この記事では、2ヶ月ほどBlenderを使った僕が感じた「Blenderとイラレ(Adobe Illustrator)の類似性」について書こうと思う。僕自身の経験を通して「イラレに慣れている人は、Blenderの上達も速いのではないか」と感じたので、イラレ使いの人は是非参考にしていただきたい。
自己紹介・Blenderとの出会い
- 筆者高田ゲンキについて
高田ゲンキ(Twitter)現在44歳でドイツ・ベルリン在住。特にAdobe Illustrator(以下イラレ)でのイラスト制作を得意としており、18年ほどフリーランスのイラストレーター/漫画家として活動。
↓過去の作品(Adobe Illustratorで制作)
- Blenderにハマった経緯
2021年8月、僕はBlenderを始めた。きっかけはラジコンバギーのイラストを描く時にタイヤのイボイボの立体の参考に3Dを作ろうと思い立ったこと。
始めて早々にYouTubeでチュートリアルを見つけていくつか見様見真似でやってみたところ、意外と簡単にこんなタイヤを作ることができた。
これで自分のイメージを3Dにできる楽しさを知ってしまい一気にハマり、翌日から一週間タイヤばかり作った。
イメージ通りにタイヤをモデリングできるようになると、タイヤだけではなく車体も作ってみたいと思うようになった。ちょうどその時YouTubeでMdesignさんのJeepのモデリングチュートリアルを見つけたのでやってみた。
これで車のモデリングの基礎が理解できたので、ラジコンのモデリングに挑戦してみたところ、時間はかかったがこんな感じでかなりイメージ通りに作ることができた。
こうなると、楽しくて仕方がない。時間を見つけてはBlenderをさわり、自分が好きだったラジコンのモデリングに没頭した。
ラジコンだけではなくキャラクターも作ってみたくなったので、自分の漫画のキャラ(自分の家族)もモデリングしてみた。
- Blenderはイラレに似ている?
こうした経緯をTwitterでシェアしていたところ、一部から「2ヶ月にしては上達が速い」とお褒めの言葉をいただき、その流れで今回このVookでの記事執筆やイベント登壇という話もいただくことができた(何でも発信してみるものだ!)。
自分としても当初の想定よりはスキルアップが速かったのでその理由を考えてみたところ、ふたつ思い当たる事があった。ひとつ目は、**作りたいものが最初から明確で、しかもそれが比較的簡単なモチーフ(タイヤ)だったこと**。今回の企画の主旨は「Blenderでキャラを作る」だが、実は3Dモデリングの入門モチーフとしてはキャラクターは非常に難しい。なので、更に短期的なステップとしてタイヤのような簡単なモチーフで練習していくと良いと思う。
ふたつ目は、**僕がイラレ使いだったということ**。これがこの記事のテーマである。
実はBlenderを学ぶ中で「この感覚、イラレに似ているかも…」と感じる場面が非常にたくさんあった。そして「だとしたら、こんなツールもあるのでは?」とか「これを組み合わせたらこうなるかも」というように、イラレからの連想で発見したり理解できたBlenderのツールや機能が数多くあった。この企画に誘ってくれたサタケシュンスケさんもBlender歴が短いながらも急成長している一人だが、やはりイラレの達人である。
考えてみると、イラレはドローイングソフトの中ではかなり特殊な部類で、その特徴はなんと言っても**パスを使ったベクター形式という事である。このベクター形式の概念やベジェ曲線を理解する事が(Photoshop等のラスター形式のソフトと比較すると)難しいので、イラレはとっつきにくく挫折する人も多い。しかし、まさにそのベクターやパスの概念を体得している人間は感覚的にBlenderの概念やUIも理解しやすい**という仮説が僕の中に生まれたので、それを確信に変えるために検証して文章にしていきたい。
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Blenderとイラレの類似点
では、僕が実際にBlenderを使う中でイラレと似ていると感じた機能やツールをいくつか紹介していきたい。Blender未経験のイラレユーザーは、これを見れば「これならBlenderをマスターできるかも」と思ってもらえるのではないかと思う。
パス(イラレ)とポリゴン(Blender)が似ている
まず何より、**イラレのベクターやパスの概念はBlender(に限らず3DCG)のポリゴンの概念に非常に似ている。イラレでイラストを描く時はパスで面を作り、その面を二次元(平面)上に複合的に重ね合わせて行くが、ポリゴンはそれを三次元にするイメージ。ただ、ポリゴンは一つの面を複雑な形にせず四角(あるいは三角?)でなるべく完結させるべきであることや、曲線は使えないという点などがイラレのパスとは異なる。しかし、単純な形の面を組み合わせて立体を作る感覚はイラレ経験者には理解しやすい**ものだと思う。
オブジェクトの概念が似ている
**イラレとBlenderは作品を作る上でのオブジェクトの概念も似ている**。イラレでイラストを描く際、例えば人物であれば頭部・胴体・腕・足…と別々のオブジェクトとして制作して合成していく事が多いが、これはBlenderも同様(ひとつの立方体から全て削り出していく方法もある)。
オブジェクトの編集方法も似ている
イラレでは作成したパスの形状を編集する際に主にダイレクト選択ツールを使用するが、これもBlenderのUIに似ている。
