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アニメ作家から学ぶ、CGアニメの作り方。心から納得できる美しい作品を

Sponsored by 株式会社マウスコンピューター
2022.05.30 (最終更新日: 2023.03.20)
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プロの映像クリエイターのインタビューをもとに、そのナレッジやノウハウを紹介していく「Cutters Point」。

今回のゲストは、音楽ユニット「ずっと真夜中でいいのに。」 の「正しくなれない」のアニメMVなど、セルルックの3DCGアニメーション作品で多数のSNSフォロワーを魅了し、2021年に株式会社ゼノトゥーンと共同で長編アニメの制作スタジオを立ち上げた安田現象さんです。

他のアニメーション作品と一線を画す、安田さんの美しい演出と作り込まれた「物語性」の源はどこにあるのか?

会社を離れてフリーランスに転向し、CGアニメーターからアニメ作家へと活躍の幅を大きく広げ、個人制作からチームを率いるに至るまでの道のりを振り返っていただくとともに、ストーリーを背景に持つ作品を生み出すうえで重視している総合的な考え方や技術面についても、たっぷりお話しいただきました。

ゲスト:安田現象さん
Blenderアニメーション作家。Xenotoon所属。
ゲーム会社やフリーランスでCGアニメーターを経た後、アニメ作家として活動を開始。2021年からは安田現象スタジオを立ち上げ、長編アニメ制作開始。
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インタビュアー:ダストマン
3年間勤めていた映像プロダクションを退職し田舎へと移住。広島を拠点に、TVやWebのCMをメインにエフェクト・モーショングラフィックス・VFX・コンポジット業務をフリーランスで請け負いながら、After Effectsのチュートリアル動画を主に発信しているYouTubeチャンネル『ダストマンTips』を運営。

手に職を求めたスタート地点。油絵から3DCGへ

ダストマン:安田さんがこれまでどんな経緯をたどられてきたのか、まず3DCGクリエイターになろうと思ったきっかけから教えてもらえますか?


安田現象(以下、安田):実際、手に職をつけて就職したかったという、あまりかっこいいとは言えない理由なんです。就職前は美術大学で油絵を学んでいました。でも絵で食べていくのは厳しいことですし、それなら絵づくりを学んできたことが無駄にはならない手段がないかと探した結果、見つけたのが3Dでした。

ダストマン:なるほど。美大で油絵をなさっていて、「絵を描くのが好き」から始まったということですか。

安田:絵を描き始めたのは結構遅くて。高校の授業で初めて油絵に触れたときに、やらされている感覚だった受験勉強と違って、能動的に初めて自分でやってみたいと思える喜びを感じました。

あくまで手を動かして何かが出来上がっていくということ自体が喜びだったので、その時点では、何を作って人にどう感じてほしいかみたいなところまでは、あまり考えられていなかったです。

1年浪人して美大に入って、油絵は誰よりも下手だなという状況からのスタートでした。それでも始めたばかりはもちろん楽しいのですが、一定以上続けているといつしか苦痛になってくる。創作をしている誰しもが身に覚えのあることかもしれません。

幸いその苦痛に向き合い続ける理由を道半ばで見つけることができたので、何とか進み続けられました。

ダストマン:今があるのは、その一連の経験があってこそですもんね。手に職というところで、絵を描くことを入り口にしても、手描きのアニメーターやグラフィックデザインなど、いろんな道があると思います。そうしたなかで3Dがいいなと思った理由はありましたか?

安田:おそらく想像していらっしゃる何倍も本質的な意味で、絵が下手だと自覚していました。手描きのアニメーターになれる画力があるわけでも、イラストを描いたことがあるわけでもない。

当時は言語化できていませんでしたが、イチから再スタートできるような媒体であるべきだとなんとなく思っていたんです。3Dはまだまだ新しい業界だったので、僕にとってはかなりアリな選択肢でした。

ダストマン:それで専門学校でCGを勉強し始めるということですね。卒業後にゲーム会社 のCG部門に入ったそうですが、アニメはお好きだったんですか?

