カラーグレーディングの愉しい遊び方 by ATOMS|CP+2022

2022.03.02 (最終更新日: 2022.06.04)

2月22日(火)から27日(日)わたって開催された(※プレ・イベント含む)、カメラならびに関連機材の展示会「CP+2022」。コロナ禍への配慮から、今年もオンラインのみの単独開催となったが、カメラ愛好家にとっての恒例イベントとして、今回も見どころの多いイベントであった。

本稿では、ATOMOSが実施した映像ディレクターの林 和哉氏による「グレーディングの愉しい遊び方」の様子をレポートする。ATOMOSのSSDレコーダー「NINJA V」に関連して設けられた本セッション、テーマは同機も収録に対応している「Apple ProRes RAW」である。ProRes RAWの基本情報からFinal Cut Pro XとDaVinci ResolveによるカラーグレーディングのTIPSまで、映像制作者向けの濃厚なセッションとなった。

TEXT_kagaya(ハリんち
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(Vook編集部)

本セッションの講師を務めた、林 和哉氏(映像ディレクター、ゼネラリスト)

ProRes RAWのメリット

従来よりプロの映像制作の現場ではAppleの「ProRes」フォーマットはスタンダードとして使われてきており、「ProRes RAW」とはすなわち「ProRes」でラッピングされたムービー用RAWフォーマットのことである。NINJA Vでは、ガイドラインに則ったカメラ側の出力に呼応するかたちで、RAWレベルでコントロールできるパラメータが増える。

ProRes RAWを利用することによるメリットについて林氏は次の項目を挙げる。


* ハイダイナミックレンジでの記録が可能
* カメラ内記録よりも高いビットレートでディテールや階調性に優れる(12bitの色深度)
* RAW記録のフォーマットにしてはサイズがコンパクト
* 圧縮率の変更が可能
* カメラのオーバーヒートを気にせず、長時間の上質な録画を可能にする

ファイルサイズについて林氏は、 「Final Cut Pro Xにおいて、びっくりするくらいの軽い操作感だ」 と話した。

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Final Cut Pro Xでの別撮り素材の色合わせ

林氏は、現状はMacとFinal Cut Pro XまたはPremiere Proを組み合わせた運用を推奨する。本セッションでは、ソニー「α1」とキヤノン「EOS R5」という2台のカメラを使い、ProRes RAWフォーマットで別撮りした素材の色合わせの方法を紹介した。なお、色合わせの前提として現場のリファレンス色のためカラーチャートの撮影を行なっており、今回はそのチャートの色で合わせ込みを実演した。

<1>Final Cut Pro Xに素材を読み込む

<2>まずはLogに変換(Canon Log2/Cinema Gamut)

<3>コントラストとサチュレーションを足す

<4>撮影したカラーチャートの各色がベクトルスコープ上で重なるよう、ヒュー/サチュレーションカーブで調整。この方法で効率良く色合わせが行える

Davinci Resolveでは、CinemaDNGに変換

カラーグレーディングにおいて事実上の業界標準となっているDavinci Resolveは、ProRes RAWには対応していない。そこで林氏は、コンバータを介してCinemaDNG形式に変換するワークフローを紹介。ファイルサイズが大きくなるというデメリットはあるが、Davinci Resolve上でRAWレベルのコントロールをしながらグレーディングができるという大きなメリットがある。CinemaDNGであれば、Davinci Resolveで触れるほぼ全てのパラメータにアクセスできるとのことだ。

ProRes RAWをCinemaDNGに変換するためには、別途Mac用App「Raw convertor」を使用する。本格的に利用する際にはコーデックごとにライセンス料の支払いが必要になるが、300フレームまでは試用可能だ。

AppStore「Raw convertor(Prores RAW videos into cDNG)

<1>下準備として「プロジェクト設定」の「カメラRAW」で「RAWプロファイル」を「CinemaDNG」に、「デコードに使用」をいったん「プロジェクト」にしておき、「カラースペース」を「Blackmagic Design」、「ガンマ」を「Blackmagic Design Film」に設定

