日本と海外を拠点に活動されているモーショングラフィックデザイナー・寺尾加奈さん。2021年アドベントカレンダー「つくりたい表現をみつける!CG JUKEBOX」の開催にあたり、寺尾さんにインタビューを行いました。聞き手は6秒企画のモーションデザイナー・白戸裕也さん。
見る人の心を一瞬で奪う、寺尾さんの作品制作の秘密とは?
GUEST:寺尾加奈
2019年に渡英。ロンドン、EU圏や日本を拠点にするモーショングラフィックデザイナー、CGアーティスト。主に繊細でハイエンドなCG表現を得意とし、映像だけでは無く広告などのグラフィックやアートディレクションも行う。映像作家100人2020年選出。
聞き手:白戸裕也
大手制作会社にて、テレビCM・WebCM制作等を経験。2016年よりABEMA、2019年より6秒企画に参加。モーションデザイナーをはじめ、エディター、コンポジターを務める。映像系イベントにも多数登壇、記事も執筆している。
グラフィックデザイナー志望から、3DCGの道へ
白戸裕也(以下、白戸):よろしくお願いします!まずは、改めて寺尾さんの経歴からお伺いしてもよろしいですか。
寺尾加奈(以下、寺尾):桑沢デザイン研究所でグラフィックデザインを学んだあと、映像制作会社に就職しました。グラフィックデザインの道に進むと思っていたら、いきなり After Effects や CINEMA 4D を触ることになりました(笑)。
そのあと、イチから映像を学ぶため、デジタルハリウッド大学3DCGデザイナー専攻コースに1年間通いました。 「やれることは全部やろう」 と、ひたすら毎日チュートリアルなどで勉強を重ね、 CINEMA 4D を覚えたんです。そのあとは EDP graphic worksで2年半、Onesalで3年ほど働きました。
白戸:どのような理由で会社を移られたんですか?
寺尾:「EDP graphic works」でキャリアをスタートした頃は、2D表現を多く担当していたのですが、仕事をしていくにつれて 「やっぱり3Dがやりたい!」 という自分の原点となる部分に気づいたんです。 海外のチュートリアルを理解したり、最新情報を得るために、英語を勉強したい思いもありました。そこで、国際的なメンバーが勢揃いしている「Onesal」に転職しました。
「Onesal」でハイエンドなCG表現を経験し、「次は海外で腕試ししたい」 と思うようになりイギリスに渡りました。最初は「weareseventeen」という会社に在籍して、コロナ禍のタイミングで状況の変化もあり、現在はフリーランスとして仕事をしています。日本では 「dep management」に所属しています。
白戸:たくさんある3DCGソフトの中で、なぜ CINEMA 4D を使おうと思ったんですか?
寺尾:「モーショングラフィックスに強い」 と思ったのと、「やりたい表現にぴったりだったから」 ですね。その当時流行っていたのが CINEMA 4D だった、ということもあるかもしれません。
「質感」にこだわった作品が生まれるまで
ここからは、寺尾さんのお気に入りの作品を例にあげ、その制作の背景や過程を伺っていきます。
Case 1 : Evian
寺尾:これは「Sato creative」という、フランスのエージェンシーからいただいたお仕事です。クライアントさんの希望は 「新しいボトルをフィーチャーしたい」 というもの。Evianらしい透明感を大切にしつつ、複数のアーティストにEvianに対するイメージを聞いてそれを反映させるという、とても自由度の高い案件でした。
私がEvianに対して持っていたのは、「夕焼け」や「山の恵み」 「透き通った空」 といったイメージ。ただし、深いコンセプトまで作りこんでしまうと作業が止まってしまうので、どんどんリサーチとルックデベロップメントを行い、その中でクライアントさんに選んでもらいました。
Look Development (ルックデベロップメント)とは
3DCGにおいて、見た目(ルック)を調整する工程のこと。テクスチャやライティングを調整し質感を向上させる作業を指します。
制作期間は1か月ほどで、ルックデベロップメントに2週間、そのあとクライアントさんに方向性を決めていただいて、ブラッシュアップに2週間という配分ですね。
白戸:この作品に決まるまでの間に、何案ぐらい作ったんですか?
寺尾:予算にもよりますが、いつも10案ぐらいは出しますね。
実際に提出されたラフ案
白戸:どの案も素敵ですよね。変な質問ですが、何を食べたらこれが生まれるんですか?
寺尾:納豆ご飯ですかね(笑)。
Case2 : Voyage
寺尾:これは、そのとき自分ができることをとにかく盛り込んでみた作品です。 テーマは 「旅立ち」 。オーガニック系のものを作りたくて、このようなスタイルになりました。
コロナ禍に仕事を辞めて、リトアニアへの引っ越しの前に時間があったので 「何か作ろう」 と思ったのが制作のきっかけです。2か月くらいで終わらせるつもりが、試行錯誤しすぎて4か月くらいかかってしまいました。
白戸:特に大変だったのはどの部分ですか?
寺尾:花の部分はディティールを作るのが難しかったですね。本物らしさがありつつ、でも「架空のお花」の感じも出したくて、毛のマテリアルや植物のリファレンスをたくさん観ました。一番こだわったポイントは 「質感」 です。
白戸:質感にこだわる上で、いつも心がけていることはありますか?
寺尾:まずは何度もテストすること。 そして、普段から質感をよく観るようにすること。 木やコップなど身近にあるものを研究したり、写真に撮ってみたりしています。あとは、「この質感いいな」と思ったものを写真に撮ってパソコンに取り込んで、テクスチャにしたりしていますね。
白戸:技術を活用していますね。ちなみに、この花はどのように作っているんですか?
