時代に流されない価値を生む集団・bird and insect のチーム作りとは_shuntaroさんインタビュー

2022.06.01 (最終更新日: 2022.06.08)

日本最大級の映像クリエイターカンファレンス『VIDEOGRAPHERS TOKYO(VGT:ビデオグラファーズトーキョー)』が、2022年6月10日(金)、11(土)の2日間にかけて開催される。

Vookが2019年より主催してきた本カンファレンス。第3回となる本年は、テーマを「映像に、新しいキャリアと可能性を。」とし、錚々たるクリエイターとともに、映像の新たな可能性を模索していく。

VGT開催にあたり、今回はbird and insectの代表shuntaroさんにインタビューを敢行した。

6月10日から始まるVGT詳細についてはこちらから

VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022

  • 株式会社 bird and insect CEO / Image Branding Director shuntaro

    1985年、東京生まれ。 京都工芸繊維大学で、建築・デザインを学び、卒業後、都内広告系制作会社を経て、フリーランスへ 。 2013年、イギリスのUniversity for the Creative Artsで写真の修士号を取得。帰国後、写真・映像制作を中心とした株式会社 bird and insectを立ち上げ、代表取締役を務める。 また2017年には、日本ファッション写真史の研究者として、博士号も取得した。

  • 北原 優

    1996年宮崎生まれ。大学卒業後上京し写真、映像の道で生きていくことを決心。憧れだったbird and insectに入社。フィルムカメラが好きでフィルムを自分で現像する。雑誌、コーヒー、お酒、美味しいものも大好き。

「9割は論理」から始まった、bird and insect

▲ bird and insect 活動初日に撮った写真(出典:bird and insectの歴史 第一部 bird誕生まで

Vook: shuntaroさんが代表を務めるbird and insectは、今年で7年目(2022.5月現在)になるそうですが、まずは起ち上げの経緯からお聞かせください。

shuntaro: 僕は元々フォトグラファーで、林 裕介(bird and insectのCOO)はリコーでカメラの機械設計をしていました。その後、林がリコーを辞めて、無職になったタイミングで共通の友人を介して出会い、僕のアシスタントをしてもらったというのが始まりでした。

一緒に仕事をするうちに、オンラインメディアみたいなものや、当時革新的だったカメラ1個かつワンオペでウェディングムービーを撮るというのをやってみたいねという話で盛り上がっていきました。

林君は発想力が豊かで、かつ論理的なんですよね。「こういう事をしたら面白そう」という話題が広がったり、クリエイティブの分野では「センスありき」みたいな暗黙知があると思うんですけど、僕の「9割は論理的にできる」という考え方に林君が賛同してくれたんです。

そこから本格的に動画を作ろうということで、僕の大学の先輩でディレクターをしていた人に声をかけ、彼を含めた3人で写真と動画を両方作るフリーランスチームとして始まったのがbird and insectです。

Vook:3人でスタートして、今ではアルバイトを含め約25名ということですが、 チームとしてのマインドセッティングで意識していることはありますか?

shuntaro: 仕事をしていく上で、「こうじゃなきゃいけない」みたいな事はもちろんあるんですけど、アイディアや考え方に対してチーム内で否定することはあまりないですね。

お客さんも中小企業が多く、ナショナルクライアントからの依頼も、新しい部署のブランディングムービーのような比較的小規模の予算のものなので、自由度は高いです。

作るべき内容をガチガチに決められていないのは、クリエイティブの上でお互いにとって良い環境かもしれないです。

そういうこともあって、クリエイター然としているというよりはお客さんと円滑に社会人的なコミュニケーションを取るのが得意なタイプが多いと感じています。

プロのビデオグラファーを目指す学校、はじまる。入学生募集中。

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会社化することで得た、チームならではの強さ

Vook:クリエイティブという現場の中で、どんなことを考えながらチームを拡大してこられましたか?

shuntaro: みなさんご存知のように、ここ数年、仕事があったら集まるスタイルのフリーランス、特にビデオグラファーが爆発的に増えましたよね。

それによって、映画やCMのような大きい仕事をしていた人たちがWebに流れてきて、比較的小規模だった仕事にも携わりはじめた。その中間にある規模・種類の仕事が増えてきたと感じていて、僕らもそこを主戦場にしていますが、それらの仕事をするにはある程度のチーム体制がないとできないんです。

その時に、フリーランスを集めたギルド的な体制を取るか、従来の会社的組織が良いのかという議論が出てきます。

bird and insectとしては、当初はギルド的な活動をしていくつもりでしたが、チーム内での仕事量のバランスや金銭面で合意が取れないことが多く、会社化した方が良いという判断で法人化しました。

実際に会社化したことによるメリットは、同じチームで仕事を受けるので、意思疎通がスムーズになること、各自のスキルの交換が的確にできてスキルアップや改善に繋がることなどがあります。

