DAY1最後のセッション 【伝える・伝わるモーションデザイン】 ではEDP graphic works 代表の加藤貴大さんをお招きし、お話しをお聞きしました。
今回ポイントとなるのは「考える余地を与えるモーショングラフィックス」。見入ってしまうモーショングラフィックスは、いったいどんなものなのか。これまで加藤さんが手掛けた博報堂やZUCCaの作品を引き合いに、作品作りにおけるランダム性や作品作りの手順などについて迫っていく内容となっています。
加藤貴大
モーショングラフィックデザイナー、1989年愛知県生まれ。EDP graphic works 代表。CI デザイン、 インスタレーション、 TVCM を主に、 デザインとディレクショ ンを交ぜ合わせながら映像演出を行う。美術展の展示映像や交通機関のサイネージなど、媒体にとらわ れることなく空間の演出にも取り組んでいる。
EDP graphic works:https://www.edp.jp/
考える余地を作る。モーショングラフィックスにおけるランダム性
セッションの冒頭、司会のダストマンさんは「加藤さんが作られる作品は、クセになる。良い意味での引っ掛かりがある」とお話しされました。そのクセとはいったいどんなものなのか? また、引っ掛かりをつける意味とは何なのでしょうか?
加藤:私自身、デザインもアニメーションも完璧すぎると少し面白くないと思ってしまいます。オブシェクトに意図的にカーブをつけたり、あえてキーフレームをずらしたタイミングで付けたりしています。
引っ掛かりをつくることで、見る人に解釈の余地を作ってあげることになります。これについては意図していますね。
ですが、最初から違和感を演出するのではなく、綺麗なモーションを作った上で、あえて完全過ぎないものを作っているのです。
皆さんは制作物を作っている最中に、「適当に素材を配置したら、何故か上手くいった」みたいなことありませんか?デザインでもアニメーションでも、たまたま生まれたものが持つ引っ掛かり。私はこのラッキーパンチによって生み出されたランダム性を大切にしているのです。
あえて感覚的に配置したオブジェクトによって、作品が良い方向へ向かうことが多いと語る加藤さん。これは普段から適当に進めているわけではなく、綺麗なモーションを作った上で、“あえて”そうしていると言います。
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「感覚」と「ロジカル」のバランスが生み出すモーショングラフィックス
ここからは、実際に加藤さんの制作物を引き合いにお話を進めていただきます。まずは博報堂のモーショングラフィックスです。
加藤:こちらの作品は、丸のオブジェクトを大量に組み合わせ、いくつかのパターンを出しました。その中で一番良いものをメインビジュアルにしています。
普通はメインビジュアルを作って、そこから派生してモーショングラフィックスが組み上がるのですが、これに関してはメインビジュアルを作る段階で様々なパターンを出しました。なので、メインビジュアルを作る過程で出てきたものを組み合わせて、生まれた映像です。
実際の制作における進め方は案件によってさまざまですが、これに関してはキービジュアルを作る時点でモーションを付けました。なので、デザインとアニメーションは同時平行で制作しています。ソフトはCinema 4Dで書き出し、編集はAfter Effectsで行っています。
加藤:作品作りにおける色の選び方は、かなり気を使わなければいけないポイントかと思います。この作品においては、PowerPointを始めたての人が使うような、RGBのデフォルトカラーを多く使いました。あえてクリエイティブをやっている人が選ばないようなデフォルトのカラーを、バランスをコントロールしつつ組み上げれば奇麗になるんじゃないかと思ったのです。
というのも、私自身、色に気を使うが故にすごくオシャレなものになりすぎると気持ち悪いなと思ってしまって。ただし、あまりにも極端なものにしてしまうと、本当にダサいものになってしまいますので、そのバランスには、かなり気を使いましたね。
常に、誰もやらなさそうなことに挑戦しています。そういうった部分が、作品における余白となり、引っ掛かりに繋がりになるのではないでしょうか。
加藤:背景に肌色が入っていますよね。なかなかエッジの効いた色だと思っています。この肌色は一番最後に入りました。他の色はすぐに決まったのですが、最後の1色だけ決められなくて。
