プロの映像クリエイターのインタビューをもとに、そのナレッジやノウハウを紹介していく「Cutters Point」。今回のゲストは、これまで映画、ドラマ、CMなど数々の作品でカラリストを務め、2021年にカラーグレーディングスタジオARTONE FILMを設立した石山将弘さんです。
映像制作で不可欠な工程と言われるカラーグレーディング。色や明るさの違いで、作品の印象は180度変わると言っても過言ではありません。
2021年に劇場公開された『ヤクザと家族』のグレーディングを中心に、石山さんが *カラリストとして日頃から実践していることや大切にしているポイント**を伺いました。グレーディングをあまりしたことがないという方から毎回グレーディングで悩むという方まで、色に関心のある方は特に必見です!
*2021年11月現在、Netflixで視聴可能です。
ゲスト:石山将弘さん
ARTONE FILM INC. 代表取締役 / シニアカラリスト
TREE Digital Studio(デジタル・ガーデン)でリード カラリスト兼カラーグレーディング部の部長を務め、 2021年にARTONE FILMを設立。
ハリウッド作品を手がけるCO3と業務提携するTREE Digital Studioで、 CO3のブランドン・チャベス氏 / ジェイミー・オブラドビッチ氏に師事。海外からの案件も多く手掛ける。JPPA AWARDS グレーディング部門で2019年、 2020年、2021年と最優秀賞を3 冠で受賞。
インタビュアー:ダストマン
3年間勤めていた映像プロダクションを退職し田舎へと移住。広島を拠点に、TVやWebのCMをメインにエフェクト・モーショングラフィックス・VFX・コンポジット業務をフリーランスで請け負いながら、After Effectsのチュートリアル動画を主に発信しているYouTubeチャンネル『ダストマンTips』を運営。
カラリストは色でストーリーを分かりやすく表現する仕事
ダストマン:カラリストという職業をあまり知らない方も多いと思うので、まずカラリストがどういうことをしているのか教えていただけますか?
石山:近年は、多くの映像の素材をLOGのデータという色が当たっていないような状態で受け取ります。色をいろんな方向に振れる可能性が、すごく広がっているんですね。
なのでカラリストのいちばん重要な点は、作品が主張したいストーリーを明るさやコントラスト、彩度感などで、どのように分かりやすく画に表現していくかです。
例えば、若い人向けの広告なら可愛らしく発色を良くするといったように、ストーリーに向けて色彩を分かりやすく表現していくお仕事ですね。
カラーグレーディングという言葉自体、一般的に使われはじめたのは10年前ぐらいのことです。それ以前はテレシネやカラーコレクションと言っていて、明るさや若干の色の調整をする程度だったと思います。
ダストマン:カラリストが専門職として誕生したのは、約10年前ということですか?
石山:そうですね、まだ新しい職業だと思います。
ダストマン:最近、カラリスト志望の若い方が増えてきているそうですね。
石山:費用面ではDaVinci Resolveの無償版が出たりしていますし、僕もInstagramなどを通じて、学生さんから直接質問をもらうことがあります。そういうところで、増えてきているのかなという実感はありますね。
ダストマン:確かに以前と比べて、TwitterにしてもInstagramにしても、写真をアップする際に何かしらのカラーフィルターをかけることが、日常に溶け込んでいるような気がします。
今の20代前半世代の方は、色を変えることに対してネイティブなのかもしれないですね。
石山:僕も同感です。
きっかけは海外のグレーディング
ダストマン:そうした加工が今ほど日常的ではなかった頃に、石山さんはどのような経緯でカラリストになられたのですか。
石山:元々は、オンライン編集の会社に入社しました。そこがグレーディングの事業を始めることになったときに、提携をしていたCompany 3という海外の会社からアーティストが日本に来て、そこで僕もグレーディングチームの立ち上げに加わったんですね。
もちろん日本のグレーディングは見てきていたのですが、Company 3は大作映画のグレーディングを手掛けるような会社で、そのアーティストが素材を触ると、素材の色の変わり方からカラーバランスや画の動き方まで圧倒的に違いました。すぐに「これだな」と思いましたね。
ダストマン:日本のグレーディングと何が違ったのでしょうか?
