SNS時代の映像クリエイターの表と裏~モーションモンスター:セッションレポート~

2021.07.16 (最終更新日: 2022.06.09)


2021年6月9日~6月12日の4日間にわたってオンラインで開催された日本最大級のモーショングラフィックスイベント、MOTION MONSTER

本記事では、VFXを中心にフリーランス映像作家として活動するきむらえいじゅんさんをゲストに招いたセッション 【SNS時代の映像クリエイターの表と裏】 のダイジェストをお届けします!

きむらさんは、1つのコンテンツでTikTok 2,700万回再生という驚異の数字を叩き出し、その後もTwitterやInstagramをはじめとするSNSで、“バズる動画”を発信し続けています。

今の時代、映像制作とSNSは切っても切れない関係にあると言っても過言ではありません。

「どうすればバズるのか?」
「バズる動画を作るPC環境は?」
「やりたいことと再生数はどちらを優先?」

プロアマ問わず誰もが気になるこうした疑問について、きむらさんにたっぷりお話しいただきました!

登壇者紹介

きむらえいじゅん
VFXアーティストとして、広告,テレビドラマ,MVなどのエフェクトを担当。Twitter,TikTokに動画を投稿し、TikTok(計8本)での再生回数は3400万回以上。SNSでの映像表現を模索中。
Twitter
Youtube

バズる動画の方程式は存在するか?

きむら:どうすればバズるのかは考えますが、運の要素があまりにも大きすぎると僕は思っています。例えば、ひんしゅくを買うかもしれないことや伝わりづらくなる要素を、できるだけ排除していく努力はしています。

でも、「タワー“PC”マンション」の動画にしても、やはり初めからTikTok で2,700万回の再生数を狙っていたわけではなく、あくまで1つの結果なので、同じことをして再現できるかどうかは自分でも疑問です。

「タワー“PC”マンション」

結果論になりますが、投稿した動画の視聴データを分析してみると、日本人以外にもアジア圏の方の視聴割合が高いことが分かりました。僕の知らない言語でコメントがついていたりもして、要するにこの動画は言語の壁を越えることができたんですよね。

言語の壁を越えられれば、そこから年配の方や若い方といった幅広い年齢層にもさらに伝えられる可能性が出てくるので、そもそも「どうすれば言語を越えられるのか」は、僕自身ずっと考えていくところだと思います。

あと、僕の動画は1回では全部見きれない内容を6秒くらいに詰め込んでいるのですが、個人的に動画の尺は、短いと感じるくらいがちょうどいいと思います。

実は「タワー“PC”マンション」はTikTokに僕が1本目に上げた動画で、フォロワーはほぼいない状態でした。ということは、おすすめのフィードに載る動画はAIによって選別されていて、おそらく全部の尺が視聴されると動画の評価が上がり、高評価の動画はおすすめに出やすくなる、といったシステムで動いているのだと思われます。

ちなみに投稿時間は土曜日の19時56分に決めています。理由は、テレビがよく見られる時間帯だという僕の仮説からきています。19時台の番組が終わって20時からの番組が始まるまでの CM の間に携帯をいじる人が多いだろうから、19時56分頃に動画を公開すればよいのではないかという浅はかな考えです(笑)。

時間を決めておけば、動画がウケたりウケなかったりした原因を分析するときに、「この時間だったからかもしれない」と投稿時間のことを考える必要がなくなります。

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伸びる動画にはコミュニケーションがある

きむら:これも仮説ですが、言語の壁を越えることに加えて、動画の中にボケを用意しておくことはSNSで再生数を伸ばすポイントかなと感じています。「タワー“PC”マンション」は、タワーマンションとタワー PCを掛けたら画的にも面白そうだなと思ったのを形にしただけで、もとは親父ギャグ、おふざけみたいなものです。

ただコメントを見ると、「めちゃくちゃ発熱すごそう」、「うるさそう」、「何階に住んでるんですけど」とか、ツッコミが結構多いんですね。動画を見ている方々は、気になるところを見つける力がすごく高いというのが僕の肌感としてあるので、突っ込めるようにしておくと、盛り上がってコミュニケーションが生まれます

この動画にも細かいネタをたくさん仕込んでいて、例えば、中央にぶら下がっているストラップに「威風労働」と書いていたり、最後に出てくるトレーの真下に表示される文字を、”Setting”の方がカッコいいのに、ふざけてローマ字で”Settei”にしていたりします。

こうしたところにツッコミを入れてくれる方がいて、コメント欄が大喜利のようになっていますね

キャッチコピーで伝わりやすく

きむら:「ストロングゼロ」は、初めて1万リツイートを超えた動画です。これをきっかけに、ハウスウェルネスフーズさんの「ウコンの力」 や花王さんの「ふろ水ワンダー」 の広告映像、レペゼン地球さんの「O2MEN」 のミュージックビデオといったお仕事の依頼をいただきました。

この動画には、より伝わりやすくするために「これが日本の福祉です」というキャッチコピーをつけています。「ストロングゼロは、飲む福祉」というインターネットミームがあったので、それを拡張して、SFとしてストロングゼロが福祉に取り入れられているという設定で作り込んでいきました。

架空の設定から想像して、細部にこだわって作るのが好きなタイプなので、どうすればもっとより多くの人に楽しんでもらえるか、喜んでもらえるかっていうことを考えて、キャッチコピーの本も読んだりしていますね。

「ストロングゼロ」

「こういう世界だったら、こうなるだろうな」という感覚で、自分が思う世界を広げていけばいいと思います。僕の場合はTwitterで営業のような活動をしているので、例えば動画を見た企業さんが「こういうことをやりたいです」と言えるものにしようと意識しています。

