2021年6月9日~6月12日に開催されたオンラインイベント、MOTION MONSTER。本記事は、デザインDAYと題した2日目の最終セッション 【映像をデザインする。】 のアーカイブとして、当日のセッションを見逃した方にもぜひお届けしたいポイントをまとめました。
ゲストはモーショングラフィックスやCGを中心に、チームワークで流れるような美しい映像を生み出しているLIKI inc.の3名。手がける作品はそのクオリティの高さから、モーションクリエイターたちの間でよくリファレンスにされています。
今回は、MOTION MONSTERのために制作されたオープニング動画、そして最新の2021年REELから3作品を事例に、制作のワークフローやデザインに対する考え方など、なかなか聞けないLIKI inc.の中身をお話しいただきました!
LIKI inc.
モーショングラフィックスを中心としたスタジオ。CM、ミュージックビデオ、ライブ・イベント映像、WEBムービーなど、あらゆる映像メディアにおいて、トータルでデザインされたムービーを提供。「単なる映像ではない、映像でしか表現できないビジュアル」を追究している。
Twitter https://twitter.com/likiinc
写真左から
ラウ(LAU)さん、石志哲郎さん、Hiromu Oka / OTP(オトピ)さん
※登壇者個別のプロフィールは記事最下部に記載しています。
【モーションモンスターオープニング動画】過去の技を詰め込んで表現したLIKIらしさ
LAU:MOTION MONSTERのオープニング動画は、“LIKIらしさ” というお題で依頼をいただきました。その時点で指定されていたのはタイトルと音楽のみで、カオスな感じというリクエストがあったくらいです。
打ち合わせを終えてすぐ思いついたのは、改めて作るというより「過去の作品や作品集そのものも”LIKIらしさ”ではないか」ということでした。過去の技を全部盛り込んでいけば、見てくださる方は「あの作品で使われていた技だ」という楽しみ方もできるのかなと。そこから過去作品を引っ張り出してきて、1時間程度でVコンを組んで方向性を決めました。
制作は僕を含めて5名のチームで行いました。まずアニメーターの山岸にモンスターをどう表現するか考えてもらったのですが、僕から一切修正は出していないので、映像に出ているのが彼女の思うモンスターそのものですね。
テクニック部分は石志、岡、横山が少しずつ分担しています。それぞれが過去のストックを今回のお題に沿ってカスタマイズし、最終的に僕がそれらを編集し、カラコレや味付けをしました。
個人的には、すごく楽しいプロジェクトでしたね。“LIKIらしさ”が何なのかについては、自然と社風が出来ていっただけなので、実は僕もよく分からなくて。
ただ、どの仕事でも「新たなものを作ろう」という心がけはしているつもりです。社内でも「これは前回やったので、今回は違うことをしましょう」と話したりします。普段は商品ありきで映像を作っていて、ダークなカラーリングを当てはめることはあまりないので、今回はそれができたのもよかったです。最後の爆発は石志の担当で、ずっと「大爆発」「大爆発」と言いながら作っていましたよ(笑)。
【事例1】デザインが良いとモーションはシンプルになる
NGK 日本ガイシ TVCMはこちらから
https://www.ngk.co.jp/future/
LAU:こちらは日本ガイシさんの映像です。商品の特徴や伝えたいメッセージを盛り込んで、デザイナーとどんな見せ方がいいか話し合いながら、監督さんとキャッチボールをして内容を詰めていきました。
キャラクターは元々作ってくださった方がいて、LIKIでは全体のアートディレクションとアニメーションを担当しています。メインの担当は岡で、トリッキーなことをしていない分、モーションが見どころの作品になっています。
Oka:多くのカットをしっかり見せることにフォーカスしているので、動きは本当にシンプルです。カット数が多いので、インのモーションを比較的短くして、読み尺の塩梅もとりつつ、ずっと動いているようなスムーズなコンポジットをしたところがポイントです。普段からクオリティをあげる上で、なるべく切らずに繋げていくことは意識しています。
動くものには意味があると考えていて、例えば、”Surprising Ceramics.”のカットではSだけ回転させました。この言葉には「いろいろなものが合わさって出来ている」という意味が込められていて、映像の中にもフックとなる部分があれば印象に残ると考え、1つだけ異なる動きでも気持ち悪くならない程度にアクセントとして入れました。
シンプルなモーションだけでも成立しているのは、単純にデザインが良いからです。「おいしい料理が来たので、僕が味付けをしなくても塩をかけたらいいよね」という感じですね。良いデザインが出来上がると同時に、「このデザインならこう動いた方がいい」という感覚も社内で共有されているので、あまり悩むことはなかったと思います。
