2021.12.15 (最終更新日: 2021.12.23)

『夜を発つ』にみる、アニメ表現の"技法"としての楽しさ。CGソフトと歩む未来。

再現に興味がなくても、アニメCGは探求できる

みなさんこんにちは。フリーランスでCGアニメーターをやりつつ、個人で作品制作も行っている坂野友軌(ばんの・ゆうき)と申します。

アニメCGをやっていると、「何のアニメを参考にしたんですか」とよく聞かれます。答え方にはいつも困るのですが、もしかしたらアニメCGに対して、「アニメやイラストを3DCGで再現したものである」という認識が、世間一般にはあるのかもしれません。

僕に関して申し上げておきますと、そういった表現にはほとんど興味がありません

僕は、アニメ表現の「技法」としての側面に、”便利さ”や”豊かさ”を感じるからこそ、このスタイルを選んでいます。アニメCGをやるために、絵をまねる必要はないと思いますし、イラストチックな世界が作れる以外にも、その魅力はたくさんあります

今回の記事では、そういった、アニメ表現の技法としての一端を、実例で示せる範囲で少量になりますが、自分なりにまとめてみたいと思います。僕はひとりの作り手に過ぎませんので、認識に甘い点があるかもしれませんが、ご容赦ください。アニメCGをやってみたい、という方にも、その他の表現を志す方にも、何かしらお役に立てれば幸いです。

今回、作例として使用する動画はこちらです。

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セルとBGによる様式美をめざす世界

まずはじめに、CGにおけるアニメ表現の構成方法について、自分なりの解釈にはなりますが、説明してみたいと思います。
一般的に「アニメ」と呼ばれる、セルアニメーションと同じスタイルを用いたルックは、大きく分けて2つの要素によって構成されています。

・セル

・BG

何をどちらに割り振るかに関して明確なルールはありませんが、それぞれにはおおまかな役割があります。
主に、”キャラクターやそれに関わるプロップなど、被写体と定義できるもの”をセルとして扱い、”それらがいる舞台や、動く必要がないもの"をBGとして扱う、というのが僕の認識です。

そして、これらを明示的に使用する場合、その質感に差をつけるのが一般的です。

この他、コンポジット段階でセルのみにコマ落としの処理を加える等もありますが、そうやってセルとBGの見分けがつくようにすることで、フォルムを見やすくしたり、画面にメリハリを出したり、様式として整えていくのが、CGにおけるアニメ表現の(特にセルアニメに近いスタイルにおける)技法的なプロセスです。

リミテッドの精神から生まれた文化、便利に使って楽をしよう

もともとセルアニメ自体は、作業の合理化のために導入され発展してきた技法です。リミテッドな手法の代表例としては、作画枚数を少なくしたスタイリッシュなモーションが挙げられますが、少ないリソースで最大限の効果を発揮しようとする精神はアニメ表現全般に見受けられ、CGで作品を作る中でも引き出せるものだと思います。

例えば、下は3Dソフトから出力したプレビュー画像です。
赤線で囲った部分、水しぶきをどのようなルックで仕上げるかは、フォトリアルな表現だと、悩むところだと思います。光を透過させたとして、水面との境界などを、どのように処理すれば良いのか……。

アニメ表現であれば、セルにしてしまう、という手段があります。
この方法であれば、複雑な処理を避けて、簡単に作品を仕上げられますし、水しぶきのシルエットが明瞭に見えるので、画面が見やすくなる効果もあります。

