<Composer's Note > #1. 作曲家に音楽制作依頼するときに既存の音楽をつける?つけない? 前編

はじめに


Vook Noteご愛読のみなさんはじめまして、作曲家のNamikoです。
映画音楽や制作の話しを語り合える場所を提供してもらえてとてもわくわくしてます。
不定期ですが、この場を借りて、映像作家と作曲家の仕事の仕方、映像音楽のつけ方・作り方のアドバイスや、お気に入りのシーンで映像における音楽効果の説明をしたり、映画音楽の基本からオタクなことまで紹介していきたいなと思ってます。どうぞよろしくお願いします!!

どうやって作曲家に音楽依頼をしたらいいの?

今回初の投稿となる第1回目には、”作曲家に音楽制作依頼するときに既存の音楽をつけるべきか?つけないべきか?” という質問に答えます。

みなさん、映像につけるオリジナルの曲を作曲家に制作依頼したい時どうやって発注していますか?

映像編集も進んでドラフトカットもほぼできたし、そろそろどんな音楽をつけようかな〜なんて考えながら、自分でこれが合うと思った曲をとりあえずつけてから作曲家に聴いてもらって、曲制作の発注する。よくありますね〜。もしくは、専属の作曲家とプロジェクトの話をつけて、とりあえず動画のドラフト送って曲を先に書いてもらってから、後で映像編集の調整をする。なんてことも。

どちらにしても、曲はちゃんと出来上がってくるけど、実際のところどうやって作曲家に音楽依頼をするのがベストなのでしょう!?

それは、ずばり、、、  “ケースバイケース”。

それじゃあ、答えになってませんね、、、

なので、

“テンプトラックを使用する(既存の曲をあてて編集し、それに合わせて曲を書いてもらう)”時 と “ドラフトカットを送っていきなり曲を書いてもらう” 時 の制作の流れや、メリット・デメリットを紹介するので、
どちらの方がそのプロジェクトに適してるのか検討してみてくださいね。

今回は、

“テンプトラックを使用する(既存の曲をあてて編集し、それに合わせて曲を書いてもらう)” パターンについてお話しします。

テンプトラックとは?

まず、作曲家に制作依頼する前にあてられている既成の音楽のことを、“テンプトラック” と言います。テンプトラックは1曲または2曲以上の既存の曲が切り貼りされたり重ねられて構成されます。映像作家が制作することもできますし、音楽編集家(Music Editor)や作曲家が制作することもあります。既存の曲のピッチや速さを変えたりしてより映像にぴったり合わせたテンプトラックの作り方についてはまた他のノートで紹介したいと思います。

テンプトラックのメリット・デメリット

テンプトラックを使用するメリットは特に、欲しい音楽のイメージを作曲家に伝えやすいこと、作曲依頼をしてから曲の上がりが早くなること。同じ言語を話さない映像作家と音楽作家はコミュニケーションが取りづらいため、テンプトラックがあることで細かいイメージが伝えやすくなります。作曲する側としても、テンプトラックを聴いてオリジナル曲に使う楽器や曲の速さ、構成できるので、音楽制作しやすいということもあります。

しかし中には、テンプトラックがついていること自体が嫌いな作家もいますし、ついていても作業を始めるときに音をミュートして、テンプがついているのに実は1度もその曲を聴かないという作家もいます。

なぜ、テンプを聴かない作家がいるのか?ここにデメリットが隠れています。テンプトラックがあることによって、音楽家の“想像力を狭める”ことになります。既存の曲を何回も聴くうちにそれがベストだと思えてしまうのは実は監督やクライアントだけではなく音楽作家も同じで何度も聴くうちにその音楽にできるだけ似せて作ろうと思ってしまうのです。
 テンプトラックを使用することは、イメージを直に伝えやすく良い反面、クリエイティブになりにくいと言えます。監督としては作曲家と作品を作ることで映像をもっと良くしたいし、曲を入れることでもっとフレッシュに斬新にしたい!と思うかもしれないのですが、その伸び代を縮めてしまうのもこテンプトラックとも言えます。

では、どんな時にテンプトラックを使用するべき?

  • “予告編” “ティーザー/トレーラー” 予告編にはその映画やプロジェクトを伝えるためにその短い時間の中で3アクトというものを適用すると思います。ティーザー用の音楽はそれに合わせて曲の早さが決まったり、静かになったり盛り上がったりする要素がすでに盛り込まれています。予告編の音楽しか売らない会社もあるぐらい少し特殊な音楽になります。

  • 雰囲気、ジャンル、使用楽器、曲の速さなど、とても細かく音楽的イメージがすでにありそのイメージに近い既存の曲がある場合。
    作曲家に細かく指示をしたければ言葉ではなく音楽を聴かせるとはこのことですね。テンプトラックを聴かせて、この曲に似せて欲しいと伝えれば話しは早いです。例えば、クライアントから"今回は久石譲さんのハウルの動く城のあのワルツみたいな曲が欲しいです"など詳しい希望を言われてしまったら、迷わず久石譲さんのその曲をあててしまいましょう。

  • 納期がすごく短い場合、作曲家とコミュニケーションが取りづらい場合。 とにかく音楽が明日の朝までに必要な場合や、作曲家と話しが噛み合わない、イメージ通りに進まないなど進行困難な場合。音楽知識のない映像作家が音楽の話をするのはとても難しいです。作曲家はどうにかそのイメージを掴もうとしますが、どうしても話やイメージが擦り合わないことはあります。その場合は、作曲家にテンプトラックを依頼するのもいいですし、自分からこんな曲が良いと参考にできる曲を使いながら話をするとスムーズなことがあります。