安田:当時の僕が消費者として最も楽しんでいたコンテンツが、その会社のゲームでした。どういう職種であっても、まず自分が好きなものを作れるところに行きたいと思って、その門を叩きました。

募集されている職種の中でも、いちばん可能性がありそうな3Dクリエイターとしてアプローチをかけました。当時そこの3D部署には、モデラーしかいなかったんですよ。

動かすことができる人が求められていたので、運良く需要と供給がマッチしたおかげで入ることができました。

ラノベ執筆×CG技術でフリーのアニメ作家に飛躍

ダストマン:それからのキャリアについても、ぜひ聞かせてください。ゲーム会社に入社して何年かお仕事を続けた後、どのような経緯でフリーランスになられたのでしょう?

安田:とあるジャンルのゲームを作りたくて入りましたが、時代的に右肩下がりの分野ではあったんです。例えばブラウザゲームのように、もっとニーズに即した形のコンテンツ制作を進めていくにあたり、3D部に求められる役割も大きく変わりつつありました

将来的な会社の方針を聞いていくなかで、正直自分がやりたい内容の仕事とは違うかなと思うようになりました。自分がやりたいことってそもそも何なんだろうとちょうど迷っていた時期でもあったので、それを探すという意味でも身軽なフリーランスに転向することにしました。

入社して2年くらい経った頃から、3Dクリエイターを辞めて、物書きになりたいと思うようになったんです。物語を通じてコンセプトやテーマをいかに演出するかということ、絵作り以上に「物語」に魅かれていたので、3Dデザイナーとして働く傍ら、シナリオ・脚本などの専門学校に通いました。

会社のシナリオ部のライターさんに修行をつけてもらいながら、プライベートでライトノベルを執筆しては賞に応募するという生活でしたね。基本的にはダメ出しを食らいましたけど(笑)

ライトノベル作家を目指した理由としては、0から100まで自分1人で完結させられるというコンテンツの作り方の魅力が大きいです。

正直、その後の絵作りまで全部自分でやろうとは、微塵も思っていませんでした。

ダストマン:今となっては、がっつり絵作りまでなさってますよね(笑)。

安田:辞めたいと思っていた3Dクリエイターを続けながら、執筆もして何年も賞に応募しているうちに、ラノベ作家という職業がどんな歩み方をしていくのかも現実的に見えはじめ、やはり専業は難しいだろうと感じていました。

気付けばCGクリエイターとして中堅になってきたところで、自分の作品のオリジナルアニメPVを作って、1人マルチメディア展開のようなことをしたら面白いなという考えは前から持っていたんです。それで作ってみたのが「メイクラブ」であり「異世界システム」 です。この2作品以外にも、自分で書いた物語たちを次々と映像化していました

ダストマン:「メイクラブ」と「異世界システム」は、ライトノベルの賞用に書いていた作品だったんですね。その後の安田さんの作品を拝見していて、どれもストーリー性があると感じていましたが、それはバックボーンに物書きを目指してたくさん執筆なさっていたからこそですね。

安田:それは間違いなくあると思います。YouTube作品という意味では、「メイクラブ」が最初です。自主制作をするにあたって、使う3DCGツールを決める必要がありましたが、当時はまだAutodesk もサブスクリプションもありませんでしたし、CGソフトを自分で購入するにはちょっと負担が大きすぎました

ダストマン:安くても40~50万円という感じ。

安田:そんなときに、どうやら無料のソフトがあるらしいということを知って、Blender に出会ったわけです。実用に耐えうるか検証する必要があったので、テスト制作をしたうえで作りはじめたのが「メイクラブ」でした

ダストマン:なるほど。テスト検証をした、「Blender意外といけるぞ」となったんですね。「メイクラブ」を作ったことによって、何か反響はありましたか?

安田:3DCG業界で有名な方たちから「それいいね」と褒めていただけたほか、数字という形でレスポンスがたくさんつくという経験も、僕にとっては初めてのことでした。

勤めてた会社を辞めた後は自主制作をまとめて行う時間が欲しかったので、すぐフリーランスになったわけではないんです。貯金が尽きるその時まで自主制作をし続けるぞという変に固い意志を持っていて、社会から離れて商業活動をしていない不安を感じつつ、マウスをパチパチしていましたね(笑)

そうこうするうちに、アニメ作家としてのお仕事も依頼されるようになり、CGアニメーターからアニメ作家としての仕事に切り替えるようになりました。

ダストマン:CGアニメーターとアニメ作家の違いが、ちょっとイメージしにくくて…

安田:そうですよね。CGアニメーターは用意された3Dモデルにモーションをつけたり、カメラワークやキーフレームで動きを作る人のことを言います。アニメ作家は、例えばアニメMVを構成から全てを1人で作る人たち、というイメージです。

ダストマン:なるほどです。3Dアニメーターからアニメ作家の仕事に絞っていった頃には、自分でシナリオを考えてアニメを作るという明確なゴールを置いていたということでしょうか?