**Blenderの編集モードでの頂点選択・線選択・面選択は、どれもイラレのダイレクト選択ツールに該当する機能を果たしている**。(3Dなので便宜上3種類のモードに分かれてはいるが)いずれもイラレのダイレクト選択ツールでアンカーポイントやセグメントや面を選択する感覚に非常に近い。面の中心点をクリックすることで面全体を選択できる点も似ている。
また、イラレでは重なり合った背面側のオブジェクトのアンカーポイントを探したり選択するのにアウトライン表示(⌘Y)を使用するが、Blenderでもワイヤーフレーム表示(shift+Z)を使用する。この点も非常に似ている。
パスファインダー(イラレ)はブーリアン(Blender)
イラレとの類似性で僕が最も感動した機能がブーリアン。僕がイラレでのイラスト制作時に最も多く使うと言っても過言ではないのがパスファインダー機能だが、それの3Dバージョンの機能がBlenderにもあった(このブーリアン機能を最初に知ったのも、先ほど紹介したMdesignさんの動画だった)。
これを活用すると、単純な形状の合成や差分で複雑な形状を作ることができるので、使いこなすと非常に表現の幅が拡がる。
イラレのようにオブジェクトや頂点の整列も可能
イラレでは整列パネルの機能を使用してオブジェクトやアンカーポイントの整列が簡単にできるが(アンカーポイントの整列は意外と知らない人が多いが)、同じようなことがBlenderでもできる。
Blenderでオブジェクトの整列をしたい時は、複数のオブジェクトを選択して、[オブジェクト]→[トランスフォーム]→[オブジェクトを整列]と進み、画面左下に現れるウィンドウでXYZ軸のいずれかを選択すると、その軸に合わせて整列される(基準となるのは最後に選択したオブジェクト)。
また複数の頂点の高さを合わせたい時は、該当する頂点を全て選択した状態でS→Z→0とすれば良い(左右の場合はZをX、奥行きの場合はYにする)。
同じ座標ではなく、ふたつの頂点間に存在する複数の頂点を等間隔に整列するにはLoop Toolsというアドオンを使用する。プリファレンスからこのLoop Toolsを有効にして、複数の頂点を選択した状態で[カーブ]を選択してXYZいずれかの軸を選ぶ(他にもっと良い方法があるのかもしれないが、現状僕はこうやっている)。
他にもまだまだある類似点
このようにイラレとBlenderの類似点は枚挙にいとまがないが、文字数の都合もあり具体的に挙げるのはこのくらいにしておこう。ちなみに、簡単に触れると他にも
・ポイントにスナップ(イラレ)とマグネットのスナップ機能(Blender)
・角丸機能(イラレ)とベベル機能(Blender)
・ペンツールでのベジェ曲線描画(イラレ)と頂点の押し出し(Blender)
・パスの連結[⌘+J](イラレ)と頂点から辺を作成[F](Blender)
など、似ているツールがたくさんある。
もちろん全体からすると共通している要素は一部であり、本格的にBlenderをマスターするためにはBlender独自のツールや機能をしっかりと理解する必要があるが、イラレ経験のあるBlender入門者が苦手意識を乗り越えるための楽しみ方としては、これはかなり有効だと思うので、ぜひ試してみていただけると嬉しい。
イラレ使いならではの有利な点
また、イラレユーザーがBlenderを使う上で有利な点がもう一つある。それは、**イラレで作成したデータをsvg保存すればBlenderにベクター形式のまま読み込める**ということだ。
例えば僕がBlenderで作成したラジコンのモデリングを見てほしい。このボディに貼られているステッカーはイラレで作ったものだ。
なお、平面的なステッカーをBlenderの曲面に貼り付けるには、Conform Objectという有料のアドオンを使用した(このアドオンの存在は、今回の企画で先生を務めていただいている星子さんのツイートで知った)。
また、**イラレで作成した平面イラストのパスをBlenderに読み込んで直接3D化することもできる**。イラレにも3D機能は備わっているが、当然Blenderの方がその自由度も立体のクオリティも高い。これに関してはMdesignさんのこの動画を是非見ていただきたい。
これだけでもイラレとBlenderの掛け合わせはかなり魅力的だとお分かりいただけるのではないだろうか。
このように、イラレのスキルが直接活用できるので、モデリングをデザインしていく過程でイラレ使いはかなり有利だと言えるだろう。
今後Blenderでやりたいこと
以上、僕がBlenderを学ぶ中で感じたイラレとの類似性について書いてみた。Blender、触れば触るほどに楽しくなるので、まだまだスキルアップしていきたい。
さしあたって僕が目標としているのは、Blenderを使って自分の理想の部屋を作ること。たとえばラジコンの部屋や大好きなMacの部屋など、自分が夢見る空間をBlenderで作ったり、今はもう無い昔の実家の自室を再現して、それらをVRなどで楽しみたい。
そして、自分なりのBlender表現をある程度突き詰めることができたら、いつかその表現手法やハウツーなどを自分のYouTubeチャンネルでも公開したいとも思っている(現在はイラレのハウツーが中心)。
そんな目標を掲げつつも、しばらくは自分のペースでじっくりモデリングを楽しみたいと思っている。
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高田ゲンキ@
ベルリン在住のイラストレーター/漫画家。1976年生、神奈川出身。一児の父。2004年にフリーランスとして活動開始。以来、フルデジタルの制作環境を活かして場所や業界慣習に囚われない自由なワークスタイルを確立。2012年に夫婦でドイツ移住。Blender歴202...
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