【武島たけし:インタビュー】淡々と美味い飯と、動画を届けるだけです。また見てもらえるように、淡々と。

2022.06.15 (最終更新日: 2023.03.13)

『極主夫道』『侠飯(おとこめし)』『肉極道』……。ヤクザを題材にした漫画やドラマが注目を集めている昨今、YouTubeにも凄まじい勢いで、視聴者の数を伸ばしている極道系チャンネルがあります。

『武島たけしの極み飯』。

チャンネルを覗くと、食欲を誘うサムネイルがズラッと並びます。「いかにも」な男性が、その見た目とは裏腹に手際よく調理をこなし、湯気が上がるできたての料理を一気に胃袋に流し込む動画の数々。映像の色味、画角、編集……。どこをとっても、他の料理チャンネルとは一線を画す “異質さ” があります。

1本の動画に強いこだわりを持ち向き合うYouTuberに、インタビューする連載企画「カンタンじゃないよ YouTuber」。

今回は激戦の料理ジャンルにおいて、開始わずか1年で圧倒的な人気を獲得した 「武島たけしさん」 にお話を伺いました。映像と料理への思い、ヒットの裏にあった緻密な戦略と自己研鑽。普段の動画では決して知ることができない、武島さんの素顔にも迫っています。

  • ゲストYouTuber武島たけし(武島たけしの極み飯 / Kiwami-Meshi)

    料理YouTuber。「おいしそう かつ おもろそう」な男飯を調理する動画で人気を集める。YouTube開始から約1年でチャンネル登録者数が20万人を突破した(2022年6月現在23万人)。

人生一度は人前に出る仕事をしてみるのも悪くない

Vook:本日はよろしくお願い致します。

武島:はい、なんでも聞いてください。

Vook:ありがとうございます。YouTubeを本格的に始められてから、どれくらい経ちましたか。

武島:ちょうど、1年くらいです。

Vook:1年で登録者数が20万人。圧倒的なスピード感ですね。

武島:21万人です。(取材日5月の時点で) 早いんですかね。

Vook:21万人でした。お世辞抜きで早いと思います。そもそもですが、どうしてYouTubeを始めようと思われたのでしょうか?

武島:もともとYouTubeはやりたいなって思ってました。人生、1度はそうやって人に見られる仕事をするのも面白いかなと思いまして。

ただ、行動力がないのと、人前に出たがらない性格で、なかなか踏み出せなかったんです。そして、2020年にコロナ禍が来ました。当時していたデザイン系の仕事も減ってきて、年齢的にも挑戦するなら今がギリギリかなと思って、重い腰を上げたのが経緯です。

Vook:目立ちたくない性格なのに、YouTuberになったのですね。

武島:根は明るいと思うんですけどね。恥ずかしさよりも、面白いことをしたい、という気持ちの方が勝ったのかもしれません。

それと、もしYouTubeで食っていけなくても動画制作のスキルは身に付きますよね。チャンネルを自分のポートフォリオにして動画制作で食っていけると思ってました。

Vook:なるほど、軌道に乗らなかったときのB案も用意されていたのですね。チャンネルのジャンルを料理に、モチーフを極道に選んだ理由はなぜですか? これまで料理を作るような、お仕事をされていた経験があったとか?

武島:学生時代に飲食店でバイトしてたくらいですね。それ以降は趣味も兼ねてひたすら自炊していて、そこそこ自信はありました。友だちに振る舞ったりすると、わりとガチめに感激されたり、料理では褒めてもらえることが多かったです。

Vook:そうなのですね。どの料理動画も美味しそうなので驚きです。

武島:ただ、料理系の動画は飽和状態で、YouTuberの中には、ミシュランの星を持っているシェフであったり、料理研究家だったりと競合となる方々がたくさんいます。

そんな中で、ぽっと出の素人がいきなり料理をやって勝てるわけがないので、視聴者に覚えてもらうためには、まずはインパクトがあったほうが良いと考えました。

そこで『極主夫道』や『侠飯』、『肉極道』など、ヤクザもののコンテンツがトレンドに来ていることは肌で感じ取っていましたし、もともと自分がバイオレンスなVシネマも好きだったので、今のスタイルでやろうと考えました。顔も出さなくていいし。