機材などハードウェアの共同所有といった面も合わせて、チームならではの強さが会社だと発揮しやすいというのはすごく感じます。

Vook:ギルド型の場合、メンバーは仕事ごとに集まってその後はバラバラですよね。一方で、会社としてbird and insectのクオリティを保持していくために、若い人の育成についても意識されていますか?

shuntaro: 育てようという意識はあまりないです。それよりも bird and insect に入って来てくれる人は、この会社自体が好きな人も多いので、できる限りやりたいことに挑戦する機会を与えたいと思っています

中小企業からいただく依頼の中には予算が十分にない仕事もたくさんあって、せっかくいただいた機会を失いたくないけど、キャパシティに限界もある。

そんな時に、若い人達にその仕事にチャレンジしてもらって、僕たちがバックアップする形で取り組むと、僕らもレベルアップできるし、企業も求めるクオリティのクリエイティブが得られて、お互いWin-Winになるし、最終的に包括的にクライアントをバックアップできる。そういった点は、会社というチームで動くことの大きなメリットだと思います。

社外への情報発信と、社内のモチベーション維持

Vook:shuntaroさんの元には北原さんみたいな優秀で若い人が集まってきていますが、採用面で心掛けている事はありますか?

shuntaro発信をちゃんとするということを大事にしています
クリエイターって、作るのが趣味みたいな所があって、作ったら次の作品とどんどん先に進んでしまうので、発信を疎かにしちゃうことが多いと思うんですよね。

だから「映像をはじめよう!」と思った人が、入りたい会社を探してもなかなか出てこないんじゃないかな。僕がブログやTwitterで発信を積極的にしているのは、発信し続けていると、そういった人たちに知ってもらえる機会が生まれるからだと思います。

北原まさに僕もshuntaroさんのブログでbirdを知りました。他の映像会社さんよりも人が見えるというか、会社の体系がすごく透明というか。

shuntaro:難しいと思ったのは、実際やっている事と見えてる部分には差があって、泥臭い事もたくさんある業界なので、会社の良い部分を発信し過ぎても、現実とのギャップで辞める人もいます。そうならないように、最近は入社する時にちゃんと伝えられるようにしたいと考えてます。

Vook:チーム全体の体制作りとして、目標を設定して達成に向けて取り組むということはいつ頃から始められましたか?

shntaro:本格的に始めたのはコロナ感染拡大の直前頃でした。もともとやりたいと思いながら手が回っていなかったんですが、人数も増えてきたので、いよいよちゃんとした体制作りに着手しました。

ここ2年くらい、うちの給与制度は「こういう目標があって・いくら欲しい・この数字を達成します」という希望を出してもらって、去年の実績と合わせて話し合いの上決定するという方式を取っています。

目標値を高く掲げて達成できれば給与も増えるという仕組みなので、互いに納得して取り組むことができると思います。

今現在も数字目標は強制ではなく個人が自分で立てていますが、例えば「コロナ禍で売上がこのくらい落ちたから、このくらいまで復活しないと厳しい」という全社的な状況もオープンに伝えていて、みんな理解して頑張ってくれたと思います。

財務面では、初年度は試算表の見方もわからないという状態だったんですけど、2年目頃から書籍などで勉強して、実行しては改善する、という感じでやってきました。

そういう経営の部分やチーム作りの面で同業仲間から相談を受けることも多いです。現在は、財務面でのバックアップを手厚くしてくれる税理士法人にお願いしたりもして体制を整えています

Vook:社員が個人の目標を持つということは、プロデューサーだけじゃなく、エディターやクリエイターの方たちも売上の数字感覚をお持ちということなんでしょうか?

shuntaro:そうですね。指名を含めて、自分に来た仕事の内容や売上はわかるようにしているので、数字の状況は認識していると思います。

そういった定量的な目標と同時に、「自分で何本編集して、後輩の子を育てるために何本やりたい」とか、「こういう機材が扱えるようになりたい」「ドローンで撮れるようになりたい」というような定性的な目標も大事にしています。

持続可能な関係性の中で生まれる、ブランディングを目指す


Vook:ビデオグラファーが増加を続ける近況の中で、bird and insect としてブランディングを手掛けたいと考えておられる理由についてお聞かせください。

shuntaro:bird and insectが主戦場にしているコンテンツ制作だけでも、あと5〜10年は問題なく継続できるだろうとは思うんです。ただ、仰る通りコンテンツクリエイターがかなり増えてきているので、長い目で見た時にこのままで続けられるかはわからない。

