はじめに
こんにちは、VFXアーティスト・映像ディレクターの涌井嶺です。
普段はBlenderやAfter Effectsをメインに、フォトリアルな質感を目指した実写合成のミュージックビデオやCMの制作を行っています。
フォトリアルな表現では特に、パソコンのレンダリング性能は作業時間に直結してきます。
レンダリングに時間を取られなければその分、クオリティアップのための作業時間を増やすことができます。
今回は私が昨年Blenderで制作した、実写合成によるミュージックビデオ「Everything Lost」のなかで一番重いシーンを、マウスコンピューター様の「DAIV X10-A4」で検証させていただこうと思います!
スペックは以下の通り。
【OS】 Windows 11 Home 64ビット (DSP)
【CPU】 インテル® Core™ i9-10900X プロセッサー
【メモリ容量】 64GB (16GB×4 / クアッドチャネル)
【ストレージ】 1TB NVMe M.2 SSD
【グラフィックス】 NVIDIA RTX™ A4000
製品詳細:https://www.mouse-jp.co.jp/store/g/gdaiv-x10-a4/
3Dグラフィックスや8Kビデオ編集に向いたデスクトップPCとのことで、Blenderでの動作がどれほど快適になるのでしょうか?
検証内容
「DAIV X10-A4」と比較するPCは、私が「Everything Lost」を制作する時に用いた一般的なゲーミングPCです。
【OS】 Windows 10 Home 64ビット (DSP)
【CPU】 インテル® Core™ i7-9700
【メモリ容量】 32GB (16GB×2)
【ストレージ】 2TB HDD
【グラフィックス】GeForce RTX 2060 SUPER
今回テストするシーンは、「Everything Lost」で一番重いシーンと言って間違いないであろう、崩壊するビルの屋上でメンバーが演奏するシーンです。
ビルの大量の破片、ガラスなどのパーティクルが物理シミュレーションによって動いているので(総オブジェクト数20000以上、頂点数約140万です)、見るからに重そうなのがわかると思います。
また、意外とレンダリング負荷が大きいのがビルの崩壊と共に巻き上がっている黒煙です。OpenVDBという形式の三次元的な煙のボリュームを連番で読み込んで作っているので、レンダリング時の設定を高めに設定しないとレンダリング結果にノイズが乗ってしまう要因となりました。
制作の時は、ノイズを我慢して泣く泣くレンダリング設定を低めにせざるをえなかった記憶があります。
早速、こちらのシーンをDAIVで開いてみました。バージョンはどちらも、Blender 3.1を使用しています。
ん?なんかシーンが開くのが速い……。
いつもこのシーンは大量のオブジェクトやOpenVDBの煙を読み込むのに時間がかかるイメージでしたが、明らかに起動が速いことに気がつきました。
試しにBlenderのファイルをクリックしてから、下図の画面が起動するまでの時間を測定してみたところ、
なんと、たった4.59秒でした!
ちなみに「Everything Lost」を制作したときのゲーミングPCでは、起動に15秒かかったので、起動時間が約1/3に短縮されていることがわかります。
もともと起動の速いBlenderですが、こんなに重いシーンでも4秒少々で開けてしまうというのがまず驚きでした。
Blenderのビューポートで動作テスト
次に、ビューポート(作業画面に表示されるプレビュー)上でのテストです。
私の制作スタイルとして、完成形を見るためにいちいちレンダリングすることなく、Blenderのビューポート上で結果を見ながらCGを作っていくので、ビューポートがサクサク動かないとなかなかのストレスになります。
静止画だとビューポートの操作感を伝えるのが難しいと思い、画面録画してみました。両方ともBlenderのバージョンは3.0です。
まずBlenderのマテリアルプレビューモードで見ていくと、どちらのPCでもほとんどカクつくことなくシーンをグリグリ回転させて見ることができます。
さらにレンダービューモードにしても、多少遅延はありますが、最終的なレンダリング結果に近いものをすぐ確認することができます!
Blenderには3.0から「Cycles X」が搭載され、Cyclesレンダラのスピードが劇的に速くなりました。DAIVのGPU「NVIDIA® RTX™ A4000」と、Cycles Xの力が合わさっているのを実感します。
かなり重いシーンでこれなので、普通の3Dシーンで検証したらEeveeのようなリアルタイムレンダラとほとんど使用感の違いはないんじゃないでしょうか。
今回はテストに使うモニターとしてiiyama XUB3493WQSU-B1を使用しました!アスペクト比21:9のかなり横長なタイプで、3Dビューやグラフエディタ、シェーダーエディタなど3Dシーン制作には欠かせないパネルをそれぞれかなり大きめにレイアウトすることができます。
また、筆者は普段サブモニターにリファレンス(CG制作の参考用の画像)を表示してそれを見ながら作業することが多いのですが、この横長サイズであれば、例えば画面左1/3にリファレンスを表示して残りの部分にCGソフトを配置することが可能です。サブモニターが欲しいけど置くスペースがない、という人には非常におすすめなサイズ感でした。
物理シミュレーションのスピードテスト
また、GPUだけでなくCPUも高性能なCore i9-10900Xを搭載しているDAIV。せっかくなのでCPUの性能も検証してみたいと思い、物理シミュレーションのスピードを測ってみます。
ビルが崩壊するシーンの尺、129フレームの物理シミュレーションをベイク(シミュレーション結果をデータに焼き込む)するのにかかった時間を測ってみました。
DAIV・・・6.46秒
ゲーミングPC・・・37.72秒
ということで、ここでも劇的なスピード変化が……。
このシーンではビルの破片オブジェクト約3000個、地面の破片オブジェクト約1000個の物理シミュレーションを行っています。破片が互いにどれくらいの強さで結合していて、どれくらいの力がかかったら壊れる、みたいな相互関係を定義してビルを崩しているのですが、その膨大な量の物理シミュレーションをこのスピードで行えるのは冷静に考えるとすごいですよね。
制作のときは、崩れ方がカッコよくなるように何回もシミュレーションの条件を変えてベイクし直していたので、このスピードアップは確実に制作の効率をアップしてくれますね。流体シミュレーションなど、さらに時間がかかるシミュレーションを行う時はかなりの武器になるのではないでしょうか。
レンダリング時間テスト
最後に、いよいよレンダリング時間の計測です!このMVを作った時と同じ設定でレンダリングしてみた結果。
Blender 3.1 Cycles X
DAIV
CUDA 01:13.31
Optix 00:59.53
ゲーミングPC
CUDA 2:31.58
Optix 1:52.82
なんと最終的なレンダリング結果もCUDAで約2倍、Optixで約1.9倍と、正直想像を超えてきました・・・。大体半分くらいになるのかなと予想していたので。
また、CUDAとOptixだとOptixが速いのが普通なのですが、その差も大きく表れました。Blenderで使用する時は、ぜひEdit→Preference→Systemから「Optix」の項目を選択しておくことをおすすめします。
まとめ
ということでここまでDAIVの検証をしてきましたが、筆者の予想を上回る高スペックで正直びっくりでした。
レンダリング時間に差が出るのはある程度予想できましたが、シミュレーションのスピードにこんなに差が出るとは思っていませんでした。
Blenderでリアルなレンダリングをするのに欠かせないCyclesがCycles Xとなってスピードアップした今、リアルなCGをやりたい!という人にはまさにおすすめのPCだと言えます。シミュレーションにも強いので、かなり表現の幅が広がるのではないでしょうか。
ここまで読んでくださりありがとうございました。では、素敵なCGライフを!
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