安田:そんなことはもちろんなくて、正直道を見失っていたタイミングでした。ライトノベルの賞を目指すことへのモチベーションも下がってしまっていて。

じゃあ次に何をしようかというところで、身についていた3DCGアニメクリエイターとしての技と物語を組み合わせて成果物を作りました。それをどうするかということまでは、特に考えていませんでしたが。

ダストマンそれぞれの道の中で、まず挑戦しては軌道修正を繰り返してきた形ですね。

安田:本当にそうです。「こうするぞ」とバシッと決断できるタイプではないので、すごく石橋を叩いて進んできたと思います。

SNS活用で、見られるコンテンツと作家性の重なりを研究

ダストマン:「メイクラブ」「異世界システム」のPV以降、どのようなきっかけで、今TikTok に上げていらっしゃるショート作品やワンカットアニメを制作するようになったのでしょうか?

安田:アニメ作家としてのお仕事が2本目、3本目と進んでいった矢先にコロナが大流行して、いろんなプロジェクトが延期になったり立ち消えたりしました。

その頃に空いた2~3か月の間にまたCGアニメーターとして仕事をしたのですが、自分の考えたものが作れないことに強い欲求不満を抱くようになっていました。

その期間を何とか頑張るために、スタジオでのCGアニメーターは多忙ですけど、両立できそうな範囲での自主制作ということで、ショート作品を作りはじめました。

ダストマン:CGでたまった鬱憤をCGで発散するとは、凄まじいです(笑)。TikTokを始めたのはその頃ですか?

安田:いや、TikTokを始めたのは遅かったと思います。流行し始めたころはあまり興味がなかったのですが、やはり動画を主体としたSNSという点で気になっていました。Twitterは文章やイラストが強いものの、動画主体の戦い方をしようとすると、更新頻度という意味合いでもしんどいなと思っていたのもあります。

ダストマン:TikTokはショート動画メディアという認識だったということですね。それで始めた結果、数字がとんでもなく伸びて…

安田:好きで作ったものを投げるとたくさん反響をいただいて、それが嬉しくてまた作品を作ってを繰り返してるうちにとんでもないことになってました(笑)。

ダストマン:さきほどアニメ作家になるという明確なゴールを決めていたわけではないと仰っていましたが、一方でSNSにかなり力を入れて活動なさってますよね。SNSはどのような立ち位置で利用されていますか?

安田SNS用のアニメでは基本的には技術や表現など何かの検証も兼ねています。今までやったことのないことに取り組んでみて、成功したり失敗したり。技術の開拓ができて人にも見てもらえて…こんなに楽しいことはありません。頻度は変わるかもしれませんが、これからもなるべく続けていきたいです。

キャラクターデザインにしても他の演出面にしても、「こういうのはアリなのか」「これはナシだった」と振り返ることができるので、やはり研究という意味合いがとても強いと思います。

ノウハウ蓄積とワークフロー変革を目指し、長編スタジオ立ち上げへ

ダストマン:最近、安田さんは長編スタジオを立ち上げられましたが、意識的な変化があってのことでしょうか?

