エディターに聞く、After Effectsを使って1人で作る“プロジェクションマッピング“、キーワードは“舞台演出“?

2022.03.15 (最終更新日: 2022.06.04)

見る人に感動を与える体験「プロジェクションマッピング」。

大掛かりな機材に大人数のスタッフが稼働し、高度な技術によって再現される。そう思いませんか?

「プロジェクションマッピング」と聞けば、制作する側として少しハードルの高い印象を受けますが、個人のクリエイター1人でAdobe After Effectsを使い制作することができます。

今回は、「1人でも作れるプロジェクションマッピング」と題して、実際に1人でプロジェクションマッピングを制作した経験を持つ映像ディレクター/エディターの奥村剛さんに、制作のコツや工夫、映像演出のポイントについて解説していただきました。

今回のキーワードは 「舞台演出」 です。

  • 映像ディレクター/エディター/モーショングラフィックス/カメラマン奥村 剛

    株式会社Hotkey代表。ゲーム、アニメ関連の広告映像を中心に幅広く制作。クラフトビールの映像を手掛けるBrewfilm.jp を設立。最近は、ラーメンと渓流釣りとサウナにハマってます。

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プロジェクションマッピングは3つの工程で作る

ーープロジェクションマッピングと聞くと大掛かりな印象を受けるのですが、どういった工程で制作をしたのでしょうか? 実際の映像を参考にお聞かせください。

奥村:今回のプロジェクションマッピングは、通常の映像制作で使用している、Adobe Premiere Pro、そしてAfter Effectsのみで制作しました。

プロジェクションマッピングでは、CGのソフトウェアであったり映像をマッピングするための調整用ソフトウェアを用いて制作する事が多いですが、今回のようにPremiere Pro、After Effectsだけでも十分にエディター1人で制作することができます。

具体的な制作の工程をお話しします。

  1. 投影環境・レイアウトの設定
  2. 演出の決定
  3. 映像制作・調整

大きく分けてこの3つの工程かと思っています。特に重要となるのは、 「①投影先・レイアウトの決定」「②演出の決定」 です。

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投影環境・レイアウトの決定

奥村:ここはプロジェクションマッピング制作の土台となるので、必ず最初に決めます。今回の場合ですと、「テーブルのサイズ」と「お皿のサイズ・位置」、最後に「花瓶のサイズ・位置」になります。これらは厳密に数字を出してレイアウトを決める必要があります。

例えばですが「テーブルの長さ」や「お皿の大きさ」、「投影するプロジェクターとの距離」など、投影する環境を含めてしっかり数字を出すことが必要になります。その上でレイアウトの上をどう遊ばせるか、演出を考えていきます。

このレイアウト設定をしっかりと決めておかなければ、後に投影した際、映像がズレてしまいます。特にテーブルとお皿のような比較的サイズが小さいものだと、投影するプロジェクターとの位置関係がよりシビアになり、ズレが大きくなってしまいます。 なので、最初にレイアウトをしっかりと決めておくことが重要です。

実際に使われた投影の設定資料、テーブルサイズやお皿のサイズなどが細かく記載されている。

奥村:こちらの資料を見ていただくと分かる通り、テーブルは正方形なので、After Effectsのシーケンスも正方形にして作っています。プロジェクタの投影できる解像度に合わせて「縦1920px:横1920px」としました。さらにガイドとして縦横で10等分にしてブロック分けしておくと、位置関係が把握しやすくなります。

👉ポイント
レイアウトの設定は厳密に数字を算出して決定する。コンパクトなプロジェクションマッピングほど、投影する時のズレが大きく出てしまうので注意が必要。

「舞台」を作るような演出で考える

奥村:映像制作では、絵コンテがあるように、プロジェクションマッピングでも、編集する作業に入る前に演出を考えなければいけません。今回は「ムーミン谷に四季が巡り、最後に春を迎えて花が咲く」というストーリーで制作しました。

演出の最後、花が咲くカット

ただ、大枠のストーリーの決定は問題なかったのですが、細かい演出の部分では正直苦労しました。

というのも、制作を通して分かったのは「モニター上で映像を見るのと、実際に投影された映像を見るのでは全く違う」ということです。

これがどういうことかと言うと、モニターやスマホの画面上で見ている映像とプロジェクションマッピングで見る映像は、体感的に感じるスピードが全く異なるのです。

なので、映像をモニターで確認していた時は、違和感なく物語が進んでいるように感じていたのですが、実際にその映像を投影してみたところ、何が起こっているのかが全く分からなくなってしまうのです。要は、目線をどこにおけば良いのか分からなくなってしまい、テーブル上でいくつもの箇所で同時に物事が起こっている映像を訳も分からなく追っていくだけになってしまうのです。

