2021.12.25 (最終更新日: 2022.06.07)

Vook 百名選 選出記事

百名選

#表現の参考

「表現って一体なんだろう?」

僕はいまだに自分のやりたい表現を模索中です。

自分のやりたい表現って、どうすれば見つかるのでしょう?

その答え全てを解明するのは難しそうですが、今回僕は、このアドベントカレンダーの依頼を受けるにあたって、興味深い体験をしたので綴ってみます。

客観的に、自分のやりたい表現を見つめ直した話です。

今回僕はこんな作品(1クリップ)をつくってみました。


この作品の企画から完成までの過程を、「表現」にフォーカスして振り返ってみたいと思います。

表現の参考

まず、僕はネタ帳を書くのが苦手です。

16年前、映画学校に入学したときから、いろんな方法を試したけど全然続かない。紙のノート、小さなメモ帳、コピー用紙、付箋、スマホのメモ帳、アプリ、etc...

2~3個のか細いアイディアを記しては、その場限りで、あとはそのネタ帳の存在すら忘れてしまう。

そんな僕でも、唯一続けられたネタ帳的存在があります。

それがTwitterで気ままに投稿していた「#表現の参考」です。

このハッシュダグをつけて、自分が好きだな!いいな!と思った表現のものをリツイートする。それだけです。(よかったら上のリンク先を覗いてみてください)

ネタ帳というより、表現のリファレンス集という方が正しいかもしれないですね。「自分の表現のために普段からメモしておく」という意味では、僕はこの方法が一番続きました。

また、#表現の参考 では1つだけゆるいルールを作りました。

それは映像作品以外の表現にすること。

映像作品から参考にすると既視感が出たり、下手するとパクリとなってしまう可能性もある。だけど、それ以外の現実で起こってることや他メディアの表現なら、また新しい表現になりやすい、はずです。

とはいえ、実際には映像作品もリツイートしてるので、あんまりシビアにはやってないです...まあ続けられたのも厳しくルールを守らなくていいというゆるさがあるからかも

「新しいアイディアは、既存のアイディアの組み合わせから生まれる」というのはよく聞く言葉で、これはある意味励みにもなる言葉です。

僕は0→1にするのが本当に苦手で、そういったときは、この世に存在する多くのアイディアからいろんな組み合わせを試すしかないかもしれません。

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客観視

ネタ帳は続いたはいいけど、今度はアウトプットしないと作品という形にはならない。

さぁ、ネタ帳からアイディアを紡ぎ出そう!

と気合が入っていたわけではなく、正直、#表現の参考 を見返すことは普段あんまりしてなかったです。。(どんだけ)

見返すようになったのは実は、Vookさんから今回のアドベントカレンダーの依頼が来たから。引き受けるか最初迷ったのですが、でもまあそういうお話が来ると、一通り見返したくなりますよね。しかもかなり真剣に。

すると、不思議なことにちょっと今までとは違う見方ができたんです。

自分の好みを客観視することができた。

普段「これ好きだなー」とか「面白いな」と思ってもただ過ぎ去っていくだけなのが、そこには画像や動画として、自分の好きなものが羅列されている。しかも視覚的に。

実際に #表現の参考 のリンク先のTwitterを見てもらうとわかるかと思いますが、ジャンルは様々でもなんとなく毛色は似ている気がします。色彩も青やオレンジが多いです。

そして、意図せず隣り合ったアイディアを重ねると面白いなとか、これ映像化したら楽しそうとか、これらのアイディアの組み合わせだけを元に映像化してみようと思い立ちました。

分析

まずは自分が面白いと感じる表現を分析してみることにしました。

集めた表現は画像や動画がメインですが、今度は言語化してみます。全ての投稿を見返し、箇条書きで好きなポイントを書き出して、自分が面白いと思う「仕組み」と好きな「要素」に分けてみました。

▼面白いと思う仕組み
* 集合体、組み合わせ
* 対比的(コントラスト)
* 逆視点、別視点
* 連続性
* 凝ったギミック
* 言葉ではなく動きだけ

▼好きな要素
* 機械式
* 幻想的
* 植物
* 科学的
* 光、パーティクル
* 空
* 科学現象
* リズミカル
* 時を感じる
* 消えてなくなるもの、儚さ
* 気づきがある