Vook:計画的に始められたのですね。そして、1年でチャンネル登録者数が21万人。本当に順調ですね。

武島:始めたてのころは、全然でしたよ。

試しに動画を2本くらい上げてみたんですけど、1、2ヶ月は登録者は1桁でした。「やっぱり、甘くはないよな」って、現実を見せつけられましたね。

しかも、その2本の動画を作るのも大変でした。当時は今以上に自分を出したくなくて、自分が映ってる動画なんて編集するのが恥ずかしくてたまりません。

別人格のヤクザを演じるためにサングラスを掛けてるんですけど、視界が悪くて焦げているかどうかすら分からないし、「飴色になるまで」って説明しておきながら、自分の視界はずっと飴色なんですよ。

Vook:そこまでして、画作りにこだわるのはすごいと思います。

武島:普通に危ないんで、真似しないでください。

Vook:おっしゃる通りです。

武島:そして、どこかのタイミングでYouTubeにレコメンドされたのか、急に伸び始めたんですよ。そこからですかね。目に見えて登録者やコメントが増えてモチベーションも上がり、コンスタントに動画をアップするようになったのは。

Vook:それでも40本ほどしかアップしていませんよね。

武島:少ないんですよね。レシピ開発、撮影、編集など一人でやってると、そこまで本数をたくさん出せないんですよ。他の人が10本作るところ、1本に魂を込めて作っています。

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“料理家”ではなく、あくまで“クリエイター”でありたい

Vook:武島さんのチャンネルを最初に見た時は、構図、カット、色の作り方、すべてにおいて料理動画のソレとは一線を画しているのが印象でした。

武島:動画を作る上での前提として、自分は料理家ではなく、映像クリエイターでありたいと考えています。あまりYouTubeの料理動画は参考にしてなくて、映画やテレビドラマから色味や構図のヒントを得ることが多いです。

Vook:そういわれると、武島さんの作品はカットの種類も多いですよね。撮影はカメラマンさんに撮影してもらっていたりするのですか?

武島:いいえ、全て1人で制作しています。 YouTubeっていかに最後まで見てもらえるかが大事で、あまり同じ画が続くと離脱されます。なので、数秒ごとにカットを切り替えたいわけです。 ただ、1人で1台のカメラを何度も動かして撮影するのは、労力的にしんどいので、3台で撮影しています。

Vook:3台は多いですね。では、撮影についてお聞かせください。

武島:撮影に使用しているカメラはSony「α7S III」「α7 IV」「α7C」の3台です。

α7S IIIhttps://www.sony.jp/ichigan/products/ILCE-7SM3/
α7 IVhttps://www.sony.jp/ichigan/products/ILCE-7M4/
α7Chttps://www.sony.jp/ichigan/products/ILCE-7C/

武島ワンオペかつ調理のやり直しができない料理動画において、いかに効率よく撮影するかはとても重要なのです。

カメラを3台用意しておけば、基本的に必要な構図はカバーできますし、撮影素材が4K(3840×2160)だと、FHD(1920×1080)で編集した際にクロップ(切り抜き)することができます。要は、1つのカメラで寄り引き2パターンの撮影をしたことになり、3台で6つの画を撮影することができるのです。

さらに、1カメの設定やフォーカスがミスしていたとしても、残りの2台でカバーできます。撮影中は、料理なので途中でカメラの設定をいじっている暇もありませんし、ただでさえサングラスで視界が悪いから調理に集中しなければいけません。

効率を求めて動画撮影に望まないと、なかなかワンオペで料理の撮影はできませんね。

Vook:料理に集中するためにカメラに効率を求めるのですね。では、Sonyに統一している理由はありますか?