この肌色は、どこかでたまたまスポイトで拾った肌色です。偶然手に入れた、いわゆるラッキーパンチです。この肌色を見てから違う肌色も試してみたのですが、結局一番最初に拾ったラッキーパンチの肌色が一番良くて。偶然の中から生まれたカラーなんですよね。
私自身、普段から感覚というものをすごく大事にしていて。これに関してはまだ言語化できていないのですが、僕の中ではたしかな感覚があるのです。
けれど、人それぞれ感覚は違うはずです。ある人が作ったらここがダサかっこいいになるけど、僕が作ったらまた別のところがダサかっこいいになる、ということがあるので、一概には言えません。まだあまり言語化できていないんですけどね。
「オシャレなものにさせすぎない」「常に、誰もやらなそうなことに挑戦する」という加藤さん。一見、センスに重きをおいて作品を作っているかのように思えますが、そうではなく「バランス」に、かなり気を使ったと言います。
「見たことがある」から外側の世界にいく
加藤:こちらはZUCCaさんの新しいブランド「バーチャルネーションZUCCa」が立ち上がる際に制作したモーショングラフィックスです。バーチャルネーションという存在しない国をテーマにしており、「国とはなにか?」を考えながらデザインしていきました。
いつも一緒に仕事をさせていただいているアートディレクターの方から、「グラフィックのデータはあるので、音楽も含めてアニメーションで動かして下さい」と自由に制作させていただいた経緯もあり、音楽をcubesatoさんに制作していただきました。
cubesatoさんは絵に対する理解もある方で、音と絵の親和性を意識してもらいました。ある程度のブランドの概要は私からご説明し、その後は細かいディレクションはせず、「cubesatoさんが今一番いい感じだと思っている音楽を作ってください」と依頼しました。
作品を作る際、音と絵は同時進行で始まることが多いのですが、基本は音を絵に合わせて作っていき、最終的には絵のほうを音に合わせていくというケースが多いです。今回のZUCCaの作品も、先ほどの博報堂の作品も進め方は同じです。
最初にcubesatoさんからデモ音源をいただいた際、軽く足音が入っていました。これに着目し、横に動いているオブジェクトが横断歩道を渡る人をイメージして作りました。そこからさまざまなオブジェクトの中を駆け抜けて、最後に国旗が現れ、タイトルで終わる。タイトルで終われば最後締まるだろうな、という目算で仕上げています。
加藤:手前で歩いているオブジェクトは、途中で出てくる顔のモチーフのテクスチャをCinema 4Dでガタガタなポリゴンに適当に貼り付けたものです。そのテクスチャをスライドさせているという。何かわからないものをとりあえず作りたかったので、すごいごちゃっとした謎のオブジェクトという感じで入れています。
ごちゃごちゃにした理由は、通常の四角のポリゴンをスライドさせると「人が横断している」って想像できちゃうんですよね。それよりかは何かよく分からない図形が横にスライドしてたほうが抽象的に見える。見た方それぞれに解釈の余地ができるんじゃないかなと思い、わざとごちゃっとしたものにしています。
要は、これまでにない新しい世界を表現したかったのです。
人間が知覚している形や、「これを見たら、これをイメージするよね?」みたいなところの外側に行きたかった。
加藤:この作品は頭から順番に作り始めて、一番最後までいった後は、ほぼブラッシュアップしませんでした。
自分で何回か再生して気になるところを「この辺気になるな」と修正を重ねたんですが、触っていくうちに「やっぱりなんかちょっと違う」と思い始めてしまって。結果的に最初に作り切ったものが一番良かったので、結果的にブラッシュアップはあまり加えない形となりました。
ブラッシュアップすると、見たことがある世界になってしまうのです。「もっと見やすくしたい」という下心が出るというか。「こうした方がオシャレになるんじゃないか」という気持ちが入ってしまうと、作品の良さが消えてしまう可能性があり、怖くて修正できませんでしたね。
作品作りの引き出しは、日常的に蓄積させる
セッションでは作品作りにおける多くの質問が多く寄せられました。ここでは、視聴者から寄せられた質問と回答をご紹介していきます。
【質問】作品作りのセンス、感覚はどこで養ってきましたか?