水面と水しぶきで質感は全く違うのに、水しぶきをセルだと言い切ることで画面に説得力が出るのは、不思議なものですね。

この他、アニメ表現の便利な例としては、発光処理も挙げられます。
質感が単色でも、発光処理さえかけてしまえば、透過光表現として見ることができます。

異なる質感が画としてまとまる面白さ

しかし、異なる質感を使用しているほど、同じ画面内ではなじまなくなることもまた事実です。

こちらはBGの水面から映り込みを省いた画像です。各要素の印象が、オブジェクトとして強く感じられると思います。

映り込みを追加してみると、以下のようになります。
水面の透明感が目立ちますが、画としてのまとまりも増しているのではないでしょうか。

このように、映り込みを記号として使えば、異なる質感でも同じ空間に閉じ込めて、一体感を主張することができます。

今のは鏡面反射が使用できる場合に限られた例ですが、もっと一般的な場面では「落ちカゲ」という手法があります。

こちらは主役機が地面に落とすカゲを省いた状態の画像です。右足が地面に接しているかどうかが判別できませんし、BGとセルも分離して見えます。

地面に落とすカゲを追加しました。これによって、右足が地面に接地していることが伝わると同時に、画としての一体感も増したと思います。これが「落ちカゲ」という手法です。

この他、接地の記号としては、土煙などのエフェクトや、足跡などの消し込みも有効です。

↑落ちカゲはほとんど見えませんが、土煙のエフェクトによって、地面との接地が強く認識できます。

↑足跡やペンで書いた字など、”接触の結果として現れるもの”をBGの上に置いていく手法を、アニメの世界では「消し込み」と言います。赤のハイライト部分がそれです。

このように、様々な接地の記号を使って、異なる質感をひとつの画としてまとめていくことができます。このあたりを使いこなしていけば、表現の幅も大きく広がっていくのではないでしょうか。

アニメ表現はCGソフトを損ねない

最後に、『夜を発つ』の前半部分のプレビュー動画をご覧いただきたいと思います。

カット作業において僕はこの段階まで、アニメとしての仕上がりを全く意識していません。例えば、作画に見えるような水しぶきを作らなきゃとか、考える必要がありません。

ここまでまとめてきた通り、僕が考えるアニメ表現は記号による様式なので、そのほどんどがレンダリングやコンポジットの段階で設えられます。逆を言えば、モーションやエフェクト作業の段階では、CGソフト自身が持っているポテンシャルと好きなだけ向き合っていいのです。

アニメCGのメイキングでは、CGであることを隠したり、なくしたりすることばかりに話題がいきがちなので、「CGで表現する楽しみが少なそう」と思われている方もいるかもしれませんが、僕に限った話をすれば、そんなことはないと言えます。アニメ表現が技法なら、CGソフトは道具です。道具と技法は、互いに影響を及ぼし合うことはあれど、互いを損ねることは本来ありません

今後、何かを表現するための道具や技術は、CGに限らず、さらに進化を続けると思います。そういったものを前にして、気軽に取り入れられる”寛容さ”が、アニメ表現にはあると思っています。特効処理にエアブラシを使ったり、ゆらぎを足すのに波ガラスを使ったり、身近にあるもので工夫をしながら発展してきた技法なのですから。

近くにいてくれるツールと誠実に向き合って、これからの時代を解放的に歩んでいきましょう。その中で、アニメ表現が前向きな選択肢のひとつであったらいいなと思っています。

さいごに

Blenderに関する内容を記事に含められなかったので、こちらで少し触れさせていただきたいと思います。最後の章で「近くにいてくれるツール」という言葉を使いましたが、僕にとっては、それこそBlenderでした。

流行病の影響もあって、去年は大阪から名古屋→東京と、2度も引っ越すことになったのですが、どこにいてもBlenderを触っていたような気がします。安定しない生活の中で、無料であることは正直助かりました

機能面が申し分ないことは、今回の作例であったり、他の方の作品を観ていただければおわかりいただけると思うのですが、敷居が低い分、ネット上にTipsやチュートリアル等の情報が多く存在していることも、Blenderの大きな強みのひとつのように感じています。

↑Blender 3.0のリール(僕のカットもちょこっと映ります……!)。

CGソフトのあり方と、私たちの社会との関わり方、双方が過渡期のように見受けられる中では、ツールは身近なものを選ぶのが最適なように思っている昨今です。


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BANNO Yuki@beadschain

フリーランスでCGアニメーターをやっております。 Twitterの更新頻度が一番高いです。 Webサイトには、お仕事履歴とか、自作品の紹介ページとかが置いてあります。 3DツールはBlenderを使っています。

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