立体的に映像を見せる時のポイントとして、テーブルの上に映像を映し出す時は、 目線が一箇所で済むように事象は一個に絞ることが大切です。

さらに、視線誘導をするため見せたいところに映像でスポットライトを当てることで、ユーザーの目線を導いてあげることができます。これは 「舞台演出」 的な考え方で、意図的に目線を操作しているのです。

ニョロニョロを見せるために、スポットライトで目線を誘導する

通常の映像制作と、大きく異なるポイントはここなのです。

ツールを使う技術的な部分は従来の映像編集の技術を応用すればいいのですが、見てもらう際の視線の作り方、「演出」に関しては「舞台演出」のような作り方になります。 これからプロジェクションマッピングを制作する方は、ここを一番に意識して欲しいと思います。

もう一点、先ほどのレイアウトを記載した資料の中には花瓶がありませんでしたが、最終的にはテーブルの上に花瓶を置くことにしました。これが舞台袖のように機能しました。

今回のプロジェクションマッピングでいうと、テーブル上で動いているキャラクターが最終的にどこに捌ければ良いのか分からずに、迷子になっていました。花瓶を置くことで、そこがテーブル上の違和感のない舞台袖としての役割を果たしたのです。

花瓶からキャラクターが出てくる仕組みになっている

👉ポイント
目線が一箇所に集まるように、映像をスポットライト的に使用して目線の誘導を行う。平面で見る映像ではなく、舞台演出の考え方で制作するのがポイント。

映像制作に必要なツール

-ーアプリケーションについてもお聞かせください。さまざまなソフトを使用する必要があるのでしょうか?

奥村:今回のアニメーション制作で使用したのは、After Effectsのみでした。 最終的に素材を並べて音の調整を行うためにPremiere Proも使いましたが、ほとんどの作業はAfter Effectsのみで行っています。

作り方としては、各シーンに使われているキャラクターや背景の素材を、個別のコンポジションとして動かし、最終的に一つのコンポジションにまとめています。お皿に映るニョロニョロも、この動きだけのコンポジションを最初に作り、最後にお皿の上に合うように親コンポジション上で調整していきます。

お皿の周りで踊るニョロニョロの素材を作る

最終的に、テーブルの上のレイアウトに合わせて配置・調整する

奥村:出来上がった映像を書き出して投影するのですが、おそらく初めてプロジェクションマッピングを作った方は、ここでユーザーに認識して理解してもらう時間が必要だと理解するはずです。

というのも、After Effectsで制作した映像を平面の画面で確認した際は、ちょうどいい尺だと感じるのですが、いざ実際にテーブルの上などに投影してみると、速すぎて何が起こっているのか分からないのです。

先もお話ししましたが、平面だと映像全てが見えているので、一瞬でキャラクターの動きを認識することができるのです。ですが、立体になった瞬間に認識するまでの時間が圧倒的に遅くなります。 この認識が追いつくように調整する作業を何回か重ねました。

具体的にプロジェクションマッピングの一連の流れを紐解いていくと、

映像を投影する→ユーザーが気づく→目線を向ける→投影先の事象を理解する

という流れになります。

映像の流れる速度が速いと「事象を理解した頃にはキャラクターが次の行動に移っていて、次の展開の始まりを見逃していた。そして、最終的には目で追いかけるだけになっていた」ということが起きてしまいます。

感覚値ではありますが、平面で作った映像の倍以上の時間、「プロジェクションマッピングを見ながら、互いに感想言い合えるぐらい」の速度で動かすのが良いでしょう。

今回の映像も初期は1分30秒ほどの長さでしたが、演出を加えたり再生スピードを調整したら最終的には4分以上の映像になりました。

あとは、映像が流れ始める前にSE(効果音)を流すことで、場面設定を理解をさせてあげることも大切です。 例えば雪が降っているシーンになる少し前から雪の音を流すことで、次に流れる映像が「冬の映像なんだ」と認識することができます。理解をさせやすくするためには、割と重要な演出だと思います。

👉ポイント
プロジェクションマッピングを投影してから、ユーザーが認識するまで時間がかかる。「プロジェクションマッピングを見ながら、互いに感想言い合えるぐらい」の速度で動かすのがポイント。

「演出家」として考える

奥村:正直、今回のプロジェクションマッピングを作ることになるまで、ムーミンを読んだことがなかったんですよ。ですが、小説を読み込んでいくうちに、どんどん作品が好きになっていきました。キャラクターそれぞれの個性や魅力がわかってくると動きの一つひとつ、そのキャラクターっぽさを出せるようにしたいと考えるようになっていきました。映像を作るエディターというよりも「演出家」のように、キャラクターに動き方の演技を考えてあげている感覚でした。

プロジェクションマッピングはモニター上で完結する映像とは制作プロセスも演出の仕方もかなり違ったものでしたのでとても刺激になりました。ぜひ、これからプロジェクションマッピングに挑戦する方達にも楽しんでもらいたいです。


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