今まさに盛り上がりを見せている 「縦型動画」 。
スマートフォンによって縦画面が当たり前になったものの、まだまだ「縦型動画」を作る一歩を踏み出せていない映像クリエイターも多いのではないでしょうか?
縦型動画は、横型に比べて情報量が制限されてしまうため、これまでの構図や編集などの常識が通用しない局面があります。
そんな中Vookでは、「縦型動画」の魅力を伝えるべく、11月20日に「【 必修!「縦型動画」とクリエイターのこれから③ powered by Nikon】1,000万視聴突破!LINE NEWS VISION『上下関係』の型破りな制作秘話」と題したウェビナーを開催しました。
今回登壇していただいたのは、『上下関係』で縦型動画ならではの表現に踏み込んだ映像作家・写真家の柿本ケンサクさんです。
講師
映像作家・写真家
柿本 ケンサク / Kensaku Kakimoto
多くの映像作品を生み出すとともに、広告写真、アーティストポートレートなどをはじめ写真家としても活動。2021年大河ドラマ「青天を衝け」メインビジュアル、タイトルバックを演出。同年LINE NEWS「VISION」ドラマが配信。映画「恋する寄生虫」が11月12日より全国公開。現代美術家としても多くの写真作品を国内外で発表。国際美術展、水の波紋2021に選出される。
ファシリテーター
bird and insect CEO / Image Branding Director / Photographer
shuntaro
1985年、東京生まれ。京都工芸繊維大学で建築・デザインを学び、広告系制作会社を経てフリーランスへ。2013年、University for the Creative Arts で写真の修士号を取得。その後、bird and insectを立ち上げ、代表取締役を務める。2017年には、日本のファッション写真史の研究で博士号も取得した。
柿本さんが制作した縦型動画ドラマ『上下関係』制作の着眼点を通じ、縦型動画だからこそ可能な表現の可能性についてお話しいただきました。
- 縦型動画に挑戦したきっかけ
- 縦型動画だからこそ意識できる上下を使った表現方法
- 縦型動画ならではのライティング技法
<縦型ミステリードラマ『上下関係』予告編>
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新しい映像表現への挑戦に踏み込んだきっかけ
これまで横型の映画やドラマを撮影されてきた柿本さん。今回『上下関係』で縦型動画にチャレンジされたきっかけと、縦型だからこその取り組みはどのようなものだったのでしょうか?
柿本:
まずは主演の窪塚洋介君からの相談。
日頃から連絡を取り合う仲なんですが、ある日洋介君から「この企画、カッキー(柿本さん)だったらいいと思うけどどう?」と相談をもらったんです。
同時に、プロデューサーサイドの知人からも同じ相談をもらっていたので、これは何か縁があるかなと思ったのがきっかけです。
shuntaro:
縦型のドラマは初めてという中、手始めに取り組まれたことは何でしたか?
柿本:
まずは「煩悩を捨てる」ことから始めました。
みなさん映画やドラマは横型の画面で見るという先入観があると思います。これは僕も同じです。横型だからこその迫力や世界観の表現方法はあると思いますが、縦型ではそれが通用しないと思ってたんですね。「自分のビジョンを優先して決めてかかったらケガをするな」と感じたので、この先入観に従って撮影をしたいという煩悩を捨てようと考えたんです。
写真の世界では「横位置は客観、縦位置は断定」と言われています。
横位置は、画面の真ん中立っている人の周辺の余白に、写真が置いてあったり木が生えていたりすることで、人物のキャラクターを説明できます。
しかし縦型ではそうした余白がなくなるので、背景で説明できる情報量が極端に減り、人物そのものがフォーカスされるようになります。そのため自分の煩悩から生まれたやりたいことを捨てて、常に登場人物そのものがフォーカスされるような設計にしないといけませんでした。
shuntaro:
基本的な構造から作り変えたと。
柿本:
こういう映像やドラマはついつい、いろいろトライしてみたくなると思うんですね。
完成してみれば結果的にいろいろやっているように見えますが、実は一回やりたいことを全部消し去って、一番ソリッドな形を残してから縦型のための肉付けをしています。
<ポイント>
縦型動画との出会いは縁から。
横型で身につけた先入観を捨て、人物に着目した設計を目指されました。
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縦型ならではの構図である画面の上下二分割
『上下関係』は縦型の画面を活かした印象的な構図で、横型の映像にはない心理描写が多く表現されていました。横型にはない、縦型ならではの表現方法の数々についてお伺いしました。