それにとらわれなくてもいいのですが、社内の企画書などに載せてもらうには、 やはり相応の考え方が必要になるのかなと思うからです。

具体的に言うと、このときは見た目をカッコよくするためにグリッチを入れたい気持ちがありました。でも、「架空のサントリーさんがこういうものを実際に出したとしたら、グリッチを入れたまま出すだろうか?」と思ってやめにしたんです。

グリッチを入れたままにするのは、バグがある状態でリリースするということで、サントリーさんなら恐らくそうしないだろう、という思考回路ですね。

パロディをさせていただく企業さんにとって悪くない状態にしておく方が良くて、「OREO」の制作時に質問があって問い合わせメールを送ったときは、OREO の会社の方から「面白いものを作ってくれてありがとうございます」という言葉をいただきました。そんなふうに感謝されることもあったりします。

「OREO」

バズらなかった経験からの学び

ゴールデンウィークを全て費やして制作した「AppleWatch非公式拡張MOD 」ですが、再生数は伸びませんでした。テクニカルな部分でいろいろ足りないところもあるのですが、いちばん大きな原因は、「これ何の動画なの?」という分かりにくさにあると考えています。

何を伝えたい動画なのかを一言で説明しづらく、それが伝わる表現にもなっていなかったんです。Watchの部分をもっとよく見てほしいなら、後ろはがっつりクロップしてズームして見せることもできたはずですが、全体を見せようとして、結局どこに目を向ければいいか分からなくなっています。

動画を公開するたびに、「ここはこうだったかもしれないな」ということをメモしながら、振り返りをします。いつもよりシェアや再生数が伸びなかったことで正直へこみましたが、だからといって動画自体が悪いわけではなく、作る過程や公開後の振り返りから学びが得られたと思います。

他の動画が思っていた以上に伸びることもあって、結果は予想ができないものです。いずれにせよ、僕の場合は全力でやらないと結果を出せないので、納得がいくまで「これは違う…、これも違う…」とすごく悩みながら作っています(笑)。

クリエイターとしての自己と再生数

きむら:周りの評価や再生数という基準値があるからこそ、そこを目指して頑張っていくという考え方があります。そうした中で、再生数を稼ごうとする自分、みんなが幸せになれるような映像を作ろうとする自分、クリエイターとしての自分など、いろんなものが乖離してくるのを、僕も経験しています。

僕の動画が初めてバズったのは、2019年のことでした。そこから、人に喜んでもらうにはどうすればいいのか、1年間いろいろな動画を出しながら実験していましたが、年末に 「もう映像を作りたくない」と思っている自分に気がつきました

2020年1月の三が日ぐらいに、自分の好きなことやってみようという気持ちで動画をボンと公開しました。人に喜んでもらうために1年間やってきた上で、2020年は自分が作りたいと思うことにちゃんと向き合って、見ている人との折り合いをつけようと考えたんです。

自分の面白いと思うものが伝わるようにしようというふうに、そのときからシフトしていきましたね。

シングルコア性能が光るDAIV Z9

きむら:僕は普段、Mac Pro の2019年モデルを使っているのですが、マウスコンピューターさんに最新デスクトップ PC のDAIV Z9 を貸していただき、2つのPCでAfter Effects やBlender の動きを検証しました。

まず、Z9は個人的に見た目のデザインがツボです。フレーム部分のカッコよさに加えて、下に付いているキャスターが大きなポイントですね。やはりPCは重いので、机の下に入れたり、引き出してメンテナンスしたりするのも、キャスターがあるだけで随分と楽になります。

スペックに関して、実際にベンチマークテストした結果が以下の図です。

Mac ProのCPUはサーバー向けやワークステーション向けのXeon なので、単純に比較するのも少しおかしいのですが、計ってみるとCPUのシングルコアのスコアとGPUのスコアがZ9の方が高いという結果になりました。

マルチコアのスコアは、コア数が多い分Mac Proの方が高かったのですが、After Effectsはシングル処理なので、シングルコアが強いのはとても良いと思います。実際、After Effectsでの書き出しスピードが1分ほど短かったのには驚きましたね。

アイデアは日々の暮らし中に

きむらどんな映像を作るかを考えるときに意識しているのは、なるべく流行りに乗らないようにすることです。流行りはすごく回転が速いので、合わせようとすると、やることをどんどん変えていかなければならなくなるというデメリットがあります。だからきっと、タピオカ屋をするのは大変ですよね(笑)。

流行りに乗らずに何を指標にしてけばいいか?それは自分の内面だと思っていて、僕は自分がどういうことを疑問に思ったり、喜んだり、腹が立ったりするのかにフォーカスするようにしています

子供のように「これはどういうことだろう?」とか「なんで?」とか、好奇心や疑問を持っていると、普段の生活でさえより面白くなるはずだと考えています。僕の動画は、自分の生活圏の中で退屈な暮らしをもっと楽しくできないかというチャレンジでもあるんですよ。

それもあって、よく散歩していますね。そのときは何もなくても、あとあとお風呂で「あ!」と思うことが浮かんできて、それが動画の着想に繋がることも結構あります。

動画や本からインプットもしますが、僕は普段の生活の中からの気づきが多く、内から出てくるものの方がコアになるパッションのようなものとしてパワーがある気がしています。

多くの人がとにかく結果を出すことに重点を置く現代で、無駄なことをしている人は目立ちますよね。だから、くだらないことこそやった方がいいと思います。一生懸命に無駄なことをして、それが結果として人から喜んでもらうことができると最高ですね。

今、次に出すものとして「OREO」の動画を発展させたネタを考えているのですが、アイデアは最初に形にした人の特権なので、皆さんどんどん最速で作ってください!

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