MV超色分解Vol.5はアメリカのチャートからピックアップ!
ここ数年でみんなが感じていた閉塞感を見事に楽曲に反映して全米でヒットしたEm Beiholdの『Numb Little Bug』を紹介します。
Vol.5:Em Beihold『Numb Little Bug 』
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MV解説
LAを拠点に活動する23歳のシンガー・ソングライター Em Beihold(エム・バイホルド)さんの楽曲。
Do you ever get a little bit tired of life
人生にちょっと疲れることはある?
Like you're not really happy but you don't wanna die
幸せじゃないけど、死にたくなるほどじゃないみたいな
引用元:Em Beihold『Numb Little Bug』https://youtu.be/1fwJ8H5wWCU
という同曲の歌詞には、
依然としてコロナ渦で閉鎖的な生活の影響がまだ残る世界中から共感の声が殺到し、米ビルボード・ソング・チャートにはリリース週から5週連続でチャートインしたそう。
そんな話題沸騰中の『Numb Little Bug』のミュージックビデオを解説してみます!
まず楽曲の伝えたいメッセージを理解した上で、
どのようなカラーが使用されているのか分解して深くみていきましょう。
カラーパレット
色解説
印象的なシーンのカラーパレットを生成してみました!
※後ほど生成したカラーパレットのカラー詳細はお伝えします。
これまでのMV超色分解ではあまり出てこなかったタイプの配色にみえます。
衣装や配置してある美術などかなりカラーレパートリーが多いので、
パレットだけでは判断できないカラーの情報量ですね。
それでは見ていきましょう!
配色解説
不安定な感情を様々な色を使うペンタード配色で表現
画像出典:Em Beihold - Numb Little Bug (Official Music Video)
「YELLOW」「GREEN」「BLUE」「MAGENTA」「PINK」の5色で構成されており、 「ペンタード」という配色の組み合わせが使用されています!
「ペンタード」配色は色相環を正五角形に配置し、その頂点が指す色で構成する5色を指します。 若干ヘクサード配色(色相環を正六角形に配置して構成する6色)な気もしますが、色の捉え方かと思いました。
このような配色は、主張したい中心の色などを強調するときに使われます。今回はどういう使われ方をしているか冒頭歌いだしのシーンをピックアップして解説します。
まずは歌詞を見てみましょう。
I don't feel a single thing
何も感じないの
Have the pills done too much
薬を飲みすぎたのかな
引用元:Em Beihold『Numb Little Bug (Official Music Video)』https://youtu.be/1fwJ8H5wWCU
一見明るく見える動画のシーンの切り取りが、歌詞によってそうではないことがわかるかと思います。
このEmさんが浮いているシーンは、彼女の心の状態を表していると仮定して、シーンを細かくみていきます。
風船が浮いているものと、沈んでいるものがありますよね。同じ空気を入れれば風船は浮くか沈むかどちらかに偏ると考えられるため、わざと浮いているものと沈んでいるものと分けているんだと思います。
さらに風船にはいろいろは色が使われています。
これはおそらく彼女の心の中にある色んな感情を表しているのではないでしょうか。
悲しい、嬉しい、楽しい、寂しい、苦しい、さまざまな感情を風船の浮き沈みによって出しているような気が僕はします。
そしてEmさんが自身が浮いているのは歌詞にもあるように薬を飲み過ぎてふわふわしているから。彼女自身は薬を飲んで地に足がつかない状態。そして気持ちはどちらかというとブルー。それが衣装の色で表現されているのではないでしょうか。
アーティストを中心に背景を淡いペンタード配色で構成して、より心の不安定さが表現されていると思います。
「BLUE」でネガティブ感の強調、心の圧迫感、鬱屈感を風船の色や形で表現
画像出典:Em Beihold - Numb Little Bug (Official Music Video)
少し歌詞を見てみましょう!
