MV超色分解Vol.6はちょっと面白いタイムリープものMVをピックアップ!
UK出身のアーティストヤングブラッド(YUNGBLUD)と既存の型にはまらない新星シンガーソングライター・ホールジー(Halsey)の楽曲『11 Minutes』をとりあげます。
Vol.6:YUNGBLUD, Halsey『11 Minutes』ft.Travis Barker
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MV解説
曲名が『11 Minutes』という楽曲でヤングブラッド(Yungblud)のホールジー(Halsey)とのデュエット曲。
オルタナティブのバラードで、凄く印象的な演出のミュージックビデオになっています。
一説によると、実話をベースに歌詞作成されたそうです。
彼女が事故にあってしまい「11分の距離に彼氏が居たのに駆けつけてくれなかった」というストーリーがベースです。
作中で彼である男性が何度も彼女のもとに駆け付けるためにその11分間を繰り返すのですが、繰り返せば繰り返すほど起きたことは変わらないということを自覚していき…。
と面白いストーリーになっているのでぜひこの解説記事を読む前にMVを見てみてください。より理解が深まると思います。
さてさっそく、楽曲の伝えたいメッセージを理解した上で、どのようなカラーが使用されているのか分解して深くみていきましょう。
カラーパレット
印象的なシーンのカラーパレットを生成してみました!
※後ほど生成したカラーパレットのカラー詳細はお伝えします。
ハッキリとしたカラーばかりで演出意図が見えやすい印象ですね。
海外アーティストのミュージックビデオはメッセージ性が強いので作品として勉強になりますね!
この楽曲はChapterが設けられており、そのChapterごとにわかりやすい色を全面に使っているのが印象的なんです。印象的なChapterをピックアップして解説していきます。
それでは見ていきましょう!
配色解説
非現実感を「GREEN」で表現
画像出典:YUNGBLUD, Halsey - 11 Minutes ft. Travis Barker
各シーンの始まり毎にテロップとテーマが出てきます。
「CHAPTER 1: DENIAL」というのがテーマで意味は「拒否」です。
使用カラーは「GREEN」をベースカラーで演出されています。
こういったカラーを使用する際は非現実な印象を持たせる際に使用するケースがよくあります。
例で言うと、映画「マトリックス」などもキーカラーは「GREEN」が使用されていますよね。
このシーンで伝えたかったメッセージとしては、彼女が事故に遭った現実を受け入れられないという心情を伝えているのかもしれませんね。
バイオレンス、怒りの感情は「RED」
画像出典:YUNGBLUD, Halsey - 11 Minutes ft. Travis Barker
このシーンの始まりは「CHAPTER 2:ANGER」というのがテーマで
意味は「怒り」です。歌詞を少し見てみると
I’m so fuckin’ sorry, I’m so fuckin’ sorry
本当にごめんね...本当に...ごめん。
I’ve been playing somebody and it’s helping nobody
僕は自分じゃない誰かを演じている...誰のためにもなってないよね
And her lipstick arithmetic didn’t stick
彼女は唇の跡さえつけないように計算しているんだ
And now I’m sick, throwing fits
僕は嫌気がさしてイライラしているよ。
引用元:YUNGBLUD, Halsey - 11 Minutes ft. Travis Barker https://youtu.be/2m6nGyM8kTs
歌詞を見て怒りの感情を表していると思いました。
「RED」のカラーを使用するときはバイオレンス的な意味があります。
MVでも彼女のもとへ駆けつけることができず、自分のベッドからリスタートするシーンとなり、苛立ちを爆発させているシーンとなります。
恋愛の駆け引きは「YELLOW」で表現
画像出典:YUNGBLUD, Halsey - 11 Minutes ft. Travis Barker
このシーンの始まりは「CHAPTER 3:BARGAINING」
意味は「駆け引き」
Tell me what you need
私に何を求めているの?
