はじめまして、島猛と申します。グラフィックスを用いたモーションを中心に、映像の編集やアニメーション作品などにも携わらせていただいています。
島 猛 webサイト:https://takerushima.com/works/
個人では日々、CINEMA 4Dを使った短いアニメーション作品を自主制作しています。今回は 「360度カメラでつくる親しみやすい表現」 という切り口で、私の作品を紹介しながら、その裏側をお話しさせていただきます。
なぜCINEMA 4Dを使うのか
映像作家としてフリーランスになった頃、しばらくの間「MTV Japan」のクリエイティブに携わらせて頂く機会に恵まれました。そのときに海外のクリエイターや先輩のつくるかっこいい映像を見て、 「自分もこういう映像をつくりたい」 と思ったのがCGを始めたきっかけです。
これまでに「Shade 3D」「Maya」など、さまざまな3Dソフトを経由して「CINEMA 4D」に行き着きました。以前から話題になっていた 「モーショングラフィックスに強い」 「イメージした絵をつくりやすい」 というポイントのほか、「導入しやすい」 というところも私に合っているように感じ、CINEMA 4Dを選択しました。
「色」から入る作品づくり
自主制作を始めたのは、自分のウェブサイトを更新したかったのと、独自で勉強した「360度を見渡せる背景のつくり方」を試してみたかったから。遊び感覚でゴールを設定せずにやってみたら多くの反応をもらえたので、本当に驚いています。
ただ、自主制作に関してはテーマがあるわけではなく、「色選び」 から作品づくりをしています。まず、私のウェブサイトやSNSを訪れた時、パッと見でさまざまな色が目に入るように作品の色づかいに気を遣いました。 ベースとなる色を作品毎に変えていて、毎回別の色を使ってみるといった方法を取っています。
中間色を使った作品が多いですが、元々はもう少し鮮やかな色を使っています。ただ、たくさんの色を使うとどうしても全体のバランスを取るのが難しく、 ビデオ用のLUTを当てることで色の統一感や世界観を合わせる手法を取っています。グラフィックデザインを作る上では邪道かもしれませんが、LUTをあてることでこのような“くすみ色”のような、名前がつけづらい色が再現でき、結果的に 期待の上回る絵作りができた と思っています。
クライアントワークではなかなか行うことのできない手法ですが、モーショングラフィックスをやられている方で色味をつくるのが苦手という方は、LUTをあてて全体を整えるのも一つの方法ではないでしょうか。その仕上がったカラーパターンを保存しておけば、新たなデザインを作成するときにも応用できると思います。
ちなみに、仕事などでしっかり作らなければいけない時は、Adobe Colorなどを使ってさまざまなパターンを見比べながら選ぶことをオススメします。
Adobe Color:https://color.adobe.com/ja/create/color-wheel
また映像の比率についても気を使っていて、スマートフォンで見た時の見やすさを重視しています。7:6の比率は収まりが良く、気持ち良い構図が撮れるんです。ただし、いろいろな比率で作ってみるのも良い勉強になると思います。テレビやYouTubeは比率が決まっていますが、イベント会場だと変則的なLEDのサイズがあり、そのLEDに合わせて作ることも多々あります。
360度カメラの変則性とスピード感
作品には360度カメラの変則的な動きを加えています。CINEMA 4Dでは 「スフィリカルカメラ」 というカメラ機能で、360度全ての画角をレンダリングできる機能があります。これは主にVR用映像などを作成するときに活用する機能だそうですが、今回はこれを応用しています。このカメラ機能でレンダリングした後、After Effectsの中でVR用のコンポジションを作成し、その中でさらにもう1回カメラを動かしています。
少し設定を調節することで、魚眼レンズのようなぐにゃっと曲がった線が出て、演出のアクセントになります。これは通常のレンダリングだけではできない表現です。
この車自体は蛇行しながら真っ直ぐ走っているだけですが、360度カメラのダイナミックなカメラワークを応用することで、非常に個性豊かな展開と表現が可能になりました。
CINEMA 4Dでモーショングラフィックスを作っていて窮屈に思うのが、 直線が“直線”にしかならない こと。CINEMA 4Dのカメラを使ってCGを書き出すと、どれだけ広角にしても直線がきっちり出てしまい、3Dだということが分かってしまうんです。当たり前かと思いますが綺麗すぎてしまうんです。
球面になる表現は、CINEMA 4Dの 「フィジカルレンダラー」を使えばできなくはないですが、それでもちょっと制限があります。そんな時におすすめなのが先ほどご紹介した 「スフィリカルカメラ(CineRender)」 です。これを使えば、AfterEffectsを組み合わせることで360度や720度と、見たことがないくらい広く見せることができます。360度カメラにすることで 「こんな見え方するんだ!」 という発見があり、 今まで表現できなかったものをつくることができるんです。
尺については基本的には10秒と決めていて、その中で飽きさせない展開を意識しています。アトラクションに乗っている、みたいな感じでしょうか。スピード感のある乗り物が走ったり、飛んだりする中、周りで同時多発的にいろいろなことが起きている感覚を意識しました。
どれだけ短い映像でも、2、3秒で飽きてしまうと見るのをやめてしまいますよね。なので、最初の掴みで上手く引き込んで、10秒間もたせるよう意識しています。結局、 「見てくれる方が、最後まで楽しめるものかどうか」 が重要です。
アナログチックな表現の中にある「手にとれる感覚」
今回のアドベントカレンダーのテーマは「つくりたい表現を探してみよう」ということなのですが、私が最も意識していたのは、CGでありながら「手触りの感じられるもの」 だということ。
自主制作では機械的な見え方にならないための工夫を散りばめているので、アナログチック に見えるはずです。手で線を描くと完璧な直線は描けませんが、それによってクラフト感のあるイメージに近づくと思っていて、最終的なルックを手描きのものに寄せていきました。
私としては 「この作品が手元に来てほしい」 と思ってもらえるものをつくりたいんです。例えば写真でも、デジタルデータを印刷して、額縁に飾って手元に置いておくことってありますよね。所有欲というか、 「そこにある」 という感覚、そして 「ひとつしかない」 という感覚はすごく嬉しいものだと思うので、それを満たしてあげたいんです。自分の作品が、そういうものの一つになるといいなと思っています。
まずはソフトに触ってみること
作りたい表現を作るには、チュートリアルで勉強してソフトを使いこなせるようになることも大事ですが、まずはソフトを触ってみて、自分の分かる範囲の機能でいろいろなものを作ってみることも大切です。
最近は作り方の情報もたくさんシェアされているので、それを活用するのがおすすめです。自分が作ってみたい表現を作るには一番の近道だと思いますし、活用しない手はありません。
だけど、その通りに作らないといけないわけではありません。それを踏まえた上で 「じゃあ自分はどうしようか」と考えたり、作っていく中で 「この方法なら、こういった表現もできるんじゃないか」と考えを巡らせて、自分の表現を見つけていくことも大切です。最終的なゴールは、自分の表現を突き詰めていくことだと思います。
CINEMA 4Dは、ハイエンドなCGを作る方が多いと思いますし、私も最初それ目当てで使い始めたんですが、皆さん是非、自分なりの使い方で自分の表現を見つけてみて下さい。
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