柿本:
最大の工夫は画面の上下二分割ですね。これは縦型ならではの表現だと思います。
横型の画面を左右に二分割しても、あまり表現としては活きません。しかし縦型では上下の二分割が非常によいアクセントになってくれました。上下に映し出された人物の表情は並列として感じられるのに、横型にはないトリックを感じさせる不思議さがあります。
また人物を並べるだけでなく、先ほどの話題に出た余白として使うのもいいですね。
例えば、画面上部がもうすぐ12時を指そうとしている丸い時計で、下部は首から上の人が写っている。
そうすると人間味を見せつつ、何かを企んでいる空気や、何か起きそうな予感を感じさせられるんです。
他には、その人物が大切にしているものを映し出してみたり、何かを隠している手元を映し出してみたり。あえて表情を見せないというのも面白いかもしれません。縦型は人物を映すには最適な構図なんですよね。
人間がキレイに収まるフレームの形なので、人間の心情をベースに考えていくと面白い表現ができると思います。
<ポイント>
画面を上下に二分割することで、人物を中心としたトリックや想像力をかき立てる表現を仕込めます。
超広角レンズを使って表現する日常感
柿本:
今回の撮影には、8Rという魚眼レンズの一歩手前のような広角レンズを使用しました。
これは最近のiPhoneでいうと、一番ワイドの撮影モードに近い画角です。つまり観る人にとって特別なものではなく、意外に馴染みがある画角なんですね。
一眼レフでは、なかなかここまでワイドなレンズはありませんが、多くのiPhoneユーザーが普段から見ているからこそ、こういう表現がいいんじゃないかと思いました。
また横型だとワイドレンズのディストーションに慣れている人は多いと思いますが、縦のディストーションはなかなかお目にかかれないですよね。なので日常で見ない構図や雰囲気が出せるのも面白い点だと思います。
shuntaro:
上下関係を拝見している最中、あまり広角レンズを使っているという印象がありませんでした。
それだけスマホで広角の画像を見ているという体験が、無意識のうちに作品とリンクしていったんでしょうね。
柿本:
これも人間にフォーカスしているからこそ、あり得る話だと思います。
横型で8Rを使うと、世界が広くなりすぎて人間がポツンとしちゃうんです。縦型だからこそダイナミックに反り立つような演出ができるので、ワイドレンズを縦型で使うのは面白いテクニックだと思います。
<ポイント>
iPhoneと同程度の広角レンズで日常感を出しつつ、ダイナミックな演出が可能。
余白を活かし意識を上下に振る、イベントの見せ方
柿本:
今回一番の発見であり、このドラマにとっての発明となったのが上下の使い方です。
縦型は余白が上下にありますので、敵は上下から襲ってきた方がよいですね。余白のない横から急に出てくるよりは、余白からクリーンヒットが生まれた方が面白いですね。下に注目していたら上から来るといったように、意識を上下に振れると効果的だと思います。
そうした上下の動きを活かすために、場所の設定を階段にしてみたり、日頃歩いている場所の高低差や段差を使ってみたりすると効果は大きいと思います。
shuntaro:
とても重要な意識なのに、そこを活かしている縦型動画はあまりないように思えます。
僕は格闘技が好きなんですが、格闘作品のフィニッシュパンチはだいたいフック系が多い気がするんです。これは横型の画面だからそうなりやすいのかなと。縦型だったらアッパーになるのかなと思いまして。
柿本:
そうですね。フックでもアングルを斜めにしてみるといった表現は面白いかもしれません。
shuntaro:
劇中でも、地面を掘っている人が下から見上げる話や、天井裏の話など、ロケーションにも上下が意識されている点が話のダイナミズムに繋がっているのかと感じました。
<ポイント>
アクションは上下の余白から起こしてインパクトを生む。
カメラアングルを活かした人間関係の表現
柿本:
日常生活の中に高低差があるというのは先ほどの話に通じますが、人間関係における上下も縦型は表現しやすいですね。
カットバックでカメラの位置をちょっと変えて、立場が強い人を上にするなんて表現が使えます。また、会話の中でちょっとピリッとした展開のあとにカメラ位置を逆にすると「今のタイミングで立場が入れ替わったぞ」というようにも見えます。
今回はそういった関係を意識したカットバックを多用していますね。
後半に大島優子ちゃんがラサール石井さんに相談に行くシーンは、関係が如実に変化していくのがわかりやすいと思います。
shuntaro:
横型ですと、向かって右手が強いといった表現方法があります。
これを上下でわかりやすく表現するんですね。
ちなみに横型特有のテクニックはあるんでしょうか?