安田:「メイクラブ」「異世界システム」を作り重ねていくなかで、オリジナルアニメの長編を一緒に作らないかと声をかけてくれる人がいました。とても明確な目標ができるし楽しそうだなと思ったので、手を取って一緒にやりましょうという話になりまして。

そこで1作だけではなくて何作品も作り重ねていけるような環境を構築したいとなると、自分の研究したノウハウなどを蓄積できる場所が必要でした

CGアニメーターとして勤めている中で積もっていた不満解消、アニメ作家として戦う中で必然的に身に着けた新発想のワークフロー。これらを実現するために業界スタンダードからの脱却を図りたかったんです

あともう1つ大きな理由として、プリプロダクションに関して、脚本や演出をしっかり揉んで自分の中のベストを見つけたかった。名のあるオリジナルアニメの監督さんたちが作家性を突き詰められたのは、彼らが監督、演出家、そして脚本家として裁量を最大限発揮できる環境にあったことと大きく関係している気がします。

最初に脚本を決める段階で「脚本はこうです。変えちゃダメです」とバチっと決めて、コンテも同じようにバチっと決めこんで、あとの人はそのとおりの作業に徹する作り方では、個人的に100点に近づけることは難しいと思うんです。

僕の場合、一旦70点ぐらいのクオリティで完成させて、そこからより美しいものにしていくというブラシュアップの考え方で取り組んでいます。

100点を見つけるためには、スケジュールと予算の兼ね合いもありますが、100点に近いところまで手早く進めたうえで、そこから一歩ずつ進められるポイントを冷静にロジカルに判断して積み重ねていかなければなりません。

そのためにはトライアンドエラーが許される環境を構築することが不可欠。監督として、脚本家としてそれが許される環境を持てたのは、本当に幸いだったなと思っています。

ダストマン:すごい…!100点の作品を生み出すために、ご自身の長編スタジオで研究開発を進めているなんて。これまでの短編のような高いクオリティの長編作品を世に出したいという思いがあるんですね。

安田:1本目から100点満点を取れるとは思っていませんが、それが今の僕にとっての目的です。2本目、3本目と重ねながら、脚本は脚本、演出は演出、CGアニメはCGアニメとしてそれぞれをしっかり詰めていって、いつか心から納得できる美しい一本が作れるようになるといいなと思っています

ダストマン:安田さんの現在に至るまでの経緯を聞いたうえで、これから長編が出来上がってくるとなると、僕なんかオープニングのスタジオロゴが出た段階でもう泣いているかもしれない(笑)

安田:ロゴだけで(笑)。恐縮です。従来のCGアニメの作り方にある踏まなくてもいい工程が、1人でミュージックビデオを作り重ねるにつれて、かなり見えるようになりました。それを一切取り払った状態で、「チーム制作をするなら、ここは踏まえた方がいい」といったところも今は分かってきて、これからもっといい回し方ができそうだと感じています。

スタジオのメンバーと、例えば「最近こういうのを見つけたから、こういうカットがあったらやってみてよ」という具合で情報を共有したり、メンバーが上げてくれる成果物に自分の発想が及ばなかった工夫を見つけて感動したり。自分の作品を初めてチームで作るということの楽しさを、最近とても実感していますね。

CGで作るセルルックアニメのポイント

無駄なことをしないワークフロー

ダストマン:最近はCGでセルルックなアニメーションを作る方が増えていますし、安田さんの作品を見て自分も作りたいと思う方もたくさんいらっしゃいますよね。スタジオを構えて企業秘密の部分もあるかと思いますが、Blenderを使ってセルルックなアニメを作るまでのワークフローというのは、どのようなものでしょうか?

安田:スタンダートからの脱却とは言いましたが、基本的にはCGアニメ業界でポピュラーな方法をベースに敷いています。他業種の人たちや学生さんから見て変わっているかなと思われるのは、おそらくレンダリング以降の工程だと思います。

CGアニメのシェーディングに関して、3DCGツールではさほどしっかり作らないで、むしろAfter Effectsで作り込むんです。3DCG上で完成された絵を作るのは、実は手間が多かったりします。

カラー素材、ライン素材、影色素材、リムライト用素材を一旦出してから、After Effects上で整えてキャラクターをフィックスさせるというフローにしています。

ダストマン:CGのソフトウェア上でそこまでルックを詰める必要はなくて、影は影でちゃんとパス分けして出したものをあとで色付けすればいいということですかね。

安田:はい。シェーディングはAEでやるものです。

違和感をなくす技術はマスト習得

ダストマン:安田さんはモデリングもして、リグも入れて、アニメーションもして、基本的に全工程をご自身でやられていますよね。セルルックのCGアニメーションを作るにあたって、大事にしていることやテクニックがあれば教えていただけると嬉しいです!