加藤:もともと小さい頃から変なものを作るタイプだったと思います。他の人がやらないようなことをやるタイプで、その性質は今も受け継いでいるかと思います。
例えばですが、小学生の時にアクリル板の上に絵を描くツールがあって、みんなは野球の絵を描いたりしていたのですが、僕だけなぜか爆発した地球の絵を描いたりしていました(笑)。
良くも悪くも普通のものが好きじゃなかったんですよね。人の作品を見ている中でも、整頓されているものよりも、ローカルCMのように「なんでこんなことになってるの?」みたいな、しっちゃかめっちゃかな作品に見入っちゃう時があります。「どうしてこれを作ることになったんだろう」みたいな作品を見ると、結構わくわくします。
【質問】作品作りはデザインとアニメーションが同時に始まるとおっしゃっていましたが、何のソフトから制作が始まるのですか?
加藤:制作はCinema 4DかAfter Effects、素材作りはIllustratorです。表現したいことに合わせてソフトは選択しています。
進め方によると思いますが、先ほどの肌色の背景のように偶発性、ラッキーパンチが生まれやすいのはIllustratorです。やはりAfter Effectsで作業するほうが比率としては多いので、Illustratorで素材を作るところから始まります。素材作りで色々と試したりするので、その時にラッキーパンチが起きるという感じですかね。
Illustratorのナイフツールなんかも、まっすぐ切れればいいのにぐにゃぐにゃに曲げられたり、あえて使ってみると面白いデザインができたりします。
【質問】影響を受けたアーティストの方はいらっしゃいますか?
加藤:昔からディズニーがすごく好きで、小さい頃はずっとディズニー作品を観ていました。影響は少なからず受けていると思います。
ディズニーって、今は純粋なストーリーが多いのですが、昔の作品はアクが強かったり風刺が強かったりと、ダークファンタジーみたいなところがあったかと思います。ひょっとしたら、そのテイストに影響を受けているのかもしれません。
【質問】普段、制作されている時にリファレンスを元にされることはありますか?
加藤:ほとんどないです。お仕事によっては、「こういうリファレンスでお願いします」とクライアントから渡されたものは目を通します。ですが、特に指定がなく、お任せいただいている時は、自分でリファレンスを探すという行為は、本当に困った時だけです。
普段作品作りで参考にするものは、日常的に美術展に行ったり、なんとなく雑貨屋に行ったりして、そこから経験値や知識を蓄積しています。引き出しの多さは、普段の日常生活で気になるものを観察することで増えていくかと思います。
モーショングラフィックスに触れる機会をもっと多く
モーショングラフィックスの最前線を走り続けてきた加藤さん。まだまだモーショングラフィックスに携わる人は限られている現在、これからどうすれば人が増えていくのでしょうか。また、これからモーショングラフィックスを始めたいと思っている方がどうすれば成長できるのか、アドバイスをいただきました。
加藤:好き勝手作ったらいいんじゃないかなと、日頃から思っています。
何事もやり始めの時は、「果たしてこれは正解なのか?」と正解を探してしまうと思います。けれど、多分それにはあまり意味はありません。「正解」というのは「すでに世の中にある何か」なのです。それなら、まずは正解は探さずに自分でやりたいことをやって経験してみる、というのが一番上達する近道かなと思っています。
自分の中から湧き出るインスピレーションを一旦形にしてみる。途中で「あれ?これは正解なのかな?」と思ってしまっても、一旦自分の思いのままで作り切る。ある種、自分の表現にリミットを掛けてしまっているかと思いますので、「リミットを外す」というのは大事ではないでしょうか。
モーショングラフィクス全体がもっと良くなっていくためには、もっとモーショングラフィックスにフォーカスした内容のイベントやセミナーがあると良いなと思っていいます。
グラフィックデザインなどは既に文化があり、美術展や展示会で作品が公表されて、それをみんなで見るといった機会がたくさんあるのですが、モーショングラフィックススはまだまだ少ないですね。モーションモンスターのようなイベントが、もっとたくさんあれば活気づくのではないかと感じています。
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