石山:まず、明るさの作り方です。海外の人たちは、暗い所から見せたい所をポイント的に引っ張ってくるので、基本的に画が暗いんですよ。
暗い中で落とすことによって、物の質感や発色を出すところからの調整なので、コントラスト感の作り方が全然違うなと感じたのを覚えています。視線誘導にしても、すごく映画的になるのを感じましたね。
昔から映画は好きで、例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようなメジャー作品を放送する『金曜ロードショー』もよく見ていました。大作系はずっとCompany 3がカラコレしてきているので、それで彼らのカラーがスッと入ってきたんだと思います。
1年半ぐらいそのアーティストのアシスタントをして、データ構成をはじめ、いろんなことを教えてもらいました。その後、予算がない案件を少しずつスタートする中で、オフラインからガラっと変わったカラーバランスや輝度感のものを提示していきました。
次第に僕を指名してくれるお客さんが増えてというか、カメラマンが増えて、映画などの大きな案件にも繋がり、今に至っています。
映画『ヤクザと家族』のグレーディング
映画『ヤクザと家族 The Family』予告篇
ダストマン:映画といえば、『ヤクザと家族』の話をぜひ聞かせてください。作品の構成に合わせてグレーディングを変えたとのことですが、映画の第1章、第2章、第3章でどのような違いがあるのでしょうか?
石山:第1章は主演の綾野剛さんがヤクザになる前のお話で、作品内ではいちばん古い時代です。
赤を基調として血の気の多いような画にしたいというオーダーがあったので、よく見ると赤の発色が良かったり、暗部も赤で構成されていたりします。ハイライトも出ていて、いちばんコントラストのはっきりした力強い画になっているのが、第1章ですね。
ダストマン:第1章は、時代感がフィルムルックで表現されていましたよね。
石山:グレインも割と各章で調節しました。仰るとおり、第1章はフィルムグレインを結構粗く乗せていますね。
第2章が描いているのは、ヤクザが最も繁栄している時代。リアリティを追求していたので、グレーディングは控えめにしています。
ビデオルックでいきたいというオーダーで、撮影はARRIのALEXAでしたから、ALEXAのRec.709ベースの中で色調補正を行い、視線誘導だけをしていった感じです。
第3章はヤクザの衰退がテーマで、見ていて分かるぐらいにガラッと色が抜けています。可哀想とまではいきませんが、すごく寂しい雰囲気づくりにはなっていると思います。
ダストマン:第2章のビデオルックに関しては、Rec.709ベースで進めて当時らしさを演出したというのが、個人的にとても面白いと思いました。
石山:求めているルックとして、当時らしいリアリティがいちばん出やすいのは、そういうことだったのだと思います。
ダストマン:そして、最後の第3章で親父が亡くなってからは、一層色が抜けた感じでしたね。
石山:そうですね。美術でもそうした表現はされていますが、どんどん鮮やかなものを抜いていくグレーディングにしました。
ダストマン:なるほど。今のお話を聞いてからもう1度作品を見ると、カラーグレーディングとしての楽しみ方もありそうです!その場合、特に注目すると面白い点などはありますか?