そういった背景の中で僕らがなぜブランディングをしたいと考えたかというと、クライアントの会社と一緒に有効なコンテンツを作っていきたいというのがあります。

コンテンツ制作が増え続けると、クライアントさんの中でも色々な方が色々な思惑で制作を進めていきがちですし、制作サイドでも乱立する制作に追いつかず、提供するクオリティにもバラつきが出てしまって、結果としてよくわからないものが大量生産されるという事がどうしても起こり得ます。

長期的に見て、それは会社としても業界としても良くないと思うので、クライアントと一対一で長い付き合いをして良いものを作っていきたい。それが ”ブランディング”ということになると思うし、そういう活動をしていきたいと考えています。

中小企業もベンチャー企業も、長く付き合って良いものを作るという関係でやっていけたら、何十年経とうと続けていけると思うんです。時代に合わせて自分達も勉強していかなきゃいけないけど、そのクライアントが仕事をする限りは僕たちもお役に立てるし、そういう良い関係値を築けるコンテンツ制作会社が理想なので、そこを目指すことが今後の目標の1つです。

普遍的な価値を生み続けるために


Vook:今後やっていきたいこととして、注目しているジャンルなどはありますか?

shuntaro:今、縦型のドラマを作っているんですが、ストーリーがあるコンテンツは普遍的な価値観があると思うので、継続して作っていきたいと考えています。

僕たちフォトグラファー出身の人間はもともと絵から入るので、ストーリー制作の分野は強くなかったんですけど、育てていける体制を作りたいという思いがすごくあります。

コピーや脚本を書ける人を採用したり、ディレクター陣もストーリーを作る技術を身につけていった方が良いと思うので、僕自身も最近学校に通い始めて、脚本を書く課題をこなしながら勉強しています。

映画やドラマは、業界として収益構造や労働環境が難しい部分が問題になっていますけど、今後だんだん変わってくるだろうと思うので、自分達のできる範囲でストーリーコンテンツを作っていきたいなと思っています。

Vook:配信技術も開発が進んできているので、今後活かせる可能性も大いにありますね。XRはご興味ありますか?

shuntaro:コンテンツとして今後盛り上がるだろうなとは思いつつ、今扱うのは難しいですね。

XRのような方向にいくと必要な技術や人材も変わってくるし、CGも実写との境目がなくなってきて強いクリエイターもたくさんいるので、しばらくは自分達の得意な分野を活かせる領域で、ストーリーテリングみたいな普遍的な価値を打ち出していけたらと思っています。そこの力が身につけられたら、絵をCGにした時にも強いと思うので。

僕の場合、作りたいストーリーや世界観があって、実現するための手段として得意だった実写を選んだんですけど、今25歳だったらCGやってたかもしれないですね(笑)。

でも、僕らの少し上の世代でCGクリエイターに転職して、実写のライティング技術や知識などを活かして広告などで仕事をしている人も知っているので、実写のスキルが必ずしもCGに活かせないわけではないということです。bird and insect が求められる部分を、今後も磨いていきたいと思います。

Vook:最後に今後の活動予定を教えてください。

shuntaro:直近ですと東京ビックサイトで毎年開催されている、コンテンツ東京に今年も出展します。

去年よりもブースを3倍に拡大し、いままで制作したコンテンツを展示します。今回はブース内でセミナーも実施する予定で、過去の事例を参照しながらコンテンツ制作の際のフローやノウハウ、またbird and insect が大切にしている考え方などをお話させていただきます。

また、メンバーもひき続き募集中なので気軽にコンタクトしてもらえれば!

コンテンツ東京2022

・日時:2022年6月29日(水)〜7月1日(金)
・場所:東京ビックサイト(東展示場)
・出展先:広告クリエイティブ・マーケティングEXPO
・HP:https://www.content-tokyo.jp/

bird and insect求人情報


現在、Wantedlyにて求人募集を掲載しております。

詳細はこちらから
https://www.wantedly.com/companies/bird-and-insect2/projects

Vook:盛りだくさんの内容ですね!今回は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


shuntaroさんが代表を務めるbird and insectの講演も1日目に開催予定!

見ただけでわかるbird and insect の「色」。
その「色」はどのようにして作られるのか?

気になるグレーディング工程について、bird and insect が実際に手掛けた作品を題材に、カラリストの久保山郷さんが実演&解説。

▲「bird and insect のカラーグレーディング」
 日時:6月10日(金)17:50 - 19:10
 詳細:https://vook.vc/vgt/session/g01-05

「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022」では、2日間にわたって約50の講演が催されます。

アンケートに回答いただくと無料で入場できますし、一部の講演はライブストリーミングも予定しているので、まずは特設サイトをチェックしてみてください!

INTERVIEW_沼倉 有人 / Arihito Numakrua(Vook編集部)
TEXT_柳田 薫 / Kaoru Yanagida
PHOTO_北原 優 / Yu Kitahara (bird and insect)
EDIT_古川 恵梨 / Eri Furukawa(Vook編集部)
 

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