安田:まずは 「ナシではないものを作ること」に尽きるかなと思いますね。明らかに違和感がある状態をゼロにするのが大切で、逆にそれさえできていれば、正直それ以降の作業はあまり必要ない気すらします。

例えばキャラクターの動きにしても、「この動きこそがベスト」という付け方をするのは結構時間がかかってしまうので、「この動きも、まぁできているかな」というのを落としどころにします。

ダストマン:伝えたいことが伝わればOK、ということですね。

安田:まさにそのとおりです。

ダストマン:僕もCGアニメをかじったことがあるのですが、キャラクターの動きで足が着地してない感じがすると、違和感に繋がったりしますよね。そこは鍛錬するしかないですかね。

安田:そうですね。キャラクターアニメーションは、おそらく身につけるのにいちばん時間がかかることのひとつです。それを身につけると、表現したいキャラクターもののアニメーションで作れないものがなくなっていくんじゃないかな。習得するのは大変でも、その価値はあると思います。

ダストマン:動きを作るときに、アニメーターさんが実際にその動きをしているのを撮影して作られていたりしますよね。安田さんも同じやり方ですか?

安田:見たことがないものを作ることはできないので、それを知るために実際に自分で動いて、自分の目で「こうなるのか」という確認はします。その様子を撮影すれば、よりリファレンスとしていいものが得られるでしょうね。

ただ、歩きや走りのような基礎的な重心移動に必要な動作部分がしっかり頭に入っていれば、割と目視確認だけでも説得力のあるものを多数作れるようになると思います。

ダストマン:違和感を潰すためには、基礎的な部分の鍛錬がかなり影響しそうですね。あと、モデリングはどのように勉強されましたか?会社での仕事は3DCGのモーション部分がメインだったとお聞きしましたが。

安田:大抵CGソフトを触れる人は、基礎的なモデリングは分かっているので、説得力のあるモデルを作れるか、絵心やデッサン力に近い話になってくるかと思います。

物語の中心は「何を見せたいか」

ダストマン:安田さんが作るセルルックのCGアニメを見ていると、1つ1つのストーリーの仕掛けがしっかり作り込まれていると思うんですね。コツと言うか、特に意識していることはありますか?

安田:やはり、まずは何を見せたいのかを決めることだと思います。それをストーリーとして成立させるために、肉付けをしていきます。

ダストマン:起承転結があって、そこにたどり着くまでに飽きない要素を詰め込んで、というイメージ。結構モーショングラフィックスと似ていますね。

安田:似ていますし、物語は全部そうだろうなと思います。

本気でかける時間と技術の比例関係

安田:僕自身のことを振り返ると、制作全般について、やはり基本的には時間をかければかけるほど上手くなるものだと考えています。

話がまた遡りますが、CGアニメーターとして働いていた頃は生活のためだったので、業務として言われたとおりのことを忠実にしていただけでした。しかしそれでは上手くなりません。

その一方で小説の自主制作では、調べものやトライアンドエラーを何度も繰り返してすごく時間をかけていました。おそらくCGアニメーションもプライベートで同じように取り組んでいれば、もっとCGアニメーターとして何者かになれていたかもしれません。

自分の中で何が違ったかというと、それは時間のかけ方だった。3年前くらいから改めて自主制作をするにあたり、技術をしっかり探求していく時間を取るようになりましたね。

そんな折、ずっと真夜中でいいのに。さんの「正しくなれない」 のお話をいただいたのですが、納期まで2か月切っていたんです。

ダストマン:シナリオも含めて2か月ですよね…。

安田:プリプロダクション含めて、フルCGアニメの4分尺を1人で2か月です。でも個人的にやりたい案件だったので、やれるところまでやってみたかったんです。

同時期に同じアーティストさんのミュージックビデオを作っている人たちの名前を聞いて、変なものは出せないと思いましたが、2か月はやはり厳しい。そこで考えたのですが、1日の稼働を8時間として1か月を20日と見積もると、40日がまともな2か月ですよね。これに魔法をかけることによって、なぜか5か月になりました。分かりますか?