石山:章が終わったら、すぐ分かると思いますよ。グレーディングのテクニックとして、第1章は海外のカラーバランスを日本流に落とし込むことをイメージして作りました。
赤を大事にしながら、赤の暗部のバランスをしっかり見て、ヤクザという集団の雰囲気の中にどう力強くマッチングさせるかを、すごく考えました。
ダストマン:第2章は、割とそのままだと仰っていましたね。
石山:はい。撮ったままのリアリティを大事にしていたので、ここで特に意識したのは、やはり視線誘導ですね。暗い画が多い中でも役者の顔を必ず見せたいという監督の希望で、しっかり顔や涙を見せるといった細かい部分に手を掛けました。
第3章に関しては、ややブルーマゼンダが強いカラーバランスで、日本流のグレーディングと言えるかもしれません。
というのも、日本人の肌を綺麗に見せたり画全体とのバランスを取ったりするためには、黄色人種の肌の色であるYGと反対側の色を入れることで、抜け感やすっきりした印象を作るんですね。
そういう意味で、第3章は日本独自のカラーバランスですかね。
ダストマン:人種によって肌の色が違うから、引き立たせるために背景に何を置くかも変わるということですね。
石山:変わります。例えば白人と比べても、アジア人のグレーディングは本当に難しいです。背景にうまくトーンを入れつつ、肌の色を綺麗にコントロールしていくのは、常に必要な作業ですね。
いろんなことを話していますが、結局はストーリーを作る上で主張しすぎないこと、その中に落とし込んで雰囲気を作っていくことが、いちばん大事だと思っています。その差分はすごく注意を払っていますね。
あまりカラーグレーディングが前に出すぎても、それが『マッドマックス』のような作品ならいいですけど(笑)。必ずしもそうした作品ばかりではないので、雰囲気を見ながらグレーディングすることが、本当に大切ですね。
撮影監督と事前に認識を共有
ダストマン:石山さんは今では映画のお仕事も多いかと思うのですが、カラリストはいつの段階から制作に加わるものなのでしょうか。例えば、『ヤクザと家族』の場合はいかがでしたか?
石山:このときは撮影監督が今村さんで、割と早い段階からトーンなどの打ち合わせはしていましたね。
撮影前に作りたい画のリファレンスをいただいていて、一緒に現場のLUTを作りました。現場である程度の雰囲気を見た中で撮影を進め、そのLUTが当たった状態で監督がオフライン編集する形をとっていました。
ダストマン:撮影監督とライティングの話などもしますか?
石山:そうですね。先ほど『ヤクザと家族』の各章のカラーが異なる話をしましたが、例えばヤクザの衰退を描く第3章では、あまりハイライトを立てていません。
現場のLUTはハイライトをすごく丸くしていて、コントラストの柔らかい、色がブリーチされた画を作っていきましたね。なので、ライティングにも大きく関わってくるとは思います。
ダストマン:やはり、そうして早い段階で入れる方が、クオリティが上がりそうですね。今回はALEXAで撮影されたということで、僕自身、いろんなクリエイターの方から素晴らしいカメラだという話を聞きます。
石山さんもカラリストとして撮影素材と向き合う中でカメラの良し悪しを感じることがあるかと思うのですが、カメラが良くなると何か明確に変わることがあれば、教えていただけますか?
石山:何だろう…。分かりやすく言うと、良いカメラほど僕は感動しますね。例えば、『ダンケルク』のようなIMAXカメラで撮られた作品を映画館で見ると圧倒されてしまいますが、あの圧倒のされ方が“情報量が多い画”だと思うんです。
ALEXAのLFや65のように高解像度なものは数多くあって、当然ながら値段も高価です。ではそのカメラの何が良いかと言うと、画を見たときにハッと感動するかしないか、つまり画の情報量の多さというところで、それが大きな違いだと思います。
ただ、安いから駄目ということでもありません。カメラの使い方は、ストーリーによって何の要素を入れるか次第ですし、どのカメラを使えばストーリーに合うかという視点で選ぶといいのではないでしょうか。
第1ステップは黒を決めること
ダストマン:『ヤクザと家族』を例に具体的なカラーグレーディングについてお伺いしましたが、石山さんの色に対する考え方やこだわりも深掘りさせてもらえればと思います。
早速ですが、色の方向性はどのように決めていますか?普段グレーディングをしている身からすると、結構フィーリングの部分が大きい気がしていて。
石山:フィーリングはもちろんありますが、必ずロジカルに考えるようにしています。例えば、ダストマンさんの背景の色は、ブルーやグリーンあたりですかね。
ダストマン:ネイビーぐらいです。
石山:ネイビーがあるなら、僕がダストマンさんの肌の色を調整するときには、それと逆の色を入れて、人物が背景と分離するようにカラーを作っていきます。
画としては人物が前に出てきた方がいいので、ブルーベースでは作らないですね。
ダストマン:人物がメインのストーリーであれば、背景としっかり分離させていくのが基本の考え方ですか?
