミッターを外したセッションですね。
ショウダ:すげえ。伝説だわ(笑)。
登壇者紹介
ゲスト:ショウダユキヒロ
映像作家。東京とロサンゼルスを拠点に活動する映像作家。京都工芸繊維大学で建築とデザインを学んだ後、ポスプロを経て監督として独立。以降、物事の本質を捉えた映像作品を作り続けている。日本特有の大衆文化を西洋的エスセティクスをベースに表現するのが特徴。ブランデッドフィルムーHECATE - What Happened?ではCICLOPE Festival 2019 グランプリ受賞。現在は、長編映画を製作中。
https://www.yukihiroshoda.com/
司会:ダストマン
3年間勤めていた映像プロダクションを退職し田舎へと移住。広島を拠点に、TVやWebのCMをメインにエフェクト・モーショングラフィックス・VFX・コンポジット業務をフリーランスで請け負いながら、After Effectsのチュートリアル動画を主に発信しているYouTubeチャンネル『ダストマンTips(https://www.youtube.com/channel/UCDwwZiOLmFWV_YmOgAks5Ug)』を運営。
司会:白戸 裕也
Motion Designer / Editor、日本大学芸術学部放送学科卒業。大手制作会社にて、テレビCM・WebCMのポストプロダクションを経験。サイバーエージェントにて、ABEMAの番組宣伝映像やオープニング映像、イベント用映像などの編集を担当。現在は、オンライン動画制作に特化したクリエイティブ集団「6秒企画」にて、モーションデザイナー、エディターを務める傍ら、映像系イベントにも多数登壇、記事も執筆している。
6秒企画 HP:https://www.sixseconds.co.jp/
―――
アーカイブ動画はこちら
モーションモンスターセッションレポート一覧
ここがスゴいぞ、Blender! 使えるアドオン13選も! Vookビジョン映像でBlenderを使ってみた|モーションモンスター2021
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 DAY3の最終セッション、【ここが凄いぞ!Bl...
SNS時代の映像クリエイターの表と裏~モーションモンスター:セッションレポート~
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 本記事では、VFXを中心にフリーランス映像作家...
LEDウォールを用いることで実写とVFXを融合する。BUMP OF CHICKEN 『なないろ』MVメイキング|モーションモンスター2021
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 DAY4 【どこまで実写で、どこまで合成なのか...
LIKIが実践するモーションデザインの制作スタイルとは?|モーションモンスター2021
2021年6月9日~6月12日に開催されたオンラインイベント、MOTION MONSTER。本記事は、デザインDAYと題した2日目の最終セッション 【映像をデザインする。】 のアーカイブとして、...
バーチャルプロダクションの最新動向を識者が解説。LEDウォールとは? インカメラVFXとは?|モーションモンスター2021
2021年6月9日~12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。DAY3のCG・VFX DAYには、中でも技術的に最...
EDP graphic works流「伝える・伝わるモーションデザイン」 |モーションモンスター2021
2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER。 DAY1最後のセッション 【伝える・伝わるモー...
Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
コメントする