ここからまず、自分が面白いと思う仕組みを言語化してまとめました。

1. 本来の構造ではないもので成り立っているもの
2. それらが対比的な関係になっているもの
3. そこから何かしら想像ができるもの

なるほど、これが自分がおもしろいと思う基盤のようです。面白い仕組みの基盤は、いろんなものに転用できそうです。

ここに自分の好きだなと思う要素を当てはめていけば、つくりたい表現が見つかる気がしてきました。

以上の条件を満たすように、作品の構想づくりに入ります。

構想

数ある #表現の参考 の中でも、個人的にひときわ惹かれたのが、この光る波の現象です。

YouTubeでも同じ現象の動画を見つけました。

調べてみると、この現象は夜光虫の影響らしいです。
昼は赤潮として赤く海面に現れるが、夜は物理的な刺激によって青く光るとのこと。

なんとも幻想的で、とても魅力に映る自然現象です。まずこれをCGで再現したいなというのが浮かびました。

うまくいけば、「幻想的」な要素は加えられそうです。「自然」の水と「人工的な」光る粒子(イルミネーション)という対比的な関係にもなっているようにも見えます。

これをベースに他のアイディアを組み合わせて、発展させていきます。

収集

何かの作品を制作するとき、リファレンス(参考資料)を集めることは大事なことです。

個人的に一番おすすめのツールは、定番ですがPinterestです。良い資料画像を見つけたらそれに関連する画像が芋づる式に出てくるので、どんどんリファレンスが溜まります。

今回もこれで夜光虫やそれに近い表現をざっくりばらんに探していきました。

これらを制作時に参考にしていくのはもちろん、ここからまた新たなアイディアに出会うこともあります。

研究

夜光虫というベースアイディアは決まったので、それをCGで具現化できるのか試してみます。

夜光虫の属性の英語名から名前を取って、Noctiluca(ノクチルカ)というシリーズとして、流体表現の研究始めました。作りながら反応も見たかったのでTwitterにも投稿していきました。

夜光虫のように光る粒子をどう波に追従して表現するか難しそうだったのですが、一応それっぽくなった気がします。

技術的にはそんなに難しくはなく、流体シミュレーションで動きを作ったあと、泡部分にEmissionシェーダーを割り当てているだけです。

使用ソフトはBlenderで、反射や透過の効果が大きく影響するのでレンダリングはCyclesを選択しました。また、FlipFluidsという流体シミュレーションのアドオンを使っています。標準でも流体シミュレーションは入ってますが、個人的にはこちらの方が好みです。

FlipFluidsには「Bubble(泡)」「Foam(泡沫)」「Spray(水しぶき)」「Dust(ちり)」の4種類の粒子を分けて細かいコントロールができるので、今回のような描写がやりやすかったです。

かけ算

夜光虫に掛け合わせると面白そうなアイディアも探っていきます。

#表現の参考 の中でもあるように、僕は植物が結構好きです。

単に飾ってある綺麗な植物より、アスファルトをぶち抜いた植物や、朽ちた人工物に生える植物なんかが好きです。

なぜでしょう?ここでも客観視して改めて考えたみたのですが、おそらくそこに生命やストーリーを感じるからかもしれません。

そこで一旦、夜光虫の流体と植物をかけ合わせたものを作ってみました。

この動画はTwitterではかなり反応をもらえました。なんとなく方向性は良さそうな気がします。

実はコメントでは「中に浮かんでるのは何?」と質問があったのですが、今回グレーディング少し暗くしすぎて失敗したなと思ってました。作った当時は「植物の塊」や「植物が生い茂る惑星」のようなものをイメージして作りましたが、あまり伝わらなかったと、、。

でもこの「何なんだろう?」と想像できる余地ができたからこその反応だったのかもしれません。偶然にしても良かったのかな、とこのとき感じました。

また、分析した自分の好きな要素の中に機械式というのもあります。機械式時計やスチームパンクなものが好きです。

その要素を足して、例えば、

「夜光虫の光るエネルギーに反応して、機械の中の植物が動く」

といったシーンなんかは面白いかもしれません。SFな設定ですが、本来の構造でないもので成立しています。(だからこそSFは面白いのでしょう!)

自分の好きな要素をかけ算していって、面白そうな設定が仕上がってきました。

「植物」は有機質、「機械」は無機質なので、これ自体「対比的」な掛け合わせで面白くなりそうです。

ここまででとりあえず、条件の2つはクリアできてる気がします。

1. 本来の構造ではないもので成り立っているもの
2. それらが対比的な関係になっているもの

想像

あとは最後の条件のみです。

3. そこから何かしら想像ができるもの

これは一番難しいかもしれません。実験的に偶然にも、その効果は多少感じましたが、もう少し深めていきたいと思います。「想像ができるもの」ということは、そこに少なからずストーリーを感じさせなければならないと思います。

僕には好きな映画のエンディングというのがあります。100%明瞭になるエンディングよりも、このあとどうなったのかな?とか、あれはこういう意味だったのかな?と想像させるようなものが好みです。

でもこれは意味不明過ぎても伝わりませんし、結構バランスは難しいです。

今回作る作品は尺はとても短くなりますが、ストーリーを想像できる余白を残してみたいと思います。

物語

今までのことをベースに、大まかなストーリーを固めていきました。

とある惑星。行き過ぎた繁栄の代償として、惑星全体の海面には大量のプランクトン(夜光虫)が発生。

昼間は血のような真っ赤に染まるが、皮肉にも夜には星空のような綺麗な海の波が光る。その惑星では年中雲に覆われしまい、もう星空も太陽も見ることはもうできない。

惑星の者たちは、夜光虫を採取し研究していくと、物理的衝撃で発生する光を新たなエネルギー(養分)として利用できることを発見する。

光合成ができずに植物が育たなくなったその惑星で、植物再生への新たな実験が始まる。

こちらはあくまでストーリーの設定です。尺もとても短いですし、全てを説明できません。そこは想像の余白を残して、1クリップを構築していきました。

集成

いよいよアイディアを集成するときです。映画のように丁寧にストーリーを描くわけではありませんが、「繰り返し再生される」というSNS動画の特徴を生かして、何度か見ると徐々に物語の欠片が垣間見えるような作りにしました。