石山:フィルターがかった画も、柔らかさがあっていいと思いますよ。ただ、個人的には今まで自分が見てきたもののアウトプットを考えていて、海外のようなガツンと人物が前に出てくるダイナミックなグレーディングを意識しています。
あと特にフィルムに言えることとして、黒の情報量を常に大事にしてグレーディングしますね。フィルムの良さは、黒の情報量が多くてリッチに見えることだと思うんです。
しっかりとした暗部がなければ、中間値とハイライトが活きてきません。きちんと黒を作ってあげないと、人物がうまく浮き出てこなくなるので、コントラスト作るとき、僕の中では何と言っても黒が重要です。
情報量を大事にすることはカメラマンとの共通認識で、照明の事情もありますが、基本的に低感度で撮影いただく方がノイズが入らなくて望ましいですね。
ダストマン:なるほど。いろいろ細かな手順があるかとは思いますが、黒を決めていくのが第一ということですか?
石山:そうですね。黒を決めるというのは画の柔らかさを決める、コントラスト感を決めるということなので、それが最初ですね。仮にモノクロでグレーディングしたとして、コントラスト感が良ければ、色を出したときに必ずいい画になります。
ですから、グレーディングしていてよく分からなくなってきたら、一旦タイムラインで全部の色を抜いて、モノクロの中で良い画になっているかを確認するというのも手かもしれません。
ダストマン:僕自身、コントラストの調整が結構苦手なんです。でも、例えば複数のロケーションで撮影した素材でコントラストがバラバラな場合などでも、白黒にして繋がりを見ると分かりやすくなりそうですね。
石山:そうですね。特に色の情報で色のコントラストも付いてしまいますから、ひとまず情報量を切って、画の中のベースのコントラストが合っているかを見ることは、すごく大切だと思います。
全ての経験は色にアウトプットできる
ダストマン:ここまでのお話を伺いながら、カラリストはソフトウェアの知識やテクニカル面以外にも必要な要素が多いのかなと感じています。
例えば「ヤクザのギラギラした感じ」と言われて、パッとイメージできるかどうかで、きっと取り組み方は変わりますよね。その辺りの感覚は、どのように磨いているのでしょうか?
石山:隣にカメラマンや監督がいる中でグレーディングをするので、カラリストは瞬発力を求められますが、僕は僕が見てきたものでしか表現ができません。
なので、他のカラリストと勝負するというよりは、自分の個性で何を見てきて、何を得意としているのかを分析して、方向性を決めていくようにしています。
もちろんベクトルやスコープ、波形などは確認しますが、テクニックに関してYouTubeや参考書を見ることはほとんどなくて、マニアックなことはあまりしていないかもしれないですね。それなら、好きな映画を100回見る方が役立つとも思います。
自分の体験という意味で、撮影の現場が行ったことのない場所や触れたことない雰囲気の場合は、必ず行くようにしています。グレーディングに限ったことではありませんが、ものづくりする人間としてはその場所に行って、見て、空気感や匂いを嗅ぎに行くぐらいの方が僕はいいと思います。
ダストマン:“匂い”ですか。
石山:例えば、裏路地の匂いはジメジメしていて、それがどこの地域なのかによっても違いますよね。こんな感じだからハイライトは控えてジメっとさせよう、というような発想がどんどんできると思うんです。
裏路地は例えですけど(笑)、そうやって提案が増え色彩が増え、というふうに繋がっていく気がします。
ダストマン:テクニカルな部分はもちろん重要ですけど、実際に現場に行った経験や足を運んだ蓄積が活きてくる職業ですね。
石山:多分、全てが活きてくると思います。アウトプットする職業なので良いものを見ないと駄目ですし、別においしいものを食べるでもいいんですよ。
ちょっと頑張っていいレストランに行ったら、そこはどんな照明で、どういうふうにライティングされているのかを勉強できたりします。
僕は服を買うときも、どんなシルエットなのかを自分で着て全部見て、その場で決めていますね。それがきっと、ファッション系のムービーに携わることになった際に、この服は何を主張したいのか、色なのか、それともシルエットなのか、という具合に気づくことがいろいろあるんですよね。
ちなみに今、黒い服を着ていますが、Yohji Yamamotoも大好きです。
ダストマン:グレーディングでの黒へのこだわりも、やはり強くなりますね!
