MV超色分解Vol.3はヒップホップの王と言われているケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)と現代最高峰と言われるR&Bシンガーシザ(SZA)のコラボ楽曲から『All the Stars』 をピックアップ!
Vol.3:ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)&シザ(SZA)『All The Stars』
MV解説
映画『ブラックパンサー』の主題歌といえば皆さんもピンとくる人が多いのではないでしょうか。
実はこの楽曲、過去の歴史を含め、常に逆境に立ち向かってきた黒人の全てを称える歌というテーマもあるみたいです。
この楽曲では対立するのではなく、愛を語ろうという『ブラックパンサー』の世界観も考慮して制作されたようです。
ミュージックビデオの演出もそう感じられるような箇所が沢山ありました。
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カラーパレット
色解説
印象的なシーンのカラーパレットを生成してみました!
※後ほど生成したカラーパレットのカラー詳細はお伝えします。
MV映像の特徴として、どのシーンにも黒がしっかりとあり、ワンカット全てが映画のようなコントラストですね。
各シーンずつに対して、カラーとしての演出も作りこまれており、歌詞の内容ともシンクしてカラー演出も大きく変わるのが印象的です。
色相環でいうとこのグループの配色がメインで使用されており、
コントラストも凄く綺麗な配色がなされています。
カラーとしての意味合いも含まれている表現箇所も多くみられるので
早速みていきましょう。
配色解説
ティール&オレンジに反対色を盛り込むことで人物の怒りを表現
画像出典:Kendrick Lamar, SZA - All The Stars :https://youtu.be/JQbjS0_ZfJ0
「TEAL」「ORANGE」の2色で構成されており、
「ダイアード」という配色の組み合わせが使用されていますね!
一見するとよくあるティール&オレンジの配色とも取れますが、この楽曲に内包されたイメージを紐解いてみるとよく考えられた配色だと思います。
このカットのイメージは、左右を半分で分けた際に街並みが2分割で分かれる印象があります。
画面左側には「黒人の街並み」陽が全く当たらない様な演出
画面右側には「黒人以外の街並み」陽が沢山当たって明るい演出
と対照的な演出がされているように感じます。
出演されている黒人の方達には陽が全く当たっていない演出だったのでそう感じました。
では、色の構成を詳しくみていきましょう。
シャドウ部分には全て「TEAL」が入っており、ミッドやハイライト部分には「ORANGE」を入れて印象的なルックになっています。
冒頭でも少し触れましたが、単純な配色だけを見るとよくあるティール&オレンジだと感じます。ただ、細かく演出をみていくと別のテクニックも盛り込まれていることがわかります。
分かりやすいように画像に注釈をつけてみました。
気づきにくいかもしれませんが、反対色と言われるテクニックが入っており、ベース色の反対色を二色使用するといった演出もされていました。アーティストの衣装と建物の中は「RED」のカラーが入っており、バランスの取れた配色になってます。
ティール&オレンジを使って暗に黒人の人々が置かれている現状を背景に演出しておきつつ、中心の人物に赤を配色しているのにはどんな意味があるのでしょうか。
ここから、何故アーティストの衣装に「RED」が用いられたかを考察してみます。
歌詞を少しみていきましょう!
「Tell me what you gon' do to me」
「教えろよ お前は俺になにをするのか」
「Confrontation ain't nothin' new to me」
「争うことなんて俺には何の意味もない」
「You can bring a bullet, bring a sword, bring a morgue,」
「お前は弾丸や剣を振りかざし 死体で山を作る」
「But you can't bring the truth to me」
「けど真実なんて一欠けらも持っちゃいない」
引用元:Kendrick Lamar, SZA - All The Stars :https://youtu.be/JQbjS0_ZfJ0
歌詞を読み解くとアーティスト自身が「RED」の衣装を身に付けている背景が見えてきましたね。歌詞からは激しい怒りを感じます。
映像でもアーティスト自身が怒っている事を伝える為に「RED」衣装を着用し、心の中の怒りも表現するように、建物の中の灯りの色も「RED」系統の色で統一されているのではないでしょうか。
背景や人物にあたる光から黒人の人々が置かれている境遇を連想させ、中心のアーティストの怒りをより強調しているシーンになっていると思います。
衣装や配色で伝える「冷静」さと「平和」のメッセージ
画像出典:Kendrick Lamar, SZA - All The Stars :https://youtu.be/JQbjS0_ZfJ0
このシーンではベースカラーは「BLUE」です。
アーティストが着用している衣装は「RED」と補色ではありませんが、かなりインパクトの強いシーンです。
楽曲の意味なども深く関わってくるシーンかなと思っているのですが、冒頭でも紹介したように「対立するのではなく、愛を語ろう」という
意味が深く込められているシーンかなと思います。
ベースカラーの「BLUE」で「冷静に」「平和的に」というメッセージを連想させつつも、アーティストの衣装は「RED」なので「情熱」「感情」という気持ちを伝えている感じがします。
アーティストが「RED」の衣装を着用しているところが重要なポイントだったかなと思いました。
そこから2回目のサビで場面はガラッと変わります。
思いの強さ、感情の強さを「RED」に統一することで表現
このシーンでは「BLUE」から「RED」へと配色がガラッと変わり、伝えたいメッセージの強さが変わったように思います。
アーティストの衣装同様に配色全体が「RED」に統一され「感情」部分が前面に入ってきました。
同系色に統一したことでメッセージの強さがより強くなるのがわかると思います。このように1回目のサビと2回目のサビの配色を工夫することでメッセージの強弱や思いの強さを表現することもできるのが配色の妙ですよね。
ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)&シザ(SZA)『All The Stars』MV超色分解まとめ
いかがでしたか?
逆境に立ち向かってきた黒人にフィーチャーした楽曲とカラーグレーディングの演出が最高にマッチしていましたね。
感情や楽曲背景にあるものを色で具現化する際の参考になったのではないでしょうか!
次回もお楽しみに!
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著者プロフィール
- ビデオグラファー / 映像ディレクターRen Takeuchi
1997年京都生まれ。高校卒業後にビデオグラファーとして活動し、2019年にフリーランスの映像ディレクターとして独立。TVCM、WebPV、PV、企業VP、MVなど様々な制作を手掛ける。現在はチームで活動をし、主にカラーグレーディングを得意とし、企画・ディレクション・撮影・編集をワンストップで行う。 https://www.instagram.com/grove_glas/?hl=ja
- Edit:古川恵梨 / Eri Furukawa(Vook編集部)
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