2021年は次々と各社がカメラを発表する当たり年だ。
そんな中で発表されたニコンのフラグシップミラーレスの一眼スタイルカメラZ 9も注目を集めたカメラの1台だ。
発売前のβ機を一足お先に使わせていただいたので、動画機能に振り切ったレビューをさせていただく。
レビューの前に、お借りしたZ 9で作品を作ったので、まずはご覧になっていただきたい。
秋が終わり冬を迎える山々。ふもとは秋の装いを残すが標高3000mの山は雪と氷の世界だ。Nikon Z 9の8Kで撮影する氷や岩の繊細なディティールをご覧ください。
ついにベールを脱ぐニコンの動画性能
今までのニコンさんのカメラの印象はというと、分からない・知らないというのが正直なところだった。
多くのスチールカメラマンがニコンのカメラを使っているが、映像で使っているのはこれまでbird and insectさんくらいしか知らなかったので、動画機能まわりの情報が正直今までほとんど目に付かなかった。
そんな中レビューの依頼をいただき、好奇心から引き受けたのだが、あまりの本気性能で腰が抜けそうになりました。
現時点で私が触った一眼スタイルのカメラの中で一番凄いと断言できます。(私の中で)
未知だったニコンの動画性能がベールを脱いだ!
ちなみに私はニコンさんのデジカメはほぼ使ったことがなかったので、歴戦のニコンユーザーさんにとっては当たり前の機能にも感動している可能性が非常に高いのはご了承ください。
むしろ他はそんな事もできないのか!と誇ってくれてもいいです。
他社のカメラを研究し尽くしたカメラ
一般的にスチールカメラに動画機能を付けると映像メインユーザーにとって何かしらの不満はあるのが普通だ。
だがZ 9はそんな声を全部吸い上げられていると感じた。
プロカメラマンへのヒアリングだけでなく、TwitterとかYouTubeなどを隅々までリサーチしてるんじゃないの?というくらいに他社のカメラへの不満を克服している。
「あったらいいな」が全部詰まっている
Z 9には映像系カメラマンのあったらいいなが全部詰まっている。
手ぶれ補正やAFが高性能なのは当たり前として、バリアングルではなく縦横4軸チルト式のモニターやフルサイズのHDMI端子、電源オフ時にセンサーシールドを下ろせたり、8K動画の長時間記録、内部RAW収録※などかなり動画機能に力を入れているのがわかる。
これらのカタログスペック上でわかる機能だけでなく、ひとつひとつの操作や設定まで細かい部分に気を配られており、一眼スタイルのカメラとしては一つの完成形に達している。
※2022年にファームアップにて対応予定。
運用でカバーする必要がなくなった
映像制作をしていると、カメラに足りない部分は「運用でカバーします!」というのが当たり前であったし、それに対応できるのがカメラマンのスキルであった。
バッテリーの持ち、連続撮影時間、モニターの輝度が足りないので外部モニターを付けるなどなど…(これらを補ってくれる具体的な機能については後ほど紹介する。)
そういったカメラの弱い部分を運用でカバーしなければならない事が極端に減った。
状況によってバッテリーや外部モニターなどの機材を極限まで減らすこともできるし、何より減ったのは撮影時の無意識の中に感じるストレスだった。
運用でカバーしないといけないことがひとつでも減ればそれだけ撮影に集中ができ、二度と訪れることのない一期一会の一瞬を逃さなくなる。
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8K映像の将来性と有用性
未だに納品はHD主流。それどころかDVDで!と言われることもあるので、8Kなんて不要論も理解できなくもない。
単なる仕事という面ではそうかもしれないが、作品を作る上において高い解像度は大切なファクターの1つだ。
8Kの圧倒的な情報量とディティールは映像の説得力を大きく上げる。たとえ8Kで上映しなくても伝わってくる。
「今」だけを見ると、不要に感じるかもしれないが「将来」まで残したいと考えると8Kはとても有用だと思う。将来的にテレビの解像度は8Kまで行くことは決まっている。