I can make you more than what you are
私ならあなたの求める事をしてあげれるわ
Come and lay the roses on the floor Every single Sunday, don’t get bored
毎週日曜日は床に薔薇を並べて、退屈させないわ
I just want to freeze
もういっそのこと凍ってしまいたい
I can give you more than what you are
あなたが求める以上のものを与えられるのに
Now I see you standing all alone
今一人ぼっちで立ち尽くすあなたを見て
I never thought the world would turn to stone
私は世界が石のように固まって何も出来ないと思っていなかったわ
引用元:YUNGBLUD, Halsey - 11 Minutes ft. Travis Barker https://youtu.be/2m6nGyM8kTs
少し長い歌詞になりましたが、彼女が恋愛によって不安定な様子がよくわかります。そんな彼女の恋愛模様を黄色で表しているのではないでしょうか。
というのも「YELLOW」のカラーは「恋愛の駆け引き」などを表現したい際に使用したりするからです。
黄色のイメージにはポジティブなものに明るい、楽しい、喜びなどがありますが、同時にネガティブなイメージとして危険、緊張、不安なども内包しています。歌詞を見ての通り、恋愛は感情の浮き沈みが激しいので、そうした心情を表すのに黄色が使われたのだと思います。
失望や鬱は「BLUE」で表現
画像出典:YUNGBLUD, Halsey - 11 Minutes ft. Travis Barker
次のシーンは「CHAPTER 4:DEPRESSION」意味は「鬱」。
このシーンで曲の聞こえ方がガラッと変わり、音がこもって聞き取りづらくなる演出がされています。
※MVのみの演出です。配信楽曲はクリアに聞こえるようになっています。
何度走っても彼女にたどり着くことができず、彼は走ることを止めてしまいます。11分のカウントダウンが始まってもベッドから動こうとしない、憂鬱、億劫な感じが伝わってきますすよね。
キーカラーは「BLUE」です。
カラーの意味は「憂鬱」「失望」などでアーティスト(彼)がベッドから動かずに変わらない運命に対して諦める気持ちをカラーで演出しているように感じました。
変わらない現実を諦め、受け入れる様子は『GRAY』で表現
画像出典:YUNGBLUD, Halsey - 11 Minutes ft. Travis Barker
最後のシーンは「CHAPTER 5:ACCEPTANCE」
意味は「諦め(受け入れ)」で、カラーは無彩色を中心に色がない配色で固められており、全て諦めて無になったように感じました。
燃え尽きたら灰になるというイメージがあるように、彼の心情もそういうイメージで「GRAY」の色が使われているのだと思います。
このMVのストーリーはそもそも彼女が事故に遭った際、彼が11分の距離にいたにもかかわらず、駆け付けられなかったところから始まります。最初は間に合った自分を想像するも、何度繰り返しても間に合わない、間に合わなかった自分を再認識する過程が描かれています。最後には間に合わなかった事実をようやく受け入れるという感じなのかなと。
記事の冒頭でもお伝えしたように「11分の距離に彼氏が居たのに駆けつけてくれなかった」物語なので、結局彼氏が彼女へたどり着けない結末は変わらないんですよね。日本だとこんな終わり方はあまりしないと思うので、それも面白いですよね。
YUNGBLUD, Halseyの『11 Minutes ft. Travis Barker』MV超色分解まとめ
いかがでしたか?
今回はストーリー軸が複雑だった為、かなり掘り下げながら分解しました。
感情や伝えたい歌詞をカラーで演出する圧巻なミュージックビデオでしたね!
「感情×配色」という方程式があるのかもしれません。
次回もお楽しみに!
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MV映像超色分解とは?
最新MV、人気MVの中から特に色の視点で際立った作品を
Ren Takeuchiさんがピックアップ。
MV内でなぜその色が使われるのか、どのような感情を表現しているのか、細かく解説していただきます。
大好きなMVを違った視点で理解するもよし、今後のカラーグレーディングの参考にするもよし、カラーリファレンスとして使えるように毎回お届けいたします。
著者プロフィール
- ビデオグラファー / 映像ディレクターRen Takeuchi
1997年京都生まれ。高校卒業後にビデオグラファーとして活動し、2019年にフリーランスの映像ディレクターとして独立。TVCM、WebPV、PV、企業VP、MVなど様々な制作を手掛ける。現在はチームで活動をし、主にカラーグレーディングを得意とし、企画・ディレクション・撮影・編集をワンストップで行う。 https://www.instagram.com/grove_glas/?hl=ja
- Edit:古川恵梨 / Eri Furukawa(Vook編集部)
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