「Apex Legends」
2019年にエレクトロニック・アーツより配信が開始された、バトルロワイヤル形式のFPS(ファーストパーソン・シューティング)ゲーム。PCやPlayStationなどの家庭用ゲーム機で配信され、今では登録ユーザー数1億人にのぼる大人気ゲームです。
「Apex Legends」(エーペックスレジェンズ、以下=Apex)は、日々解説動画やプレイ動画がYouTubeに投稿され、PlayStationに搭載される配信・録画機能を駆使したクリップ動画(ゲーム画面の一部分を切り抜いた動画)がSNS上にアップされています。
そんなApexを引き合いにした動画の中でも、Apexのゲーム解説、レジェンド(ゲーム内におけるキャラクターの総称)解説で注目を浴びているのが、今回のゲスト「団体(だんたい)さん」です。
「分かりやすく、面白い」と評判の動画を制作する団体さん。エレクトロニック・アーツから公式のプロモーション解説動画を依頼されるなど、Apexをプレイしているユーザーなら誰もが知っているのではないでしょうか。
1本の動画に強いこだわりを持ち向き合うYouTuberに、インタビューする連載企画「カンタンじゃないよ YouTuber」。今回はApexの解説動画で人気を博している団体さんに、動画制作との出会いや楽しさ、こだわり、そして大変さを赤裸々に語っていただきました。
- ゲストYouTuber団体/だんたい
ゲーム解説系YouTuber。大学卒業後、フリーの動画編集者として活動する傍ら、2019年にApexの解説動画の制作を始める。「初心者向け」「キャラクター解説」で人気を博す。チャンネル登録者数は37万人(2022年4月時点)。
動画が面白くなるのなら、とことん時間を掛ける
Vook:いきなりですが、団体さんのApexの解説動画は教科書だなって思っています。初めてゲームをプレイする人が見る教科書でもありますし、動画編集という視点でもそう感じています。
団体:ありがとうございます。そんなに褒めていただけるとは(笑)
Vook:団体さんの動画は、難しい動画編集をしていませんよね。例えばレジェンドのアイコンが動くモーションやR301(ゲーム中で使用される銃)を撃った反動で動くモーションは、動画編集において単純な作業を細かく繰り返すことで、ナチュラルに見せられています。
団体:昔からYouTubeやニコニコ動画をたくさん見ていて、目が肥えていたんだと思います。クオリティの高い動画は自然と見入ってしまいますからね。自分も毎回納得のいく動画を作ろうと思っています。
Vook:Apexに関わらず、ゲーム系の動画はプレイの解説動画が多い印象です。そんな中で、レジェンド自体の解説を作ろうと思ったきっかけはあったのですか?
団体:誰もやらないことをするのが好きですし、あと自分自身、目立ちたいという性格なんです。目立つためには人がやっていないことで驚かせるのが良いんじゃないかなって思い始めました。プレイの解説動画はそのゲームが上手くないと信憑性がありませんからね。
だけど、僕も最初はプレイ解説が中心だったんですよ。けど、あるときファンの方も喜んでくれるかなと思って「ミラージュ」というレジェンドを簡単に解説してみたことがありました。
そしたらミラージュのファンの方から動画のコメントで「もうちょっと、ちゃんと解説してください!」って、すごい剣幕で怒られちゃって。そこで悔しくて 「だったらとことんやってやる」 と、今のような前半に時間をかけてキャラ解説をするスタイルになりました。
Vook:そんなことが...。一本の動画の時間と、編集の細かさは見ていて圧巻です。かなり時間が掛かっているのではないでしょうか?
団体:そうですね。クオリティにこだわって動画を作ろうと思ったときに、盛り込みたいことや、しっかり解説しなきゃいけないことが、たくさん思い浮かんでいって...。気づいたら1本の動画を作るのに50時間近く掛かることもあります。
あとは、もっとクオリティの高いものを作らなければいけないと、日々プレッシャーを感じ、腰が重くなり、更新頻度が悪くなり...という悪循環が...。
Vook:悪いことではなくてクリエイティブ気質な方にはよくある悩みかと思います。その悩みが、「もっとこうすれば良くなるんじゃないか?」という思考に繋がっていくかと思います。
団体:そうですね、経験則として、作り込んだ方が面白くなることは分かっていますし、クオリティのために時間がかかる方を選択することに迷いはありません。
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好きで続けた動画編集。自分の動画好きでいてくれる人のために
Vook:団体さんはもともと、動画制作のお仕事もされていたんですよね? YouTubeを始められたきっかけを改めてお聞かせください。
団体:大学を卒業後に、友達づたいでYouTubeの漫画広告の編集を請け負っていました。
その片手間に趣味で作った動画をアップし始めて、1年くらいで伸びて来たので専業のYouTuberになったという流れです。
そもそも動画編集が好きで、中学や高校生のときには、遊びで実況動画を作ったりもしていました。なので「めんどくさいけど、動画編集でお金を稼ごう」という感じではなく、趣味だから続けて来られたというのはありますね。
あとはYouTubeを始めた頃に、友達の友達に 「誰が“こんなの”見るの?」 って言われたことがあって。その一言にカチンときたんです。負けず嫌いな性格なのか、その時に 「絶対にみんなが見てくれる動画を作ってやろう」と強く思いました。
Vook:「作りたい」という気持ちと「誰が見るの?」という、押し問答は多くの方が経験しそうですね。それで動画を作っても反応が全くないからやめてしまう人も多いかと思います。
団体:すごくもったいないと思います。
今、伸びて来ている人って、辛くても続けているからだと思うんですよ。見られてない経験がありながらも、ひたすら続けてる。それが結果として出ている人が大半かと思います。「反応がないからやめた」っていうのは、本当にもったいないです。
僕だって最初は見られませんでした。だから、最初に再生回数が100回になった時は「やったー!」っていうくらいのレベルでしたよ(笑)
Vook:誰もが0からのスタートなので、小さくても喜んでも良いですよね。YouTuberは批判コメントに悩まされる方も少なくありません。団体さんはそういったコメントが少ないと感じているのですが、いかがですか?