PCのモニターも4Kを超える事が普通になって来た。
私も今すぐ8Kの映像を作る必要性はないが、自然の中で撮影する一期一会の映像は資産であり、将来も使うためになるべく高画質で残しておきたいと思い、昨年から8K RAWで撮影をしている。
Z 9は2〜3年で買い替えが必要になるカメラではないので、無駄な投資にはならないはずだ。
何より大切なのは自分で撮った8Kの映像を大画面で見て「ヤベェ」と声に出してしまう感覚だ。それだけの力が8Kにはある。が、実際に「使って」「見た」人しか解らないこの感覚をうまく文字だけで伝えることができないのがもどかしい(作例を見てね)。
熱処理を解決し”UNSTOPPABLE”に撮影できる
他メーカー数社がいち早く8K収録を打ち出して来たが、やはり小さいボディで熱を処理するのは大変なようで撮影には制限がある。
4Kの時も同様の問題があったりしたので時間が解決するだろうとは思っていたが、予想以上に早く解決したのがこのZ 9だ。
カタログスペック通り2時間5分(※1)回り、停止後すぐに収録を再開できる。"UNSTOPPABLE"はZ 9のキャッチコピーだ(※2)。
撮影を止めない。8Kの連続撮影時間もその一つだ。
※1・・・Li-ionリチャージャブルバッテリーEN-EL18d使用、温度23℃時、電源オフからオンに切り換えて撮影した場合。動画撮影時は高速書き込み速度のCFexpress TypeBカード推奨。
※2・・・Z 9スペシャルコンテンツページ参照:https://www.nikon-image.com/sp/z9/
8K以外もすごいぞZ 9
8Kについて熱く語ってしまったが、他の解像度もすごいんです。
4K UHDにおいて120pのハイフレームレートで撮影できる。
またコーデックはH.265内部記録と複数の収録方式(SDR,N-Log,HLG)は当然として、この手のカメラでは見たことのないProRes 422 HQで内部収録もできる。
もちろん10bitにも対応。ほとんどの人は8K以上にこちらの方が恩恵を受けるかもしれませんね。
※・・・発売時は、H.265(10bit )が8K30pと4K120p対応。ProRes 422 HQ(4:2:2・10bit)は4K60p対応でボディー内部収録対応予定。
素直でしっくり来る色作り
bird and insectの林さんもレビューで書いてましたが、SDRの色がとても良いです。
カラーグレーディングでゴリゴリ色をいじるのも好きですが、カメラに入っているピクチャーコントロールのプリセットもなかなか良いもんだなと再認識しました。
撮った時にいい色が出ていれば過度のカラーグレーディングは不要ですからね。
私のお気に入りはポートレート設定で撮る雪山。ハイライトを飛ばさないように気をつければシットリと締まったいい色が出ます。
この映像はピクチャーコントロールのポートレート設定を使い、最低限のカラコレとグレーディングで作ってみました。
【参照】bird and insect 林さんの記事
【忖度なし】Nikon Z 9「動画性能」最速レビュー!新フラッグシップは「本物」なのか?
こんにちは。 bird and insectの林です。 昨年のZ 6II, Z 7IIのレビューに引き続き、今回はなんとニコンさんの新フラッグシップ機「Z 9」のレビューをさせて頂く機会を頂きま...
スペックではわからない嬉しい機能
Z 9を使って来てこれ良いなと思ったカタログスペックだけでは分からない細かな便利な機能をいくつか紹介。
タイムラプス動画
私のような自然系のカメラマンが多用するのがタイムラプス。
純粋に動画だけを作成する「タイムラプス動画」と、スチール撮影する「インターバルタイマー撮影」の2つがあります。
動画だけ必要な場合はタイムラプスを。
スチールで撮影した後で、現像をしてハイクオリティなタイムラプス動画を作りたい時はインターバルタイマー撮影を使う。
インターバルタイマー撮影では、スチールと同時にタイムラプス動画を撮影することもできるのでこちらを使っていました。