ダストマン:本当にずっと真夜中になったんですね(笑)

安田:1日15時間かけたら、5か月になったわけです。というようなことを、「正しくなれない」以外の制作でも続けていたら、単純に技術が上がりました。

ミュージックビデオ系の案件は、スケジュールがあってないようなものだったりするじゃないですか。だから従来のワークフローでは無理だと早い段階で分かっていて、毎回とても追い込まれながらなんとかすることで、自分なりに納期に間に合わせるフローが整えられたかなと思います。

ダストマン:「正しくなれない」は、すごく完成度が高いと思います。プリプロ含めての2か月であれば、腰を据えてCGのアニメーションを作る期間はもっと短いわけですもんね。

安田:よかった~、ありがたいです。CGアニメーションをつける期間は1か月ほどでした。

ダストマン:考えたらとんでもないですね。自己評価としてはいかがですか?

安田:ダストマンさんもきっとご経験があるかもしれませんが、振り返ると「もう少しこうしておけば、いい感じになったのにな」という部分はもちろんあります。

演出であったり脚本であったり、仕方がないことではありますが。ただ、今の自分が見てもちゃんと頑張ったと思える作品です。自宅にあるスクリーン投射式の映像機器で「正しくなれない」のミュージックビデオを見るたびに拍手してます(笑)

ダストマン:「当時の自分、よくやったぞ」と言って(笑)。そういう意味でも思い入れのある作品ですね。

安田:そうですね(笑)。

PCスペックは作るの内容次第。創意工夫で効率化は可能

ダストマン:最後に、CG制作だとPCのスペックが気になるのですが、こだわりはありますか?

安田:作りたい内容にもよりますね。シーン内に置くメッシュの数が多かったり、流体シミュレーションをゴリゴリにしたりする場合は、やはりマシンのスペックが必要です。そういうものを作らないという割り切りができるなら、さほどスペックは気にしなくていいかもしれません。

ダストマン:いい意味でイラストを疑似立体のようにして済む方法も使っているし、全体のシーンを軽くするような手法もあるということですね。

安田:はい。大体のモデルに関して、何かしらの削減方法がいろいろあります。カメラを動かさないならイラストで静止画化してしまえばいいし。3Dカメラでも動かせるように描いたものをテクスチャとして貼りつけて動かしても成立させられます

ダストマン:物書きのスキルもデッサンのスキルもCGクリエイターのスキルも、全部がギュッと活かされていますね。

安田:確かにスキルがあると強い。ただ、謙遜でもなんでもなく、僕はとても下手な美大生だったので、デッサン力っぽいものしか持っていないんですよ。完全に活きていないとは言いませんが、かつてサボっていたことのダメージを、今になってバシバシくらっています。

ダストマン:これから始める人は、一歩ずつ頑張っていきましょうと。

安田:間違いないです(笑)。1つずつ学んでいくのがいちばんの近道だと、身に染みて感じています。SNSを見ていると、高校生ぐらいの子たちがアニメやイラストを上げていたりしますよね。

彼らは特別な才能があるというより、観察して分析して様相をつかんで、「それっぽさを作るとはどういうことだろう?」とトライアンドエラーをちゃんと繰り返し、自分の血肉にできているのだと思います。知識として学ばなくても、そういう形で身につけることができるんだと、彼らの作品を見るたびに思います。

あと、今はめちゃくちゃいいリファレンスがすぐ手に入るじゃないですか。本当にいい時代だなと思います。「彼らと同じ年齢だったら…」と一瞬思いますけど、思い出したんですよ。「自分は時代が変わろうがゲームで遊びまくるから、高校生でこんなふうになれるわけないわ」と(笑)

ダストマン:僕も多分、相変わらずゲームしていたと思いますね(笑)

安田:生まれた時代は関係ないなと思いました。

ダストマン:コツコツ頑張ろうという感じですか。

安田:はい(笑)。

ダストマン:ありがとうございます。僕の中でいろんな疑問が解消できました!

安田:こちらこそ、ありがとうございました!長編作品は完成までまだしばらく時間がかかりますが、これからクラウドファンディングも予定していて、気長にお待ちいただければ嬉しいです。

安田現象さんのPCスペックはこちら
OS: Windows 10 Home 64ビット
CPU: Core i9-10900K
グラフィックス: GeForce RTX 3070 8GB
メモリ: 32GB DDR4 SDRAM
ストレージ: 1TB NVMe SSD

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