カメラワークと構図だけを考えて撮り続けた。上田慎一郎監督の演出術|CP+2022

2022.03.01 (最終更新日: 2022.06.27)

2月22日(火)から27日(日)わたって開催された(※プレ・イベント含む)、カメラならびに関連機材の展示会「CP+2022」。コロナ禍への配慮から、今年もオンラインのみの単独開催となったが、会期に合わせてパナソニックがマイクロフォーサーズ最上位機「LUMIX GH6」を発表するなど、プロアマを問わずカメラ愛好家にとっての恒例イベントとして、多くの関心をあつめていた。Vook編集部が注目したセッションを、レポート形式でふり返る。

本稿では、主催者プログラムとして2月23日(木)に催されたスペシャルトークセッション 「上田 慎一郎監督 挑戦の『原点』と『ミライ』」 の模様をお届けする。『カメラを止めるな!』(2018)のヒットで脚光を浴びた上田慎一郎氏。1月14日(金)に全国公開したばかりの最新作『ポプラン』もまたその異色な作品性で話題を呼んでいる。本セッションでは、上田監督氏の半生から作品づくりに関わる出来事をふり返り、この先の展望に至るまでを語った。聞き手は、お笑い芸人のジャガモンド斉藤氏が務めた。

TEXT_kagaya(ハリんち
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(Vook編集部)

上田 慎一郎/Shinichiro Ueda

1984年、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体を結成。『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2018年、初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ拡大する異例の大ヒットを記録。2020年5月、コロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート”で制作する作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。2021年『100日間生きたワニ』『DIVOC-12』が劇場公開。2022年『ポプラン』が劇場公開
@shin0407

中学生で映画のようなものを撮り始める

上田監督は現在のキャリアである創作や表現に繋がる「原点」を、自身がおもちゃを使い勧善懲悪的な遊びをしていた幼少期にあると話す。家にあった戦隊ものやロボットなどのおもちゃを使い、自分の中でストーリーを組み立て、おもちゃを善側と悪側に分けて戦わせ合い、善側がピンチに窮したのち盛り返して悪側に打ち勝つという遊びだ。

その後、小学生の頃から映画が好きになった。小学校高学年になり、自宅がある滋賀県の田舎に1件しかないレンタルビデオショップで『タイタニック』や『インディペンデンスデイ』などをVHSビデオで借りて見始めた。

中学校に入り、父が持っていたHi8で放課後、友だちたちと映画のようなものを撮り始めた。「今日は何撮る?」と相談しながら、シチュエーションや終わりを決めずに撮り始める。

日が暮れてくると、撮影を翌日に持ち越すという発想はないため、「そろそろ撃ち合いしよか」と物語を終わらせていたという。もちろん「編集」という発想はなかったため、撮ってNGが出たらエンドサーチで戻り上書きしていた。

その作品は、母親に見せていたという。上田作品の最初の観客は母親というわけだ。

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高校3年間、文化祭で毎年映画を制作

高校に進学後も映画をつくり続けており、1年生の文化祭の出し物で、上田監督は自ら「映画をつくろう」と提案したという。クラスのマドンナが転校してしまうというところから始まるドタバタ劇でチンピラの抗争もある、『ロンゲスト』という作品だ。

クラス全員に当て書きで脚本を書き、初めてお客さんを入れて上映会を実施。この出し物が、その年の文化祭で、全学年の出し物の中から最優秀賞に選出。この出来事は地元で話題になり、近隣の高校でも映画をつくる生徒が現れるなど、小さな映画制作のコミュニティが流行ったそうだ。

高校2年生の文化祭で、今度は60分の長編映画『交差点』を制作。これもまた最優秀賞に選出された。さらに高校3年生の文化祭は前年の倍、長編映画のスタンダード120分の『タイムトラベル』という作品を撮る。現代の高校生が第二次世界大戦の世界にタイムトラベルし、現代に戻れるのかを描く内容だ。

ただ、この作品は長尺すぎて文化祭に間に合わず、泣く泣く冒頭30分と予告編だけを流した。にもかかわらず、またも最優秀賞に選出された。つまり高校3年間、全ての最優秀賞を上田監督作品が総なめしたことになる。

なお、当時未完だった『タイムトラベル』はその後完成させ、体育館で上映させてもらったという。

上田監督:
高校のときはお笑いも好きで、文化祭でコントやったり、漫才つくって駅前でやったり、マンガを書いたり、バンドをやったりしました。でも上手くいったのは映画と演劇だけ。いろいろ全部全力でやったけど、人より上手くできたのは映画でしたね。

カメラワークとアングルだけを考えて、独学で撮り続けた

上田監督は撮影や編集を含め、映画制作全般で体系的な勉強はしてきていない。

上田監督:
25歳まではカメラワークとアングルだけ考えてお話を撮っていただけです。もし技術的なことから入っていたらしんどくなってしまっていたかもしれないです。今でも画的なシーンのつながりはあまり気にしていないです。気持ちがつながっていないほうが映画としてはつながっていないと思ってしまいます。

高校2年生で撮った『交差点』も、夕方ぐらいから殴り合いのシーンを撮影したため、ワンカットごとに周囲が暗くなりつながりはおかしくなったが、映画として観るのに支障はなく、そういった部分にこだわりすぎることで本質を見失うと考えている。聞き手のジャガモンド斉藤氏は、「そういうところが良い意味でインディーズ感のある映画につながっているのではないか」と述べた。

また、監督は父親からの影響もあると語る。上田父子は元々写真が好きで、上田監督の結婚式では父が写真を撮っていたという。そういう場での写真は、基本的に花嫁花婿の幸せそうな姿を撮ったり、説明的なショットを撮るのが一般的だが、監督の父の場合は「僕がバージンロードを歩くときのこわばった手を撮ったりしていた」という。細部を切り取ってドラマを生み出すその作家的手法に 「親父から受け取ったDNAみたいなものなのかなと。親父の作家性、なんか良いなと思いました」 と、ふり返った。