武島:メーカーを統一するのは色味を統一するためです。色味が違うとカラグレがやりづらいので。もともと前の仕事と趣味の兼ね合いでSonyのカメラを使っていて、メインとサブメラ2台は持っていたのでもう一台奮発して増やしました。YouTube始めるまでは写真でしか使ってなかったのですが、SonyのカメラはAFが早く動画性能がいいのと、レンズラインナップが多いのが魅力ですかね。

YouTube開始当初とはカメラのラインナップがだいぶ代わりました。値段は高いですがカメラとレンズは資産価値が落ちにくいので、レンタルという感覚で機能がいいものが出たら気軽に買い替えてます。

最近買ったα7 IVは画素数が多く写真も得意なので、料理が出来上がった後のサムネイル撮影にも重宝しています。シズル感が大事な料理写真では冷める前に写真を撮るのも重要なので、動画と写真をワンタッチで切り替えられるのも魅力的ですね。ただ4Kで撮影しているとたまに熱で停止してしまうので、動画撮影においてはα7S IIIに劣る印象です。

武島:料理系チャンネルはもう飽和状態にあり、有名シェフのチャンネルだとプロの制作会社が入ってくるくらい映像のレベルも上っています。スマホでも工夫次第でいい画は撮れますが、一眼カメラで撮るのがデフォルトな世界になってるのかなと。みんな使ってるので映像の綺麗さだけではもう他と差別化するのも難しいかと思います。

Vook:武島さんの映像は、綺麗さだけではなくて、色味も特徴的ですよね。

武島:あえて綺麗にしすぎないように意識していますね。コントラストは強めで、Vシネマっぽく仕上げています。カラコレはダビンチ(DaVinci Resolve)でやっています。Adobe PremierProもFinal Cutもすべて試してみたんですが、 ダビンチが一番しっくり来ました。

DaVinci Resolve Vook内topic
https://vook.vc/tags/DaVinci%20Resolve

ヤバそうなヤツが真面目に料理をする「違和感」

Vook:YouTube運営での苦労はありますか?

武島:自分は料理系のYouTuberとしては後発も後発なんで、何を作るにしても、ほとんどのメニューがやり尽くされています。そんな中で、これまでの人たちが作ってきた料理を超えていかなければいけません。

普通に「肉じゃが」を作っているだけではインパクトもないですし、埋もれてしまうだけです。プロよりも美味くインパクトのある、「おっ!」と思ってもらえるくらいのものを作らないと、リピートはされないと思ってやっています。そういった意味では、大変かもしれませんね。

武島:YouTuberである以上、再生回数を稼ぐのは絶対です。

美味しそうな映像を届けて覚えてもらい、実際に料理を作るときにもう1度見てもらい、作って美味しかったら、他の動画も見てもらえる。1回でも不味いと思われたら、2度と見てもらえないと思っています。

また初めて見てくれる人は、どの動画から入ってくるかわからないので、一品たりとも適当な料理は出せません。美味しいものを作り続けなければいけない。 それが、いま一番プレッシャーに感じていることです。

Vook:武島さんは一般的に見れば「成功した」YouTuberのお一人だと思います。YouTubeで上手くいくために必要なものは何だとお考えですか。

武島:画作りにはこだわっていますが、それだけではYouTubeでは成功できないと思います。質の高い映像に加えて、自分が大切にしているのは 「違和感」 です。

Vook:「違和感」とは?

武島:見ている視聴者が「ん?なにかおかしいぞ?」と、“なぜか引っ掛かってしまう感覚” を抱いてもらえるように、意識しています。

言葉で説明するのは難しいのですが、例えば「映像は綺麗だけど、その中に映っている人は見た目はヤバい」とか「料理はしっかりと作っているのだけど、ナレーションがふざけている」みたいな、ギャップみたいなものですかね。

Vook:なぜそれを大切にするのですか?

武島YouTuberは覚えてもらってなんぼなんですよ。

「あの料理の作り方の動画をもう1回見たい」となったときに、名前を思い出してもらえなきゃいけません。先ほど言った、覚えてもらうためのインパクトのある料理を作らないといけませんし、引っ掛かってもらってないと名前も思い出してもらえませんからね。

Vook:そこはYouTuberのみなさんが持つ不安な部分でもあるかと思います。YouTuberという職業に不安はありませんか?