団体:もちろん批判コメントは来ます。それに、それを見たらげんなりします。
団体:想像してみてください、例えば学校の展覧会で、見ず知らずの人が面と向かって自分の作品に対して「これ、めちゃくちゃダメだよね?」と言ってきたら、イヤですよね。
YouTuberさんの中には批判コメントは気にしないって人もいるんですが、ほとんどの人はヘコんでいると思います。 面白い、良かれと思って作ったものを批判されるんですから。
でも最近は、もう吹っ切れました。「合わない人はいるよね」って。100人中100人を満足させる動画は作れないんだってことに、最近気づき始めたんです。だったら、8割、9割の人に楽しんでもらえる動画を作り続けられた方がいいやって考えに切り替えてます。
Vook:自分も職業柄、記事を書いて発信するのですが「このライターの言い回し、下手くそだよね」って言われたときは、ヘコみますね。
団体:でも、ちゃんとしたアドバイスや指摘は、しっかりと聞き入れて直していこうという思いはあります。一時期、今よりもギャグ要素を多めにしていたことがあったんですが、そのときに「集中して見られない」とコメントをいただきました。
自分でも見返したところ、確かに次の解説になかなか進まないなって思って。こういう的を射たコメントは、真摯に受け止めるようにしています。
案件動画も楽しむ「クリエイター」としてのこだわり
Vook:こだわって動画を作り続けるにはパワーが必要です。団体さんの動画は全部にテロップが付いているのですが、そこまでするのはなぜですか?
団体:たしかに、動画全編にテロップを付けています。というのも、昔1時間くらいの長尺動画を制作されている方が「自分の動画に全部テロップを付けたら、自爆する」というようなことをおっしゃっていたんですよね。それを聞いて「だったら、自分はそれをやったら面白いんじゃない?」と思ったのがきっかけでした。
僕の動画は30分間ひたすら喋っているので、さすがに全部にテロップをつけるのは疲れますね。
Vook:負けず嫌いな性格が出ていますね。一つ踏み込んでお聞きしたいのですが、こだわりという点では「案件動画」への力の入れようも目を見張るものがあります。「自分が好きで作っている動画」と「お願いされて作った動画」では、必ずしも好きである可能性はないかと思います。その辺はどう思っていますか?
団体:うーん、難しいですねぇ(笑)
団体:いただいている案件は、Apex関連だったりするので、作っていてどれも楽しいです。だけど、やっぱり「案件」となると、言わないといけないことがあるじゃないですか。それをどう伝えるのかには、自分でアップする動画よりは頭を使いますね。
視聴者さんって「言わされているなぁ」って感じると、萎えちゃうと思うんです。そこでいかに「面白いな」と思わせるか、納得してもらえるかを考えて、ふざける工夫をするのは楽しいです。
Vook:そのことを聞けて、嬉しいです。実は以前パソコンメーカーの案件動画で「fps(フレームレート)」の解説があったんですが、ここまで細かく分かりやすく、楽しい案件動画を作られていることに感動したのです。
Vook:最初に「団体さんの動画は教科書だ」と言いましたが、人に伝えるという点はとくに際立っていると感じます。
団体:教え方、伝え方で意識していることは「小学生にでも分かるように」ということです。 大学生のときに小論文の授業で「専門用語を使わず、いかに小学生に伝えられるか」という課題が出たことがあって、それを意識しています。
「初心者向け」として配信されている動画の中には「正直、これは初心者は分からないだろうな〜」って感じるものもあります。なので、自分の動画は「専門的な用語が分からない人でも、分かるように」をモットーに作っています。
Vook:分からないことをゼロベースで伝えるのには、動画内での言い回しや、見てくれる方が理解するための導線作りを設計しないといけませんよね。
団体:だから、その道筋的なものを作るために、動画を作る際は絶対に台本作りから始めます。 話すことと考えることを同時にしていたら、分かりやすい動画は作れないと思うんです。
考えながら話すのではなく、まずは「言いたいことを台本に落とし込むこと」、そして「その台本を読むこと」。2つの作業を分けることで、動画は分かりやすく面白くなります。
レビュー系YouTuberの吉田製作所さんが「基本は台本を作って読んでいる」とおっしゃっていたことがあり、それで試しに台本を作るようにしたら、やっぱり分かりやすかったんです。
「YouTubeで面白い動画を作るなら台本を作ろう」ということは、伝えたいですね。
300万回再生でも、日々不安との戦い。「団体さんだから見る」を目指して
Vook:社会全体では、まだフリーランスとして働く人は少数派であり、YouTuberともなると、その中でもごく一部です。社会的な信用や、立ち位置に対して不安を感じたりすることはありませんか?