I've been driving in LA
私はただLAをドライブしてるの
And the world it feels too big
世界の広さを実感し始める
Like a floating ball that's bound to break
気分は簡単に壊れてしまう風船のよう
Snap my psyche like a twig
小枝を折るくらい私は脆いの
引用元:Em Beihold『Numb Little Bug』https://youtu.be/1fwJ8H5wWCU
そもそもこの楽曲はEm Beiholdさん自身がコロナ禍に鬱になったことがきっかけでできたものなので、歌詞も鬱屈した日々への憂いがよく現れていますよね。
カラー配色は先ほど同じの「ペンタード」。
このカットを見て、作品そのもののキーカラーは「BLUE」 なのかなと思いました。
冒頭のシーンもアーティストが着用していた衣装は「BLUE」でした。車に当たっているライトも「BLUE」で、アーティスト自身のネガティブな気持ちを表していると思います。
この場面をよく見てみると、狭い車の中に窮屈に風船が詰められています。冒頭のシーン同様に、風船はアーティストの心を表現していると考えられます。
車が彼女の心のキャパシティと考えると、車の中が様々な感情でいっぱいになって圧迫されている。今にも爆発しそうな状況であるということが示唆されているのではないでしょうか。歌詞にも簡単に壊れてしまう、と言っていますよね。そして風船の色が一色でなく様々な色が使われているのが気になります。
最初のシーンでも解説しましたが、彼女の様々な感情が風船の色によって表現されているからではないかという仮説がここで意味をもってきます。説明のできない様々な感情が心を圧迫してぎゅうぎゅうになっているということなのだと思います。
アーティストの感情の移り変わりを衣装の変化で表現
画像出典:Em Beihold - Numb Little Bug (Official Music Video)
このシーンでも歌詞を見てみましょう!
The prescriptions on its way
薬の処方箋はまだかな
With a name I can’t pronounce
名前の無い病のね
And the dose I gotta take
さぁまた飲まなくちゃ
Boy I wish that I could count
服用した回数すら数えられない
引用元:Em Beihold『Numb Little Bug』https://youtu.be/1fwJ8H5wWCU
アーティストの着用衣装が「BLACK」になりましたね。
このカラーの意味は「死」「孤独」「暗闇」などがあり、辛い感情を伝えているように思いました。
ここでも使用されている配色は「ペンタード」なのですが、アーティストの衣装と左右に並んでいるトイレットペーパー「WHITE&BLACK」です。このように白色と黒色を配色に入れると、すっきりした印象になり、より中心の色を強調できます。
この場面は彼女がドラッグストアのような場所でいろいろなものを手に取るけれど、結局カートに入っているのは処方箋だけというシーン。周りがカラフルな色遣いにもかかわらず、アーティストの衣装が黒と白のため、ぴりっと画面を引き締めていますよね。
また、衣装がモノトーンであることによって、決して明るいシーンではなく中心の人物の気持ちは落ちているのが表現できていると思います。
このように様々な色をつかう「ペンタード」配色は決して明るいシーンだけではなく、アーティストの心情をより明確に強調する場合にも有効な配色です。参考にしてみてください。
Em Beihold の『Numb Little Bug』MV超色分解まとめ
いかがでしたか?
今回は暗い部分をピックアップしてしまいましたが、曲の最後は明るく前向きな終わり方なのでぜひ最後までみてみてください。
感情が痛いくらい伝わる歌詞をカラー演出で見せながらポップに仕上げる作品でしたね。
配色の組み合わせの参考になったのではないでしょうか!
次回もお楽しみに!
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MV映像超色分解とは?
最新MV、人気MVの中から特に色の視点で際立った作品を
Ren Takeuchiさんがピックアップ。
MV内でなぜその色が使われるのか、どのような感情を表現しているのか、細かく解説していただきます。
大好きなMVを違った視点で理解するもよし、今後のカラーグレーディングの参考にするもよし、カラーリファレンスとして使えるように毎回お届けいたします。
著者プロフィール
- ビデオグラファー / 映像ディレクターRen Takeuchi
1997年京都生まれ。高校卒業後にビデオグラファーとして活動し、2019年にフリーランスの映像ディレクターとして独立。TVCM、WebPV、PV、企業VP、MVなど様々な制作を手掛ける。現在はチームで活動をし、主にカラーグレーディングを得意とし、企画・ディレクション・撮影・編集をワンストップで行う。 https://www.instagram.com/grove_glas/?hl=ja
- Edit:古川恵梨 / Eri Furukawa(Vook編集部)
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