とはいえ、作業を続ける中でいつの間にか作り手の妙なこだわりが出てきてしまうこともあり、ある程度引いた目線が必要になります。そういったところは、全体像を見てLAUさんから「こうした方がいいんじゃないか」とコメントをもらい、それに合わせて修正しています。
構成・デザイン・モーションは積み木
Oka:考えることも大事ですが、僕の場合はとにかく手を動かして作って、消去法で選んでいきます。1つのモーションをある程度作ったら、縦だけ動くバージョン、横だけ動くバージョンを作り、比較しながら選ぶといったやり方ですね。頭ではダサいかもと思っても、作ってみるとハマる瞬間が結構あるんですよ。前後関係を考慮して、カメラの動きを殺さないモーションが絶対にあると思うので、その整合性をとるようにすれば、意外と迷わないときは迷わないですね。
デザインが大事というのは、常々思っています。構成・デザイン・モーションは積み木のようになっていて、下が不安定だといくら上で試行錯誤しても、全体がぐらついてしまいます。なので、モーションを複雑にしてクオリティ高く見せようとするより、うまくいかないときはまずデザイン、静止画、余白の置き方といった部分に立ち返ることが重要かなと思います。
ただ、モーションチームはクライアントの戻しで相談が必要なときを除いて、デザインに関しては基本的にノータッチです。モーションチームがデザインにも関与すると、意見が交じりすぎて煩雑になりますし、モーション都合でのデザインの配置は良くないですからね。モーションチームが受け取るのは、デザインチームが完璧に仕上げて、LAUさんや石志さんがチェックを終えた状態のものです。だからこそ、迷いなく手を動かしてクオリティを高められているのだと思います。
【事例2】LIKI全スタッフで制作した3Dムービー
Fujitsu Transformation(フジトラ)イメージムービー
LAU:続いては、富士通さんがクライアントの映像です。富士通グループのDXを推進する専門部署FUJITRAのブランディングムービーを制作したいという依頼でした。10個以上のキーワードを頂いて、それを活かす形でクライアントと一緒に作っていった作品です。この案件は尺が長くてカット数も多いので、全社員が参加しました。
LIKIでは今回のような3Dらしいルックに仕上げることは少ないので、あまり3D制作のイメージはないかもしれませんが、After Effectsの使用は全体の6割程度で、残り4割はCinema 4Dをがっつり使っています。3Dだから3Dらしい見せ方をしなければならない、ということはないですよね。あえて2Dのタッチで作って、最終的なコンポジションは全部フラットデザインに見えていても、実は制作途中で3Dのノウハウを活用している、ということもよくあります。
キーワードと映像のマッチング
LAU:この作品で苦労したのは、クライアントからのキーワードに沿ったデザインを作らなければならなかったことです。うちはどのスタッフもベースにデザイン力があるので、僕が1人で手書きのコンテを全部描くのではなく、とにかくいろんな人に入ってもらって、各キーワードをどんなデザインにするべきか議論して決めていきました。
例えば、日本語に訳すと「全員で参加する」という意味合いの言葉が出てきます。そのシーンでは、社員さん全員をイメージして正方形のブロックをたくさん並べているんですね。最初は別の方向を向いているのですが、とあるきっかけで一斉に振り向かせることで、「全員で参加する」ことを表現するようにしました。
そういった言葉とマッチングさせていくところはモーションでも大変なのですが、特にデザインの段階が難しかったです。
役割分担について言うと、デザインはチームみんなで取り組みますが、モーションは1つのカットをさらに割ることが難しいので、カットごとに担当をあてています。どのカットでも、必ず前後のカットの担当者とコミュニケーションをとって、頭とお尻を上手く繋ぐようにしています。そこに僕が特別にディレクションを入れることもなく、お願いしたら勝手にこんな感じになるんです(笑)。日頃のコミュニケーションで自然とできるという感じですね。繋ぎ方で複数の案が出てきたときは、モーションチームリーダーとして石志くんがジャッジします。
石志:ケースバイケースで、手が掛かりそうな部分は事前に聞いて共有しておいて、逆にそこまで手が掛からないものであれば作ったものを確認しています。前後のカットで共通点を探して、ちゃんとロジカルに言えるかを判断して、それで決定していく流れですね。
LAU:細かいディレクションをするよりも、お任せの方が意外と良い感じに上がってきたりするんですよ。お願いしたいイメージがあっても、伝え方によっては想定と違うものになることがあるので、スタッフにはある程度自由にやってほしいと思っています。
