はじめまして。ニュージーランド在住のアーティスト、GAKUと申します。Blenderを使った立体絵画や3Dイラストレーションを作る傍ら、講師、フリーランス、オンラインスクールの運営などもしています。
今回の記事では、Blenderを使った珍しい立体のアート表現とその可能性をお伝えできたら嬉しいなと思っております。
Blenderとの出会い
もともと私はロサンゼルスのデジタルドメイン、カナダのILM、NZのウェタデジタルで、ハリウッド映画のVFXの仕事に20年近く携わってきました。映画におけるフォトリアルな表現に魅力を感じ、長い間3DCGの第一線の現場で映像を作ってきました。
私が始めた頃の3DCGはとても新しく珍しい高価なものでしたが、最近では誰でも触れられる身近なものとなりました。とくにBlenderは無料のオープンソースのソフトウェアということで、3DCGを誰でも簡単に作ることに大きく貢献しています。
映画のVFXをやってきた自分は、Blenderについて「大して良いものを作るに値しないだろう」という大きな偏見をもっていました。しかし、数年前からVFXアーティストが徐々に使い始めているのをみて少しずつ考え方が変わり、実際自分で触ってみると驚くべきその可能性に触れることになります。
一番驚いたことは、そのスピードと操作性でした。
VFXの現場は、長年の技術の発展と同時に、様々な政治のなかで身動きが取れない重い体制が出来あがっています。実際のソフトにおいても無駄な点が多く、時間がかかってしまう面も多くあります。
一方、Blenderはオープンソースの自由な環境の中でアーティストのための快適な開発が行われており、非常に効率性の高いアーティストのためのソフトとして発展してきました。そのため、比較するとものすごく軽く、作業が非常に快適です。
最近ではその効率性の良さで、逆に大手のプロダクションが積極的に導入する傾向にあります。モデリングなど、Blenderのみで制作する大手プロダクションのアーティストもいます。最近発表されたネットフリックスのアニメ『プリンセス・マヤと3人の戦士たち』は全てBlenderで作られています。
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“立体絵画”という表現を叶えるグリースペンシル
Blenderのツールの一つに、GreasePencil(グリースペンシル) という立体絵画のツールがあります。個人的にはDedouzeさんの動画が大きな衝撃でした。自由に空間で表現する立体イラストのそのスタイルに、直感的にいろんな可能性を感じたのを覚えています。
私も「慣れ親しんだ3Dの技術を使い、2次元的なラインアートを作ってみたい」と思い、以前個人的に趣味で作ったガンダムのザクのモデルでアウトラインの作業をテストしたところ、とても楽しく、SNSでも大変多くの反響をいただきました。
リアル系の3Dは作業量も多く、また最近では大量生産されすぎているというところがあるかと思います。一方、この立体絵画はまだ開拓の余地が多く、直感的にこの方面に大きな可能性を感じて、今後もっと深堀りしていこうと決めました。
また、作業をするにあたりBlenderの開発者たちやコミュニティの方たちもとても協力的ですし、海外を中心にYouTubeのチュートリアルは無限にあります。
このクリエイティブなBlenderのコミュニティは、革新的で自由な新鮮な空気を感じます。
私は水彩画が好きで、たまに自分でも絵を描きますが、“立体の水彩”という分野はあまりみたことがありません。そこで自分で試してみると、これもまたBlenderではさほど難しくなく、楽しく製作できました。
映像作品の目的が「人に世界観やストーリー、感情を伝えること」だとするならば、水彩のアニメーションはそれにふさわしいスタイルのひとつだと思います。最近は、空間を埋め尽くしたリアルな画像よりも、想像力をもたらす水彩に安心感を覚えます。
技術的な面について。立体絵画の大きな要素のひとつとしてはアウトラインの線が重要ですが、Blenderはシェーダーやグリースペンシルをつかって様々な表現ができます。
こちらの木はエッジにノイズやアルファを追加して、手で描いたような線を表現しています。
また、グリースペンシルならタブレットなどでこの様にペンのストロークの表現が可能です。
他のドローイングソフトのようにいろいろな線を表現でき、あとから線を整えることも出来ます。
このようなツールを組み合わせることにより、ディテールまで詰めた立体絵画の制作が可能です。しかも、Eeveeというリアルタイムレンダラーのおかげで直感性を保ちながら作れる、というのが大きな利点かと思います。
グリースペンシルでの立体絵画制作フロー
簡単にグリースペンシルの立体絵画のつくり方をご説明します!
まず、3Dモデル(スザンヌ)を2体重ねて、アウトラインを作ります。
アウトラインにノイズを加え、ペンのタッチを足します。
モデルの上からグリースペンシルで目や口を描きます。同様に、髪の毛を面の先からペンで伸ばして描きます。
最後にスザンヌの面に頂点ペイントで色を追加します。
こちらに動画がありますので、ご興味のある方は是非トライしてみてください。
立体絵画の可能性
最近はメタバースが話題になっていますが、この分野の技術は現在まだまだ発展途上の段階です。今後デバイスの技術が発展し、もっとお手軽にVR/ARの世界を楽しむときが来ると思います。
リアルタイムのリアル系CGの進化とともに、ファンタジーやアートの分野も今後もっと進化するのではないでしょうか。絵本の世界に迷い込むといったイメージでしょうか。この分野は、個人のアーティストが参入しやすくチャンスの多いエリアだと私は思います。
ストーリーテリングとしての立体絵画をもっと深堀りして、今後もっと新しい表現をしていきたいと思っています。
※不定期でBlenderのオンラインクラスもやっています。もしご興味があればチェックしてみてください。
YouTube https://youtu.be/nFdQv_l6Py0
公式サイト http://veda-online.com/Class.html
このような様々な表現力のあるBlender。魅力をちょっとでも感じて頂けましたでしょうか。
触られたことのない人は、是非手にとってトライしていただきたいです。一度ハマると、子供の頃の図工の授業のときのように楽しい時間が待っていると思いますよ。
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