面白い点としてAEブラケティング(露出を変えて複数枚撮影)の撮影も可能でのHDRタイムラプスができます(動画のHDR機能よりさらにハイダイナミックレンジ。現像と編集は大変そうですが)。
撮影間隔や枚数の設定は当たり前ですが、露出の平滑化、撮影開始の日時の設定、撮影間隔優先などあったら嬉しい機能がZ 9には入ってます。
タイムラプスのカット毎にフォルダを新規にフォルダー作成してくれる機能はとても便利。後のファイルを整理する時間を大幅に削減してくれます。
設定時に終了時刻が表示されるのと、撮影が終了するとビープ音で教えてくれるので撮影中に別のこと(大抵スマホを見ている)をしていても気が付きます。
またとても細かい点ですが、タイムラプス撮影とインターバルタイマー撮影の設定は、静止画撮影メニューの下から2番目3番目にあり、ボタンを上に押せばすぐ辿り着ける点に感心しました。
通常撮影とタイムラプスをしょっちゅう切り替える私には嬉しい。
Z 9にはメカシャッターがないのでシャッターが壊れる心配がない。10秒以上の動画を作るために毎回300〜500枚の撮影をするインターバルタイマー撮影は、すぐに耐用シャッター回数を超えてしまうので。
もちろん電子シャッターに切り替えインターバル撮影ができるカメラもあるが、その都度切り替えるのは面倒臭い。
暗闇で光るボタンイルミネーション
星空を撮影する際、暗闇の中でボタンを操作していると慣れたカメラですら「あれ、どこだっけ?」ということは頻繁にある。
Z 9は電源スイッチをOFFと反対方向にひねると主要なボタンが光る。
舞台などの暗いシーンでの撮影が必要な方も重宝する機能だ。
赤色画面表示
星空を撮影する際モニターの明かりで周囲の人に迷惑をかけなくて済む。そして目に優しい。
スターライトビュー
AFの低輝度限界も最大-8.5EV※まで拡張されるため、暗闇が明るく見え、構図を作ったりフォーカスを合わせるのに良い。
※・・・静止画モード、シングルAFサーボ(AF-S)、ISO 100、f/1.2レンズ使用時、温度20°C
グローブをつけたまま画像モニターのタッチ操作ができる。
グローブモードをONにすると画像モニターのタッチ感度を上げることができるので、手袋をはめたまま画面のタッチパネルを操作できる。
スマホ対応のグローブでなくても操作ができ、星空の撮影や極寒の雪山で指の感覚を失いながら操作しなくても済む。ありがたや。(雪山の撮影の前に知りたかった)
もちろん指先が太いので押し間違えたりする事はあるが、指がもげそうになりながら素手で操作しなくて済む。
マイク関係の設定が多い
アッテネーター(音割れを防ぐ)やプラグインパワーの設定など細かな設定ができる。
音はカメラ内蔵にしてはきれいで、定位もしっかりとしており立体感を感じた。また広域帯、音声帯域と録音する帯域を切り替えることもできるのは嬉しい。
日付を選択してファイルを削除
カードのフォーマットを忘れて撮影を始めてしまった時、容量が足りなくなってきた際に日付を選択してまとめてファイルを削除できる。
1枚ずつちまちま消さなくても済む。
コーデック
H.264はFull HDまで。それ以上の解像度はH.265収録になる。4KではProRes 422 HQ、8K UHDではRAW内部収録※にも対応する。N-RAWはDaVinci Resolveでも扱えるRAWだといいな。
※2022年にファームアップにて対応予定。
HDMIで外部モニターに接続
もちろん可能だ。フルサイズのHDMI 2.1端子で最大8K UHDの出力ができる。
解像度の他に出力レンジや情報表示のON / OFF そして外部モニターに出力している時にカメラのモニターへの表示・非表示も選択できる。
外部モニターを使うとカメラのモニターが見られなくなるという事がない。
外部記録制御(HDMI)をONにするとカメラの録画ボタンと連動ができる。またカメラ側からタイムコードを出力して同期することも可能だ。
同梱バッテリーEN-EL18dの持ちが良い
3300mAhの大型バッテリーは約170分の動画撮影が可能で、収録中はずっと電源をONにしているという人でなければ、相当バッテリーは持つ。
わざわざVマウントバッテリーを使う必要もないのではないだろうか?
