Premiere ProとNINJA Vを連携させた、カラーグレーディングの基礎をわかりやすく解説|CP+2022

2022.03.20 (最終更新日: 2022.06.04)

カメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+2022」。ATOMOS JAPANが2月25日に催した オンラインイベントでは、カラーグレーディングを得意としている映像ディレクターであるRen Takeuchi氏が 「カラーグレーディング ハウツー@Premiere Pro」 と題して、Premiere Proによるカラーグレーディングのワークフローとハウツーを紹介した。

TEXT_加藤学宏 / Norihiro Kato
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(Vook編集部)

カメラに内部収録するのではなく、外部レコーダーを利用する重要性

▲ 講師を務めた、映像ディレクター Ren Takeuchi氏(GROOVE LIFE ART STUDIO

最初にTakeuchi氏は、素材を撮影するために使用した機材や設定について紹介。カメラはフルサイズのボックス型ミラーレス一眼 LUMIX DC-BS1Hを使用、これにATOMOS NINJA Vを接続して収録した。

▲ LUMIX DC-BS1HにATOMOS NINJA Vを接続して収録

通常、LOG収録の際にはISO640がベース感度となり、暗い場合には2000、3000と段階的に感度を上げていくことだろう。

だがBS1Hの場合は、一気に4000まで上げた方が、ノイズが低減するとTakeuchi氏は説明する。BS1Hには、デュアルネイティブISOという機能があり、ISOの回路を自動的に切り替えることができるからだ。

外部レコーダーのNINJA Vは、最大4K 60pが収録できる。8Kに対応したNINJA V+も出ているが、どちらを選ぶべきだろうか。

8Kで収録するかどうかだけが選択基準ではないとTakeuchi氏は話す。拡大してピントが合っているかを確認するような場合、8K対応している方が見やすいからだ。自分の制作に合った用途で選びたい。

今回、カメラ内部収録ではなく外部レコーダーを使用したのはなぜか。

Takeuchi氏はどちらも使用することがあるというが、BS1Hに限らず多くのカメラにおいて 「個人的には外部収録で絶対に収録した方が良いと思っています」 と話す。

Takeuchi氏:
BS1Hを使って4K 60pで収録した場合は、SDカードに記録するタイミングで約150Mbpsに圧縮されます。

カメラセンサーで捉えた綺麗な画質ですが、内部収録の場合はデータをギュッと圧縮しているので、本来のスペックを最大限発揮できているとは言えないのです。

それに対してNINJA Vで収録した場合、低圧縮で150 Mbpsから1760Mbpsまで圧縮の度合いを変えて書き込むことができる。低圧縮に抑えることによって、カメラセンサーが捉えた画質に近い綺麗なデータを収録することが可能になります。

▲ カメラの内部収録よりもATOMOS外部収録の方が高画質にすることが可能

今回の収録フォーマットはProRes RAW。「データ量」、「画質」、「処理のしやすさ」の三拍子揃った動画用のRAW収録コーデックで、ビット数は12bitだ。

そのProRes RAWに対応する主要なソフトは次の通り。

▲ ProRes RAWには、Final Cut Pro X、Adobe Premiere Pro、SCRATCH ASSIMILATEが対応している。Da Vinci Resolveは非対応なので、そのままでは扱えない

このうちFinal Cut Pro XとSCRATCH ASSIMILATEについては、ホワイトバランスとISOを後から変更することができる。そのためTakeuchi氏の見解では、基本的にこれらがカラーグレーディングに向いている。

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ビット数とLUTの関係

ここで、ビット数について改めて確認しておきたい。ビット数が大きいほど階調の情報を多く持てる。

▲ 8bitのRGBカラーなら、レッド、グリーン、ブルーに対して各8bit(256階調)で情報が振られる。計24ビットで、1677万色の振り方ができることになる

次に、LUT(Look-Up-Table)の話に移る。

LUTを使うと綺麗な絵が作れると考える方も多いだろうが、一概にそうとも言えない。ProRes RAWで収録すれば12bitの情報量で表現できるはずだが、LUTでは情報が制限されてしまうのだ。

▲ LUTは各RGBに対して33ポイントしか当てることができない。上手く補正される仕組みになっているものの、抜け落ちている部分がある

カラーコレクションやカラーグレーディングの際には、このことを頭の隅に置きながら、「階調が綺麗に撮れていそうだから、今回はLUTを当てずにやってみよう」などと考えながら制作していると、「次のステップに行ける」と、Takeuchi氏は話す。

その上でTakeuchi氏は、「LUTを活用すると色を統一でき、撮影した動画を好ましい色に再現して、オリジナリティ溢れるクリエイティブルックを作り出すことができます」 と説明する。

基本的にまず公式のLUTを当てた上で、自分が持っていきたい方向性のLUTを上から当てると良いだろう。

▲ LUTを当てることで、綺麗な画が創り出せる

Takeuchi氏:
先ほどお伝えしたように、LUTは正確に補正しているわけではなく、細かくレンジを使用しきれないことがあるので、本当はLUTを使用せずに、自分でノーマライズやグレーディングを行えることが理想だと思っています。