テンプトラックを使用してBGM制作をする時の流れ

  1. テンプトラックに使いたい既存の音楽を探す、または、音楽編集者か作曲家にテンプトラックの制作依頼する
    すでに使いたい音楽が分かっている場合は良いのですが、新しくその映像に合う音楽を探すというのはとても時間がかかります。テンプトラック制作料として追加料金がかかることがあるかもしれませんが、作曲家の方でテンプトラックをいくつか作ってもらうというのも1つの手段です。音楽編集者や映像専門の作曲家は映像上での音楽の使い方のプロですから、思いも寄らないジャンルなどを聴かせてもらえたりして新たな発見があるかもしれません。

  2. どの曲をテンプトラックに使用するか決定する
      テンプトラックを選定する時は、できるだけ色んなジャンルや曲の速さなどを試してみると良いでしょう。映像の流れがもたついてないか、音楽が忙しくないか、ハイライトしたいポイントと曲の盛り上がる部分が合っているかなど、全体の流れと、細かい部分にも気をつけて聴いてみましょう。 しかし、ここで全てが完璧でなくて大丈夫です。そこをカバーするのが次のステップです。

  3. テンプトラックの好きなところ、嫌いなところを作曲家に全て伝える
      これが一番大事なステップです。使用するテンプトラックをつけた映像を作曲家に渡す際に思いつく限り、その曲の好きなところと嫌いなところを伝えてください。“こんな感じの曲で。”とだけ言って渡すのはNGです!!
    例えば、曲の雰囲気は好きだけど速さはもっと遅い方がいい、ここの映像が切り替わる部分から盛り上がって欲しい、このドンドン鳴ってる音が嫌い、曲の36秒からが好きだけど12秒〜18秒のところはもっとシンプルにしたい、このロゴが出るところに合わせてアクセントをつけて欲しい、、など詳しく伝えてください。
    そして、もう1つのポイントは“どれぐらい既存の曲に似せて欲しいか”というのも見当がついている場合は伝えてあげましょう。承知のとおり著作権法上、全く同じようには作ることはできませんが、できる限り似せて欲しいのか1部だけ、雰囲気だけ参考にして欲しいなど伝えると良いでしょう。そして、もちろん映像の解釈やハイライトしたいシーンなどの指示なども忘れずに。

  4. オリジナル版の曲制作
     ドラフトカットを送る際にテンプトラックをつけたものと、そして、音楽が入っていないバージョンも忘れずに作曲家に送ります。他にも参考にして欲しい音楽があればmp3などで一緒に送るのも良いでしょう。  
     作曲家からあがってくるドラフトを聴いて変えたいところなどがあれば何度か話し合って制作を進めて行きます。ここでも、ポイントは何が好きで何を変えたいか、わかる限り伝えること。変更回数が多いと追加料金が取られる場合もあるので、とにかく変えたいところ、キープしたいところを正確に伝えることが必要です。初めにテンプトラックを探していた時に好きな曲の部分などあれば、その曲を参考にしてもらうのもありです。

  5. 校了、納品
      お互い納得のいく音楽が完成して、納品となります。納品はデータやCDなどそれぞれの納品の仕方があると思います。契約書や使用許可書の内容などは、オリジナル版の曲制作が始まる前までに確認しておきましょう。

ー まとめ ー

  • 映像にあてられる既存の音楽のことを テンプトラック という

  • テンプトラックを使用すると仕上がりのイメージを伝えやすく早くできあがるが、クリエイティブ性が制限される

  • テンプトラックを好まない作曲家もいる

  • 予告編やティーザーは予告編用の曲をテンプトラックとして使用する方がまとまりやすい

  • 曲を探す時間がない場合、音楽編集者や作曲家にテンプトラックを制作依頼することもできる

  • テンプトラックの好きなところ嫌いなところは思いつく限り作曲家に伝える

  • 著作権法上、全く同じようには制作はできないができる限り似せることはできる


 映像作家の間でちょいちょい話題にでてくるが、テンプトラックが苦手、得意の話し。私が受注するものには久石譲さんの曲がついていることが多くて、光栄なような、幅が広がらないような、、と思いながら制作してます。一方、色々なジャンルを聴くのが好きなので、テンプトラックを制作することは得意でアイディアに困った作曲家仲間からテンプトラックを作ってくれという依頼も受けます。1フレーム秒、この曲の始まりが早かったら、遅かったらと試したりするので悩んだり、音楽のピッチを変えて他の曲とバッチリ合わせたりするのが楽しいんですw そうそう、ちなみにジョンウィリアムズのような曲をつくって欲しい時は、ジョンウィリアムズをテンプするのではなくクラシック音楽をテンプするのが良いですよ。
 ハリウッドでは、他の作曲家の曲をテンプして曲を制作することは当たり前で、その行為を“サウンドライク” や “リップオフ”なんて言いますが、UCLAで受けた授業のひとつに訴えられない条件でどれだけその曲に似せるか、なんて授業もありました (◎_◎)/
その時に作った私のサウンドライクの曲はこちら、何の曲だか分かりますか?w (まさかこの曲を世に出すとは思ってませんでした。オリジナルに似せるために音質もわざと悪くしてます。。)クラスには20名ほどいて全員がこの曲のリップオフをしたんです、みんな絶妙に違う曲作ってくるものだからその日の授業は笑いが絶えませんでしたw (私も大好きな作曲家Vさん、これでも尊敬してます。)

最後におまけで、ハリウッドでどれだけ“サウンドライク”な音楽があるのか検証したビデオ。こうゆう音楽はたいてい同じテンプトラックが貼り付けられていたということが考えられますw

長い記事を最後まで読んで頂きありがとうございました!

次回 Composer’s Note は、“ドラフトカットを送っていきなり曲を書いてもらう” パターンをご紹介します!

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コメント

  • Sho Matsuki
    Chariots of Fire!奥深い。シェアありがとうございます!