石山:多分ね、そうだと思います(笑)。繋げておきましょう。
チームの中のカラリスト
ダストマン:カラリストが何を大切にしているのか気になっていたので、それが匂いだと聞いてすごく新鮮でした。
僕は広島県在住なのですが、お好み焼きソースの匂いがする路地裏が割と多いので、それをイメ―ジしながら広島の路地裏の画をグレーディングするといいということですね。
石山:いいと思いますよ(笑)。そういう話がきっかけで、カメラマンから発想が生まれることがあるかもしれません。
ものづくりは1人ですることではないので、時にはカメラマンや監督の持ついい部分をさらに引き出すことも、カラリストには必要かなと思います。そうなったときに、100点から120点が生まれるでしょうし、毎回うまくいくわけではありませんが、そこは大事にしていますね。
コミュニケーションができていれば、その仕事が成功するかしないかなんて最初から決まっていて、大抵は話せば何とかなります(笑)。
映っているものが全てなので、素材をどう綺麗に撮っていくかというところで、カラリストも一緒に入っていろんな話ができたり、カメラマンにでも照明の人にでも、その意図を聞きながらグレーディングしていけたりすると、いちばんパワーを発揮できますよ。
いろんな情報を入れた中でトライする方が、時間も無駄にならないですし、ゴールに早く到達できると思うので、自分で全部カラーを作るというこだわりやプライドは一切ないです。
ダストマン:カラリストという職業となると必ずチームが存在しますもんね。
石山:そうなんですよ。特に仕事をスタートして間もない人は聞きにくいことも多いと思いますが、聞くと良いことがいっぱいあるので意識してもらうといいかもしれません。カメラマンや監督と仲良くなることが、いちばんシンプルですかね。
重要性を増すカラーコントロール
ダストマン:制作の中でカラリストに注目する流れも感じていて、Netflixでもカラリストの存在をかなり重要視していると聞いたことがあります。
石山:おそらく、HDRやSDRがあったり多岐にわたる配信と劇場などへの納品もあったりするで、カラリストが入ってベースをコントロールすることが大事になるのだと思います。
ダストマン:AIには対応できない領域ですよね。
石山:AI対応できるとは僕の立場的に言いませんが、LUTやInstagramの有志のフィルターを作るといったことであれば、AI化は可能だとは思います。でも、隣にカメラマンが座っている状況で、ストーリーを見ながらどうピッチをしていくかまではできないですよね。
ダストマン:今の映画の業界では、アメリカだとアートディレクターといった役職の方がいて全部の色を管理していると思うのですが、日本でもそうした風潮はありそうですか?
石山:基本はディレクターとDoP(撮影監督)が2人で話して、美術の方をはじめ他のクルーにオーダーしていくかたちですね。
ダストマン:日本ではアートの管理、イメージを考える部分も、監督やカメラマンが担っているのですね。
石山:業界の流れが今後どこに向かうか次第ですが、より良くしていくために必要であれば、アメリカのスタイルを取り入れていけばいいのかなと思います。世界規模で展開するNetflixのような企業は、そうしたことを含めていろんな情報も持っているので、そこから大きくなっていくといいですね。
好き嫌いの理解がカラー作りの自信になる
ダストマン:今日はカラリストという職業、その中で石山さんが大事にしていることを沢山お話しいただきましたが、これからカラリストになりたい新人の方に、まず教えていることや特に伝えたいことはありますか?