編集で内蔵マイクの音をOFFにするときが好き

25歳以降は実践を通して技術も磨いていく。一眼レフの登場で映画らしい「ボケ」のある画が撮れるようになり、自主映画が劇的に変わった。被写界深度を浅くするには明るい方が良いとか、単焦点レンズのほうがボケるとか、そういうことを知るのが楽しい時期も経験している。それまではハンディカムのオートで撮っていたため苦労しなかった部分については、一眼レフでは逆にちょっとずれたらボケてしまうという難しさがあるが、それが楽しかったという。

ガンマイクを使い始めたときも感動した。それまで内蔵マイクだけで録っていた音とは明らかにちがう、クリアで雑音のない音だ。監督は編集時、内蔵マイクとガンマイクの音を並べて作業を行うが、「内蔵マイクの音をOFFにするときがすごい好き。クリアな音だけになる感じが」 と、ちょっとしたフェチを告白。ただし、自主映画ではクリアすぎる感じになってしまうので、ガヤを撮って入れよう、BGMを入れようと思いついて実行する。そうしたことは学校などで学ぶのではなく実践して学んできたわけだ。

上手くいっている時のフォームを過去作で再確認する

『カメラを止めるな!』は、上田監督いわく 「何者でもなかったときに撮ったもの」。この作品はある意味原点で、それ以前とそれ以降で監督としての立ち位置が変わった。最初期はただ撮りたいから撮る段階、次に好感がある人に見せる段階(前述、監督の母親)、そして『カメ止め』でまったく知らない人に届いていく段階へ。この段階で「フォーム」が崩れることがあるという。

本作のヒット以降、多方から大きな仕事が舞い込み、関わるスタッフや周囲の人も増え、いろいろな言葉をかけられた上田監督。そういう言葉に反応しているうちに、「自分って何だろう」と迷うことが増えたという。そういった迷いや気持ちの落ち込みがあるときには、時々過去作を見返す。

上田監督:
一番自分が上手くいっている時のフォームを見直すというか、初期衝動みたいなものを思い出すために過去の作品を見ることがありますね。

絵コンテはある程度経験を積んでからが良いと思う

監督は自主映画を撮り始めたときには絵コンテを描いてたが、現在は描いてないという。

その理由は 「縛られるから」。そのショットがどういう意味をもつかとかを理解した上で絵コンテを描くなら意味があるが、絵コンテを持って行っても、現場で役者さんの芝居を見ると、絵コンテから脱して撮りたい画が変わることもある。だから、絵コンテはある程度映画の経験を積んでから描き始めるのが良いと考えているそうだ。

上田監督:
ずっと描いていませんけど、自分がショットに意味を上手く込められるようになって初めて描いても良いと思います。絵コンテを描いた上で、現場で縛られないというのがベストです。

一方で、全てのショットに意味を込めると窮屈さも出てしまうため、自分がどういうものにフィットしているかを探しているという部分もある。

上田監督:
カメラのアングルがちょっと変わるだけで意味とか感じ方が変わります。そこを探してる感じです。昔はフィーリングでした。

また、上田監督は編集も自身で行なっていることが現場にも大きく影響すると感じている。

上田監督:
妻も映画監督なんですけど、編集はしないので、現場でどの程度どう撮ったらどうつながるのかいまいちイメージし切れていないところがあります。でも僕は自分でやるので、これとこれをこうつなげてというのを頭の中で編集しています。全過程を知っているからこそ、一部一部も精度を上げられます。もっと言うと、脚本の時点である程度画を切り取っているんです。

脚本にしろ編集にしろ、どう切り取るかが作家性だと語った。

最新作『ポプラン』は今までと異なる“投げ方”をした作品

上田監督は『ポプラン』について、これまでの作品とはちがう“投げ方”をしたと自覚する一方で、やっぱり自分の球だという感覚もあると語る。

聞き手の斉藤氏は、本作について 「ラストの切り取り方が印象的で。一観客として、監督は変わらず球を投げてるという印象でした」 と、コメント。

監督は、本作について自分の評価はもう少し時間が経たないとわからないという。『カメラを止めるな!』や『スペシャルアクターズ』でも、映画ファンに戻って自分の作品を見るまでには1年ほどかかるそうだ。

上田監督:
いろんなことを覚えてるし思い出しちゃうので、自分の映画にダメ出しをしちゃうんですよね。

2017年作品である『カメラを止めるな!』は、客観的に観られるという。

「いやぁ、ずっとおもしろいな~、って(笑)」

ただしこの作品を見返すと、プロット開発、シナリオ開発、編集期間が圧倒的に一般的な商業映画より長かったことを思い出す。撮る時間こそ少ないが、ほかはたっぷり時間をかけた作品である。商業映画ではそのような時間の使い方が許されない部分もあるため、日本映画業界の構造的な問題として、これから自身を含めて変えていきたいと思っているそうだ。

安パイなことをするモチベーションは、ない。

上田監督が映画をつくるときに大事にしているのは 「挑戦があること」。それが作品をつくるモチベーションだという。これまで、上田作品は脚本・監督・編集を全て自分でやっているものが多いが、今後、脚本や編集を人にまかせたときに起こる化学反応を試すのも面白いと考えているそうだ。

最後に力強く語ったのは、 「安パイなことをするモチベーションは、ない」 という言葉。これを受けて、聞き手の斉藤氏は「ずっと危ない橋を渡ってください」と応答。上田監督ははにかむように微笑みつつ「がんばります」と締めくくった。

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