団体:YouTube自体が見られなくなったら終わるなぁ、という不安は常にあります。
Vook:300万回も見られている動画があっても、不安になるものなんですか?
団体:なります、なりますよ! そもそも、Apexが終わっちゃったらどうしようって。朝起きて、めちゃくちゃ動悸が激しいこともあります(笑)
団体:あと仕事に身が入らなくて、ゲームしちゃった次の日とかはヤバいですね。「俺、大丈夫なのか?」って。で、SNSを開いて、まだ自分の投稿にいいねがたくさん付いているのを見て安心する、みたいな(笑)
多分僕の場合は、どんな仕事に就いてもこんな感じだと思います。心配性なんで。ドキドキしながら、毎日を過ごすんですよ。
Vook:今後の展開をどのように考えておられますか? 昨年の振り返り動画で「料理をやりたい」とおっしゃっていたこともありました。YouTuberとして新しいことをやっていくのか、それともApexの解説を続けていくのか。
団体:悩んでいますね。どうしても1つのコンテンツに依存してしまうと、それがなくなってしまったときに「じゃあ次どうするの?」となってしまうんで。ほぼ全員のYouTuberが抱えている悩みだと思います。
僕の中では 「団体の動画が好き」と思ってもらうことはクリアできたのかなと感じています。 なので、次は「団体さんだから見る」ということに取り組んでみたいです。
だけど、いま僕が急にその辺で散歩をしている動画をアップしても、見られなくなると思うんです。だから、そういう動画を作っても大丈夫なように、自分を好きになってもらえるように色々考えています。
でも...結局、Apexの動画を上げちゃうんですけどね(笑)
踏ん切りがついていないんです。「Apexやめちゃうんですか?」って言われると「やめないけど……ちょっと、ごめんね」みたいな感じが今あります。
Vook:「Apexやめちゃうんですか?」って言葉は辛いですね。
団体:「団体さんのApexの動画が楽しかったのに」と言われそうで。みんなはApexの動画を期待しているので、新しい動画の優先度は下がってしまいます。
他のYouTuberさんはサブチャンネルで私生活をさらけ出したりしてるんですが、果たして自分の動画を見てくれるだろうか、みたいなことを考えてはやめて……を繰り返して、5ヶ月くらい経ちました(笑)
Vook:「Apexの動画を見ていたら、団体さんを好きになりました」という人もいれば、「Apexの動画の中では団体さんが好きです」という人もいそうですね。前提が「団体さん」なのか「Apex」なのか。
団体:そうですね。配信者さんは人柄を好きになってもらうところもあるので、専門外のことをしても視聴者さんはついて来てくれると思います。一方で動画制作がメインの場合は、その動画が好きな人が多いので、やはり難しいところですね。
動画を作りたい人には、動画内で自分のパーソナルな部分を出しておいた方がいいよ、とアドバイスしたいです。
Vook:本日お話を伺って、やはり団体さんは「ゲーム解説の人」ではなく「クリエイター」だということを強く感じました。これからYouTuberになりたい、映像の世界に飛び込みたい、という方に一言メッセージをいただきたいです。
団体:とりあえずは 「好きなことから始めよう」 ということを強く伝えたいです。YouTuberは「好きなことで生きていく」と言われますが、好きじゃないと続きません。 好きなことから始めてください。そしてあとはひたすら続けてください。
最初は編集に慣れるためにも、尺は短くてもいいので、2、3日に1本は作れるといいですね。たくさん作れば作業効率も上がります。
とりあえず3分の動画でもいいので、いっぱい作ってください!
Vook:ありがとうございました! 今日は楽しかったです!
Vookが目指す「映像クリエイターを無敵に。」のコンセプトボードを団体さんに持っていただきました。
いかがでしたか?
「誰が見るの?」と言われた一言で火がついた動画制作が、人気コンテンツになった団体さん。良いものを作るために時間を惜しまない、こだわりと熱意が、強く感じられました。
Vookは、これからも動画をつくり続けるYouTuberのみなさんを応援します。そして、これから動画制作を始める方々の後押しができるようにコンテンツを取り揃えています。
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TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
PHOTO_山﨑悠次 / Yuji Yamazaki
DESIGN_松儀愛侑 / Ayu Matsugi
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