石山:好きなものをいっぱい見てください、ということですかね。正解がない中でどんな色に落とし込むかは、自分の好きなものは何かというところから作り上げていくことになります。
自分で「これだ!」というような自信がないと周りが迷ってしまいますし、その自信に繋がるのが、今まで自分が見てきた綺麗なものなのだと思います。
ダストマン:自分の中のゴールがしっかり見えていないと、あまりにも選択肢が多すぎるからということですか?
石山:そうですね。「ロジャー・ディーキンスの画が好きです」とかでいいと思うんですよ。その次は、なぜその画が好きなのかを解析していけばいいだけで、結果、カラーについてちゃんと話ができるようになります。
そうした好き嫌いの、嫌いの部分も認識しておくといいですね。僕の場合、サブカル的な画は見てきていないので、イメージがあまり湧かなかったりします。
自分で出せないものもあることを理解した上で、どんな作品と付き合っていくかということはすごく大事ですね。好きな映画やドラマ、カッコいい広告などを沢山見て、そこでカラリストが面白いなと思ったら、きっとやっていけるのかな。
ダストマン:逆にサブカルを沢山見てきた人は、そういうジャンルが得意ということにもなりますしね。
石山:そうですね。カラリストが複数いる中で、カメラマンがその特性で選択できればいいと思います。
低コストでスタートOK PCスペックは扱う素材で決める
ダストマン:最後に、グレーディングをする上で押さえておきたいPCスペックについてもお聞きしたいのですが、石山さんのスタジオでは、どんなシステムで制作をなさっていますか?
石山:相性のいいプラグインなどが多くある関係で、基本的にMac Proで揃えていますね。うちではスペックを相当上げてはいますが、収録の素材がARRIRAWとかではなく、ProResやH.264ということであれば、あまり気にしすぎなくてもいいような気がします。
デフォルトのMacでも回せるでしょうし、最初は機材を集めるのに、そこまでの費用はかけなくても大丈夫かなと思いますね。
自分の扱う素材が動くだけのスペックは必要とはいえ、DaVinciにはキャッシュの機能が付いているので、1度プレイバックすればスムーズに動きますよ。
例えば、ずっとREDを扱うのであればRED ROCKETを入れてあげるとか、そういった工夫はある程度必要だと思います。
ダストマン:ちなみに、石山さんはDaVinciのいちばん大きい卓を使われていますよね。あの大きい卓と、一般的なマウスとキーボードでは、どういう違いがありますか?
石山:スピードですね。Advanced Panelを使っているのですが、身体で覚えていくので、あまりコントロールパネルを見なくてもバチバチ手を動かせます。数値的というより感覚的に操作できるので、より良いグラデーションを作れるというのもありますね。
オンライン編集だと数値で進める方もいるのかもしれませんが、僕の場合は「今、映っているものが良いか悪いか」という判断で見てもらうものなので、やっぱり感覚的に動いていく方が早いですね。
ダストマン:AdvancedほどハイエンドでなくてもMini Panelとかもあるので、グレーディングを頑張りたい人はそれで感覚を身につけていくと、最終的にはいいのかもしれないですね。
石山:そうですね。例えば、ホイールを触りながらハイライトに色を入れつつ、暗部では反対側に色を入れるというように、同時に動かせるんですよね。
他にも色を混ぜこぜにしたい、油絵っぽい画にしたいとなると、グラデーションは絶対に必要なので、パネルがあるとやりやすいと思います。
ダストマン:今日は初めて聞くお話が多くて、とても面白かったです!ありがとうございました。
石山:ありがとうございました。
石山将弘さんのPCスペックはこちら
MacPro2019
プロセッサ: (065-C8M8) - 3.3GHz 12コアIntel Xeon Wプロセッサ(Turbo Boost使用時最大4.4GHz)
メモリ: (065-C7FX) - 96GB(6 x 16GB)DDR4 ECCメモリ
ストレージ: (065-C8MG) - 1TB SSDストレージ
グラフィックス: (065-CC1L) - Radeon Pro W6900X(32GB GDDR6メモリ搭載)【石山将弘さんのようなクリエイティブをする人におススメのPCはこちら】
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