氷点下の雪山での撮影が多かったが、私の場合1日1本。
タイムラプスを多用する場合でも2本あれば十分だった。終了時2本目にはまだ余裕があった。
USB給電
モバイルバッテリーからUSB‐Cケーブルで給電が可能(給電中に充電はされない)。
一晩中タイムラプスを撮影する時など便利だ。給電とレンズヒーターを1つのモバイルバッテリーからできて便利でした。
謎に高速なシャッター速度
1/4000とか1/8000は見たことがあるが1/32000ははじめて見た。
NDフィルターが付かない出目金レンズを明るい場所で解放で撮るとかくらいしか今の所使い道は思い付かないが、何か面白い使い方がありそうだ。
わかりやすいメニュー画面
以上のような多くの機能が搭載されているがメニューで混乱することは少ない。
各社メニューは分かりやすくデザインされているのだが、Z 9はその中でもとてもわかりやすく、設定も親切だ。
見た目的に特別でもなく項目も他社のカメラと同様に写真や動画それぞれのメニューによく使う設定が入っているのだが、詳細項目やその順番などがかなり考えており無駄にページを移動しなくて良い。
もちろん自分用にカスタマイズしてマイメニューに登録することもできる。
できない組み合わせの場合「この組み合わせはできません」で終わらずできる設定にしてくれる。
例えば8Kでは電子手ぶれ補正はできないが、4Kでは可能だ。
4Kで電子手ぶれ補正を設定したまま8Kに変更した場合電子手ぶれ補正をオフにしてくれる。また4Kに戻ればオンになる。設定を行ったり来たりしなくて済む。設定できない場合は見直す設定を表示してくれる。
そして何より日本語がわかりやすい。
しっくりくるボディー
縦型グリップが付いているのでひと回り大きなボディーに多くのボタンが配置されているが重要な機能は右手で操作できるようになっている。
基本すぐ触ってはいけない撮影モードや連写モード、削除ボタンは左肩にまとめられている。基本縦映像を撮影しないので縦型グリップは不要かと思いきや左手の腹にグリップが乗っかり安定したレンズ操作ができることに驚いた。
手ぶれ補正と相まって手持ちで撮影する際にとても安定した映像が撮れる。そして重量を分散してくれる。
4軸チルト式モニター
他社が続々とバリアングルモニターに切り替える中、Z 9はチルト式モニターを採用している。
バリアングル派とチルト派、それぞれの言い分はわかるのでどちらが絶対に良いとは言えないが、私はチルト派である。
レンズの軸線とモニター位置がずれるのが好きではなく、モニターを開いた時にワイヤー類と干渉し、意外に稼働範囲が制限されるためだ。
Z 9のモニターは上下左右に動く4軸機構でかなりメカメカしい。レンズ方向には向かないので自撮りには向かない。
このカメラを片手で持って自撮りしている姿もなかなか滑稽ではあるし、配信用に使うときは別にモニターを使うのが普通だ。またジンバル撮影においても邪魔にならず見やすかった。
編集環境
8K H.265の編集はそれなりのPCでないと処理が重くなると思うが、Macbook Pro M1 Max (2021) + DaVinci Resolveではサクサク動いた。Proxyの作成は必要ない。
N-RAWがDaVinci Resolveで扱えるかとても気になるところだが、ニコンさんなら大丈夫だろうと期待している。
今後のファームアップデートが熱い
みんな(特に私)が欲しかった機能がやってくる。(※記載は21年10月28日現在)
・8K UHD/60p(12bit)のRAW動画の内部記録
・REC時の赤枠表示
・動画撮影中の拡大表示倍率の切り換え
・動画Mモードでの低速シャッタースピード設定
・ウェーブフォームモニター表示
…など
まとめ
以上、Z 9の気になる機能や使い勝手について書かせていただいたが、細かい部分までとてもよく考えられているカメラです。
フラッグシップのプロ機なのでお値段もそれなりにしますが、仕事でガッツリ使う方はもちろん、とても使いやすいので、ハイアマチュア位の方がちょっと背伸びしてでも使うと良いカメラとも感じました。
この性能があれば数年は最前線で使うことができるカメラです。
これ以上を求めるとしたら16bit記録とか8K240pとかしか思いつきません。
ニコンさんにはいつの日かシネマカメラを作っていただきたいと心から思いました。
今までいくつか製品レビューをさせていただいた事があるが、大抵は数日触ってファーストインプレッション的な製品の表層しか紹介できないのですが、今回は約1ヶ月もお借りしているのでかなりじっくりと使わせていただいてます。
仕事を忘れるくらい長時間製品と向き合い、書き切れないくらい色々な事を発見しましたが、撮っていて感動のあまり「まじかぁ」という言葉が何度も出てしまいました。
こんなに不満がないカメラははじめてです。
このままうちの子になってくれないかな。
※記事中の映像はベータ機で撮影を実施しています
■公式オンラインショップ ニコンダイレクトWebページ
https://shop.nikon-image.com/?cid=JDZAU201712
■Z 9 製品ページ:プロフェッショナルのワークフローに応える実用的な動画性能
https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_9/movie/
■Z 9製品ページ:TOP
https://www.nikon-image.com/products/mirrorless/lineup/z_9/
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