順を追って、少しだけ内容を解説していこうと思います。


舞台は、研究所や未来の宇宙船のように見えます。冒頭すぐにキャラクターが倒れるのは、1秒で興味を惹かせるためのアクションでもあります。最初の掴みは、SNS向け動画なら大事なことかもしれません。このキャラは良いやつなのか悪いやつなのか?ゴール目前で力尽きたように見えます。


キャラクターが倒れると見える奥のカプセルでは液体が動き始め、周りの機器の照明も反応するように大きくなっていきます。壁や床には気持ち悪い何か生物らしきものが張り付いています。何者かが襲った痕跡でしょうか。この辺は初見では見落として、二回目以降に気がつくと思います。


カプセルに一気にカメラが近づきます。ここでは古くからある映画表現の「めまいショット」を取り入れてみました。ズームしながらドリーの動きを合わせると、画角は同じなのに周りの景色がギュイーーンと歪むように動きます。何かに吸い込まれるような感覚になります。


カプセルの中には、なにかの植物がワイヤーのようなもので固定されています。何かの実験でしょうか。この植物の設定は「黒百合」です。花言葉は「呪い」「復讐」といったものがあります。なかなか意味深ですね。植物の先端が光り、動くことから、光る流体(夜光虫)と共鳴しているのかもしれません。この黒百合は覚醒したのでしょうか?生命力を感じます。


最後に黒百合が隠れます。流体の動きが重力に逆らった独特な動き方なので、何かしらの意思が働いてるのでしょうか。音楽はカメラワークに合わせて盛り上がるようにして、何かの物語のクライマックスのようなシーンをイメージしました。

また、その他細かいところですが、背景のベースの照明は赤色にして青い光が引き立つようにしたり、途中から超広角レンズにすることによってダイナミックな描写になるようにしています。

ということで、短い動画ですが、一つにまとめることができました。

この章であまり断定的な言い方をしなかったのは、各部分にいろんな捉え方があって良いと思うからです。(もちろん僕の中では答えはありますが!)

まとめ

以上、この作品を作るまでの過程を「表現」にフォーカスして解説してみました。いかがだったでしょうか。

自分の好きな要素を分析して掛け合わせいったので、もちろん超自分好みの作品となりました。また、面白いと感じる構造も自分なりに分析することで、僕と近い感覚を持つ人の心にも響くような仕掛けも意識しました。

ただ、この作品が見た人にどのくらい響くのかは全くわかりません。でも、好きを突き詰めていったので満足感はかなり高いです。

もしかしたらスムーズにいろいろ思いついてる風に見えるかもしれませんが、実際はめちゃくちゃいろんな試行錯誤を繰り返しました。

実を言うと、「広大な海のシーンで夜光虫の波しぶきが光っている→そこにある研究所」みたいな映画のオープニングのようなものを考えていました。あまりにも時間がかかりそうだったので、小規模なシーンに変更しました。

↑ボツになりましたが、レイアウトを考えている初期段階。こんな感じに機械式の植物のようなデザインで研究所か波力発電所を作ろうと思ってました。(流体シミュレーションは鬼ほど時間かかりそうでした...)

面白そうではあるので、この辺はまたいつかトライしてみたい思います。

いやぁ、自主制作であっても作品づくりに完璧というのは存在しないのかもしれません。

でもこうやってどこかで区切りをつけて作品を公開することもすごく大事なことだと思います。でないと誰の元にも届きませんからね。。

誰かに見てもらって、初めてそれは 表現 になるのかもしれません。

付録

今まで読んだり使ったりして良かったもので、今回の記事に関するものを紹介します。気になったらぜひ覗いてみてください。

■本、記事
創作に携わる、すべての人にこれくらいのメンタリティでいてほしい(遠山怜さんのnote)
表現の技術
考具
面白くならない企画はひとつもない
「面白い!」のつくり方

■アドオン
おすすめのBlenderアドオンをざっくばらんに紹介する。


アドベントカレンダー2021、そのほかの記事はこちらから!
https://vook.vc/p/advent/2021

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taka_tachibana

Taka Tachibana@taka_tachibana

台北在住。CAPSULE Inc. / CHINZEI Inc. 所属。福岡で10年間のフリーランスを経て、台湾ではMVやweb広告などの映像制作に従事。その傍ら3DCG・VFXを駆使した作品づくりに取り組む。ASEAN-ROK Film Leaders In...

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