<2>この状態で変換したCinemaDNGを読み込み、「カラー」ページへ進むと、色温度、ティント、露出、シャープネス、ハイライト、シャドウ、カラーブースト、彩度、ミッドディテール、リフト、ゲイン、コントラストを非破壊で編集できることがわかる

Davinci Resolveでのグレーディング実践

続いて林氏は、カット編集済みのプロジェクト素材を用いて、グレーディングを実践して見せてくれた。林氏はまず、LUTを使わずにゼロからグレーディングを行うことが多いという。

まずは室内のカット。「最初にコントラストを決めないと話が進みません」 と、林氏。コントラストを変えると発色が変わる。眠たい画なのはコントラストが浅いから。そのため、どこを黒にしてどこを白にするのかを決めないと発色ができず、その先の調整に進めないということだ。

もし色を先に決めて後からコントラストを変えてしまうと、せっかく決めた色が変わってしまう。そのため、先にコントラストを決めて、そのコントラストを維持する。もしコントラストを変えたくなったら、それは次の段階でやる、と説明した。

具体的には、「カラー」ページでプライマリーにColor Wheelsを表示し、右のスコープにはパレードを表示して、Color Wheelsの上部「コン(トラスト)」を調整する。そしてLog形式の映像は発色が足りていないのが普通なので、下部の「彩度」を思い切って足す。

ここで、コントラストを調整すると、パレードの中心部(「ピボット」値の位置、ここでは435)が開いたり閉じたりすることがわかる。そのため、ピボットをずらしつつコントラストを調整することで色味がかなり決まり、素材の活きの良さが復活する。

調整が済んだら、同じ室内のカットを複数選択してResolveの「ショットマッチ」機能で同じ調整を一括で適用して完成だ。

続いて屋外のカット。まずはコントラストとホワイトバランスについて、違和感のない見た目にする、つまりノーマライズを行う。林氏は、全てのカットがなるべく同じ印象で進むように調整するのが良いと考えており、特にコントラストが変わってしまわないよう気を使っているという。

いずれにせよ、最初の段階であまりいじり倒してしまうと、画の立ち位置がわからなくなってしまうため、最初は全体的に軽めに、100人が見たら80人がいいねと言ってくれるような 「どノーマル」 な画に調整するのが良いと話した。

次は画にキャラクターを付けていく。今回はおしゃれ寄りのグレーディングを行う。室内のカットについては、Color Wheelsの「ゲイン」について、ルミナンス(輝度)だけを上げる(白いライン)ことで、窓の外が若干白飛びする。なお、グレーディング作業時は「ワンノードワンアクション」を原則に、ノードを下に追加してそのノードに対して調整を行うようにする。

セッションでは、ノードを追加してハイライトにシアンを足し(「ゲイン」のレッドを下げる)、全体にマゼンタを足す(「ティント」を上げる)などの調整を「楽しく」実践して見せた。

特殊なグレーディングの例として、やわらかい画づくりの方法も紹介。レイヤーミキサー([ノードを追加→レイヤーノードを追加])を使って2階層にし、下階層にはブラーを適用したノードを配置、合成モード「加算」で重ねる。ブラーを適用したノードを選択した状態でスコープの真上にある「キー」アイコンを選択、「キー出力」の「ゲイン」「オフセット」を調整する。これにより重なり具合(透明度)、つまり白飛びのやわらかさが変化する。

RAWを「朗」とするか「労」とするかは、自分次第。

林氏はセッションの締めくくりとして、Prores RAWを活用することで「しあわせになれる人」と「向いてない人」を例示した。

「しあわせになれる人」として、
* 非破壊の素材を担保して、長く素材として活用したい人
* とにかく一番綺麗な状態で作品をつくりたい人
* ひと手間が好きな人

……を挙げた。

一方、「向いてない人」として、
* すぐ完成させてSNSに投稿したい人
* 画質はこだわらない人

……を挙げた。

セッションの締めくくりは、こちらのひと言。
RAWを「朗」とするか「労」とするかは、自分次第。

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