寺尾:つぼみ部分は Substance Painter で色を塗っていて、ぼこぼこしていたり、うねっていたりする部分などは細かくレイヤーを分けています。CINEMA 4D に持っていったあとは、Redshiftでマスクしたり、色のゆらぎを作ってみたり。グラデーションにノイズをかけて、それをマスクにしてまた違うマテリアルを乗せてみたり。
白戸:トライアンドエラーですね。
寺尾:失敗ばかりなんですが、ある日 「あ、出来た」 っていう瞬間がくるんです。自分で作ったアセットはいつでも使えますし、その経験自体も活かせるので、トライアンドエラーは是非やったほうがいいと思います。
Case3 : ふわふわの木
寺尾:これは、現在所属している dep management の 「毎週金曜日に作品を投稿する」という企画で作った作品です。わたし、もこもこしているものが好きなんです。 ほかにも、むちむちしているものや、ころっとしているものも好き。もはや 「フェチ」 ですね。
白戸:確かに左下のむちっとした部分、いいですね。
寺尾:こういうの大好きなんですよね、わらび餅みたいで(笑)。 仕事では、スポーツ系の案件でスモークや火花が散るような表現も作るんですが、自主制作ではこういうものを作りたくなるんです。
白戸:多肉植物のような質感の部分もありますが、こうした組み合わせはどうやって生まれるんですか?
寺尾:作っていく過程で 「あ、こういうのも入れてみようかな」 と思って試すことが多いですね。この作品もよく見るとタイプの違う毛が混在していて、検証しながらつくりました。
こういったCG表現のコツとして 細やかなディティールを入れることでぐっと画が引き締まるんです。 同じサイズのものだけだと面白みがないけれど、異なるサイズのものがあると、そこに目が行くというか。大きいところと小さいところを作る、要は粗密の関係ですね。
白戸:なるほどなぁ。寺尾さんは、理論派もしくはバイブス派でいうとどちらですか?
寺尾:もちろんバイブスですよ(笑)。 デザインの知識などを無意識に使っているかもしれませんが、理論的に考えて計算してやっているわけではないです。
白戸:バイブス大事ですよね。でもそれを裏打ちしているのは、デザインの知識や、何回もトライアンドエラーをする根気強さなんだろうなって。
寺尾:そうですね、根気は凄いですよ。ゾンビみたいな顔して、死にそうになりながら作ってますから(笑)。
アイディアをオリジナルな表現へ昇華するには
白戸:先ほどの「トライアンドエラー」以外に、アイディアを生み出すためにやっていることはありますか?
寺尾:白米を食べる 、かな(笑)。リトアニアに住んでいた頃、現地では白米は高くて貴重で、ありがたく食べていました。私、和食が大好きなので。
白戸:和食を食べるといい作品ができるのかも(笑)。 海外に行っても日本のルーツを大切にされていて安心しました。
寺尾:モーショングラフィックスをやっている方って、日本のアニメやマンガが好きな方が多いと思うんですよね。 以前はロンドンのクラブなどを楽しんでいましたけど、コロナ禍を超えて、アニメとマンガの楽しさに戻ってきましたね。
白戸:それらもアイディアの種になるんですか?
寺尾:なります!「美少女戦士セーラームーン」 が大好きで、色、形、世界観など一番影響を受けています。
白戸:なるほど。最近3DCGがコモディティ化している印象があるんですが、それに対して寺尾さんはどう思います?
寺尾:一緒に仕事できる人が増えるので、もっと CINEMA 4D ユーザーが増えたらなと思っています。 なので、最近Blenderを使う方が増えているのはちょっと寂しいんです(笑)。
日本だと日本の流行りもあるので仕方ないですが、もう少しアンテナを広げてもらえたら嬉しいなと。 海外では、モーショングラフィックスやハイエンドなCG制作は、やはり CINEMA 4D やHoudiniを使っている方が多いなと感じています。
白戸:そんな中で寺尾さんから若い方へ、「これだけはやっておいたほうがいいよ」 というメッセージはありますか?
寺尾:今の若い方は、チュートリアルもたくさんやっていたり、本当にすごいなと思います。でも「この作品、チュートリアルで見たことある」ってすぐわかるんです。同じような作品ばかりになっているのはもったいないなと。
なので、チュートリアルをやったら、自分でリサーチとデベロップメントをして違う見た目にしてみたり、違うアニメーションを試してみたりするといいと思います。チュートリアルをやってその結果に満足するのではなく、自分で試してみて、機能の使い方やできあがるまでの過程を理解することが大切じゃないかな。
白戸:どういうふうに、オリジナルな表現にしていけばいいんでしょうね。
寺尾:絵画や彫刻などのアート作品には、とてもオリジナリティーがありますよね。私はそういった デジタルコンテンツではないものに触れる機会を大切にしています。 美術館に行って、さまざまな作品を「こういう作り方をしているんだ」「この質感すごいな」と鑑賞したり。
白戸:3DCGってソフトの使い方を覚えることを重視しがちですが、大切なのは 「観察する」 ことなんですね。
寺尾:そうですね、やっぱり 「観察力」 が大切なんだと思います。
寺尾加奈さん登壇のウェビナーがアーカイブ配信中(Premiumメンバー限定)!
特別に今回ご紹介した作品のファイルをのぞかせて頂いたり、海外で活躍する寺尾さんのキャリアに対する考え方なども伺いました!
アドベントカレンダー2021、そのほかの記事はこちらから!
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Vook編集部@Vook_editor
「映像クリエイターを無敵にする。」をビジョンとするVookの公式アカウント。映像制作のナレッジやTips、さまざまなクリエイターへのインタビューなどを発信しています。
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