なので、具体的な指示はなるべくしないようにしていますね。実際、今回の案件でもチェックで見たときに衝撃を受けて、「こう来たのか」というものも結構ありました。そういう意味でも、毎回楽しんでいます。
【事例3】シンプルと派手を両立させたモーション
LINE SMB Opening
石志:最後は、LINEさんが広告や顧客コミュニケーションのためのサービスを中小企業向けに紹介する、LINE SMB DAYというカンファレンスのオープニングムービーです。「企業とユーザーがLINEのサービスを通して日本の各地とつながっている」というメッセージをミニマルなデザインでモーショングラフィックスを制作しました。デザインなどを含めるとチームは5人でしたが、デザインは2人、アニメーションは3人で作っていきました。
元々のオーダーが「丸と線のようなプリミティブなものでやりたい」ということだったので、始点と終点をどうやって派手に見せていくかがポイントでしたね。なので、冒頭は黒から始まるのですが、途中から画面が白になってどんどん彩りが付いていくようにしています。
やはりイベントのオープニング映像なので、丸と線を派手な見せ方で繋げていくのに加えて、音楽とリンクしながら空間を移動していくことで、より壮大な感じを出せるのではないかと考え、最終的にこのような形にしました。
大抵のプロジェクトでは1週間ごとに進捗を出すので、稼働日の5日間で何とか見られるものにする必要があります。中盤ぐらいまで作って後半は静止画の状態で確認を取り、大丈夫そうであればそのまま間を埋めていくような感じです。
分担した作業のデータを一本化するとき、担当者からプロジェクトファイルでもらう方がいい場合と書き出した動画や連番でもらう方がスムーズな場合の両方があります。いずれにせよ、最終的にはAfter Effectsで最後のコンポジットをしてアウトプットするというのが大まかなながれです。
この案件は基本的に要素がシンプルなので、目立つ部分は手作業で描き、後ろの細かいところはConnect Layers PROなどのプラグインなどを使い、作業工数を減らしています。あとはずっと同じ箇所をプレビューしてトライアンドエラーですね。納期が大事なのでスケジュールを逆算しながら、生理的に気持ち悪いと感じる部分を直す作業の繰り返しです。
リスペクトorパクリ?真似から成長するための心得
Oka:作り手の方なら、リファレンスとして弊社や他社さんの作品を見ることはあると思います。我々も色んなデザインを見たり、日常からアイデアを拾ってきたりしています。真似をするのはすごくいいことだと思うんですよ。そうしないと成長しないですし、クオリティも上がらないと思います。ただ、真似たもののクオリティが高いとリスペクトやイズムを感じると言われますが、クオリティが低いとパクリや劣化版と見なされるところがありますよね。「真似をするからにはより良いものを作ろう」という気持ちがあると、全体が良くなるのかなと思います。
LAU:僕も同じ意見ですね。僕らもよく人のものを見て真似をして、オリジナリティを入れつつ自分のものにしています。結局、僕らも人のものを盗んでいるんですよ。ただ、真似をしてクオリティの下がったものを作ってしまうと、真似る側も真似られる側もお互い損をするんですよね。真似をして自分のオリジナリティを入れた上で、何か新たなものが生まれるのは大賛成です。真似から上手くアレンジしていただくのは、僕は嬉しいことだと思っています。
石志:新しい表現を模索している方々に僕からできるアドバイスがあるとしたら、「たくさん見た方がいい」ということ。結局は画と画をどうつないでいくかのトンチなので、そうしたポイントを探してコツコツとやっていくのが大切ですね。
登壇者プロフィール
ラウ(LAU)
東京デザイン専門学校卒 。
2008年からモーショングラファーやアートディレクターとして活躍。
2012年LIKI inc.(株式会社リキ)を設立。
モーショングラフィックスを中心に広告、ミュージックビデオ、テレビCMなどをディレクター/アートディレクターとして務める。
石志哲郎
東京デザイン専門学校卒業。
2012年LIKI inc.設立。
モーションデザイナーとして CM や MV、WEB ムービーなど、幅広い分野において活躍。
「NHK平成史スクープドキュメントOP」「TOYOTA T-Value」など映像でしか表現できないビジュアルを追求している。
Hiromu Oka / OTP(オトピ)
1993年生まれ愛媛県松山市出身。2017年LIKI inc入社。
「Google Pixelシリーズ」「富士通 FUJITRA」などのモーションデザインを担当。
また、自主企画でリソグラフを使ったアニメーションを制作中。
The Motion Awards 2020ノミネート。映像作家2021選。
https://twitter.com/otp_otopi
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