柿本:
例えば、後ろめたい話をしているときには背中越しのカットバックにしたりとか。親密な話をしているなら、片方は長玉でもう片方をワイドにするなど、レンズを変えてみるとかあります。
これは特別なテクニックではなく、映画の教本などに書いてある極めてベーシックな技術です。
僕も映画やドラマを撮るときには、今でも教本を見ながら「このシーンはこれだな」なんてやっていますよ。基本は大事です!
shuntaro:
柿本さんのような優秀なディレクターでも未だに基本に立ち戻るというお話は、とても勇気づけられます!
<ポイント>
上下の位置で人間関係の上下を、カメラアングルの変化で関係の移り変わりを表現。
縦型だからギリギリまで寄れるライティング
『上下関係』は、全編にわたり特徴的な光の表現を用いてどこか非現実的な空気感を演出されていました。
横型の動画では難しい、縦型ならではの光の使い方にはどのようなポイントがあったのでしょうか。
shuntaro:
縦型ならではのライティングの技術についてお伺いできますか?
柿本:
横型で寄りすぎるとライトが映り込んでしまうので、あまり近く寄れないんですね。そのため遠くから光を当てざるを得ない分、光が当たる範囲が広くなりがちです。
縦型ですと余白の部分がありませんので、役者さんに寄れる距離は如実に変わりますね。横では絶対にできない、ピンポイントに攻めた光の当て方ができるようになります。
フレームのギリギリまで迫ったからこそ生まれるフレアや、人物の顔に見られるツヤなど、横型では出せない縦型ならではのルックができるな、と撮影中にはずっと思っていました。
shuntaro:
おっしゃるとおり、フレアが一気に入ってくる演出が印象的でした。
機材は特別なものを使っていますか?
柿本:
僕らのチームが使っている一般的なライトだけですね。
HMIのライトがベースにあって、スカイパネルという調光ができるライトや、いろいろな長さを揃えたアステラ社の単管LEDライトを使っています。HMI以外はすべてiPadで制御できるよう、長年組んでいる技師がセッティングしてくれています。
もっと安くて簡易的なライトもあるんですが、光質がチープなんですよね。なるべく上質な光をコントロールできる環境のために、僕らは自分たちの足で現地に行って買い集めた機材にこだわっています。
shuntaro:
手間暇を掛けて光の質を求めているんですね。
柿本:
また、今回は全編においてレンズの前にフィルターを入れていますが、これもドイツでオリジナルのものを発注して作ってもらったものです。
このフィルターのおかげで、フレームの外側にライトがあってもふわっとした光や、ぼやけやにじみに近い後光のよう線を出せています。
shuntaro:
特殊な光の入り方が気になっていたんですが、ライトではなくフィルターなんですね。
柿本:
今はどのカメラもとても性能がいいですよね。どのカメラがいい?と聞かれても「もう何でもいいですよ」というくらい高性能です。
どのメーカーさんも、歪みがなくにじまないようなレンズを目指して開発をされていて、誰でもキレイに撮影できる時代になっています。だからこそ、今度はどのように汚していくかというところに個性が出てくると思うんですよね。汚し方の妙、汚し方の美学といいますか。
もちろんまったく汚さない美しさもあり、どのように汚すかという美しさもあります。どちらか一方が正しいわけではないので、作品ごとに追い求めていきたいですね。
<ポイント>
横型では実現できないライトの距離が縦型ならではの表現につながる。
光を映すにはカメラのフィルターを使った汚しの技術も。
以上が、今回のウェビナーで解説していただいた、縦型動画のポイントです。
最後に柿本さんは縦型動画の未来について「今はスマホで見るのを前提にしていますが、IMAXで見られるような縦型動画がどうなるかは興味があります。個人の手元で見るものから届けられる領域が変わるのは面白いと思いますね」と、スマートフォンを飛び出す可能性を見出されました。
余白がなく、上下を意識させられるからこそ人物に迫る表現ができる「縦型動画」。
ぜひこの機会に、縦型動画の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
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Vook編集部@Vook_editor
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