武島:ないですね。

最初に言いましたが、YouTubeが見られなくなっても、これくらいの映像が作れるなら、仕事は受けられると思っています。企画、撮影、編集、カラコレ……。一手にできる人材って、需要もあるんじゃないでしょうか。

自分はYouTubeを長く続けたいと思っています。HIKAKINさんも「YouTubeはマラソンのようなもの」とおっしゃっていたことがありました。根を詰め過ぎて燃え尽きるよりは、マイペースでも良いから、本来の自分のテンションで、淡々と美味い飯を届け続けたいです。

視聴者さんに「ナレーション、もっと元気出してください」とか言われても、変える気はないですね(笑)

良いと感じる理由を言葉にできたとき、それがセンスになる

Vook:では、これから映像制作やYouTubeの世界に足を踏み込む方へ、アドバイスをいただけますでしょうか。

武島:うーん……楽しむことじゃないですかね。逆に、楽しくなかったらやるべきじゃないと思います。作りたい欲求に素直になるというか。

自分も最初の2ヶ月は誰にも動画を見られない期間がありましたが、誰かにリアクションがもらえるようになったとき、楽しくなってきました。それまでは耐えて欲しいと思います。

センスに関しては後天的に作れると思っています。 自分で映像を作るようになると映画やドラマなど、世の中の映像作品の見え方が大きく変わりました。

Vook:というのは?

武島それまで「なんとなくいいな」と思っていたものが、「こういう構図や色だから」と理論立てて説明できるようになりました。

例えばですが、「映画の『ミッドサマー』は、内容はホラーなのにホラーらしからぬ美しい色味で違和感を作り出し、不気味さを助長している」のような言語化ができるようになったとき、それがセンスとして身についている証拠だと思います。

武島:やはり、良い映像をたくさん見ることが大切だと思います。プロが作った一流の映像を参考にすれば、それには及ばなくとも、標準以上のクオリティの映像が作れるようになるんじゃないでしょうか。

あと、最初は世の中に自分の作品を出すことは怖いし恥ずかしいかもしれませんが、大丈夫です。どうせ最初は誰も見られません。見られだしたら評価されだした証拠と思えば恥ずかしさも消えるでしょう。臆することなく自分の作品集を作る。それくらいの気持ちで始めてみてください。

映像制作の本当の面白さは、やっていくうちにわかってくるものです。

Vook:ありがとうございます。最後に、今後のチャンネルの目標や方向性を教えてください。

武島:淡々と、長く、飽きられることなく続けることですかね。

でも、100万人登録はいきたいです。そこまで行けば、成し遂げた感は得られるはず。

そのためにはチャンネルの間口を広げたいと思っています。きれいな映像、美味しい料理、コンテンツとしての面白さ。視聴者ごとに求めるものは違うので、それぞれの欲求に応えていかないと、伸び続けることは難しいと思います。

スタイルが確立してしまっているので、なかなかイメージはしづらいですが、企業さんや他のクリエイターさんとも何かできれば、新しい展開が見えてきそうですよね。今後、新しい試みはちょいちょい見れるかもしれません。

Vook:ありがとうございます。楽しみにしております。

Vookが目指す「映像クリエイターを無敵に。」のコンセプトボードを武島たけしさんに持っていただきました。


「淡々と美味い飯を届け続ける」。続けることが最も難しく、そして尊いことだとわかっているからこそ、敢えて今後の目標をそのようにまとめた武島さん。

料理にも映像にも一切の妥協がない武島さんの、静かなる情熱に触れることができた取材になりました。

Vookは、これからも動画をつくり続けるYouTuberのみなさんを応援します。そして、これから動画制作を始める方々の後押しができるようにコンテンツを取り揃えています。

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TEXT_水野龍一 / Ryuichi Mizuno
PHOTO_大竹大也 / Daiya Otake
DESIGN_松儀愛侑 / Ayu Matsugi

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