Adobe Premiere Proを使ったカラーグレーディング〜3つのアプローチを解説〜

ここから本題であるAdobe Premiere Proを使用してのカラーグレーディングだ。ノーマライズ(カラーコレクション)、LUT Grading、LUTを使用しないGradingの3つにアプローチしていく。

<1>ノーマライズ

<STEP 1>素材は、あえて輝度を高くして撮影したもの

素材の上に調整レイヤーを重ね、調整レイヤーLumetriカラーを調整していく。まずはハイライトを適正にするため、[基本補正]で露光量をグッと下げ、白レベル、黒レベル、色温度を設定。

Takeuchi氏:
カラーコレクションは、人肌を綺麗に出すことが重要だという話があります。

正しいとは思うんですが、人肌がない場合どうするのかということになります。個人的には、RGBの全てを1,023から0までの間に均等に入れることがカラーコレクションだと思っています。

<STEP 2>Takeuchi氏は通常、「ベクトルスコープ YUV」「パレード(RGB)」を見ながら調整しているという

シャドウ部分のブルーが若干強く、205のバーに被っている。一方でグリーンとレッドは205に到達していない。そこで、続いて [カラーホイールとカラーマッチ]のシャドウに手を加える。

<STEP 3>シャドウを調整して、パレードの下部を205に揃える

残るミッドトーンは、512を基準に見たとき、ブルーとグリーンはほぼ中間色にハマっているものの、レッドに関しては若干落ちているため上げる。

<STEP 4>レッドのミッドトーンを上げて、ブルーとグリーンと同じ512で揃える

これでハイライト、シャドウ、ミッドに対して全てのカラーコレクションが適用されたことになる。いわゆる「適正露出」の状態になった。あとは上下の幅をどこまで広げるかだが、広げた結果、パレードのバランスが崩れてしまったら、また調整していく。

最後に、彩度を120程度に設定する。これでLUTを使用しないカラーコレクション(色戻し)の作業が完了だ。

<STEP 5>ノーマライズの完成形。白く飛んで見えていた素材が、このように補正された

Takeuchi氏:
重要なのは、LUTに全部負担をかけずに、自分自身がカラーコレクションをできるような知識と技術があれば、戻ってくる情報だってあるということです。
基本的に、みなさんの好きな色を創るためには、LUTに頼らずクリエイティビティを発揮してもらった方が良いと思います。

LUMIX公式サイトから入手できるLUTを当てただけでは、戻ってこない情報がある

<2>LUTを使用したカラーグレーディング(LUT Grading)

次の作例では、Takeuchi氏が事前に作成しておいたティール&オレンジのLUTを適用する。

V1トラックに元となる素材、V3にカラーコレクション済の調整レイヤーにカラーグレーディング用の調整レイヤーを配置している。

<STEP 1>LUT未適用の状態

<STEP 2>ティール&オレンジのLUTを適用。シャドウ部分のブルーが強調され、肌色が際立つ。Takeuchi氏の個人的な目線ではLUTは強すぎるため、調整レイヤーに対してエフェクトコントロールの不透明を50%適用する

<STEP 3>さらにカラーホイールで、シャドウおよびミッドを調整。さらに、[色相/彩度カーブ]の色相vs彩度で、オレンジとブルーを立ち上げることでティール&オレンジの印象を自分好みに変える

<3>LUTを使用しないカラーグレーディング

今度は、LUTを使用せずにティール&オレンジを実現する。

<STEP 1>[HSLセカンダリ]を使用。スポイトマークを選択し、人肌に対してアタックする

<STEP 2>[カラー/グレー]にチェックを入れる

<STEP 3>H、S、Lの各値とノイズ除去、ブラーを調整して手の色相や彩度の部分を抽出する

<STEP 4>[カラー/グレー]のチェックを外し、右側にある四角いアイコンをクリックすることで選択しているHSLを反転させる。これで、手とシロップ以外の色を調整できるようになる。図はカラーホイールでシャドウを調整したところ

<STEP 5>続いて、もう少しだけ手の色を追い込むために、[色相/彩度カーブ]の色相vs彩度でオレンジ部分を上げて強くする

Takeuchi氏は、手ではなく、グラスのシロップが美味しそうに見えるよう調整する場合についても紹介した。

<STEP 6>色相vs彩度でレッド部分を抽出し、輝度レベルも色相vs輝度で少し下げると良い

<STEP 7>さらに追い込むため、ハイライトをレッドに振った

番外編:夏の風景を秋の雰囲気にする

かつてTakeuchi氏はクライアントから「どうしても秋の映像がほしい」と、頼まれたことがあったそうだ。

ここから紹介するのは、オススメはしないが、そういうこともできるという例だ。植物の葉を茶色や赤色に近づけるだけでも秋口に見えてくる。

▲ 元の映像。木々の色は緑色だ

▲ 色相vs色相で緑を上げるでも秋口らしくなってくる

割愛するが、「LUTを使用しないカラーグレーディング」で紹介したのと同じように、HSLセカンダリなどを使用する手法でも、木々を色づかせる様子も紹介された。

Takeuchi:
グレーディングで自分のルックを創っているときが楽しいなって、個人的にはいつも思っています。
Adobe Premiere Proだけでも、これだけ可能性がある。でも、ここまで触れているのは12bitだからです。12 bitの階調をグレーディングに活かしていただけたらなと思います。

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